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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)534号 判決 1970年7月13日

原告

木村皓吉

被告

三沢木材株式会社

主文

被告は原告に対し金一〇七万七四八三円およびこれに対する昭和四三年二月一日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の、その余を被告の、各負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告は原告に対し一三四九万一七八一円およびこれに対する昭和四三年二月一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四〇年七月九日午前八時二〇分頃

(二)  発生地 東京都江戸川区江戸川六丁目三〇番地先交差点

(三)  加害車 小型四輪トラツク(足立一す四六一〇号)

運転者 訴外佐藤守

(四)  被害車 第二種原動機付自転車(江戸川区ら三七六号)

運転者 原告

被害者 原告

(五)  態様 出会頭の衝突。

(六)  被害者 原告は頭蓋底骨折の傷害を受けた。

(七)また、その後遺症として、脳機能障害があり、終生軽易な労務の外服することができず、これは、自賠法施行令別表等級の七級に相当する。

二、(責任原因)

被告は、加害車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

三、(損害)

(一)  治療費等

(1) 昭和四二年七月二八日中村外科に支払つた同年七月分の治療費 四、二〇〇円

(2) 昭和四二年八月一六日・二四日慶応義塾大学病院の精密検査費用 二万〇、八〇〇円

(二)  休業損害と逸失利益

原告は、本件事故前、池田鍍研工業株式会社に勤め、月平均四万七七三五円の収入を得ていたところ、次のとおり収入を失い、同額の損害を蒙つた。

(1) 昭和四〇年七月一〇日から昭和四三年一月一〇日までの労働不能による損害 一三八万四、三一五円

(2) 昭和四三年一月一一日から昭和四六年一月一〇日までの労働不能による損害(ホフマン式計算により中間利息を控除) 一四九万四、三一三円

(3) 昭和四六年一月一一日から三〇年間 八三六万八、一五三円

原告は、前記後遺症により、次のとおり、将来得べかりし利益を喪夫した。

(労働能力低下の存すべき期間) 三〇年間

(収益) 月平均 四万七、七三五円

(労働能力喪失率) 五六パーセント

(右喪失率による毎年の損失額) 三二万〇、七七九円

(年五分の中間利息控除)ホフマン複式(年別)計算による。

(三)  慰藉料

原告の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情および次のような諸事情に鑑み三〇〇万円が相当である。

すなわち、原告は事故直後中村外科病院に収容されたが、三週間に亘り意識不明の状態が続き、その後徐々に回復し、昭和四〇年一二月二八日退院し、昭和四二年七月三一日まで同病院に通院し、同年八月一六日および二四日に慶応義塾大学病院において精密検査の結果、左側頭部に異常を認められたものの、原告の経済的事情と被告からの治療費支給の打切りのため、治療中止の止むなきに至つたものであつて、前記の後遺症がある。

(四)  損害の填補

原告は被告から既に七八万円の支払いを受けた。

なお、(一)の(1)(2)以外の入院、通院の費用は被告が負担した。

四、(結論)

よつて、被告に対し、原告は一三四九万一七八一円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年二月一日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告の事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(六)は認める。(七)は否認する。

第二項は認める。

第三項中、(一)は不知、(二)は、原告が池田鍍研工業株式会社に勤務していたことは不知、その余は否認、(三)の中、原告が中村外科病院に入通院したことは認める(但し、入院は昭和四〇年一二月二四日までであり、通院は昭和四一年一月から七月までを除き、昭和四二年六月三〇日までである)が、その余は争う。(四)は、入通院費を被告が負担したことは認めるが、被告が原告に支給したのは、昭和四〇年八月から同四二年七月までに生活費として八二万円であり、これは貸与である。

二、(事故態様に関する主張)

原告進行の道路の方が訴外佐藤の進路より幅員が広いので、同人は交差点手前で一時停止し、右方を見ると、約五〇米先を被害車が進行して来たが、その前方を通過できるものと判断して発進し、約六米進んだとき、高速で接近する被害車を見て急制動の措置をとつたが、間に合わず、加害車の前部右側に被害者が衝突した。原告は、雨合羽に雨帽子を着用しており、制限速度に違反し、しかも前方左方の安全確認を尽さなかつたものである。又、原告が左側通行を守つていれば、原告は加害者の後方を通過できた筈である。

(一)  過失相殺

右のとおりであつて事故発生については被害者原告の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

(二)  損害の填補

被告は本件事故発生後、前記八二万円を貸与したほか、治療費五八万六六八七円、附添費三万五八三〇円、見舞金二万円の支払いをしたので、過夫相殺により相当額は控除さるべきである。

第五、抗弁事実に対する原告の認否

(一)  原告の過失は否認する。

(二)  治療費・附添費が支払われていることは認めるが、その額は不知。見舞金二万円の支払は認める。生活費として受領した金額は七八万円である。

第六、証拠関係〔略〕

理由

一、(事故の発生)

