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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)9593号 判決 1970年7月17日

原告 トヨタ東京オート株式会社

右代表者代表取締役 小林良一

右訴訟代理人弁護士 萬羽了

被告 張替道世

右訴訟代理人弁護士 上杉柳蔵

右訴訟復代理人弁護士 越村安太郎

主文

被告は原告に対し、金三七〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四四年四月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、原告

1  被告は原告に対し、金四六五、〇〇〇円およびこれに対する昭和四四年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二、被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一、請求原因

1  原告は昭和四二年三月二三日訴外高松マリ子に対し、原告所有の車両一台(トヨペットコロナ、RT四〇、四二年式多摩五も八四七四、以下本件車両という。)を、代金は七六二、四一六円とし、うち頭金一一八、六二〇円、残金六四三、七九六円は昭和四二年四月三〇日金二七、三九六円、同年五月より昭和四四年三月まで毎月三〇日(二月は二八日)に各金二六、八〇〇円ずつに分割して支払うこと、車両の所有権は代金完済まで原告に留保するとの約束で売渡した。

2  なお、遅延損害金は日歩一〇銭、割賦金の支払を一回でも怠ったときは催告なく車両を返還させることができるとの約束であった。

右訴外人は頭金および昭和四三年二月分までの割賦金(合計金四一四、〇一六円)の支払いをしたが、同年三月三〇日に支払うべき割賦金およびその後の割賦金の支払をしない。

3  被告は昭和四二年一二月ごろから昭和四四年三月ごろまで本件車両の占有を継続し、昭和四四年三月ごろこれを他に処分してしまった。

4  右処分により原告は本件車両を発見することができず、その回復は不可能となった。

5  本件車両の昭和四二年一二月における価格は金四六五、〇〇〇円であり、昭和四四年三月における価格は金三七〇、〇〇〇円である。

6  よって原告は被告に対し、本件車両の所有権侵害による損害賠償として、不法占有中の値下り分金九五、〇〇〇円および本件車両の返還請求が不能となった昭和四四年三月における車両価格金三七〇、〇〇〇円合計金四六五、〇〇〇円および損害発生の日以後である昭和四四年四月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因1、3の事実は認めるが、その余の事実は知らない。

三、抗弁

1  被告は昭和四二年一二月ごろ訴外近衛自動車商会から本件車両を代金二七〇、〇〇〇円で買受けた。

2  よって被告は即時取得により本件車両の所有権者となった。

四、抗弁に対する認否

抗弁1の事実は認める。

五、再抗弁

1  原告は昭和四二年三月二〇日原告が本件車両の所有権者である旨の登録手続をし、同日自動車登録原簿に右登録がなされ、現に右所有権の登録は原告名義である。

2  既登録自動車の権利関係は登録を公示方法とし、登録が権利変動の対抗要件とされるものである。したがって本件車両は取引上即時取得の保護を与えられるべき動産とはいえない。

3  仮に民法第一九二条の適用があるとしても、原告が本件車両の所有権者であることは、登録原簿に表示されている上、車検証にも記載されているから、被告は本件車両の占有を始める際に、原告がその所有者であることは当然に知っていた。

4  仮に原告が所有者であることを知らなかったとしても、知らなかったことには過失がある。

六、再抗弁に対する認否

再抗弁1の事実は認めるが、同3、4の事実は否認する。同二の主張は争う。

第三証拠≪省略≫

理由

一、本件車両の所有権帰属について

請求原因1、抗弁1および再抗弁1の各事実は当事者間に争いがない。

ところで、登録制度がとられている自動車が自動車登録原簿に登録された場合、それが公示方法として物権変動の対抗要件となり、権利の表象となるのであるから、他の一般動産の場合と異なり、占有を信頼した即時取得による保護を与える必要性に乏しい。したがって登録済自動車については民法第一九二条の適用はないと解するのが相当である。よって被告の即時取得の抗弁は理由がない。

そうだとすれば、本件車両の所有権は原告に留保されたままであるといわなければならない。

二、不法行為ならびに損害について

被告が昭和四二年一二月ごろ訴外近衛自動車商会から本件自動車を買受けてから昭和四四年三月ごろまでこれを使用してその占有を継続し、昭和四四年三月ごろこれを他に処分してしまったことは当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば、被告は本件車両を買受けたとき自動車検査証によって、所有者が原告名義であり使用者が訴外高松マリ子名義であることを知ったのであるが、売主から名義変更ができる車であると聞いていたため、所有権が取得できると誤信して買受けその使用を継続していたこと、検査証の有効期限である昭和四四年三月になって、被告は初めて本件車両の所有権を原告から取得できないことを知り、原告担当員からも返還を求められたのであるが、敢えて他に売却処分し、その処分先を原告に教えなかったため、原告において調査するもその所在を発見できず、ついに今日まで本件車両を回復することができないことを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そうだとすれば、被告は本件車両の占有期間中その所有権を取得できないことについて善意(過失の有無は関係がない。)であったから、その間の使用による利益(果実)は民法第一八九条第一項によりこれを取得しうる筋合である。期間経過に伴う車両価格の下落による差額は、右使用利益の価額を超えないものと解するが相当である。したがって、右期間中の原告の損害賠償請求は失当である。

しかし、被告は昭和四四年三月に本件車両の所有権を取得できないことを知ったのであるから、前示売却処分により原告が本件車両を回復できなくなったことによる損害を賠償する義務がある。

≪証拠省略≫によれば、請求原因2の事実および訴外高松マリ子、その連帯保証人には残代金を支払う資力がないこと、本件車両の昭和四四年三月における価格は金三七〇、〇〇〇円であることを認めることができる。

三、結論

結局被告は原告に対し、昭和四四年三月被告の責に帰すべき事由によって本件車両に対する原告の所有権を侵害し、金三七〇、〇〇〇円の損害を与えたことになるから、右損害金およびこれに対する損害発生の日以後である昭和四四年四月一日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よって、原告の請求は右認定の限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 堀口武彦)

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