大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和45年(ワ)10816号 判決 1972年2月23日

原告

高岡光吉

代理人

小池貞夫

被告

宮坂進

被告

安田火災海上保険株式会社

右代表者

三好武夫

代理人

平沼高明

渡名喜重雄

服部訓子

主文

被告らは各自原告に対し、二七六万四八七六円と内二五一万四八七六円に対する昭和四五年五月六日から支払ずみまで年五分の割合による金銭を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを五分し、この三を原告の、その余を被告らの各負担とする。

この判決は主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  申立

一  原告

被告らは各自、原告に対して七一〇万〇七九一円と内六四五万〇七九一円に対する昭和四五年五月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行宜言。

二  被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二  主張

一  原告(請求原因)

(一)  事故の発生

原告は左の交通事故で傷害を受けた。

1 日時 昭和四四年四月三日午後二時一〇分頃

2 場所 千葉県松戸市北松戸八〇三番地先三又路上

3 加害車 大型貨物自動車(旭一ゆ三六三七号)

運転手 水沢輝夫

4 被害車 第二種原付自転車(北区ま一五五六号)

運転手 原告

5 態様 直進して来た被害車に左折しようとした加害車が衝突した。

6 傷害の部位程度 左大腿骨骨折、左大腿動脈損傷、血清肝炎の傷害を受け、東京外科内科病院に昭和四四年四月三日から同四五年五月五日まで入院し、その後も通院して治療したが、跛行独歩行困難の身体障害等級六級相当の後遺症がある。

(二)  責任原因

1 被告宮坂進(以下被告宮坂という)

被告宮坂は、加害車を使用して運行の用に供していたから、自賠法三条による責任がある。

2 被告安田火災海上保険株式会社(以下被告安田火災という)

被告安田火災は、被告宮坂との間に被告宮坂を被保険者とし加害車を目的として、保険金額を一〇〇〇万円とする自動車対人賠償保険契約を締結し、その保険期間内に本件事故が発生した。従つて被告安田火災は被告宮坂に対し、同被告が原告に対して負担することによつて受ける損害を填補する責任があるところ、原告は、民法四二三条により、被告宮坂に対する損害賠償請求権に基づき同被告の被告安田火災に対する保険金請求権を代位行使する権限がある。

(三)  損害

1 治療関係費 一九八万七三五一円

(1) 入院治療費 一四四万二五七一円(但しうち三一万〇九五六円は国民健康保険より給付)

(2) 足関節支柱付超補高用装具代 一万七五〇〇円

(3) 入院雑費 一一万九四〇〇円

(4) 付添費と付添人交通費 四〇万七八八〇円

2 休業損害 六九万九五二四円

(1) 月収 大工として四万九九六六円の収入を得ていた。

(2) 休業期間 昭和四四年四月三日から同四五年五月五日までの間。

3 逸失利益 二七六万三九一六円

(1) 年収 五九万九九六〇円

(2) 稼働可能年数 昭和四五年五月六日から七年間

(3) 労働力喪失率 六七パーセント

59万9960円×0.67×5,8743=276万3916円

4 慰藉料 三〇〇万円

5 損害の填補 二〇〇万円

原告は自賠責保険金二〇〇万円を受領した。

6 弁護士費用 六五万円

右のとおり原告は、被告宮坂に対して六四五万〇七九一円を請求できるが、同人が任意の弁済に応じないので、弁護士である原告訴訟代理人にその取立を委任し、手数料および報酬として第一審判決言渡の日に六五万円を支払うことを約束した。

(四)  結論

よつて原告は被告らに対し各自七一〇万〇七九一円と内六四五万〇七九一円に対する昭和四五年五月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  原告ら

(一)  請求原因に対する認否

請求原因(一)の事実のうち一ないし五は認める。同六のうち左大腿骨骨折の傷害を負い東京外科内科病院に入院したことは認めるが、その余は不知。

請求原因(二)の事実は認める。しかし被告宮坂の被告安田火災に対する保険金請求権を、原告が代位行使できるとの点は争う。

請求原因第二項の事実のうち、一は不知。同二は争う。同三は喪失率を争い、その余は不知。同四は争う。同五は認め。同六は不知。

(二)  抗弁(過失相殺)

原告には本件事故に際し前方不注視の過失があり、これも本件事故発生の原因となつているから、損害額の算定につき斟酌されるべきである。

第三  証拠<略>

理由

一請求原因事実(一)中、一ないし五と六のうち原告が本件事故により左大腿骨骨折の傷害を受けて東京外科内科病院に入院したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によると、原告は右傷害と大腿動脈損傷の加療のために右病院に、昭和四四年四月三日から同四五年五月四日までの間入院し(なお右各証拠により、その間に本件事故に起因する手術後血清肝炎の治療も行なつたことが認められる。)、翌五日から同月三〇日まで通院(実日数は二日)したこと、および左下肢に膝関節の機能障害と下肢一一センチメートル短縮の後遺症の残つていることが認められる。

