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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)7019号 判決 1971年11月04日

理由

一  《証拠》によれば、破産者は訴外早川鉦二外二名が昭和四五年三月二七日なした申立に因り、同年五月二七日東京地方裁判所から破産宣告を受け、同日原告がその破産管財人に選任されたことは明らかである。そして、右破産宣告前である同年四月一八日破産者が債務の弁済として被告に金五〇万円を支払い、次いで破産宣告後である同年六月一日さらに金一〇〇万円を支払つたことは当事者間に争いない。

二  原告は右金五〇万円の支払は破産法第七二条第五号に該当し、金一〇〇万円の支払は同法第五三条に該当するというので次に検討する。

(一)  まず、右金一〇〇万円の支払についてみるに、右支払が前記破産宣告後間もなくなされており、かつ、その数額の少額ではないことおよび弁論の全趣旨に徴し、他に反証なき本件においては破産財団よりなされたものと推定すべきである。

ところで、破産法第五三条は破産宣告後に破産者が破産財団に関してなしたる法律行為は破産債権者に対抗できない旨規定しておるところ、右にいう法律行為とは、広義の法律的行為であつて、債務の弁済をも含むと解するのが相当であるから、右金一〇〇万円の支払も破産者に対抗することができず、被告はこれを原告に返還しなければならないものというべきである。

(二)  次に金五〇万円の支払についてみるに、右支払が破産申立ありたる後になされたものであること前記のとおりであるが、《証拠》を総合すれば、次の事実が認められ、右事実によれば、右の支払は破産者と被告間に有効に成立した債務弁済契約に基くものであるというべきであるから、破産法第七二条第五号には該当しない。即ち、訴外弁護士石黒竹男は破産者から「妻名義になつている建物に五〇〇万円の抵当権が被告のために設定登記されており、処分するために抹消しなければならないのだが、債権債務は錯綜していてわからないが三〇〇万円位はある。」ということで依頼を受けて被告方に赴き調査したところ、被告の紹介により破産者の主宰していた平賀建設株式会社が被告の親戚の建物建築工事を請負い、費用が見込以上にかかつたことや、工事の遅延等のため、破産者およびその妻ならびに平賀建設株式会社が被告や被告の主宰する有限会社三協化工に債務を負担するようになり、その額は被告は合算して一〇〇〇万円以上あるといつているが少くとも、五〇〇万円を下らないものであり、これが担保のために破産者の妻所有名義の建物について右三協化工のため債権額五〇〇万円の抵当権設定仮登記がなされていることが判明した。

そこで、石黒弁護士は被告および破産者を説得斡旋し、昭和四十五年四月一三、四日頃両者間に和解を成立させ、破産者が被告に対し金一五〇万円の債務を負担することを承認し、同年四月一五日までに内金五〇万円、同月末日までに残金一〇〇万円を返済することを約し、被告は右の完済せられたときは前記仮登記を抹消することを約した。そして右約旨に基いて、破産者は右約定金を支払い、破産者の妻所有名義の建物の仮登記の抹消をして貰つた。

三  原告は、さらに、予備的に右債務弁済契約およびその履行たる金五〇万円の支払は破産債権者を害するものであるからこれを否認するという。

しかしながら、前認定の事実によると、右契約の締結および金五〇万円の支払のなされた当時被告は右が破産債権者を害するものであること、破産申立のなされていることを知らなかつたものと推認すべきであるから、破産法第七二条第一号、第二号のいずれにも該当しないものというべきである。

四  しからば、被告に対し金一〇〇万円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日たること記録上明らかな昭和四五年九月四日以降右完済まで年五分の割合による利息の支払を求める限度においては本訴請求は理由あるをもつて正当として認容すべきも、その余の請求は理由なく失当として棄却すべきである。

(裁判官 綿引末男)

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