請求原因第一項(一)ないし(六)は当事者間に争いがない。〔証拠略〕によれば、原告は本件事故による受傷に基づく脳機能障害が現存し、その程度は一般的な労働能力を妨げる程ではないが、長時間の注意や緊張を要する作業あるいは複雑な頭脳作業の遂行は困難であることが認められ、その後遺症の程度は控え目に見ても自賠法施行令別表の第九級に相当することが認められる。

二、(責任原因と原告の過失)

(一)  請求原因第二項は当事者間に争いがない。

(二)  原告の過失について判断する。〔証拠略〕によれば、本件事故現場付近の道路状況は、別紙図面のとおりであり、路面はアスファルト舗装であつて、事故当時は雨のため湿つていたこと、加害車の進路と被害車の進路とは相互に見透しがよいこと、訴外佐藤は本件交差点手前において一旦停止して左方の安全を確認した後、右方を見たところ、約四七・五米右方に被害車を発見したが、その前方を横切ることができるものと考え、時速約六ないし七粁で発進し、左前方のリヤカーに気をとられ、再び右方を見たときには既に被害車が約二米の地点まで接近しており、直ちに急制動の措置をとつたが間に合わず衝突したこと、原告は自己の進路が広路であるため優先権があるものと考え、時速約四〇粁でそのまま進行し、加害車に接近してハンドルを右に切つて衝突を避けようとしたが、加害車と衝突したことが認められる。以上の事実によれば、加害車が交差点に進入したとき、被害車は交差点から少くとも四〇米の距離にあつたことが認められ、被害車は加害車の先入優先権を尊重すべきであるにも拘らず、漫然と進行したものというべきであるが、加害車の運転者訴外佐藤においても、交差点へ進入してからの被害車の動静に注意していなかつた過失が認められる。そして、両者の過失割合は、原告七対訴外佐藤三を以て相当と認める。

三、(損害)

(一)  治療費等 六三万七一一七円

〔証拠略〕によれば、被告において原告の治療費五八万六六八七円、附添費三万五八三〇円を負担したほかに、原告が中村外科に昭和四二年七月分の治療費四二〇〇円と慶応義塾大学病院の精密検査費用一万〇四〇〇円を支払つたことが認められる。

(二)  休業損害と逸失利益

〔証拠略〕によれば、原告が本件事故当時、池田鍍研工業株式会社に勤務していたこと、事故前の原告の平均月収は四万七七三五円であつたことが認められる。

(1)  休業損害 一一四万五六四〇円

〔証拠略〕によれば、昭和四二年夏に、東大、日大、慶大の各大学病院で診断を受け、当時、原告の症状は固定し、一応労働可能の状態になつたことが認められる。

したがつて、昭和四〇年七月一〇日から二年間の本件事故による休業損害は、一一四万五六四〇円となる。

(2)  逸失利益 三六九万三二六五円

〔証拠略〕によれば、原告は昭和一三年三月三〇日生であることが認められ、したがつて、昭和四二年七月一〇日当時は満二九歳である。ところで、原告本人尋問の結果によれば、原告は事故前には鍍研・研磨に関する一切の仕事をしていたが、昭和四四年一二月現在は鹿島研磨有限会社に勤務して鍍金をする品物を磨くという単純な仕事をしていることが認められ、右事実と前記後遺症に鑑みれば、原告は満六〇歳までの三一年間、労働能力低下による収益の減少があるものと認められ、原告の職種および労働基準監督局長通牒(昭和三二年七月二日基発第五五一号)に照らし、原告の労働能力喪失率は三五パーセントと認められる。したがつて、その間の原告の得べかりし利益の喪失額から年毎に年五分の中間利息をホフマン式計算法によつて控除すると、四七七三五円×〇・三五×一二×一八・四二一四七〇四九=三六九三二六五円となる。

(三)  過失相殺

以上(一)(二)の合計は五四七万六〇二二円となるが、原告の前記過失を斟酌すると、そのうち被告に賠償せしめるべき金額は、一七〇万円を以て相当と認める。

(四)  慰藉料 八〇万円

〔証拠略〕によれば、原告は事故当日の昭和四〇年七月九日から同年一二月二八日まで中村外科病院に入院し、その後昭和四二年夏頃まで同病院に通院したことが認められ、右事実および本件事故の態様殊に過失割合、傷害の部位・程度その他諸般の事情を総合勘案して、原告の慰藉料は八〇万円を以て相当と認める。

(五)  損害の填補 一四二万二五一七円

前記の如く、被告は治療費五八万六六八七円、附添費三万五八三〇円を負担したほかに、少くとも七八万円と見舞金二万円を原告に支払つたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右七八万円の支払は貸与ではなく損害賠償の内金であることが認められる。

四、(結論)

よつて、被告は原告に対し、一〇七万七四八三円およびこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明白な昭和四三年二月一日以降支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、右の限度で原告の本訴請求を認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠田省二)

<省略>

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