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東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)65号 判決 1971年5月26日

千葉県市川市新田町一丁目一〇番八号

原告

市原増吉

右訴訟代理人弁護士

朝比奈新

中尾昭

千葉県市川市北方町一丁目七五番地

被告

市川税務署長

久保田廉一

右訴訟代理人弁護士

今井文雄

右指定代理人

野崎悦宏

横尾継彦

大塚守男

川合弘

右当事者間の昭和四二年(行ウ)第六五号更正処分等取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が原告の昭和三四年分所得税につき昭和三九年七月一日付をもつてした更正処分および過少申告加算税賦課決定処分のうち、総所得金額を六一、四九七、三五三円として計算した限度をこえる部分は、これを取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

被告が原告の昭和三四年分所得税につき昭和三九年七月一日付をもつてした更正処分および過少申告加算税賦課決定処分のうち、総所得金額を四七、二四七、三五三円として計算した限度を超える部分は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、請求の原因

一、原告は、昭和三五年三月一一日被告に対し原告の昭和三四年分所得税につき、総所得金額を一一、三三一、四五二円、所得税額を四、八一四、一二五円とする確定申告書を提出したが、譲渡所得につき申告もれがあつたので、昭和三八年九月四日被告に対し総所得金額を三二、七六五、六四一円、所得税額を一七、三五六、〇四〇円とする修正申告書を提出したところ、被告は昭和三九年七月一日付をもつて総所得金額を六九、七四七、三五三円、所得税額を四二、三六九、八八〇円とする再正処分および過少申告加算税一、二五〇、六五〇円の賦課決定処分をなし、その通知書は同月二日原告に送達された。

二、原告は右各処分を不服として昭和三九年七月三〇日被告に対し異議申立てをしたが、同年一〇月二〇日被告から異議申立てを棄却する旨の決定があつたので、同年一一月一八日東京国税局長に対し審査請求をしたところ、同国税局長は昭和四二年二月一七日これを棄却する旨の裁決をなし、その裁決書謄本は同月二五日原告に送達された。

三、しかしながら、原告の昭和三四年分の総所得金額は四七、二四七、三五三円であり、したがつて、右更正処分のうち総所得金額が右金額をこえる部分は違法であるから、右金額をこえる限度において右更正処分の取消を求め、また、右過少申告加算税賦課決定処分も右に応じて総所得金額を右金額として計算した限度をこえる部分は違法であるからその限度をこえる部分につき右過少申告加算税賦課決定処分の取消を求める。

第三、被告の主張

(請求原因に対する答弁)

原告主張の請求原因一、二の事実は認めるが、同三の主張は争う。

(被告の抗弁)

被告のした前掲更正処分および過少申告加算税賦課決定処分の根拠は次のとおりである。すなわち、

原告の昭和三四年分の総所得金額は六九、七四七、三五三円であり、これは原告の申告した不動産所得金額四〇、四五三円と給与所得金額二八八、〇〇〇円の合計三二八、四五二円に被告の調査した譲渡所得金額六九、四一八、九〇一円を加えたものであるが、右のうち原告の争う譲渡所得金額六九、四一八、九〇一円を認定したのは左記の理由による。

原告は、昭和三四年三月一三日川上土地株式会社(以下川上土地ともいう。)に別紙物件目録記載の土地および(一)ないし(三)の各建物を一括して一八七、二〇〇、〇〇〇円で売却し収入を得たので、右譲渡収入金額から次表内訳の資産取得費および譲渡経費の合計四八、二一二、一九八円を差し引いた所得金額一三八、九八七、八〇二円から旧所得税法(昭和三六年法律第三五号による改正前のもの。以下旧所得税法とはこれをさす。)第九条第一項所定の一五〇、〇〇〇円を控除し、その金額の一〇分の五に相当する六九、四一八、九〇一円を譲渡所得と算出したのである(187,200,000円-64,712,198円=122,487,802円 <省略>)。

