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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)7918号 判決 1972年2月25日

昭和四三年(ワ)第七〇一八号事件原告、昭和四五年(ワ)第七九一八号事件被告(以下単に原告という) 鉄建建設株式会社

右代表者代表取締役 大石重成

右訴訟代理人弁護士 千葉宗八

同 早瀬真

同(但し、昭和四三年(ワ)第七〇一八号事件につき訴訟復代理人) 千葉宗武

昭和四三年(ワ)第七〇一八号事件被告昭和四五年(ワ)第七九一八号事件原告(以下単に被告という) 勧業不動産株式会社

右代表者代表取締役 順井博

右訴訟代理人弁護士 中嶋正起

同 小堺堅吾

同(但し、昭和四三年(ワ)第七〇一八号事件につき訴訟復代理人) 八掛俊彦

主文

原告は、別紙物件目録記載(二)の土地につき訴外浅草寺を賃貸人とする賃借権を有することを確認する。

被告の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  原告

主文第一項と同旨および「訴訟費用は被告の負担とするる。」との判決。

(二)  被告

1 原告は、被告に対し、別紙物件目録記載(三)の建物(以下(三)の建物という)のうち、別紙物件目録記載(二)の土地(以下(二)の土地という)上に存する部分を収去して、同土地を明渡し、かつ、金一五、一四〇円および昭和四二年四月一日から右明渡しずみに至るまで一ヶ月金一〇、三〇〇円の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決および1項につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  被告

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

(二)  原告

主文第二項と同旨および「訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決。

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  原告

1 原告(旧商号鉄道建設興業株式会社)は訴外牧村実に対し左記の各債権ならびにこれらに対する利息および遅延損害金債権を有するところ、訴外橋本治子は、昭和三九年六月二八日右各債権担保の趣旨で(これは所謂精算型の譲渡担保の設定である)、同訴外人が訴外浅草寺(以下訴外寺という)所有の(二)の土地につき同寺に対して有する賃借権(目的建物所有、期間昭和三一年九月から昭和五一年九月まで、賃料一ヶ月金七五七〇円の約)を原告に譲渡し(なお、原告は、右の外、訴外牧村から右の各債権担保のため、訴外寺所有の別紙物件目録記載(四)、(五)の各土地(以下(四)または(五)の土地という)につき同訴外人が訴外寺に対して有する賃借権、別紙物件目録記載(三)、(六)の各建物(以下それぞれ(三)または(六)の建物という)の譲渡を受けている)、右(二)の土地賃借権の譲受については昭和四〇年一二月賃貸人である訴外寺の承諾を受けており、しからずとするも、右の頃原告より訴外橋本からの借地名義変更承諾書(甲第八号証)を訴外寺に提示したのであるが、訴外寺は、これに対し何ら異議を述べていなかいから、右譲渡を黙示に承諾したものというべきである。

