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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)10787号 判決 1970年7月01日

原告 片山茂喜

右訴訟代理人弁護士 大西保

同 佐藤敦史

同 新井嘉昭

被告 日本電気株式会社

右代表者代表取締役 小林宏治

右訴訟代理人弁護士 成富信夫

同 成富安信

同 成富信方

同 向山隆一

同 荒木孝壬

同 畑中耕造

同 岡田一三

同 山本忠美

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一、原告

「被告は原告に対し八六七、五〇〇円およびこれに対する昭和四四年一〇月一二日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二、被告

主文同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一、原告(請求の原因)

(一)  原告は昭和四四年一月三〇日被告の株式五〇〇〇株を旧株二に対して新株一の割合による新株引受権つきで取得し、即日株主名簿の名義書換手続を完了した。

(二)  しかるに被告は原告に対し新株式割当通知書並びに株式申込証の送付をしなかったので、原告は新株申込並びに払込期日迄にその手続をなすことができず右新株二、五〇〇株の引受権を失った。

(三)  被告の原告に対する右新株式割当通知並びに株式申込証交付義務不履行により、原告は右権利喪失の日である昭和四四年四月二一日から昭和四五年五月二〇日までの東京証券取引所における中間最高価格一株当り四一三円二五〇〇株合計一、〇三二、五〇〇円を失うに至った。

よって原告は二五〇〇株についての払込金一二五、〇〇〇円を差引き九〇七、五〇〇円の損害を蒙った。

(四)  そこで原告は被告に対し右損害賠償金の内金八六七、五〇〇円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四四年一〇月一二日から完済まで商法所定年六分の割合による金員の支払いを求める。

二、被告(請求の原因に対する認否および主張)

請求原因(一)の事実のうち、原告が被告の株式五、〇〇〇株の株主となったことは認める。右株主名義の書換手続完了は昭和四四年一月三一日である。

同(二)の事実は否認する。

同(三)の事実のうち、原告主張の中間最高価格は不知、その余の事実は否認する。

同(四)の事実は争う。

(一)  被告は昭和四三年一一月三〇日の取締役会で、次の要領による新株式発行を決議し、同年一二月四日全株主に通知した。

(1) 発行新株式数 記名式額面普通株式 二億株

(2) 割当方法 昭和四四年一月三一日午後三時現在の株主名簿記載の株主に対しその所有株二株につき新株式一株の割合をもって割り当てる。但し割当の結果生ずる一株未満の端数株式は切り捨てる。

(3) 発行価額及び払込金額 一株につき各五〇円。

(4) 申込証拠金 一株につき五〇円。

(5) 申込期間 昭和四四年四月一〇日より同月二一日まで。

(6) 払込期日 同月三〇日

(7) 申込期間中に申込のない株式および端数株式の処理は取締役会において決定する。

(二)  原告は右新株式割当当日たる昭和四四年一月三一日五、〇〇〇株の株主となり、その株主名簿に記載されたので、新株式二、五〇〇株の新株引受権を得た。

(三)  被告は昭和四四年三月二〇日、原告を含むすべての株主に対して新株式の申込証を新株式目論見書、新株式割当御通知とともに発送した(商法二八〇条ノ三ノ二、二二四条)。

(四)  なお原告は、同年一月三一日株主名簿に登録される際の株主コード番号〇六―五六四七と決定したが、前記新株式割当通知の際のコード番号〇六の株主には全株主割当済であって、割当に適しない端数株式はないから、原告は、右割当通知を通常到達すべかりし時に受領している者とみなされる(商法二二四条二項)。

そのうえ、被告は昭和四四年四月一〇日割当に適しない株主四〇名を除く全株主に対し新株式の申込は四月二一日であるからお忘れなくとのハガキを発送している。

(五)  被告はそのほかに日本経済新聞に昭和四三年一二月四日新株式発行に関する取締役会決議公告を、次いで、朝日、日本経済、サンケイ、毎日の各新聞に、昭和四四年一月一六日には割当日は一月三一日であるから名義書換をお忘れなくとの注意を、三月一〇日には新株式割当募集公告を、四月一五日には新株式申込締切日は四月二一日である旨をそれぞれ公告している。

(六)  しかるに原告はその割当の新株式に対して全く払込をしないで、申込期間を徒過したのであるから、引受権を喪ったのであって、被告は原告に対し何らの損害を支払うべき義務を負わない。

三、原告(被告の主張に対する答弁)

