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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)3442号 判決 1971年5月24日

原告 風間重義

右訴訟代理人弁護士 宮本佐文

右訴訟復代理人弁護士 高山征治郎

被告 安達静枝

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 中山善作

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告に対し、被告安達静枝は別紙物件目録記載の建物を収去し、被告山口孝成は右建物より退去して、各自別紙物件目録記載の土地を明渡せ。

2  被告安達は原告に対し昭和三二年六月一日から右土地明渡済みに至るまで一ヶ月金一、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告両名)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)を所有している。

2  被告安達は本件土地上に別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)を所有し、本件土地を占有している。

3  被告山口は本件建物に居住し、本件土地を占有している。

4  本件土地の昭和三二年六月一日以降の賃料は一ヶ月金一、〇〇〇円を相当とする。

二  請求原因に対する認否(被告両名)第1項ないし第3項は認めるが、第4項の事実は知らない。

三  抗弁(被告両名)

1  本件土地は被告安達の前夫である訴外成田弥平(以下訴外成田という)が昭和二七年六月一日原告から建物所有の目的で賃借したものであり、本件建物は成田が同地上に新築所有していたものであるが、昭和三五年一二月二九日被告安達と訴外成田が協議離婚をした際、両名の間に生れた二人の子供の養育の必要から、被告安達が訴外成田から財産分与として本件建物および右賃借権の譲渡を受けたものである。したがって、被告安達は、本件土地につき賃借権を有する。

2  被告山口は被告安達の内縁の夫であり、本件土地の独立の占有者ではない。同被告は賃借人である被告安達の家族として土地の使用権がある。

四  抗弁に対する答弁

1  第1項のうち、訴外成田が昭和二七年六月一日原告から本件土地を建物所有の目的で賃借し、同人が本件土地上に本件建物を新築し、その後本件建物を被告安達に譲渡し、同被告がその所有権を取得するに至ったことは認めるがその余の事実は否認する。かりに、被告安達が本件土地の賃借権を成田から承継取得したとしても、原告の承諾がないから、同被告は賃借権の取得をもって原告に対抗することができない。

2  第2項のうち、被告山口が被告安達の内縁の夫であるとの事実は認め、その余の点は争う。

五  再抗弁

1(一)  本件土地は原告が結婚した時の家屋増改築のための予定地であったが、原告は、訴外成田から五、六年経てば転居先がみつかるのでその間妻子と同居するため本件土地を貸してほしいと頼まれ、訴外成田がすでに木材を持込んでいたこと、その木材が相当に古いものであったことおよび原告に本件土地を直ちに使用する必要のなかったことなどもあって、賃借権の存続期間を五年に限定して本件土地を賃貸することを承諾したものである。従って、本件土地の賃貸借は一時使用のため借地権を設定したことが明らかな場合である。

(二)  本件土地の賃貸借契約は賃貸期間五年の満了によって消滅した。

2  本件土地の賃貸借契約は、訴外成田が本件建物から一時退去した昭和三二年六月頃原告と訴外成田との合意による解除により終了した。

3(一)  訴外成田は昭和三七年六月一八日本件建物および本件土地の賃借権を被告安達に譲渡し使用させた。

(二)  右は賃借権の無断譲渡にあたるので、原告は訴外成田に対し昭和四四年三月一四日到達の書面で本件土地の賃貸借契約解除の意思表示をした。

六  再抗弁に対する認否(被告両名)

1  第1項の(一)、(二)の事実はいずれも否認する。特に賃借権の存続期間を五年とした点については訴外成田が原告との紛争を恐れた結果一時のがれのためになしたものである。

2  第2項の事実は否認する。訴外成田は、本件建物から一時退去した際、本件建物を被告安達の弟外二名に賃貸し、その際原告との間において家賃の半額を原告に交付することを約した。

3  第3項の(一)の事実のうち、訴外成田が本件建物および本件土地の賃借権を被告安達に譲渡し使用させた事実は認めるが、その日時は昭和三七年六月一八日ではない。右譲渡は抗弁1で述べたように、離婚に際してなされた財産分与であるから、たとえ、原告の承諾なくしてなされても、背信行為と認めるに足りない特段の事情にあたるのである。

第3項の(二)の事実は否認する。

七  仮定的再々抗弁(被告両名)

かりに、原告主張の合意解除の成立が認められるとしても、右合意解除は次の(一)または(二)の理由によって無効である。

(一)  合意解除契約は訴外成田が移転先である梅島に住宅を確保することが出来ることを停止条件としていた。

(二)  訴外成田は、真実は新住居が存在しないのに梅島に新住居を確保出来ると誤信した。右錯誤は法律行為の要素に関するものである。

八  仮定的再々抗弁に対する認否

すべて否認する。

第三証拠≪省略≫

理由

一、本件土地が原告の所有であること、被告安達が本件建物を所有することにより右土地を占有していること、被告山口が右建物に居住することにより右土地を占有していることは当事者間に争いがない。

次に抗弁事実のうち、被告安達のもとの夫である訴外成田が昭和二七年六月一日原告から本件土地を建物所有の目的で賃借したこと、同人が本件土地上に本件建物を新築したこと、同人が右建物を被告安達に譲渡し、同被告がその所有権を取得するに至ったことは当事者間に争いがない。

