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東京地方裁判所 昭和44年(ヨ)2211号 決定 1969年12月15日

債権者

田辺準一

外一名

右両名訴訟代理人

新井章

雪入益見

田原俊雄

債務者

日本国有鉄道

水代表者

磯崎叡

右訴訟代理人

鵜沢勝義

鵜沢秀行

外三名

主文

1  本件仮処分申請をいずれも却下する。

2  訴訟費用は債権者らの負担とする。

理由

第一当事者双方の申立てと主張の要旨

一  申立て

(一)  債権者らの申立て

1 債務者が債権者らに対してした昭和四四年一月一一日付(同月二〇日通知)各懲戒処分の通知の効力を停止する。2 債務者は債権者らの就労を妨害してはならない。3 債務者は債権者らに対し昭和四四年一月一一日付各懲戒処分通知に基づく懲戒免職処分の発令をしてはならない。4 訴訟費用は債務者の負担とする。」との裁判を求める。

(二)  債務者の申立て

主文と同旨の裁判を求める。

二  主張の要旨

(一)  申請の理由

1(1)債権者田辺は、債務者日本国有鉄道東京鉄道管理局品川機関区の機関車掛、債権者大江は、右機関区の機関助士であつて、(2)両名は、いずれも国鉄動力車労働組合(以下動労という。)の組合員である。

2 債務者は、債権者らに対し、日本国有鉄道法第三一条第一項第一号に該当する行為があつたとして、昭和四四年一月一一日付で、別紙事由書当該のとおり懲戒免職に関する通知(以下事前通知という。)を発し、右通知は同月二〇日債権者らに到達した。

3 債権者らに対する右事前通知は、債務者と債権者らの所属する前記動労との間で締結されている「懲戒の基準に関する協約」(以下本件協約という。)の定めによつたものであるが、右協約によれば、債務者が職員の懲戒を行なう場合は、発令前に当該職員に対し、懲戒さるべき事由および処分の程度を文書をもつて通知(これは懲戒処分の通知または事前通知と呼ばれている。)しなければならないとされており、通知を受けた本人が異議ある場合は、通知を受けた日から五日以内に箇所長(区長など)を通じ、所属長に対し、弁明を行ないまたは本人の選任した者により弁護を行なうことを申出ることができ、第一回の弁明または弁護を行なうべき期日は異議申立ての日から五日以内に開かれ、弁明または弁護の手続は異議申立ての日から、原則として、二週間以内に終了すべく、無実が明らかとならない限り、懲戒処分の発令がなされることとされている。すなわち、右事前通知はそれ自体直ちに雇傭契約上の地位や権利に変動を及ぼすものではないが、懲戒処分の予告、懲戒処分意思があることの通知であり、懲戒処分手続の開始を意味する。

4(1)右事前通知に記載された懲戒さるべき事由の内容は別紙事由書記載の事実である。しかし、債権者らは、同記載のような「暴力」行為をしていない。

(2) 問題の発端を見ると、動労は、債務者が強行しようと企図する五万人合理化、機関助士等国鉄「近代化」方策に反対する闘争をおしすすめてきたところ、動労の組合員であつて品川機関区指導機関士たる土屋繁義ほか数名が債務者の圧力に屈して債務者に協力的言動をし、動労に対し脱退届を出したので、動労は土屋らの指導機関士としての任務を解くよう債務者に要求中、土屋は債務者の指示に従い昭和四三年一二月一一日臨第一五一仕業(品川、高島間の米軍郵便車)に指導機関士として添乗しようとしたため、債権者らを含む組合員若干名は土屋および品川機関区幹部に対し土屋の添乗中止方を説得中、双方の間に多少の押し合いが発生したのである。債務者はかかる事実をとらえて真実に副わない事実を懲戒さるべき事由として掲げている。したがつて、その経過からみて、本件事前通知は、前記のように債務者の企図する国鉄「近代化」の諸方策に強力な反対闘争を行なつている動労東京地方本部品川支部(債権者らの所属支部)の闘争力を減殺する目的に出たもので、組合運営に対する支配介入であり、債権者らの正当な組合活動を理由とする不利益取扱である。