(1) 原告が昭和三八年一一月一二日訴外牧村実に貸し渡した金四、八〇〇万円の債権。

(2) 訴外牧村実(注文者)と原告(請負者)間に昭和三八年一二月四日締結された(六)の建物新築工事請負契約に基づく請負代金四、四〇〇万円の債権。

(3) 右当事者間に右同日締結された(六)の建物新築家具設備工事請負契約に基づく請負代金五二二万円の債権。

(4) 右当事者間に右同日締結された(六)の建物新築設計変更工事請負契約に基づく請負代金二、九一八、〇〇〇円の債権。

(5) 原告が同月一三日訴外牧村実に貸し渡した金一、〇〇〇万円の債権。

2 被告は原告が前記のように訴外橋本から譲受けた訴外寺を賃貸人とする(二)の土地の賃借権を有することを争っている。

3 よって、原告は、被告との間で、原告が(二)の土地につき訴外寺を賃貸人とする賃借権を有することの確認を求める。

(二)  被告

1 被告と同系の関係にある訴外勧業信用組合は訴外二天堂こと牧村吉浩に対し従前より融資をして来たところ、昭和四一年四月六日現在その融資額が金四、二二五万円の多額となったので、同月七日被告は、右債権担保の趣旨で、訴外橋本治子から、同訴外人が訴外寺所有の(二)の土地につき同寺に対して有する賃借権を譲受け、右同日これにつき訴外寺の承諾を得たものであって、右賃借権の内容は、建物所有を目的とし、期間右同日から昭和七一年四月六日までの三〇年間、賃料は一ヶ月金七、五七〇円とされ、なお、右賃料の額はその後訴外寺と被告間の合意により昭和四二年四月一日以降一ヶ月金一〇、三〇〇円に改訂されている。

2 原告は、何らの権原もないのに、昭和四二年一月三〇日から(二)の土地上に(三)の建物を所有して同土地を占有している。

3 よって、被告は、訴外寺に対して有する(二)の土地の賃借権を保全するため同土地の所有者である訴外寺に代位して、原告に対し、(三)の建物のうち、右土地上に存する部分を収去して同土地を明渡すことを求めるとともに、被告の右賃借権を侵害されたことによる賃料相当損害の賠償金として、原告に対し、昭和四二年二月一日から、同年三月三一日に至るまで一ヶ月金七、五七〇円の割合による金員(一五、一四〇円)および同年四月一日から右明渡済みに至るまで一ヶ月金一〇、三〇〇円の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

(一)  被告

1 請求原因1のうち、(二)の土地が訴外寺の所有であること、訴外橋本がもと訴外寺から右土地を賃借していたことは認め、原告と訴外橋本間の賃借権譲渡につき訴外寺が承諾したことを否認し、その余は知らない。

2 同2は認める。

(二)  原告

1 請求原因1のうち、(二)の土地が訴外寺の所有であること、訴外橋本がもと訴外寺から右土地を賃借していたことは認め、被告が訴外橋本から右の賃借権を譲受けたことを否認し、その余は知らない。

2 同2は認める。(但し、無権原との点は争う。)

三  抗弁

(一)  被告

1 仮に原告がその主張のように訴外橋本から(二)の土地の賃借権を譲受けたとするも、これにつき賃貸人である訴外寺の承諾がないから、原告は有効に訴外寺に対する賃借権を取得しえない。(この意味で、賃借権の二重譲渡における対抗問題は両譲受人がともに右譲受につき賃貸人の承諾を得ている場合にのみ生ずるものである。)

2 仮に原告が訴外橋本からの譲受により右の賃借権を有効に取得したとするも、原告は右のように訴外寺の承諾を得ていないから、前記のように訴外橋本から(二)の土地の賃借権を譲受けた被告に対し、自己の右譲受による賃借権の取得をもって対抗しえない。

3 他方、被告は、前記のとおり訴外橋本から(二)の土地の賃借権譲受につき訴外寺の承諾を得ているから、自己の右賃借権の取得をもって原告に対抗することができる。

(二)  原告

1 仮に被告が、その主張のように、訴外橋本から(二)の土地の賃借権を譲受け、訴外寺の承諾を得ているとしても、被告は、その譲受の登記または建物保護ニ関スル法律第一条による対抗要件を備えていないから、前記のように訴外橋本から右土地の賃借権を譲受けた原告に対し、自己の右譲受による賃借権の取得をもって対抗しえない。

したがって、被告は、原告に対し、自己の有する賃借権を主張しえない以上、このような債権の保全のために訴外寺の権利を代位行使することも許されないところである。

2 他方、訴外牧村実は(二)および(五)の土地上に(三)の建物を所有していたところ、原告は、昭和四二年一月三〇日前記同訴外人に対して有する各債権の担保のため同訴外人より(三)の建物を譲受け、昭和四四年九月九日その旨の所有権移転登記を経由してこれが所有権を取得しているから、自己の右賃借権の取得をもって被告に対抗することができる。

