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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)6400号 判決 1971年2月26日

原告 富樫芙知子

右訴訟代理人弁護士 宮原三男

被告 株式会社カネヒラ

同 兼平郁郎

同 兼平恵美子

右三名訴訟代理人弁護士 山下卯吉

同 竹谷勇四郎

同 金井正人

被告 菊池惇

右訴訟代理人弁護士 田口邦雄

同 友野喜一

主文

被告株式会社カネヒラ、同兼平郁郎、同兼平恵美子は、各自原告に対し金三〇万円およびこれに対する昭和四三年五月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被告株式会社カネヒラ、同兼平郁郎、同兼平恵美子、同菊池惇は原告に対し各自金一〇〇万円を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は原告において、被告株式会社カネヒラ、同兼平郁郎、同兼平恵美子に対し各金三〇万円の、被告菊池に対し金四〇万円の各担保を供するときは仮りに執行することができる。

事実

(当事者の求める裁判)

一、原告訴訟代理人は

1  被告株式会社カネヒラ、同兼平郁郎同兼平恵美子は各自原告に対し金三〇万円およびこれに対する昭和四三年五月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告株式会社カネヒラ、同兼平郁郎、同兼平恵美子、同菊池惇は原告に対し各自金一〇〇万円を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および第一項につき仮執行の宣言を求めた。

二、1 被告株式会社カネヒラ、同兼平郁郎、同兼平恵美子の訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

2 被告菊池の訴訟代理人は「原告の被告菊池に対する請求を棄却する。」との判決を求めた。

(当事者の主張)

第一請求の原因

一  原告は昭和四三年三月一三日被告株式会社カネヒラ、同兼平郁郎、同兼平恵美子(以下被告カネヒラ三名と略称する。)を連帯債務者として金四〇万円を、弁済期同年五月一二日の約束で右被告ら三名に貸与した。

二1  原告は昭和四〇年八月一日被告株式会社カネヒラに対し金二〇〇万円を貸与した。

2  被告会社は右元金のうち金五〇万円を昭和四一年八月末日ころ、金五〇万円を昭和四二年七月末日ころそれぞれ返済したので、原告は被告会社との間で残金一〇〇万円につき、昭和四二年一二月二八日弁済期を昭和四三年一二月二八日とすることを約し、被告兼平郁郎、同兼平恵美子、同菊池惇(同兼平郁郎を代理人として)との間に右被告会社の債務につき、保証債務契約を締結した。

3  仮りに、被告兼平郁郎が被告菊池の代理権を有しなかったとしても、次の点から被告兼平郁郎につき表見代理が成立し、被告菊池惇は保証人として責任を免かれない。すなわち、

(一) 被告兼平郁郎は、被告菊池惇の医院を千葉県市川市に建設すること、設置後の同医院運営の資金を京橋信用金庫および千葉銀行から借入れること、右両者と当座契約、手形割引契約を締結すること、被告菊池の手形、小切手の振出し等に関し、代理権を授与されていた。

(二) 原告は、被告兼平郁郎が被告菊池の義兄弟で、菊池医院の事務長であるときいており、被告菊池の実印を押捺した借用証(甲第三号証)および印鑑証明書を持参しており、両印影が一致していたので、被告兼平が被告菊池の保証契約につき、同人の代理権を有するものと信じたのであり、右の経緯においてはそう信ずるについて正当な事由があったものである。

三  よって、

1 被告カネヒラら三名は連帯して原告に対し前記一の貸金四〇万円からすでに返済を受けた金一〇万円を控除した残額金三〇万円およびこれに対する弁済期の翌日である昭和四三年五月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

2 被告らは、各自原告に対し前記二の1.2.の貸金一〇〇万円を原告に返済する義務がある。

第二答弁

(被告カネヒラら)

一  原告主張の一の事実は認める。ただし月一割の利息の約束がなされていた。

二  同二の1、2、の事実は認める。ただし、その貸借には月一割の利息の約束がなされていた。

三  同三の1、2は争う。

(被告菊池)

一1  原告主張の請求原因二の1は知らない。

2  同二の2の事実のうち、被告菊池が被告兼平郁郎を代理人として被告カネヒラの債務を保証した事実は否認する。その余の事実は知らない。

3(一)  同二の3(一)の事実は否認する。被告菊池が被告兼平郁郎に原告主張の代理権を授与した事実はない。同被告はすべて医師である被告菊池本人の補助者として事務的な行為を被告菊池の承認のもとに行なったにすぎない。手形、小切手の振出し、経営資金の使途についても同様である。同被告が事務長の名刺を使用していたことはあるが、被告菊池自身が同被告を事務長として扱ったことはなく、また事務長自体本来対外的代理権者を意味するものではなく、対内的事務処理の職務を意味するにすぎない。