(3) かりに債権者らに多少行過ぎがあつたとしても、懲戒免職することは事業の内容にかんがみ、苛酷に失し、懲戒権の濫用である。

それ故、本件事前通知は違法である。

5(1) ところで、最近の債務者の態度をみると、弁明または弁護を行なうべき期日を一方的に指定し、その期日に、異議申立人側が都合により出席できない場合でも、その期日を強行し、弁明または弁護の手続を経たものとして、処分の発令をすることが行なわれているばかりでなく、一回の弁明または弁護によつて意見の対立が決定的であるとする場合には、二回目以降の手続を一応予定しながら、これを無視して直ちに発令することも行なわれている。

(2) 本件の場合、事前通知を受けた債権者らは、昭和四四年一月二四日異議申立てをし、同年二月三日第一回の弁明または弁護手続が開かれており、同日の手続では継続してさらに第二回の弁明または弁論が行なわれることを予定しているが、債務者は処分発令を断念し、もしくは処分の程度を変更する意向や態度を何らみせていない。そこで、本件の場合も、前記のような最近の債務者の態度からみて、債務者が弁明または弁論の手続を一方的に強行し、明日にでも処分を発令する可能性が存在するのであり、債権者らの雇傭契約上の地位は不安定な状態におかれている。

6 懲戒免職処分の場合は、その事前通知にともなつて、当該乗務員に対し、直ちに「乗務停止」の処置がとられ、就労制限およびこれにともなう給与減額の不利益が課されるのが常であり、その法的根拠は明らかでない。本件債権者らも事前通知後直ちにこれらの処置がとられ、就労が妨げられているばかりでなく、これにともない債権者田辺は月額一、五〇〇円、同大江は月額五、五〇〇円位の給与の減少を来たしている。

7 よつて、債権者らは、左記のような本案訴訟の提起を準備中であるが、本案訴訟の結果をまつことは著しい損害を蒙ることになるから、まず事前通知の効力停止の仮処分命令を求め、これが容れられないときは就労妨害禁止および懲戒免職処分発令禁止の仮処分命令を求める。

(1)(i)(イ) 原告ら(債権者らをいう。以下同じ。)は、被告(債務者をいう。以下同じ。)に対し、昭和四四年一月一一日付懲戒処分の事前通知を受けない、雇傭契約上の、地位にあることを確認する。

(もし右が許されないとすれば)

(ロ) 原告らは、被告に対しそれぞれ雇傭契約上の権利を有することを確認する。

(ⅱ) 被告は、原告らに対し、昭和四四年一月一一日付懲戒処分の事前通知に基づいて懲戒免職処分の発令をしてはならない。

(2) 被告は、原告らの就労を妨害してはならない。

三  債務者の答弁と主張

(一)  申請の理由1の(1)は認めるが、(2)は知らない。

(二)  申請の理由2は認める。

(三)  申請の理由3も認める。

(四)1  申請の理由4のうち、土屋指導機関士が債務者当局から臨第一五一仕業に添乗する指示を受けていたことは認めるが、その余は争う。

2  事前通知に記載された懲戒事由を敷衍すると、次のとおりである。すなわち、

(1) 債権者田辺は、(ⅰ)昭和四三年一二月一一日一九時五〇分ころ、東京鉄道管理局品川機関区乗務員室において、臨第一五一仕業の警戒添乗の点呼を受けるため当直室に行こうとした指導機関士土屋繁義に対して胸元を引張る等の暴行を加え(ⅱ)同日同時刻ころ右土屋に対して暴行を加えている際に止めに入つた助役鈴木文一に対してその胸元をつかみ右乗務員室入口の扉に強く押しつける等して暴行を加え、そのため右扉に据付けてあつた縦一米、横三五糎の鏡一枚を損壊した。

(2) 債権者大江は、(ⅰ)昭和四三年一二月一一日一九時三五分ころ、東京鉄道管理局品川機関区指導助役室において、他の者によりその胸元を引張られて乗務員室に連行されようとしていた前記土屋を他の一名とともに押し、ついで同日一九時四五分ころ、臨第一五一仕業警戒添乗のための点呼を受けるべく当直助役室に赴こうとした右土屋に対して作業服のえり元に両手をかけて下から締め上げる等の暴行を加え(ⅱ)同日一九時五〇分ころ、右機関区乗務員室において、債権者田辺とともに、助役鈴木文一に対して乗務員室入口の扉に強く押しつける等の暴行を加え、そのため右扉に据付けてあつた前記縦一メートル横三五センチメートルの鏡一枚を損壊した。