四  抗弁に対する答弁ならびに再抗弁および再抗弁に対する答弁

(一)  原告

1 抗弁に対する答弁

(1) 抗弁事実のうち、原告がその賃借権譲受につき訴外寺の承諾を得ていないとの点を否認し、被告がその賃借権譲受につき訴外寺の承諾を得たことは知らない。

(2) 土地賃借権が二重に譲渡された場合における対抗問題は、賃貸人の譲渡に対する承諾の有無によってではなく、賃借権譲渡の登記または建物保護ニ関スル法律等に規定する対抗要件を具備するか否かにより決すべきである。

2 再抗弁

仮に、原告が、その譲受に係る(二)の土地の賃借権をもって被告に対抗しうるためには、賃貸人である訴外寺に対しこれを主張できる場合であることをも要するものと解すべきであり、また、原告が右賃借権の譲受につき訴外寺の承諾を得ていないとしても、次に述べるような事情が存在するから、原告の賃借権譲受には背信性が認められず、したがって、原告は右の譲受賃借権をもって訴外寺および被告に対抗することができ、反面、原告に対し、訴外寺が(二)の土地の明渡を求めることは許されず、ひいては、被告もまた訴外寺の右の権利を代位行使するに由ないところである。

(1) 原告は、昭和四〇年一二月訴外寺に対し、原告において訴外橋本から(二)の土地の賃借権を譲受けた旨を述べてその了解を得、訴外牧村実が、原告との間の合意に基づき所謂名義書換料を準備すれば、いつでも正式に訴外寺の右譲渡の承諾を得ることができる状態にあったこと。

(2) そこで、原告は、訴外寺に対し、右土地の賃借権につき他に名義書換を承諾する場合には予め原告に断ってくれるよう願い出て、これにつき訴外寺の了承を得ていたこと。

(3) 別紙図面で明らかなとおり(二)の土地は(四)の土地と(五)の土地の中間に位し、(四)(五)の各土地の利用上(二)の土地は不可欠のものであって、訴外寺は原告および訴外牧村実の説明によりこれを了知していたこと。

(二)  被告

1 抗弁に対する答弁

(1) 抗弁事実のうち、原告が昭和四二年一月三〇日以降(二)、(五)の各土地上に(三)の建物を所有していることは認め、原告が訴外橋本から(二)の土地の賃借権を譲受けたことは知らない。

(2) 土地賃借権の二重譲渡の対抗問題は賃貸人の譲渡承諾の有無により決すべきであり、しかも、(三)の建物につき表示の登記および所有権保存の登記がなされたのは、昭和四一年一一月二五日であって被告が(二)の土地の賃借権譲受につき訴外寺の承諾を得た後のことであるから、本件には建物保護ニ関スル法律第一条の適用がない。

2 再抗弁に対する答弁

否認する。

第三証拠の関係≪省略≫

理由

訴外橋本治子が嘗つて訴外寺からその所有に属する(二)の土地を賃借していたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、右賃借権の内容は、期間昭和三一年九月から昭和五一年九月まで、賃料(昭和三九年当時)一ヶ月金七、五七〇円とされていたことが認められる。

次に、≪証拠省略≫を綜合すると、訴外牧村実に対し原告はその主張のような賃金および請負代金の各債権を有していること、訴外牧村実が、右各債務の担保として、原告に対し、同訴外人において(四)、(五)の各土地につきその所有者である訴外寺に対して有する各賃借権および同訴外人所有の(三)、(六)の各建物の所有権を譲渡している外、右訴外人の叔母にあたる訴外橋本も昭和三九年六月二八日前記訴外牧村実の各債務の担保として前記(二)の土地の賃借権を原告に譲渡したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかしながら、原告が右(二)の土地賃借権の譲受につき賃貸人である訴外寺の明示または黙示の承諾を得た旨の原告主張の事実については、その趣旨の≪証拠省略≫は措信し難く、他に右事実を認めるべき証拠はない。