(二)  同3の(二)の事実のうち、被告菊池と被告兼平郁郎とが義兄弟であることは認めるが、その他の事実は否認する。

原告は、借用証(甲第三号証)の保証人菊池惇の署名捺印は被告菊池自身がしたものと認識していたのであって、被告兼平郁郎を被告菊池の代理人と考えていたわけではないから表見代理が成立する余地はない。原告が被告兼平郁郎に菊池を代理して保証契約を締結する権限ありと信じたことにつき過失がある。すなわち、原告は菊池医院における被告兼平郁郎の具体的地位、職務内容を直接知らず、ただ両者が義兄弟の関係にあることの漠然とした言を容易に信用し、しかも同被告の資力に不安を抱き保証責任が現実化する蓋然性が高いと認識しながら本人である被告菊池に対しその意思を確めなかたからである。

三  同三の2は争う。

第三抗弁

(被告カネヒラらおよび被告菊池)(被告菊池については仮定抗弁)

一、被告株式会社カネヒラは請求の原因一の貸金につき別表(二)記載のとおり昭和四三年三月一六日利息制限法を超過する金六万四〇〇〇円を支払ったから、右超過分金五万二〇〇〇円を元本に充当すると残元本は金三四万八〇〇〇円となるので、原告の自認する返済分金一〇万円を除く残元本は金二四万八〇〇〇円である。

二、被告株式会社カネヒラは請求原因二の貸金につき、別表(一)記載のとおり各月末日に、利息制限法を超過する利息を支払ったので、その超過分をそれぞれ元本に充当する(なお原告の自認する金五〇万円二回の元本返済分を含む)と同表記載のとおり右債務は昭和四三年九月すでに弁済によって消滅している。

第四抗弁に対する答弁

一、被告らの抗弁事実一のうちその主張の金一〇万円の元本の支払いは認めるが、その他の事実は否認する。

二  同二のうち、その主張の元本各金五〇万円の支払いがなされたことは認めるが、その他の事実は否認する。

(証拠関係) <省略>。

理由

一、1 原告主張の請求原因事実一、二の1、2は原告と被告カネヒラら三名との間に争がない。

2 原告と被告菊池との間においては、右原告主張二の1、2の被告会社との消費貸借契約は<証拠>によって認められ、他に右認定を動かす証拠はない。

3 被告会社は月一割の利息の約束があったと主張するが、これを確認する資料はなく、これを肯定する<証拠>も右二〇〇万円の貸借について利息の定めがあるとしながら、昭和四二年八月、昭和四三年七月末日の金五〇万円支払についてのみ、それまでに一カ月分の利息が発生しているのに、全くこれに充当しなかったとすることは不自然であって、<証拠>に照らし信用できない。

二、又原告は、被告兼平郁郎が被告菊池の代理人として、原告との間に昭和四三年一二月二八日被告会社が昭和四〇年八月一日借受けた金二〇〇万円の残額金一〇〇万円の債務につき保証債務を締結したと主張する。しかしながら、被告兼平が被告菊池を代理して原告との間に保証契約を締結する権限を有していたことはこれを認めるに足る証拠はなく、<証拠>によれば、被告兼平は、被告菊池の委任又は承諾を受けることなく昭和四二年一二月二八日付金額一〇〇万円の借用証(甲第三号証)の保証人欄に被告菊池の名を記し、他の用件で預かっていた被告菊池の実印を押捺し、これを原告に交付したことが認められ、原告の右の点の主張は採用できない。