なお、債権者らの右暴行により助役鈴木文一は、頭部頸部背部挫傷の傷害を受け、五日間休業した。債権者らの右の行為は、日本国有鉄道法第三一条第一項および日本国有鉄道就業規則第六六条第一七号に該当するので、本件事前通知をしたものであつて、右事前通知に手続的、実体的な何らの違法もない。

(五)  申請の理由5の(1)は否認する。(2)のうち、債権者らが昭和四四年一月二四日異議申立てをし、同年二月三日弁明または弁護手続の第一回期日が開かれ、さらに第二回期日が開かれることが予定されていることは認めるが、その余は否認する。現在東京南鉄道管理局において、弁明または弁護の手続をすべき案件が三、〇〇〇件程あり、目下順序に従い進められてはいるが、本件に関する弁明弁護の第二回期日がいつ開かれるか目下のところ未定である。

(六)  申請の理由6のうち、債権者らに対し、本件事前通知をした後は、債務者において債権者らに対し具体的勤務を指定していないことは認めるが、その余は争う。債権者らに対する勤務予定表による個人別日別の勤務指定は債権者らの所属する箇所長である品川機関区長の権限に属するものであるが、右品川機関区長は、債権者らが本件事前通知を受けたことにより精神的動揺をきたし、機関助士である債権者大江においては運転事故を発生せしめ、機関車掛である債権者田辺においては機関車の検修作業に疎漏をきたすかも知れないと考え、安全確保の見地から、その権限において、勤務を指定していないものであつて、債権者らが主張しているように、本件事前通知の当然の効果として、乗務停止という処置がとられたものでもなく、またそのようなものが制度上存するものでもない。また本件のように事前通知をうけた者に対し具体的な勤務指定をしない前例はない。

(七)  申請の理由7は争う。

債権者らに対しては、懲戒処分の発令はなされていない。したがつて、債権者らとの間に雇傭契約が存続していることは明らかである。しかも債権者らも自認するように事前の通知により直ちに雇傭契約上の地位や権利に変動を生ずるものではない。そうであるとすれば、債権者らが主張している本案訴訟の請求の趣旨(1)の(ⅰ)はいずれも本件仮処分の本案訴訟としては訴の利益を欠き失当であり、(1)の(ⅱ)も仮処分の申請の趣旨としてはともかく本案訴訟としては雇傭契約上の地位確認の一態様に過ぎず、独立した本案訴訟としては許されない。また(2)の請求の趣旨は、就労請求権を前提としたものであるが、労働者には就労請求権がないから、これを前提とする本案訴訟も失当である。

右のように、本案訴訟が失当であること明らかなものにつき、仮処分を求めることは失当である。

第二当裁判所の判断

一  申請の理由1(1)は当事者間に争いがなく、同(2)は<証拠>により一応認められる。

二  申請の理由2、3は当事者間に争いがない。

三(一)  ところで、仮処分は、被保全権利が、本案訴訟により確定され、または執行されるまでの暫定的仮定的処分であるから、被保全権利が、本案訴訟によつて確定され、または執行される見込みがない場合は、仮処分の発令は許されない。

(二)  そこで、申請の理由7において債権者らが、本案訴訟の請求の趣旨として予定していると主張しているものについて順次検討してみよう。

まず、(1)(ⅰ)(イ)については、申立ての趣旨が明確とはいいがたいが、一応、債権者らと債務者間の雇傭契約上債権者らは本件事前通知を受けるいわれがない地位にある旨の確認を求める趣旨と解することができる。しかし、事前通知自体が直ちに雇傭契約上の地位や権利に変動を及ぼすものでないことは前記のように当事者間に争いがないところである。なお、債権者らは、事前通知が懲戒免職処分に関するものである場合は、当該乗務員に対し直ちに「乗務停止」の処置がとられ、就労制限およびこれにともなう給与減額の不利益が課されるのが常である旨主張し、<証拠>によれば、債権者らの場合、本件事前通知の翌日から「命令休暇」に付され、その結果、就労が制限され、また、乗務旅費、夜勤手当、超過勤務手当等を受ける権利を取得する機会を失なつたことが一応認められるが、このことが事前通知自体の法的効果であると認めるに足りる疎明資料はない。そして<証拠>によれば、事前通知の効果としては、単に通知を受けた職員に弁明または弁護の申立権を発生せしめ、申立期間を開始させるという手続上のものがあるだけであることが一応認められる。ところで、<証拠>によれば、本件協約一七条は弁明または弁護の手続の結果当該職員の無実が明らかとなつた場合、所属長は事前通知を取り消すべき旨規定することが一応認められるが、この取消は処分意思あることの通知の撤回を意味するにすぎず、それ以上の手続的効果を帯びるものではないと解せられるので、右一七条の規定あることを根拠に事前通知に前示以外の効果を与えることはできない。そうであるとすれば、債権者らが、事前通知を受け、これに応じて所定期間内に弁明または弁護の申立てをしたことが当事者間に争いのない以上、手続は次の段階に進んだもので、債権者らはいまさら事前通知を受けるいわれがない地位にある旨の確認を求める利益を有しないとみるのが相当である。