他方、≪証拠省略≫を綜合すれば、訴外勧業信用組合は以前から訴外牧村実の弟である訴外牧村吉浩に対し融資をしていたが、昭和四一年四月当時その融資金債権の額は約金四、〇〇〇万円に達していたこと、そこで、訴外橋本治子は、右債務の担保の趣旨で、前記(二)の土地の賃借権を被告に譲渡し(なお、これは、債権者である訴外信用組合の業務の性質上自ら右の賃借権を譲受けることに差し障りがあるということで、同信用組合と同系の会社である被告がこれを譲受けることとしたものである)、同日右賃借権の譲受につき賃貸人である訴外寺の承諾を得たことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

したがって、前記訴外橋本の(二)の土地の賃借権は原告と被告に対し二重に譲渡された関係になるわけであるが、賃貸人の譲渡承諾がないためこれを賃貸人に対抗できない場合でも、特段の事情がない限り、譲渡の当事者間においては有効であるから、結局、原告と被告の相互間において、どちらの賃借権が優先的、排他的な地位を取得するかが問題となる。

そして右の問題はいずれが早く民法第六〇五条または建物保護ニ関スル法律第一条に規定する対抗要件を具備したかによって決せられるものというべきところ、被告が右の対抗要件を具備していないことについては、被告は明らかに争わないのでこれを自白したものと看做され、他方、≪証拠省略≫を綜合すると、原告は、昭和四二年一月三〇日訴外牧村実から前記同訴外人に対する各債権の担保として(二)の土地上に存する(三)の建物を譲り受け(もっとも、原告が右日時以降(二)の土地上に存する(三)の建物を所有していることは当事者間に争がない)、昭和四四年九月九日その旨の所有権移転登記を経由していることが認められるから、原告は被告に対し前記譲受に係る(二)の土地の賃借権をもって対抗しうるのに反し、被告は前記譲受に係る賃借権をもって原告に対抗しえないものといわざるをえない(なお、(三)の建物の表示および所有権保存の各登記のなされた時期が被告が訴外寺の譲渡承諾を得たときより前か後かは右の結論に影響を及ぼさない)。

しかしながら、民法第四二三条による代位権の行使には、債権者の権利が第三債務者に対抗しうべきものであることを要しないと解されるから、被告は、訴外寺に対し賃借権を有する以上、前述のように右の賃借権をもって原告に対抗しえないとしても、訴外寺に代位して原告に対して有するその権利を行使することができるわけである。

そして、被告が、訴外寺に代位して、原告に対し(二)の土地の明渡を求める場合は、土地所有者(賃貸人)とその賃借権の譲受人との関係であって、前記のような一個の土地賃借権の二重譲受人間の対抗関係とは平面を異にするから、もっぱら民法第六一二条の規律するところによることとなる。

しかるところ、≪証拠省略≫を綜合すれば、原告が訴外橋本から(二)の土地の賃借権を譲受けたのは訴外牧村に対して有する前記各債権のため所謂精算型の譲渡担保の設定を受けたものであって、したがって、終局的、確定的に権利を移転したものではないこと、また、右土地上に存する(三)の建物も原告に譲渡されているが、これも前に多少触れたとおり右と同趣旨による譲渡担保の設定に外ならず、譲渡担保である旨の登記を経由していること、更に、訴外牧村実と訴外橋本は、甥、叔母の関係にあるばかりでなく一緒に営業をしているものであって、右の土地ないし建物につき右の譲渡後も引続きその侭使用を許されていることが認められるので、このような場合は未だ民法第六一二条により解除の原因とされる賃借権の譲渡または転貸借に該当しないと解するのが相当と思われる。

したがって、賃貸人である訴外寺は原告に対し(二)の土地の明渡を求めることは許されず、被告もまたその権利を代位行使するに由ないものといわなければならない。

最後に、被告が原告において前記譲受に係る(二)の土地の賃借権を有することを争っていることは当事者間に争いがない。

以上の次第であるから、原告の請求は理由があり認容することができるけれども、被告の請求は理由がなく(なお、附言するに、前述のように原告との関係で被告は自己の(二)の土地の賃借権を主張できないのであるから、その侵害による損害金の請求が認められないのは当然である)、棄却を免れない。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 真船孝充)

<以下省略>

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