二  そこで、被告安達が訴外成田から右賃借権を譲り受けたか否かの点を検討する。

≪証拠省略≫を総合すると、訴外成田は昭和三五年一二月頃被告安達と離婚し、被告安達に、二人の子供の養育を託し、その頃、財産分与として本件建物を贈与したことが認められる。そして、土地の賃借人が賃借地上建物の所有権を譲渡した場合には、その際特段の事情のないかぎり、土地賃借権も当然に移転すると解するのを相当とするところ、本件においては全証拠によっても右特段の事情が認められないから、訴外成田は被告安達に対し、本件建物の譲渡と同時に、本件土地の賃借権をも譲渡したものとみるべきである。

三  ところで、原告は右賃借権の譲渡について賃貸人である原告の承諾を得ていないから、原告には対抗できないと主張するので、その主張の当否につき考える。

思うに、自然人が居住用の建物を建築する目的で土地を賃借した場合には、賃借人は、自己を含む家族の居住権を確保するために家族全員の代表者として契約したものと解するのが相当である。したがって、土地賃借人の同居の家族は、それが契約当時すでに家族という身分を有していたか、その後に家族になったかを問わず、右賃借権の存続するかぎり、賃貸人に対して、賃借権を対抗できるものと言わねばならない。そして、右の事理は賃借人死亡の場合(なかんづく遺族が内縁の妻である場合など)にもあてはまるが、賃借人が妻と離婚し、地上建物を妻に財産分与として贈与した場合にも妥当するものと考える。すなわち、同居の妻に地上建物を贈与したため土地賃借権が妻に帰属した場合には、賃借人である夫が死亡した場合と同様、土地賃借権の移転につき賃貸人の承諾がなくても、妻はその賃借権を賃貸人に対抗できるものと解する。

したがって、原告の承諾欠缺に関する前記主張は理由がない。

ちなみに、原告は、賃借権の無断譲渡を理由として譲渡人である訴外成田に対して賃貸借解除をしたと主張しているが(再抗弁3参照)、財産分与の結果訴外成田は賃借人たる地位から脱退し、被告安達において、賃借人の地位を適法に承継したことは上記のとおりであるから、原告の右解除は無意味のもので、被告の賃借人たる地位には影響がない。

四  抗弁第2項のうち、被告山口が被告安達の内縁の夫であることは当事者間に争いがない。そして、≪証拠省略≫によると、被告山口は被告安達の内縁の夫として、被告安達が成田と離婚して間もない頃から本件建物に同居していることが認められ、また≪証拠省略≫によると、被告山口の住民登録による住所の表示は安達方となっている事実が認められるので、被告山口は賃借人安達の同居の家族として被告安達に帰属した賃借権をもって原告に対抗できるものと言うべきである。

五  次に再抗弁について判断する。

先ず再抗弁第1項につき考える。本件土地の賃借権の存続期間を五年とする約定は、右賃貸借が一時使用のための賃貸借に該当すると認められる場合にかぎり有効とされるので、この点について検討する。

≪証拠省略≫を総合すると次の事実が認められる。

1  昭和二七年頃訴外成田一家は、間借り生活から逃れて独立した家屋で家族揃って住みたいとの希望から、原告の母に対し本件建物を新築するための敷地として本件土地を貸してほしいと申し入れ、原告は最初反対の意向であったが、結局は右申し入れを承諾したこと。

2  原告は当時資金がなかったため、本件土地をすぐに使用する積りのなかったこと。

3  訴外成田は原告の母に対し契約成立後、時価相場の権利金として、坪当り二、五〇〇円の割合で合計三七、五〇〇円を支払ったこと。

右事実のうち、3の事実に反する原告本人尋問の結果はにわかに措信しがたい。そこで、右1の事実から、原告は当時訴外成田が新築しようとする建物が訴外成田一家の生活の本拠になることを充分承知していたと解されるところ、右事実に2、3の事実を加味すると、原告と訴外成田との間の本件土地の賃貸借契約は一時使用の目的のため設定されたものということはできない。ところで、≪証拠省略≫によると、当時訴外成田は原告との間において借地権の存続期間を五年と定めた事実が認められるが、右の期間の定めに関し、証人成田はその証言において、「五年たったら必ず出るというような考えからじゃなく……」、「私もできるだけのことをしたいと思いまして……」の各供述しており、右供述と証人成田の証言の全趣旨からすれば、当時訴外成田は、出来れば五年経った時点で生活の本拠を移転したいが、出来なければやむを得ないから引き続き本件土地を貸してほしいという気持から五年の期間を定めたと見られるので、五年の期間の定めは本件土地の賃貸借契約の性格を左右するものではない。

よって原告の再抗弁第1項は理由がない。

六  進んで再抗弁第2項の合意解除の成否につき判断する。

≪証拠省略≫を総合すると次の事実が認められる。

1  昭和三二年訴外成田一家は梅島の転居先に行くため一時本件建物から退去したが、しばらくして再び本件建物に戻ったこと。

2  訴外成田一家が梅島に行っている間、訴外成田は本件建物を数名の者に間貸し、その事実を原告は知っていたこと。

3  訴外成田一家が梅島に行く際、本件建物の収去につき原告との間に何ら話し合いのなされていないこと。

≪証拠判断省略≫そこで、右1ないし3の事実を総合して判断すれば、訴外成田一家が梅島に行く際訴外成田と原告との間に本件土地の賃貸借契約が合意解除されたと認めることは出来ない。

よって、原告の再抗弁第2項も理由がない。

七  再抗弁第3項について、その判断の必要のないことは、前記三の後段に記載したとおりである。

八  以上の認定説示によれば、爾余の点については判断するまでもなく、原告の本訴請求はすべて理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 伊東秀郎)

<以下省略>

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