つぎに、(1)―(ロ)については、右請求権は抽象的に雇傭契約上の権利を有することの確認を求めるにとどまり、確認を求める権利の具体的内容が明らかでないが、その点はしばらくおくとしても、債権者らと債務者間に雇傭契約関係が現在なお存続しており、債権者らが就労請求権を除くその余の雇傭契約上の権利を有していることは債務者の争わないところであるから、雇傭契約上の権利を有することの確認を求める利益を欠くというほかない。また、もし債権者らが確認を求める雇傭契約上の権利は就労請求権を含むものであれば、債務者は債権者らが就労請求権を有することを争つているので、この部分に関する限り確認の利益を肯定できるであろうが、労働者は特別の事情のない限り使用者に対し就労請求権を有しないと解すべきところ、本件において債権者らが債務者に対し就労請求権を有することを肯認するに足りる特別事情ありとの主張立証がない以上、債権者らが就労請求権を有するとはいえないから、右確認請求中、就労請求権を有する旨の確認を求める部分も失当である。

さらに、(1)(Ⅱ)については、右請求は、債権者らが債務者に対し前記事由書記載の事由による懲戒免職をしてはならない旨の不作為請求権を有することを前提として、この不作為請求権に基づき債務者が債権者らに対し懲戒免職をすることを事前に差し止めようとするものと解せられるが、債権者らと債務者の契約上ないしは動労と債務者間の労働協約上、債権者らにこのような不作為請求権を与える旨の合意が存在することが認められない本件の場合、債権者らは日本国有鉄道法第三一条に基づく懲戒免職権の行使を事前に抑止する不作為請求権を有しないというほかはなく(付言すると、<証拠>によれば、本件労働協約上懲戒を行なう場合の基準として非行の類型が定められていることが一応認められるが、これは、類型を制限的に列挙したのか、例示的に列挙したのかは別として、単に懲戒処分の準則を定めたものに過ぎないと解するのが相当であり、さらに進んで、この基準に該当しない職員に対し、前記のような不作為請求権を与えたものと解するのは相当でない。)、したがつて、債権者らに右不作為請求権があることを前提とする(1)(Ⅱ)の請求は失当である。

最後に、(2)について考えるのに、右は労働者が就労請求権を有することを前提としてこれに対する妨害行為を禁止する趣旨と解せられるが、本件において債権者らが債務者に対し就労請求権を有するとは認められないことは前記のとおりであるから、これあることを前提とする(2)の請求の趣旨も失当である。

このように、債権者らが本案訴訟の請求の趣旨として予定していると主張しているものに即して検討すると、それらはいずれも失当であり、したがつて、右のような本案訴訟を前提とする限り、本件仮処分申請はこれを許容することができないといわなければならない。

(三)  しかしながら、本案訴訟における申立てを挙示することは仮処分申請の要件ではないし、また本案訴訟において、仮処分申請の際本案の請求の趣旨として予定していると主張したところと異なる申立てを掲げることが許されないわけではないから、債権者らが仮処分によつて保全しようとする権利が認められ、その被保全権利の確定、実現のために適切な本案請求があるとすれば、これとの関係において、債権者らが本案の請求の趣旨として主張しているところにとらわれることなく、仮処分の許容を検討する余地が残されているといわなければならない。

このような見地から考えてみると、本件仮処分申請は、懲戒免職処分を事前に阻止することを目的とする部分と就労妨害禁止を目的とする部分の二つから成つているとみることができるところ、後者が認められないことはすでに説明したところにつきるが、前者については、なお、検討の余地なしとしない。すなわち、懲戒免職処分を差し止める趣旨の不作為請求権が認められないことは前述したとおりであるが、そのほかに、債権者らは、懲戒免職処分をされるいわれがないこと、換言すれば、債権者らに対する具体的な懲戒免職権が存在しないことにつき確認を求める権利があることを前提とし、この権利を被保全権利と主張していると解しえないではない。