二請求原因(二)の事実については、当事者間に争いがない。

(一)  よつて被告宮坂は自賠法三条に基づいて、本件事故により原告の受けた損害を賠償する責任がある。

(二)  被告安田火災は、原告が被告宮坂の被告安田火災に対する保険金請求権を代位行使できることを争うが、前記確定事実によれば、被告安田火災は、被告宮坂と、本件自動車の事故により被告宮坂が被害者に対し負担する損害賠償債務を被告宮坂に対し填補する契約を締結したというのであるから、後段において認定する被告宮坂の原告に対する損害賠償債務につき、被告安田火災は、被告宮坂に対し、これを填補する義務がある。そして、弁論の全趣旨によれば、原告の被告宮坂に対する右損害賠償債権の執行が必ずしも容易であるとはいえないと認められるから、原告は右債権を保全するため、被告宮坂に代位して被告安田火災に対し右填補債権の履行を求めることができるものといわなければならない。(なお、傍論にわたるが、不法行為による損害賠償額については、慰藉料の額や過失相殺の程度などにつき当事者間に争いのあることが多いのであるが、そうであるからといつて直ちに被害者・加害者間の損害賠償請求訴訟の判決が形成判決であると解することはできない。そうであれば、保険会社、被害者・加害者(保険契約者)間の損害賠償請求訴訟につき、その判決が未確定であるという理由だけで、保険契約者の保険会社に対する保険金請求を拒むことはできない。保険約款でそのような判決の確定や裁判上裁判外の和解の成立を条件としてのみ保険金を支払う旨約定させておれば別であるが、わが国の保険会社においては一般にそのような約定はなされていないようである。)

三被告らの過失相殺の主張につき判断する。

<証拠>によると左のとおりの事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、千葉県松戸市北松戸八〇三番地先の三叉路(東京から柏方面に至る幅員一四メートルのアスファルト舗装道路―以下甲道路―に栄町からの幅員一〇メートルのアスファルト舗装道路―以下乙道路―が接する地点上である。

(二)  米沢輝夫は加害車を運転して乙道路を進行し、右三叉路において左折しようとして一時停止して、甲道路を直進して来る車両が途切れたので、発進して左折にかかつたところ、直進して来る被害車を右方約二一メートルの地点に発見し、被害車のスピードから考えて到底左折を完了しえないと判断し、急停車の措置をとつたが間に合わずに既にかなり甲道路に入り込んでいた加害車右前部付近を被害車前輪フェンダーに衝突させて原告を転倒させた。

(三)  原告は被害車を運転して時速約三六キロメートルの速度で、甲道路を東京方面から進行して本件事故現場付近に差しかかつたところ、乙道路から甲道路に進入して左折しようとしている加害車を約六メートル前方に発見し、転把して避けようとしたが、間に合わずに衝突した。

右のとおりの事実が認められ、証人米沢の証言と原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、その他右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によると広路通行車であり、直進車でもある原告にも、前方注視義務を怠つて左折する加害車の発見が遅れた過失があることになるから、原告につき生じた損害額の二割を減額するのが相当である。

四よつて、原告が本件事故により被告宮坂に請求し得る損害額は別紙のとおりである。

五以上の次第であるから、被告らは、各自原告に対し、二七六万四八七六円と内弁護士費用を控除した二五一万四八七六円に対する本件事故発生の日の後であり、かつ金員支払の後である昭和四五年五月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて原告の請求を右の限度において認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(坂井芳雄 新城雅夫 佐々木一彦)

〔別紙〕

1. 治療費関係

(1) 入院治療費

支出1,542,573円(甲3の12―成立に争いない)

顛補 310,956円(国民健康保険より―原告自認)

差引1,231,617円

(2) 足関節支柱付

超補高用装具代 支出 17,500円(甲4―原告本人供述)

(3) 入院雑費 支出 79,400円(原告本人供述。但し1日200円を超える分は本件事故と相当因果関係がないと認める)

(4) 付添費と付添人交通費(妻の付添)

317,600円(甲7―成立に争いない,原告本人供述。但し1日800円を超える部分は本件事故と相当因果関係がないと認める。)

2. 逸失利益

(1) 休業損害  (甲5―成立に争いない。原告本人供述)

(2) 逸失利益 599,600×0.5×4.3294=1,297,954円(原告は明治41年6月生れで,―成立に争いない甲1―なお5年間労働可能。後遺症による労働能力喪失50%と認める。係数はライプニッツ方式)

3. 慰藉料 2,000,000円

4. 1+2+3 5,643,595円

5. 過失相殺 5,643,595円×0.8

=4,514,376円

6. 顛補 2,000,000円(自賠費保険金より―争いない)

7. 5―6 2,514,876

8. 弁護士費用 250,000円(甲8―成立に争いない。但し右金額超過分は加害者に対し請求するのは相当でない)

9. 7+8 2,764,876円

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例