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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)3701号 判決 1970年3月16日

原告

国鉄労働組合

原告

国鉄動力車労働組合

代理人

大野正男

宮原守男

新井章

雪入益見

被告

日本国有鉄道

代理人

田中治彦

外七名

主文

被告は、別紙目録記載の各事項について、原告らと団体交渉をなす義務があることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  申立<省略>

第二  主張

一、原告ら

(請求の原因)

(一) 原告国鉄労働組合(以下国労という)、同国鉄動力車労働組合(以下動労という)は、いずれも主として被告に雇用されている職員をもつて構成する労働組合であり被告は日本国有鉄道法によつて設立され、鉄道事業等を営む公益法人である。

(二) 被告は、職員管理規程(昭和三九年四月一日総裁達第一五七号)および同規程第七章に基づく行賞基準規程(昭和四〇年一月二〇日総秘達第一号)をおき、従来、同規程第五章により、所定の永年勤続者に対して表彰が行なわれてきていた。ところで、昭和四三年六月一三日行賞基準規程は同規程第二五条の改定を含め、総秘達第六号により改定されたが、それにより同年一〇月一四日に表彰される予定者(あらかじめ現場長を通じて連絡をうけていた)のうちから、表彰予定を取消される者が出るという事態が発生した。

(三) そのため、国労は同年一二月一三日および昭和四四年三月五日の二回にわたり、動労は昭和四三年一二月一六日、昭和四四年二月二五日および同年三月二二日の三回にわたり、被告に対し、それぞれ別紙目録記載の各事項を含む功績章に関する事項について団体交渉を申入れた。これに対し、被告は、功績章問題は管理運営事項であり、公共企業体等労働関係法(以下公労法という)第八条の団体交渉事項ではないという理由で右団体交渉を拒否している。<後略>

第三  証拠<省略>

理由

原告ら主張の請求原因第一ないし第三項ならびに功績章が、被告において行賞基準規程所定の永年勤続者に対し、永年勤続それ自体を功績と評価してなす表彰であり、同規程第二五条が功績章表彰の基準に関する一規定であることは当事者間に争いがない。

そこで、功績章表彰の基準に関する事項が原告らと公共企業体等の一つである被告との団体交渉の対象事項であるかどうかにつき検討する。

公労法第八条は、同条第一号ないし第四号に掲げる事項は団体交渉の対象とし、これに関し労働協約を締結することができる旨定めている。ところで、同条第一号に掲げる賃金、労働時間等に関する事項および同条第三号に掲げる労働の安全、衛生等に関する事項は、労働力の交換条件もしくは労働履行条件に属し、いわゆる狭義の労働条件に該ること明白であり、同条第二号に掲げる昇職、降職、懲戒等の基準に関する事項は、いわゆる人事に関する事項で、狭義の労働条件に該らないとしても、少なくとも公共企業体等の職員の待遇に関する事項に該ることが明らかである。

同条第四号が、「前各号に掲げるもののほか、労働条件に関する事項」と規定しているのは、第一号ないし第三号の各規定と対比して考えるときは、第一号ないし第三号に掲記した事項以外の事項であつても、その事項が、こと労働条件その他の職員の待遇に関する事項である以上、すべて団体交渉の対象とする趣旨にでたものと解せられる。したがつて、同条第四号にいう労働条件とは、いわゆる狭義の労働条件のみならず、職員の待遇に関する事項も包含するものであつて、同条第一号ないし第三号に掲げるもの以外のものをいうものと解するを相当とする。

