大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(行ク)39号 決定 1968年9月16日

申立人 羅鐘潤

右訴訟代理人弁護士 山田有宏

同 若泉ひなを

被申立人 東京入国管理事務所

主任審査官 古川園重利

右指定代理人検事 樋口哲夫

<ほか四名>

主文

申立人の本件申立てを却下する。

申立費用は、申立人の負担とする。

理由

一、申立ての趣旨および理由

申立人は、韓国人であって、昭和四三年四月一三日付で日本政府から日本国在留許可を受け、日本政府外務省から在韓国日本大使館に宛てその査証が送付されているものである。ところが、たまたま申立人が香港から韓国に帰る際、日本国を通過しようとして、出入国管理令(以下単に「令」という。)四条一項三号により昭和四三年五月一六日まで日本国に在留することを許され、同月一日日本国に入国したが、昭和四三年六月一〇日、令二四条四号ロに該当するとして、被申立人から本件退去強制令書の発付を受け、翌一一日日本国から香港に向け強制退去したことがあるため、本件退去強制令書の発付が有効であるとすれば、たとえ右査証の発給をうけ日本国への上陸許可申請をしても、令五条一項九号後段の規定を適用して、上陸を拒否され日本国に上陸することができない。

しかしながら、本件退去強制令書の発付は無効である。すなわち、本件退去強制の理由とするところは申立人が不法残留をしたというのであるが、申立人は、同年五月四日、トモオ・オギタ、李化先に対する関税法違反被疑事件の共犯として逮捕、勾留され、同月二三日、通告処分を受けるとともに釈放され、右釈放された時にはすでに前記在留期限である同月一六日を経過したのであるから、これを目して不法残留というは当たらない。ちなみに、在留期間更新申請も不許可となり、申立人は、本件退去強制令書の発付を受けることになったが、右被疑事件の捜査が速かに終了して在留期間内に釈放されておれば韓国に帰り、前記査証の発給を受けて適法に日本国に入国することができたものである。それゆえ右退去強制令書の発付には重大かつ明白なかしがあり無効である。仮に右かしが無効事由にならないとしても、取消事由となるものである。

ところで、申立人は、本件退去強制令書の発付ひいては日本国の上陸を拒否されることによって、回復の困難な損害を被り、かつ、これを避けるため緊急の必要性がある。すなわち、申立人は、東南アジア諸国政府の高官筋に信用が厚いところから、東京都墨田区亀沢町一丁目八番地に本社を置く渡辺パイプ株式会社から招かれ、同社の海外輸出入運営担当相談役として、同社と東南アジア数か国との間において進行中の一連の商談、特にサイゴンの水道施設工事およびインドネシヤのパイプ埋設工事等に携わるべきところ、前記のように日本国に入国できないためこれができず、その結果、右商談等がいずれも不成功に終ることとなり、申立人と同社は回復の困難な損害を被ることとなる(前記申立人の在留許可は上記の目的のために受けたものである。)。また、申立人は、日本国内に設立された鋼管等金属類の輸出入、国内販売を目的とするラプインダストリアル株式会社の代表取締役であるため、右のように申立人が日本国に入国できないことにより、申立人と同社が回復の困難な損害を被ることになる。さらに、日本国在留許可を韓国人がうることは非常に困難であり、それも日本政府外務省査証処理規呈によれば、発行の日から六ヶ月以内に日本国に入国できないと無効になるものとされている。

よって、申立人は、行政事件訴訟法三六条前段所定の「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」として、主位的にその無効確認を求め、予備的にその取消しを求める訴えを提起するとともに、被申立人が申立人に対し昭和四三年六月一〇日付をもって発付した退去強制令書(東退一八二)の効力を本案判決の確定にいたるまで停止するとの裁判を求める。

二  当裁判所の判断

案ずるに、申立人の主張するところは、要するに、申立人が上陸を拒否されると申立人の関係する諸会社に経済的損害が生じ、ひいて申立人自身も損害を被ることになるというのであって、かかる損害をもっては、いまだ申立人に行政事件訴訟法二五条二項にいう回復の困難な損害を生ずるものということはできない。

のみならず、本案についてみても、申立人の自認するように、申立人みずから関税法違反の所為をなして通告処分を受け、そのために在留期間を徒過したというのであって、かかる場合は、令二四条四号ロに該当すると解すべきであるから、本件退去強制令書の発付は無効でないことはもちろん、違法でもないというべく、したがって、本件申立ては本案についても理由がないとみえるときに当たるということができる。

そうすると、申立人の本件申立てはいずれにしても理由がないので、これを却下することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 杉本良吉 裁判官 渡辺昭 岩井俊)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例