三、1 原告は更に被告兼平につき被告菊池の表見代理を主張する。

<証拠>によれば次のように認められる。すなわち、原告は昭和三五年ころからの知合いである被告兼平郁郎から頼まれて昭和四〇年八月貸与した右二〇〇万円の残額金一〇〇万円を(その間昭和四一年八月ころ、昭和四二年八月ころ、その三カ月後ころ、いずれも手形を書替えをしていたがなお)被告カネヒラが支払わないので、同年一二月二八日ころ、弁済期を昭和四三年一二月二八日として新らたな借用証を作成すること、連帯保証人をつけることを求めたので、被告兼平はこれを承諾し、原告も名前を知っており義弟(被告兼平郁郎の妻の妹が被告菊池の妻)に当り昭和三九年一月から千葉県市川市に外科医院を開業していた被告菊池に保証人になってもらう旨答えた。当時被告兼平は被告菊池の承認のもとに一時同医院(看護婦二人、事務員一人)事務長の名称を用いこれを名刺にも使用し右病院の経理状況全般をみており、昭和三八年ころ右病院の建築に当っては被告菊池の指示、承諾を受けながら京橋信用金庫から金四〇〇万円の融資を受けるための交渉に当り、その後は借人金支払の手形書替などのため被告菊池の実印を預り、これを使用して手形を書替え振出し、抵当権設定登記につき被告菊池から委任状の交付を受けてその登記手続に当り、又千葉銀行から金三〇〇万円の借入れ、抵当権設定契約については同被告から委任状を受けて、それぞれ事務処理に当り、又薬品類、衛生器材、給食用食料品等の代金支払のため同被告の名で小切手を、後には手形をも振出し同病院の従業員の雇傭についても同被告からまかされており、これらのことを日頃原告にも話していた。しかし、被告兼平は原告の借入金に対する保証契約については、なんら承諾を受けていなかった。しかるに被告兼平は前記のとおり借用証に保証人として被告菊池の名を記載し、たまたま他の金融機関から融資を受けるため預っていた同人の印を押捺して借用証(甲第三号証)を予め作成し、右印を利用して交付を受けた印鑑証明書を持参したので、原告は被告菊池が承諾して保証契約に応じたものと考え昭和四二年一二月二八日被告株式会社カネヒラ振出しの金額一〇〇万円の支払期日昭和四三年一二月二八日とする約束手形の交付を受け、同日まで弁済を猶予した。このように認められる。

右のように、原告は被告兼平と被告菊池の代理人としてではなく、被告菊池本人の意思にもとづく意思表示であると信じたものであるが、被告兼平が被告菊池から右保証契約についての意思表示でないとしても、なんらかの意思表示の伝達を依頼されていたのに依頼の範囲を超えこれと異る保証契約の意思表示を伝達したのであれば、本人の意思表示と信ずるについて正当な事由のある限り民法第一一〇条を類推適用して本人にその責任を負わせることができると解するのが相当である。

被告兼平は、前記のとおり、被告カネヒラの借入金の保証契約については被告菊池からなんらの意思表示の伝達を依頼された形跡もないが、前記認定のように、日ごろ被告菊池のため前記事務処理に当てて一部代理権を有しており(このことを日頃原告にも告げこれを示す書類を見せ被告菊池の印を見せたこともあることが被告本人兼平郁郎の尋問の結果、原告本人尋問の結果によって認められ)、前記借用証に菊池の記名押印した際も金融機関から融資を受けるためにその印を預っていたのであるから、少なくとも被告菊池本人のなんらかの意思表示機関または伝達機関としての依頼をも受けていたものと考えられる。そして前記のとおり、日頃被告兼平から同人の被告菊池医院での職務や被告菊池との間柄をきいていた原告が本件保証契約に際し、すでに被告菊池の署名押印のある借用証(甲第三号証)と被告菊池の印鑑証明書を持参した被告兼平において真正な被告菊池の意思を伝達するものであると信じたことについて正当な事由があったものと認めるのが相当であって、この点について特に過失があったものとは考えられない。被告兼平郁郎の尋問の結果によってもこのことがうかがわれる。したがって、被告菊池は被告兼平のした保証契約の意思表示につき本人として責任を負うべきである。

四、被告カネヒラは、原告主張の一の貸金につき、元本金一〇万円のほか昭和四三年三月一六日利息として金六万四〇〇〇円を同二の1、2の貸金について元本金五〇万円二回のほか別表(一)記載のとおり支払ったと主張するが、これを認めるに足る資格はなく、右主張に添う<証拠>は原告本人尋問の結果前記認定の手形書替の経緯および弁護の全趣旨に照らし直ちに信用できない。

五、よって、被告株式会社カネヒラ、同兼平郁郎、同兼平恵美子は各自原告に対し金三〇万円およびこれに対する弁済期の翌日である昭和四三年五月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による金員、また右被告らおよび被告菊池は原告に対し各自金一〇〇万円を支払う義務があるものというべきである。

よって、原告の請求はいずれも正当として認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺卓哉)

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