<証拠>によれば、被告の制定に係る日本国有鉄道就業規則には、その第七章において、行賞および懲戒に関する事項を規定し、行賞は表彰と褒賞の二種別とし(同規則第六三条の二)、職員に対する表彰は表彰状又は表彰状とともに鉄道顕功章もしくは功績章を授与して行なう旨(同規則第六五条の三)定められていることが、<証拠>によれば、被告の制定に係る職員管理規程(昭和三九年四月一日総裁達第一五七号)には、表彰は表彰状を授与して行ない、副賞として金品を加授することができる旨(同規程第三三条第二項)、および「多年業務に精励した職員に対しては、功績章を授与して総裁が表彰する。前項の規定により表彰する場合は、退職後の鉄道乗車証の交付の特典を附与する。」旨(同規程第三六条)定められ、総裁室秘書課長は行賞基準規程(行賞の手続および取扱方に関する基準)を制定しなければならない旨(同規程第五六条第一項第一号)定められていることが、<証拠>によれば、被告総裁室秘書課長は前記職員管理規程第五六条第一項第一号の規定に基づき昭和四〇年一月二〇日総秘達第一号をもつて行賞基準規程を制定し、昭和四一年二月一五日総秘達第三号をもつて改正した後、昭和四三年六月一三日総秘達第六号をもつて更にこれを改正したこと、右総秘達第六号による改正後の行賞基準規程には、功績章表彰は、永年勤続し、勤務成績が優秀である者に対し第五章に規定するところにより行なう旨(同規程第三条第三項)、職員管理規程第三三条第二項の規定により行賞を行なう場合の副賞金品は、功績章表彰の場合は、金六万円以内とする旨(同規程第六条)、功績章表彰は定期表彰および随時表彰とし、定期表彰は毎年一〇月一四日に、随時表彰は退職の日に行なう旨(同規程第一六条)、定期表彰は(1)指定職員等ならびに(2)管理職員給与基準規程および職員賃金基準規程に定める職群一〇以上に格付けされた者について勤続年数が満二五年以上の者につき、右(1)、(2)以外の職員については勤続年数が満三〇年以上の者につき、行なうものとする旨(同規程第一七条)、随時表彰は退職の際同規定第一七条の規定に該当する者または退職の日から一年以内に同条の規定に該当することとなる者などにつき行なう旨(同規程第一八条)などを定めているほか、勤続年数の計算方法(同規程第一九条ないし第二一条)ならび戒告、減給、停職等の懲戒処分を受けた者もしくは懲戒事由に該当する行為があつたと認められる者については、一定期間表彰を行なわない旨(同規程第二五条)を定めていることが、<証拠>によれば、被告の制定に係る鉄道乗車証基本基準規程には、その第六五条において、「功績章を授与された職員に対しては、退職の年の翌年から起算して一五年間、年三回を限り臨時乗車証を交付し、退職の年は年三回の範囲内でこれを交付する。右乗車証の適用期間は一回につき一カ月または三〇日以内とし、一五日以内のもの二回をもつて一回に換算することができる。右乗車証の乗車区間は国鉄全線とする。」旨定められていることが、それぞれ認められ、<証拠>を総合すれば、三〇年勤続の職員に対する功績章表彰は、昭和四〇年以降においては、前記行賞基準規程第二五条の規定に該当する者を除いて、殆んどその全員に対し行なわれて来たものであることを認めるに足り、他に右認定に反する証拠はない。

右に認定したところによれば、本件功績章表彰は、二五年もしくは三〇年以上の永年勤続職員に対し、その永年勤続という事実を功績と評価し、表彰状とともに功績章を授与して行なわれ、副賞として金六万円の金品が加授されるほか、特典として退職の年は三回、その翌年から一五年間に亘り毎年三回を限度として、それぞれ一回につき一カ月または三〇日間の国鉄全線にわたる臨時乗車証の交付がなされるものであることが明らかであるから、本件功績章表彰は、たんに被告の被告職員に対する賞讃感謝の表現として行なわれるものにすぎないとみるべきではなく、被告職員の待遇の一つとして行なわれるものであると認めるのが相当である。したがつて、本件功績章表彰の基準に関する事項は、前記説示したところにより、公労法第八条第四号にいう労働条件に該り、団体交渉の対象となるべき事項であるといわなければならない。

被告は、本件功績章表彰に関する事項は、公労法第八条本文但書にいう公共企業体等の管理および運営に関する事項に該るから、団体交渉の対象にならない旨主張する。しかし、右にいう管理運営に関する事項とは公共企業体の管理運営それ自体のみに関する事項を指すものと解するのを相当とするから、本件功績章表彰のような職員の待遇に関するものと認むべき表彰の基準に関する事項はこれに該らないというべきである。それ故、被告の右主張は採用できない。

しからば、本件功績章表彰の基準に関する事項は原告らと被告との間の団体交渉の対象となしうるものというべきところ、被告において原告らのなした別紙目録記載の各事項についての団体交渉の申入れを拒否して応じないことは前示のとおりであるが、それには正当な理由がないというべきであるから、原告らは被告に対し右各事項について団体交渉をなす権利を有し、被告はそれぞれこれに応ずべき義務を有するとともに、原告らは被告に右義務のあることの確認を求める利益を有するものといわなければならない。

よつて、原告らの請求は理由があるので認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(兼築義春 豊島利夫 菅原晴郎)

目録

一、功績章表彰の基準に関する労働協約の締結について

二、昭和四三年六月一三日総秘達第六号行賞基準規程第二五条第二項の規定の廃止について

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