資産取得費および譲渡経費内訳

(1)  土地、建物再評価額 五、二一六、二八四円

(2)  建物改修費残存価額 二、二九五、九一四円

(3)  全日本観光株式会社に対する立退料 八、〇〇〇、〇〇〇円

(4)  土屋光夫に対する立退料 六五〇、〇〇〇円

(5)  青木満に対する立退料 八、〇〇〇、〇〇〇円

(6)  川上土地に対する仲介手数料 四、〇〇〇、〇〇〇円

(7)  中村寛二に対する仲介手数料 五五〇、〇〇〇円

(8)  山口誠に対する仲介手数料 三、〇〇〇、〇〇〇円

(9)  明治産業株式会社に対する借地権および建物の買受代金 一六、五〇〇、〇〇〇円

合計 四八、二一二、一九八円

右のとおりであるから、原告の昭和三四年分の総所得金額を六九、七四七、三五三円としてした被告の前掲更正処分および過少申告加算税賦課決定処分に違法はない。

第四、原告の主張

(被告の抗弁に対する答弁)

原告の昭和三四年分の所得として不動産所得、給与所得および譲渡所得があり、不動産所得金額および給与所得金額はそれぞれ被告主張のとおりであること、原告が被告主張の日に川上土地に被告主張の土地および建物を一括して一八七、二〇〇、〇〇〇円で売却し収入を得たこと、右譲渡収入の基因となつた資産所得費および譲渡経費として被告の主張するもののうち土地、建物再評価額五、二一六、二八四円、建物改修費残存価額二、二九五、九一四円、全日本観光株式会社に対する立退料八、〇〇〇、〇〇〇円、土屋光夫に対する立退料六五〇、〇〇〇円、青木満に対する立退料八、〇〇〇、〇〇〇円、川上土地に対する仲介手数料四、〇〇〇、〇〇〇円、中村寛二に対する仲介手数料五五〇、〇〇〇円、山口誠に対する仲介手数料三、〇〇〇、〇〇〇円および明治産業株式会社(以下明治産業ともいう。)に対する借地権および建物の買受代金があり、これらを右譲渡収入金額から控除すべきことは認めるが、明治産業に対する借地権および建物の買受代金が一六、五〇〇、〇〇〇円であるとの点は争う。

(原告の反論)

一、原告が明治産業に支払つた借地権および建物の買受代金は三三、〇〇〇、〇〇〇円である。すなわち、明治産業は、原告所有の前掲土地のうち三三坪(一〇九、〇九平方メートル)につき借地権を有し、右借地上に別紙物件目録(三)の建物を所有していたので、原告は、昭和三四年三月三一日明治産業より右借地権および建物を一括して該土地一坪(三、三〇平方メートル)当り一、〇〇〇、〇〇〇円とし合計三三、〇〇〇、〇〇〇円で買受ける契約をし、右代金のうち一八、五〇〇、〇〇〇円を右契約成立の日の昭和三四年三月三一日に支払い、残代金一四、五〇〇、〇〇〇円は同年一〇月二日明治産業に支払つた。

二、また、原告は右以外にも川上土地に前掲土地および建物を売却するため三星興業株式会社(以下三星興業ともいう。)に対し借地権および建物の買受代金、営業補償、立退料として一六、五〇〇、〇〇〇円、株式会社三星(以下三星ともいう。)に対し営業補償および立退料として一二、〇〇〇、〇〇〇円支払つたのであるから、右金額は資産取得費および譲渡経費として前掲譲渡収入金額から控除すべきである。すなわち、

三星興業は原告より原告所有の前掲土地の一部につき借地権の設定を受け、右借地上に別紙物件目録(一)の建物を建て(ただし登記簿上は原告の所有名義)同所で営業し、また、三星は右(一)の建物の一部で営業していたので、原告は、原告所有の右土地を川上土地に売渡すにあたり、三星興業から右借地権および建物を買受け、右買受代金と営業補償および立退料を一六、五〇〇、〇〇〇円とし、これを昭和三四年一二月三日同会社に支払い、また、三星に対する営業補償および立退料を一二、〇〇〇、〇〇〇円とし、これを同年四月二日七、〇〇〇、〇〇〇円、同年五月七日五、〇〇〇、〇〇〇円と二回に分けて同会社に支払つた。

三、右のとおりであるから、これらを前掲譲渡収入金額から差し引くと、譲渡所得は四六、九一八、九〇一円となる。

第五、原告の反論に対する被告の認否

原告主張の事実中明治産業が原告所有の前掲土地のうち三三坪(一〇九、〇九平方メートル)につき借地権を有し、右借地上に別紙物件目録(三)の建物を所有していたことおよび別紙物件目録(一)の建物の登記簿上の所有名義が原告であることは認めるが、その余の事実は知らない。

