大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(借チ)2012号 決定 1968年10月09日

昭和四三年(借チ)第二〇一二号、同第二〇四五号事件

申立人・同第二〇二六号、第二〇五二号事件相手方 小泉栄三

右代理人弁護士 山本嘉盛

同 樋渡洋三

昭和四三年(借チ)第二〇一二号、同第二〇四五号事件

相手方・同第二〇二六号、第二〇五二号事件申立人 伊神英一郎

主文

右小泉栄三から伊神英一郎に対し、別紙(二)記載の借地権の準共有持分並びに別紙(三)記載の各建物及び建物共有持分を代金一〇四万円で売渡すことを命ずる。

右小泉は伊神に対し、同人から前項の金員の支払を受けるのと引換に、別紙(三)の(1)ないし(4)記載の建物の所有権移転及び同(三)の(5)記載の建物の共有持分移転の各登記手続をせよ。

右伊神は小泉に対し、右各登記手続と引換に金一〇四万円の支払をせよ。

理由

一、本件で取調べた資料によると次の事実が認められる。

別紙目録(一)の(1)(2)の土地は相手方伊神の所有に属し(両土地はもと一筆であったが、昭和三九年三月一八日私道として使用されている(2)の部分が分筆された)、同人は右地上に同目録(三)の共同住宅を所有していたが、昭和二七年七月頃これを区分して当時の居住者に分譲することになった。申立人小泉は他の居住者とともに分譲を受けたが、敷地にあたる別紙目録(一)の土地は譲受人が共同で賃借し、それぞれ譲受部屋数に応じた割合でその準共有持分を取得した。その後右分譲建物の所有者(同時に借地権の準共有者)に若干の変動があり、現在では申立人小泉ほか二一名が、各区分建物の所有者兼借地権の準共有者であり、申立人は現在別紙(三)の(1)ないし(4)の各部屋を所有し、かつ敷地の賃借権については二八分の四の準共有持分を有する。なお、別紙(三)の(5)の部分は本件共同住宅の共用部分であり、現在各部屋の所有者の共有に属し申立人は、これについて二五二分の三六の持分を有する。

以上の関係の下に、申立人は、別紙(三)の各建物の所有権(同(5)については共有持分)を前記敷地の賃借権の準共有持分とともに山田ハル子に移転しようとし、右賃借権の譲渡の許可を求める申立をしたところ、相手方からこれらを自ら譲受けるべき旨の申立がなされたが、右申立はいずれも適法なものと認められる。そこで借地法第九条の二第三項に従い相手方の申立に基づき、その対価を定めて譲渡を命ずべきである。

二、よって、それぞれの対価につき考察を進めるが、まず本件資料によると、次の各事実を認めることができる。

本件賃貸借の期間は、契約成立の後に昭和二八年一〇月一五日から二〇年と定められ、賃貸借成立の際、特に権利金として金銭が支払われたことはなく、分譲の代金は一部屋当り二万円前後(部屋の大きさにより差異があり一様でない)であるが、このうち借地権設定の対価がいくらであるかは明らかでない。

別紙(三)の(1)ないし(4)の各部屋には、それぞれ別紙(四)のとおり、建物譲受人に対抗しうる賃貸借が存する。

地上建物は、いわゆる共同住宅で昭和一七年頃建築されたものであるが、材質も劣り、保存状態も悪く、その損耗が甚だしく共同住宅用の設備も劣悪である。ただ直ちに朽廃に至るものとは見られないが、借地権の取引においては、むしろ減価要因と見られる面が強い。

以上の事実関係に合わせて鑑定委員会の意見を参酌して、本件借地権及び建物の対価を次のように算定する。

1  本件土地の更地価格は三・三平方米当り一八万円(私道部分はその半額の九万円)、借地権の一般取引価格としては前記建物の状況に鑑み、建付減価(一〇%)をした上借地権割合(七〇%)を乗ずる方法(これらの割合はいずれも鑑定委員会の意見による)をとり、三・三平方米当り一一万三四〇〇円(私道部分五万六七〇〇円)を相当と認める。

2  次に前述のように建物の賃借人のあることから、現実の建物及び借地権の取引においては、甚だしく価格の低下を免れないのであり、この点も鑑定委員会の意見を酌んで建物及び借地権のそれぞれの価格から五〇%を減すこととする。かくして計算した借地権価格は五万六七〇〇円(私道部分二万八三五〇円)となる。

3  かくして得られた額に基づいて、全借地の面積を算出し、これに申立人の共有持分二八万の四を乗ずると、申立人に属すべき借地権価格が得られるが、(イ)本件において、共有持分の利用も交換もともに制扼を免れないため、現実の取引価格は、前記のようにして得られる全借地権価格に対する持分の割合よりも若干低くみるのが相当であり、(ロ)さらに本件は賃貸人が買受ける場合であり、前述の残存期間と建物の状況からして、昭和四八年の期間満了時に借地契約が更新された場合でも遠からず賃貸人において建物の朽廃による借地権の消滅を期待し得る場合であると考えられるので、以上の二点を合わせて、右の借地権の価格から二五%((イ)につき五%、(ロ)につき二〇%とする、なお、前述1の借地権価格を基準にすると、その一二・五%にあたる)を減ずるを相当と認める。かようにして計算すると、三・三平方米当り四万二五二五円(私道部分はその半額)となりこれによって借地全体の価額を算定し、共有持分の割合を乗ずる方法をとり、九八万円(端数切捨)をもって借地権の対価とする。

4  次に建物の価格であるが、その現況は既述のとおりであって、鑑定委員会の評価に従い専有部分につき三・三平方米当り、六〇〇〇円、その合計九万九七八〇円を相当と認める。次に共用部分の単価は右の約四割と認め、一、二階合計二〇六平方米につき約一五万円、その共有持分二五二分の三六の評価は二万円余と算定し、結局両者を合わせて一二万円と算定する。しかして、前述のように建物賃借人のあることによる減額を五〇%(この点も委員会の意見による)とすると、別紙(三)記載の各部屋(共用部分の共有持分を含む)の対価は六万円となる。

三、以上のとおり、相手方の支払うべき対価は合計一〇四万円となるので、右対価をもって、本件借地権及び建物の譲渡を命ずることとする。そこで両者の義務を同時に履行せしめるべきことになるが、前述の事実関係からすると、建物については現実の引渡はできず、指図による占有の移転をすべき関係となる。しかし、本件において相手方は建物の所有権取得登記を経由することによって建物賃借人に対し、その賃貸人の地位を主張することができると解され、これと別個に指図による引渡をなさしめる必要はないと認められるので、本決定においては、代金の支払と建物所有権移転登記との同時履行を命ずるにとどめることとする。

よって主文のとおり決定する。

(裁判官 安岡満彦)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例