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東京地方裁判所 昭和43年(特わ)220号 判決 1968年10月01日

本籍

東京都千代田区九段南四丁目一三番地二

住居

東京都新宿区柏木四丁目九二〇番地

会社役員

町田照雄

明治三六年五月一日生

右の者に対する所得税法違反被反事件につき、当裁判所は、検察官山同譲次・弁護人嶋原清出席の上審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役四月及び罰金九〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、書籍の保管を目的とする株式会社共栄社の代表取締役をしているかたわら、肩書住居地の自宅で手形割引等による貸企業を無届で営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、割引いた手形を架空名義の預金口座で取立てる等の不正な方法により所得をかくした上

第一  昭和三九年分の実際総所得金額が三、五三五万三、三四九円でこれに対する所得税額が一、八七一万四、五五〇円であつたのにかかわらず、昭和四〇年三月一三日東京都新宿区柏木三丁目三一二番地所在の所轄淀橋税務署において、同税務署長に対し、右年分の総所得金額は三四三万八、七九九円でこれに対する所得税額は五一万三、五四〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、右年分の正規の所得税額と申告税額との差額一、八二〇万一、〇一〇円を納付期限までに納付せず、もつて不正の行為により同額の所得税を免れ

第二  昭和四〇年分の実際総所得金額が三、〇一七万七、一八二円でこれに対する所得税額が一、五二八万六、三八〇円であつたのにかかわらず、昭和四一年三月一二日前記税務署において、同税務署長に対し、右年分の総所得金額は二四二万二九九円でこれに対する所得税額は二四万七、九六〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、右年分の正規の所得税額と申告税額との差額一、五〇三万八、四二〇円を納付期限までに納付せず、もつて不正の行為により同額の所得税を免れ

たものである。

(各年分の実際、公表所得の内容等は、別紙第一、第二の各修正損益計算書の、税額計算については同第四の脱税額計算書のとおりである。)

(証拠関係)

全事実につき

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書六通

一、被告人の検察官に対する供述調書二通

所得税の申告、公表関係につき

一、昭和三九年分所得税確定申告書等一袋(当庁昭和四三年押第七五一号の3)

一、昭和四〇年分所得税確定申告書等一袋(当庁前同押号の4)

配当収入関係につき

A昭和三九年分

一、大内三郎、小糸久弥、中央信託銀行株証券代行部神田分室(昭和四二年九月二日付)、同行池田山分室(二通)、森清治、東洋信託銀行株証券代行部、三菱信託銀行株証券代行部各作成の回答書

B昭和四〇年分

一、山内直行、中央信託銀行株証券代行部神田分室(昭和四二年八月二二日付)

固定資産税関係につき

一、山脇薫の上申書(昭和四二年一一月八日付)

一、税金関係書類一袋(当庁前同押号の5)

一、税金領収証等一袋(当庁前同押号の6)

手形割引料収入につき

一、大蔵事務官佐野辰美作成の手形割引料収入金額等調査書三通

一、同事務官作成の平均割引料計算期間日数の計算についてと題する調査書

貸付金利息収入につき

一、大蔵事務官佐野辰美作成の貸付金利息金額等調査書三通

経費について

A必要経費(別紙第三10(1))について

一、被告人の上申書

一、嶋原芳夫の上申書(昭和四二年一一月二日付)

B昭和三九年分の貸倒れ損の認容(別紙第三10(2)について)

弁護人主張の繰越損中東都出版株式会社に対する一六〇万の回収不能債権については、同額を昭和三九年分の貸倒れ損に認容する。すなわち、前掲貸付金関係証拠とくに被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(昭和四二年一一月一五日付)および検察官に対する供述調書二通のほか、東都出版株式会社代表取締役の上申書、および島尾正の検察官に対する供述調書によれば以下の事実が認められる。被告人は右会社(代表取締役島尾正)に対し、昭和三九年五月一二日現在で三口元金合計一六〇万円の貸金債権を有していた。右会社は、昭和三五年に設立され、東京都千代田区西神田二の四に本店を置き、美術書出版などを主たる営業として活動していたのであるが、昭和三九年七月ころから営業不振に陥り、不渡手形を出し、銀行取引停止処分を受けて倒産し、同年八月事業を閉鎖し、被告人の右会社に対する債権は、すでにこの時回収不能になつたものと認められる。

よつて右一六〇万円を同年分における貸倒れ損と認めて経費に算入する。(なお、前掲各証拠によれば、島尾正は、その後観光事業を営業内容とする東海観光株式会社の経営にあたり、被告人に対して、右観光事業が成功した暁には東都出版株式会社の右債務を弁済したい意図を有し、被告人も右債権の取立を当分棚上げにする旨同人に口約していることがうかがわれるが、右債権に対し格別な担保が設定されたような事情も認められないばかりか、右の債権棚上げの約束も、被告人と島尾個人との間の、右債権回収に関する単なる見込みと期待の交錯に止まる、いわば道義的なものにすぎないところのものと認められる。このような債権棚上げの約束があることのみでは、右貸倒損認容を妨げる事由とはなり得ないものといわねばならない。)

資産所得合算の修正(昭和三九年)につき

一、城戸四郎の回答書

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は、昭和四〇年法律第三三号所得税法附則三五条により改正前の所得税法六九条一項に、判示第二の所為は、昭和四〇年法律第三三号所得税法二三八条一項一二〇条一項に各該当するが、情状により懲役刑と罰金刑とを併科し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をなした刑期の範囲内で、罰金刑については同法四八条二項に従い合算額の範囲内で被告人を主文第一項掲記の刑に処する。なお、右罰金を完納することができないときは同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、同法二五条一項を適用して本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 小島建彦)

別紙第一

修正損益計算書

町田照雄

自昭和39年1月1日

至昭和39年12月31日

<省略>

別紙第二

修正損益計算書

町田照雄

自昭和40年1月31日

至昭和40年12月31日

<省略>

別表第三

昭和39年分逋脱所得中

<省略>

別紙第四

脱税額計算書

<省略>

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