第六、証拠関係

(原告)

甲第一号証、第二号証の一、二(ただし一は写)、第三、第四号証、第五号証の一、二(ただし二は写)、第六ないし第九号証(ただし第七ないし第九号証は写)、第一〇号証の一、二、第一一、第一二号証、第一三号証の一、二(ただし二は写)、第一四号証、第一五号証の一ないし四、第一六ないし第一九号証、第二〇号証の一、二、第二一号証の一ないし一一、第二二ないし第二四号証を提出し、証人中村寛二、同島村定義、同石井正(一、二回)、同山中広蔵、同山中善弥、同野引勇、同山口誠、同杉山信男の各証言および原告本人尋問の結果を援用し、乙第一〇、第一一号証、同第一三、第一四号証を除くその余の乙号各証の成立は認める(乙第四号証については原本の存在とも)が、右に除外した乙号各証の成立は不知と述べた。

(被告)

乙第一号証の一ないし四、第二号証の一ないし三、第三号証の一、二、第四号証(写)、第五号証の一、二、第六ないし第一九号証、第二〇号証の一、二を提出し、甲第二号証の二、同第六号証、同第一〇号証の一、同第一二号証同第一五号証の一ないし四、同第二一号証の一ないし一一を除くその余の甲号各証の成立は認める(甲第二号証の一、同第五号証の二、同第七ないし第九号証、同第一三号証の二については原本の存在とも)が、右に除外した甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

一、請求原因一、二の事実は当事者間に争いがないので、次に被告のした前掲更正処分および過少申告加算税賦課決定処分の適否について判断する。

原告の昭和三四年分の所得として不動産所得、給与所得および譲渡所得があり、不動産所得金額が四〇、四五二円、給与所得額が二八八、〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。したがつて、本件における究極的の争点は、譲渡所得金額が被告主張の六九、四一八、九〇一円であるか、原告主張の四六、九一八、九〇一であるかの点に帰着することとなる。

しかるところ、原告が昭和三四年三月一三日川上土地に前掲土地および各建物を一括して一八七、二〇〇、〇〇〇円で売却して同額の収入を得たこと、右譲渡収入の基因となつた資産取得費および譲渡経費として土地、建物再評価額五、二一六、二八四円、建物改修費残存価額二、二九五、九一四円、全日本観光株式会社に対する立退料八、〇〇〇、〇〇〇円、土屋光夫に対する立退料六五〇、〇〇〇円、青木満に対する立退料八、〇〇〇、〇〇〇円、川上土地に対する仲介手数料四、〇〇〇、〇〇〇円、中村寛二に対する仲介手数料五五〇、〇〇〇円、山口誠に対する仲介手数料三、〇〇〇、〇〇〇円と明治産業に対する借地権および建物の買受代金があり、これらを右譲渡収入金額から控除すべきことは当事者間に争いがないので、右譲渡所得に関する争点は、第一に原告が明治産業に支払つた借地権および建物の買受代金が被告主張の一六、五〇〇、〇〇〇円であるか、原告主張の三三、〇〇〇、〇〇〇円であるかの点と第二に原告が支払つたと主張する三星興業に対する借地権および建物の買受代金、営業補償、立退料の合計一六、五〇〇、〇〇〇円ならびに三星に対する営業補償および立退料の一二、〇〇〇、〇〇〇円を資産取得費および譲渡経費として右収入金額から控除すべきかの点にあるので、以下順次これについて判断する。