そうだとすると、右のような具体的な懲戒免職不存在確認請求が許されるかどうかが問題となる。

おもうに、債務者による懲戒免職の意思表示は雇傭関係を終了させる形成権の行使である。そこで、形成権が行使される前に、形成権の存在しないことの確認を求めることが許されるかどうかについて考えてみるのに、通常の場合は、形成権が行使された後、相手方はその形成の効果を争い、その無効を前提とする権利関係を主張して争えば足りるので、形成権が行使される前に、形成権の存在しないことを確認の対象とする利益はないと考えられるが、確認訴訟は法的紛争の拡大防止をその機能としていること、形成権の存否は形成権行使の効果の存否についての先決問題であるところ、形成権存否確認判決の既判力はその範囲につき種々問題が存するとはいえ、これが形成権行使の効果の存否の判断に作用することをおもえば、形成権の存否についての争いが裁判所の判断に適する程度に成熟し、裁判所による即時確定の利益、必要が認められるときは、形成権行使前に形成権の存在しないことの確認を求めることも許されると解すべきである。

ところで、本件の場合、債務者による懲戒免職の意思表示は雇傭関係を終了させる形成権の行使にあたることは前述したところであり、しかも懲戒免職処分意思の存在することの通知たる前記事前通知がすでになされていて争いは成熟しているとしても、前記労働協約には申請の理由3記載のような定めがおかれていることは当事者間に争いがなく、さらに、<証拠>によれば、弁明または弁護の手続に関し、当該職員に弁護人選任および主張、立証の各権利が与えられ、所属長は、その結果を尊重すべきこと、ならびに弁明または弁論の結果無実が明らかであると認めた場合にはすみやかに事前通知を取り消さなければならないこと等、中立的な審判者が登場しない点を除けば訴訟手続類似の周到な規定がおかれていることが認められるところ、申請の理由5の(1)の主張を認めるに足りる疎明資料はなく(証拠判断省略)、<証拠>によれば、弁明または弁護の手続は形式的なものではなく、事前通知に記載された事実に対する主張反証は十分に考慮されることが一応認められる。そして、債権者らが昭和四四年一月二四日異議の申立てをし、同年二月三日債権者らの弁明または弁護の手続の第一回期日が開かれ、さらに第二回期日が開かれることが予定されていることは当事者間に争いがなく、(証拠)をあわせると、本件に関する弁明または弁護の第二回期日がいつ開かれるかは未定であることが一応認められる。

そうであるとすれば、右のような事情のもとでは、懲戒事由の存否等に関する本件紛争の解決は、まず本件協約上の前記弁明または弁護の手続に委ね裁判所による介入を避けるのが、労使による紛争の自主的解決を尊重する労働法(労働関係調整法第一条参照)および右協約の趣旨にそうゆえんであつて、右手続の終了前においては裁判所による即時確定の利益、必要性を欠くとみるのが相当である。そして、債権者ら主張のように右手続の運用において右協約の規定等に反している点があるとの点につきこれを認めるに足りる疎明がないことは前述したとおりであるが、将来かかる弊害が生ずればこの点は労働協約の実施に関する事項として労使間の団体交渉によつて是正さるべきであつて、そのために懲戒免職権が存在しないことの確認を求める必要を肯認することは相当でない。

したがつて、本件仮処分申請が具体的な懲戒免職権不存在確認請求権を被保全権利とする趣旨であるとしても、右のように即時確定の利益、必要を欠くものとして右被保全権利の存在を認めることができない。

(四)  本件仮処分申請は、いずれにしても本案訴訟により確定され、または執行される見込みがある被保全権利が存在することについて疎明がないというほかなく、また保証をもつて疎明に代えることも相当ではない。

四よつて、仮処分の必要性について論ずるまでもなく、本件申請をいずれも却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文を適用して主文のとおり決定する。

(沖野威 小笠原昭夫 石井健吾)

事由書

品川機関区 田辺準一

同     大江支農夫

昭和四三年一二月一一日品川機関区乗務員室及びその附近において警戒添乗の点呼を受けようとした指導機関士に対し暴力を振い、又、これを止めに入つた管理者に対し暴力をもちいて扉に押しつけ負傷させるとともに扉に据付けた鏡を破損させるなど職員として著しく不都合な行為があつた。

これは、日本国有鉄道法第三一条第一項第一号に該当する。よつて同条により免職する。

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