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東京地方裁判所 昭和43年(モ)5434号 決定 1968年10月28日

債権者 松野郡平

右訴訟代理人弁護士 藤田一伯

債務者 エドワード・アール・ディ・コート

右訴訟代理人弁護士 本間勢三郎

主文

当裁判所が昭和四三年二月二九日に昭和四三年(ヨ)第一六四九号有体動産仮差押申請事件につきなした仮差押決定を取り消す。

本件仮差押申請を却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行できる。

事実

第一申立

債権者

「原決定を認可する。

訴訟費用は債務者の負担とする。」

との判決。

債務者

主文第一ないし三項同旨

の判決

第二債権者の主張

一、債務者は、債権者に対し、左記の小切手一通を白地式により裏書譲渡した。

金額 二五〇、〇〇〇円

振出日 昭和四二年一一月二九日

支払地 東京都千代田区

支払人 大洋信用金庫神田支店

振出人 株式会社山富商会

裏書人(白地式) 二瓶春子

二、仮に債務者の右裏書は債務者のなしたものではなく、申請外二瓶春子が債務者から預っていた印鑑を無断で使用して署名代理の方法でなしたものとしても右二瓶春子は、債務者からオートバイの名義書替、犬の登録、債務者夫婦の戸籍手続につき代理権を与えられ、そのために右印鑑を預っていたものであるが、右二瓶春子は右代理権をゆ越して本件裏書をなしたものである。一方債権者は、かって債務者自身の小切手をやはり春子を通じて割引いてやったことがあり、その小切手の印影と本件小切手の印影は同一であり、債務者も貿易業を営み本件小切手程度の金額を必要とすることもあり得ることだし、又、右二瓶春子とは相当の付き合いがあり、債権者の商業上の帳簿を見てもらっていたこともある程信頼していた関係にあったもので、債権者が本件小切手裏書は少なくとも債務者承知の上でなされたと信じるについて正当の事由があり、債務者は民法一一〇条により責任がある。

三、仮に右主張が理由がないとしても債務者は右二瓶春子の無権代理行為を追認した。即ち、(イ)債務者の妻石村圭子は昭和四二年一一月二二日、丁度オーストラリア旅行中の債務者に国際電話で相談し指示を受けて本件小切手金を一二月二二日に支払う旨の念書(甲二号証)を作成し債権者に交付したが、右支払日は債務者の帰国予定日に合せたもので、右の経過及び内容からして、右石村圭子は、右交付により、債務者の使者ないしは代理人として、前記追認をなしたものである。(ロ)また、債務者自身、昭和四三年二月一〇日債権者に対し、「妻が書いているのだから必ず三月中に支払う」旨述べて追認した。

四、債務者の妻石村圭子は、前記三(イ)に記載のとおり、念書(甲二号証)の交付により、債務者の代理人ないしは使者として、債権者に対し本件小切手の呈示期間を無期限に延長する旨約した。

五、債権者は、昭和四二年一二月二九日、本件小切手を支払場所に呈示したが支払を拒絶されたので、呈示の日を表示して記載し、かつ日付を付した支払拒絶宣言を受け、現在これを所持する。

六、よって債権者は債務者に対し、本件小切手金二五〇、〇〇〇円の償還請求権を主張して出訴の準備中であるが、債務者が海外に移住する事になれば勝訴判決を得ても執行不能となるおそれが十分あるので、右債権の保全のため債務者所有の有体動産の仮差押を求める。

第三債務者の主張

一、債権者主張の一の事実は否認する。本件小切手の債務者の裏書は、申請外二瓶春子が債務者の印鑑を盗用してなした偽造のものである。

二、同二の事実は否認する。

三、同三の事実は否認する。

四、同四の事実は否認する。小切手呈示期間延長の特約は強行法規に反し無効である。

五、同五の事実中、債権者が本件小切手を昭和四二年一二月二九日呈示した事実は認めるが、その余は知らない。

六、同六の事実は否認する。

第四証拠<省略>

理由

一、<証拠>によると、債権者は、現在金額二五〇、〇〇〇円振出日昭和四二年一一月二九日、支払地東京都千代田区、支払人大洋信用金庫神田支店、振出人株式会社山富商会、裏書人二瓶春子および債務者との記載のある小切手一通(以下本件小切手という)を所持する事実が疎明され、右疎明に反する証拠はない。

二、債権者は本件小切手に債務者が裏書をした旨主張し、債権者本人は本件小切手は債務者がその営業資金調達のため訴外二瓶春子を通じ債権者に割引を依頼したものである旨供述するが、<証拠>によると本件小切手の債務者の裏書は訴外二瓶春子が債務者に無断でその印鑑を使用し債務者の氏名をサインして権限なくしてなした偽造のものである事実が疏明される。よって債務者が本件小切手に裏書したとの債権者の主張は理由がない。

三、債権者は民法一一〇条の表見代理の基本代理権として、訴外二瓶春子は債務者からオートバイの名義書替、犬の登録債務者夫婦の戸籍手続につき代理権を与えられていた旨主張し、証人二瓶春子は訴外二瓶春子は債務者から飼犬の届出、オートバイの登録等区役所陸運局等への届出手続をするため債務者の印鑑を預っていた旨供述するが、同人が戸籍手続につき代理権を与えられていたとの疏明はなく、そして、右供述は債務者本人の供述に照らしたやすく信用できないのみならず、右の如き届出手続の依頼は使者としてなすべき事実上の行為の準委任と見るべきであって代理権を授与したものと解すべきではないから、債権者の右表見代理の主張も失当である。

四、証拠によると、債務者の妻圭子は、昭和四二年一一月二八日頃、債権者の求めに応じ、オーストラリア滞在中の債務者に国際電話をかけた上で、本件小切手金を同年一二月二二日に支払う旨の念書(甲二号証)を交付した事実が疏明されるが、右証人および債務者本人の各供述によると、債務者の妻圭子は債務者が海外旅行で不在中の女世帯でしかも圭子自身妊娠中で精神的に不安定であるのに債権者から居すわるようにして執ように迫られたので、その場をしのぐため同女名義で右念書を作成したもので、債務者はこれに賛成したものではなかった事実が疏明され、右疏明を覆すに足る証拠はない。してみると前記疏明事実をもって債務者の追認と目することは到底不可能であり、よって右念書の交付により債務者が無権代理行為である本件小切手の裏書を追認したとの債権者の主張は理由がない。

五、債務者が昭和四三年二月一〇日債権者に対し本件小切手の裏書を追認した旨の証人檜原源因と債権者本人の各供述は証人二瓶春子および債権者本人の供述に比べたやすく信用できず、他に右追認を疎明するに足る証拠もない。

六、以上見てきたとおり、本件小切手金の償還請求権は疏明がないことに帰するから、これを被保全権利としてなされた主文中に記載の原決定はこれを取消し、本件仮差押申請はこれを却下する。

<以下省略>。

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