(一)  明治産業に対する借地権および建物の買受代金について

明治産業が前掲土地のうち三三坪(一〇九、〇九平方メートル)につき借地権を有し、右借地上に別紙物件目録(三)の建物を所有していたこと、原告が昭和三四年三月三一日明治産業から右借地権および建物を買受けたことは当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第一一号証、乙第四号証(乙第四号証は原本の存在とも)、証人中村寛二の証言により真正に成立したものと認められる甲第一二号証、証人中村寛二、同島村定義、同山口誠の各証言および原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和三三年秋頃から明治産業と右借地権および建物の買取りの交渉をしていたが、買取り代金の点で折り合がつかず難行していたところ、川上土地が原告との前掲土地の買収交渉を進展させるためその仲介に入り、川上土地から明治産業に一坪(三、三〇平方メートル)当り一〇〇、〇〇〇円、合計三、三〇〇、〇〇〇円を追加払いする条件で原告と明治産業との右借地権および建物の売買代金を一括して該土地一坪(三、三〇平方メートル)当り一、〇〇〇、〇〇〇円、合計三三、〇〇〇、〇〇〇円とすることを承諾させ、昭和三四年三月三一日原告と明治産業との間でその旨の売買契約を締結したが、その際作成された売買契約書(乙第四号証)には税金対策として右両者の合意により表向きの売買代金として一六、五〇〇、〇〇〇円と記入され、そして、原告は右契約締結の日に明治産業に対し右契約代金三三、〇〇〇、〇〇〇円の内金として一八、五〇〇、〇〇〇円を支払つたが、明治産業の領収証(甲第一一号証)には右売買契約書による手付金ならびに内金として二、〇〇〇、〇〇〇円受領の旨の記載がなされたこと、また、残金一四、五〇〇、〇〇〇円は原告が川上土地に売却した前掲土地および各建物の代金のうちから川上土地を通じて昭和三五年三月二七日に支払い、このようにして右売買代金の支払いを完了していることが認められる。もつとも、証人島村定義の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証によれば、明治産業の代表取締役島村定義は昭和三九年一二月一五日国税局協議官の調査を受けた際、協議官に対し原告と明治産業との右借地権および建物の売買代金は三三、〇〇〇、〇〇〇円ではなく、一六、五〇〇、〇〇〇円である旨強調して述べていることが認められるが、同証人は前記認定のとおり税金対策上表向きの売買代金を一六、五〇〇、〇〇〇円とすることの合意をした当事者である明治産業の代表取締役であり、右調査を受けた当時その事情が明らかとなれば明治産業が更正処分等の不利益処分を受けるおそれが充分あつたので、そのような事実をいきおい否定せざるを得ない立場におかれていたものというべきであるから、同証人の協議官に対する右供述はたやすく信用することができないといわざるをえない。そして、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

してみれば、原告が明治産業から右借地権および建物を買受けた代金は前記認定のとおり三三、〇〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当であるから、この点に関する被告の主張は理由がないといわなければならない。

(二)  三星興業に対する借地権および建物の買受代金、営業補償、立退料について

別紙物件目録(一)の建物は登記簿上原告の所有名義になつていることは当事者間に争いがない。しかし、成立に争いのない甲第一九号証、証人野引勇の証言および原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和二一年頃原告所有の前掲土地の一部に別紙物件目録(二)の建物を建てたが、昭和二三年頃三星興業(当時の商号は三星商事株式会社)は原告の承諾を得て右(二)の建物を取り毀し、その敷地をも利用して右土地の一部に別紙物件目録(一)の建物を建てたことが認められるので、その限りでは右(一)の建物の所有権は三星興業に帰属したものというべきである。

ところで、成立に争いのない甲第四号証、証人野引勇の証言および原告本人尋問の結果によれば、三星興業は原告のいわゆる支配会社であつたこと、原告は前記認定のとおり三星興業に原告所有の右(二)の建物を取り毀し原告所有の右土地に右(一)の建物を建てることを承諾したが、その頃すでに各方面から右土地の買収交渉を受けていたので、右土地を売却する際のことを考え、三星興業に対し右土地の借地権を設定せず、かえつて三星興業の建てた右(一)の建物の所有者を原告名義として登記したこと、右(一)の建物の固定資産税等の諸経費は原告が負担していたこと、その間原告と三星興業との間で権利金、地代等土地使用の対価と目すべきものの授受はなかつたこと、右(一)の建物を使用していた全日本観光株式会社に対する立退料八、〇〇〇、〇〇〇円は三星興業でなく原告が支払つていることが認められ、このような事実関係からすれば、三星興業は右(一)の建物を随意に処分する権限を無償で原告に与えていたものとみるのが相当であるから、原告が右建物を処分するに際し三星興業から右建物を買取る必要はないものというべきである。

そうとすれば、三星興業が右土地につき借地権を有しないことも前記認定のとおりであるから、原告が三星興業に対し借地権および建物の買受代金として金員を支払う理由はなかつたものというべきである。