主張(一)の事実不知。

同(二)の事実のうち、原告が新株引受権者であることは認め、その余の事実は不知。

同(三)、(四)の事実は不知。

商法二二四条は、株主名簿に一旦記載された住所氏名につき、株主名簿に免責的効力をあたえ、日々変遷する株主の住所氏名を一つ一つ調査することの困難を考慮し、株式事務の簡易化を計るためのものであるから、本件の如き真実の住所地が記載してあり、且つその住所地を宛先として通知する場合は、本条文適用以前の問題であり、その通知催告の効力は原規定である民法九七条を適用すべきであるから、被告は発信の事実は勿論、その通知の到達をも立証すべき責任がある。

第三証拠≪省略≫

理由

(一)  原告が昭和四四年一月三一日午后三時現在の被告株主名簿記載の株主であり、その所有株式数が五、〇〇〇株であることは当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば、被告は昭和四三年一一月三〇日開催の取締役会において、昭和四四年一月三一日午后三時現在の株主名簿に記載された株主に対し、その所有株式数二株につき新株式一株の割合をもって割り当てること、申込期間は同年四月一〇日から同月二一日まで、払込期間は同月三〇日と決定したことが認められる。

右事実によれば、原告は被告発行の新株式数二、五〇〇株の新株引受権を取得したものと認められる。

(二)  原告は、被告が原告に対し新株式割当通知書並びに株式申込証の送付をしなかったので、新株申込並びに払込期日迄にその手続をなすことができず、右新株二、五〇〇株の引受権を失った旨主張する。

株式会社は新株を発行する場合、払込期日の二週間前に新株発行事項を公告し又は株主に通知することを要する(商法二八〇条ノ三ノ二)が、その場合の通知は、株主名簿に記載した株主の住所又はその者が会社に通知した住所に宛ててなせば足り(同法二二四条一項)、右通知は通常その到達すべかりし時に到達したものと看做される(同条二項)。

このことは、株式会社が通常多数の株主をもち、しかも株主が激しく変動することに対応して、会社に株主の真実の住所の探索の困難さを解消させ、更に株主宛の通知、催告の不着、遅延から生じる会社の義務を免責することによって株主に関して生起する法律関係を簡易、迅速かつ画一的に処理する趣旨であると解される。原告は株主名簿に真実の住所地が記載してあり、且つその住所地を宛先として通知する場合は商法二二四条二項の適用以前の問題であると主張するが、同条は株主名簿に記載された株主の住所に通知すれば、その住所が真実の住所であると否とを問わず、到達を擬制し株式事務の簡易化をはかろうとするものであって原告の右主張は理由がない。

ところで≪証拠省略≫によれば、被告は、昭和四四年三月二〇日、同年一月三一日午后三時現在の総株主四〇、二九一名のうち、被告事務職員において直接手渡した二〇名と外国株主一一〇名を差引き原告を含む四〇、一六一名の株主に対し株主名簿に記載した住所宛に、新株式申込証、新株式目論見書、新株式割当御通知と題する書面を普通郵便にて一括発送したことが認められ、ほかに右認定を動かすに足りる証拠はない。

≪証拠省略≫中には、原告方では、その頃右郵便物を受領していないとの供述が存するが、発送の事実が証明される以上、たとえ不着、或は誤配などのため原告方に配達されなかったとしても、右通知は通常その到達すべかりし時(発信地、到達地とも東京都区内であるから二日又は三日以内には通常到達すると認められる)に到達したものと看做すほかない。

もっとも新株割当通知のような重要な通知が、普通郵便によってなされることは、今日の如き社会生活が複雑多様化し、殊に郵便事務の増加により遅配、不着などの事故が増加しつつあることが顕著な状況においては株主保護に徹していないとの疑問があろう。たとえ費用の面で多額の支出を余儀なくされても、書留郵便の方法で通知すれば、このような過誤は殆ど防止できるはずだからである。しかし、このことは企業自体が、その利益追求と株主保護とを考慮しながら、その責任においてどのような方法をとるか決すべきことであって、かかる方法をとらなかったからといって会社に法律的責任を課することはできない。殊に本件においては、≪証拠省略≫によれば、被告は各株主に対し新株式申込をとくそくする一方、新聞広告により新株発行に関して必要な事項の公告、とくそくなどを重ねてきたことが認められ、この点においても被告の処置を不相当であるということはできない。

(三)  以上の次第であって、被告が原告に対し新株式割当通知書並びに株式申込証を送付しなかったことを前提として被告に損害賠償義務があるとする原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当といわなければならない。

よって原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田稔)

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