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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)119号 判決 1970年2月24日

原告 小林巴

被告 厚生大臣

主文

被告が別紙記載の処分について、原告からされた異議申立てに対し、昭和四四年四月二二日付をもつてした棄却決定を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一  原告は、主文と同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

二  原告は、請求の原因として、次のとおり述べた。

(一)  原告の夫、小林義雄は、昭和二〇年八月六日広島市において原子爆弾を被爆し、翌二一年四月一日死亡した。

そして、原告は、その遺族として、戦傷病者戦没者遺族等援護法第二三条第一号、第三四条に基づいて、被告に対し、昭和四二年八月三〇日付をもつて、遺族年金および弔慰金支給の裁定を求めたが、被告から別紙記載の処分をもつて、これを却下され、同年六月一一日その旨の通知を受領したので、同年一二月五日右処分について異議申立てをしたところ、被告は、昭和四四年四月二二日付をもつて、これを棄却する旨、主文第一項掲記の決定をした。

(二)  しかし、被告は、右異議申立ての審理にあたつて、原告から口頭による意見陳述の機会を得べき旨の申立てを受けたにかかわらず、原告にその機会を与えなかつた。すなわち、右審理手続は、行政不服審査法第四八条、第二五条第一項ただし書きに違反するものであるから、これに基づいてされた右決定は取消さるべきである。

三  被告は、原告主張の請求原因事実を認めたうえ、原告主張の異議申立て棄却の決定には、取消さるべき理由がないとして、次のように反論した。

(一)  原告は、その主張の本件遺族年金および弔慰金支給の裁定請求よりさきに、これと同一の事案について、昭和二七年八月一二日付をもつて請求し、被告から昭和二八年一一月七日付の処分(以下、第一次処分と略称する。)をもつて却下された事実が存し、本件遺族年金および弔慰金の支給裁定の請求について原処分が請求を却下した理由は、第一次処分が既に確定していることにあつた。

(二)  そして、被告は、原処分に対する本件異議申立ての審理において、その処分理由をもつて正当と判断し、実体審理に立ち入る必要を認めなかつたものであるが、かような場合には異議申立人に口頭による意見陳述の機会を与えなかつたからとて、審理手続上、違法を来たすものではない。

理由

一  原告主張の請求原因事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件異議申立て棄却決定が原告に、その申立てにかかわらず、口頭による意見陳述の機会を与えないでされたことにより、違法とさるべきか否かについて考えてみる。

(一)  行政不服審査法第四七条、第四八条によれば、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下、処分という。)についての異議申立ての審査庁は、異議申立てが法定の申立て期間経過後にされたものであるとき、その他不適法であるときのほかは、必ず異議申立ての理由の有無について実体審理を行なうことを要請されているものと解せられるところ、本件異議申立てが適法になされたものであることは、弁論の全趣旨により明らかであるから、審査庁たる被告は、その理由の有無について、実体審理をすることを義務づけられたものといわなければならない。

(二)  そして、同法第四八条、第二五条第一項は、異議申立ての審理方式について、書面審理主義を採用しながら、ただし書きを設け、異議申立人または参加人の申立てがあつたときは、その申立人に口頭による意見陳述の機会を与うべきこととしているが、同法による行政不服審査制度が「行政庁の違法又は不当な処分」から「国民の権利利益の救済を図る」ことを直接の目的とし(同法第一条参照)、これがため、同法によつて廃止された訴願法(明治二三年法律第一〇五号)による訴願制度と異り、処分について不服申立てをした国民または利害関係人の審理手続への関与を広範囲に認めている(行政不服審査法第二五条第一項ただし書き、第二六条本文、第二七条、第二八条、第二九条第一項、第三〇条、第三三条第二項本文参照)こと、しかるに行政不服審査法第二五条第一項ただし書きによる口述機会付与の申立てが審査庁によつて正当な理由もなく拒否し得るものとすると、同法による審査制度の右のような基本的建前が全く骨抜きになるものと解される(なお、この点同法第二六条による証拠物件の提出および同法第三三条第二項本文による処分庁提出物件の閲覧請求も同様である。これに対し、同法第二七条、第二八条、第二九条第一項、第三〇条の各申立ては、事柄の性質上、むしろ審査庁が事案に対する実体的心証に従つて、その許否を決するのが妥当である。)ことから推すときは、右に示した口述機会付与の申立ては、不服申立ての当事者たる国民および利害関係人に権利として保障され、審査庁において、既に処分を正当とする実体的心証を得ているというような理由によつて、これを拒否し得るものではないと解するのが相当である。

(三)  してみると、被告が本件異議申立ての審理にあたり、異議申立人たる原告から口頭による意見陳述の機会を得べき旨の申立てを受けたのに、原告に、その機会を与えなかつたのは違法というべく、従つて、かような審理に基づいてされた本件異議申立て棄却決定には瑕疵があるといわなければならず、これと異る見解に立脚する被告の主張は、採用することができない。

三  よつて、右異議申立て棄却決定の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用したうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎 小木曾競 山下薫)

別紙

被告が原告の戦傷病者戦没者遺族等援護法(昭和二七年法律第一二七号)第二三条第一号および同法第三四条にもとづく昭和四二年八月三〇日付遺族年金および弔慰金の支給裁定の請求について昭和四三年四月二五日付追六九一(郷七〇)号厚生省援護局長名通知書をもつてした却下処分

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