また、原告は三星興業に支払つた一六、五〇〇、〇〇〇円は借地権および建物の買受代金のほか営業補償および立退料をも含むものである旨主張しているが、前掲甲第四号証、同第一九号証、成立に争いのない乙第一六号証、証人野引勇の証言および原告本人尋問の結果によれば、三星興業は昭和三一年四月本店を右(一)の建物に移転したが、昭和二四年九月に会社を解散して以来昭和三二年三月に株主総会で会社継続の決議をしたのちも全く営業活動をしていなかつたこと、右本店も殆んど形式的な存在にすぎなかつたことが認められ、右事実と前記認定の諸事情とを合わせ考えると、原告が三星興業に右建物からの立退きを求めるに当つて営業補償および立退料を支払わなければならない理由も全くなかつたものというべきである。

右のとおりであるから、原告がたとえ三星興業に対し借地権および建物の買受代金、営業補償、立退料の名目で一六、五〇〇、〇〇〇円支払つたとしても、これを前掲譲渡収入金額から控除すべき資産取得費および譲渡経費と認めることができないことは明らかであり、右給付はむしろ三星興業に対する贈与とみるのが相当である。

したがつて、この点に関する原告の主張は理由がない。

(三)  三星に対する営業補償および立退料について

証人野引勇の証言により真正に成立したものと認められる甲第二一号証、同証人の証言および原告本人尋問の結果によれば、三星が別紙物件目録(一)の建物の一部を三星興業から借受け、和洋菓子の製造、販売、喫茶店等を営業していたこと、昭和三四年九月頃三星が右建物から立ち退いたことが認められる。

原告は三星に対し営業補償および立退料として昭和三四年四月二日七、〇〇〇、〇〇〇円、同年五月七日五、〇〇〇、〇〇〇円支払つたと主張しているが、成立に争いのない乙第一七、第一八号証および原告本人尋問の結果によれば、原告が三星に支払つたと主張している右金員は三星に支払われたものではなく、原告が割引債権を購入した代金に支払われたものであることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

してみれば、原告の右主張は到底認めることができないといわなければならない。

二、以上のとおりであるから、昭和三四年中における原告の譲渡所得金額は、前掲譲渡収入金額から右譲渡収入の基因となつた資産取得費および譲渡経費として当事者間に争いのない土地、建物再評価額五、二一六、二八四円、建物改修費残存価額二、二九五、九一四円、全日本観光株式会社に対する立退料八、〇〇〇、〇〇〇円、土屋光夫に対する立退料六五〇、〇〇〇円、青木満に対する立退料八、〇〇〇、〇〇〇円、川上土地に対する仲介手数料四、〇〇〇、〇〇〇円、中村寛二に対する仲介手数料五五〇、〇〇〇円、山口誠に対する仲介手数料三、〇〇〇、〇〇〇円に前記認定の明治産業に対する借地権および建物の買受代金三三、〇〇〇、〇〇〇円を資産取得費として差し引いた所得金額一二二、四八七、八〇二円から旧所得税法第九条第一項所定の一五〇、〇〇〇円を控除した金額の一〇分の五に相当する六一、一六八、九〇一円ということになる(187,200,000円-64,712,198円=122,487,802円 <省略>)。

したがつて、右譲渡所得金額六一、一六八、九〇一円に当事者間に争いのない不動産所得金額四〇、四五二円および給与所得金額二八八、〇〇〇円を加算した六一、四九七、三五三円が原告の昭和三四年分の総所得金額というべきであるから、右金額をこえる限度において、被告のした前掲更正処分および過少申告加算税賦課決定処分は違法であり、その取消をまぬがれないものというべきである。

三、よつて、原告の本訴請求は右認定の限度において理由があるからこれを認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 小木曽競 裁判官 海保寛)

(別紙)

物件目録

一、土地

東京都港区西新橋一丁目一〇二番二

(旧表示 同区芝田村町二丁目二番一)

一、宅地 二〇六・二八平方米(六二坪四合)

二、建物

(一) 右同所同番地

家屋番号同町三七番

一、木造スレート葺二階建店舗兼住宅一棟

建坪 四九・五八平方米(一五坪)

二階 四九・五八平方米(一五坪)

(二) 右同所同番地

家屋番号同町二番

一、木造板葺平家建店舗一棟

建坪 二一・四八平方米(六坪五合)

(三) 右同所同番地

家屋番号同町一九番

木造瓦葺二階建事務所一棟

建坪 九三・九一平方米(二八坪四合一勺)

二階 一二八・七六平方米(三八坪九合五勺)

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