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東京地方裁判所 昭和42年(借チ)27号 決定 1968年10月28日

申立人 福島富次

右代理人弁護士 下光軍二

同 上田幸夫

同 上山裕明

同 小坂嘉幸

相手方 青柳きよ子

主文

申立人が本裁判確定の日から六ケ月内に相手方に対し金二九〇万円を支払うことを条件として、別紙(二)記載の借地契約を堅固建物の所有を目的とするものに変更し、かつ借地期間を昭和七三年一二月末日までに延長する。

右許可の効力の生じた月の翌月から本件借地の賃料を一ケ月一万円に変更する。

理由

一、本件申立の要旨は、

「1. 申立人は別紙目録(一)の土地のうち八〇・九九平方米につき普通建物の所有を目的とする借地権を有する。その経過は次のとおりである。

右土地は、申立人の妻富美子の曾祖母福島きよが明治の初頃から使用権の設定を受け、以後代々右地上に建物を所有してこれを使用してきたもので、右の権利は地上権に関する法律第一条により地上権と推定されるものである。たゞし、これについて同法第二条による登記がなされたかどうかは現在では明らかでない。

2. このようにして、申立人の妻富美子の父福島慶一郎は昭和二八年当時非堅固建物の所有を目的とする借地権を有していたが、同年七月これを地上建物とともに申立人夫婦に譲渡しその頃夫婦間の話合で申立人のものとし、かようにして本件借地権は申立人に属するに至ったものである。なお、右の借地権の譲渡については相手方のため本件土地に関しすべてを処理していた相手方の母にその旨を申入れ承諾を得ている。

3. ところで、本件土地は国鉄上野駅から徒歩で約二分の商店街にあり、昭和二五年には準防火地裁に指定され、附近には高層ビルが日を追って増加し、少なくとも二、三年後には周囲の建物の殆んどは堅固な高層ビルになるものと考えられる。それ故、本件借地契約についてはその借地条件を堅固建物所有目的に変更すべき事情の変更があったというべきであるから、右条件変更を求めるため本申立に及んだ。」というのである。

二、<証拠>その他本件で取調べた資料によると次のとおりに認められる。

1. 本件土地は、相手方において昭和二二年一二月一〇日当時の所有者関口実からこれを買受けて所有権を取得し、同日その旨の登記を経由した。

2. 本件土地の使用関係に関する経過は必ずしも明らかでないが、明治の初頃から既に申立人の妻富美子の曾祖母福島きよにおいてその使用権の設定を受けて代々これを使用して来たものと認められる。申立人は地上権に関する法律第一条により、右の権利は地上権と推定されると主張するけれども、同法第二条に定める登記のなされていることを認める資料はないので、いずれにしても、この関係を相手方に対抗することはできないといわねばならない。

3. たゞ、相手方が本件土地の所有権を取得した当時は、前記富美子の父慶一郎の代で同人が建物を所有して右土地を使用していたのであり、昭和二四年頃には、右使用の関係について賃貸契約書が作成され、地代も引続き支払われて来たのであるから、賃貸借関係の存在はこれを肯認できる。

4. 右賃貸借関係の内容もまた必ずしも明確でないけれども、その当時相手方に代って本件土地に関する一切の処理をしていた相手方の母は前記慶一郎が従来どおり右土地を使用することを認め、その関係を明らかにするために前記の書面を差入れさせたもので、他に格別の事情の認められない本件においては、その頃改めて期間の定めのない賃貸借契約が成立したと認めるのが相当である。そして右契約は別紙目録(二)に記載されている土地を目的とし、非堅固建物の所有を目的とするものと認められる。

5. その後右の賃借権は申立理由2のとおり、申立人に譲渡されたと認められる。

三、相手方は右の賃借権の譲渡を承諾することはできないと述べるけれども、前記賃借権の譲渡は、申立人夫婦が父慶一郎から本件地上建物における旅館営業を引継いだことによるもので、相手方も申立人名義で賃料が支払われるようになっても敢えて異論を述べず、本件の手続においても、その途中までは、右の譲渡に格別の異議がないことを明らかにしていたものであるから、かような事情の下では、申立人は右譲受にかかる賃借権を相手方に対して主張できるものと認めるのが相当である。

四、ところで、資料によると、本件の土地は国鉄上野駅前(東側)の都電通りから約一〇〇米あまり東に入った商店街にあり、次第に堅固建物が立ち並ぶようになっており、現に借地契約を結ぶとすれば、堅固建物の所有を目的とするを相当とするような状況となっていると認められる。よって、本件申立はこれを認容すべきである。

五、そこで、次に附随処分について検討する。

1. 本件の賃貸借については、期間に関する約定の有無が明らかでないので、前述した事実関係と借地法第二条に基き昭和二四年頃から三〇年、昭和五四年頃までと認められるが、本件で借地条件が変更されてから三〇年程度の期間があるよう昭和七三年一二月末日までに延長するのが相当である。

2. 次に財産上の給付について考えるに、鑑定委員会の意見は、期間の延長による利害(ただし、期間が六〇年になるというのは、前述1と相違することになる)、建物の朽廃もしくは建物買取の場合などに関して生ずる利害の調整のため財産上の給付を必要とし、次のように算定する。すなわち、

(イ)  まず前述の関係を反映して地主に属すべき底地価格が低下するが、本件では従前の借地権価格(更地価格の七二%)が借地条件の変更により八二%に増加するとし、この関係で給付すべき額を、更地価格二四七九万五八九八円(三・三平方米当り一〇一万〇三二八円)の一〇%にあたる二四七万九五八九円と算定し、

(ロ)  次に、土地利用の効率の増加による分として、右利用効率の増加を借地権価格の七五%とし、そのうちの七・五%を財産上の給付に加えるべきものとして、右により計算した一〇〇万四二三三円、

右(イ)(ロ)の合計三四八万三八二二円を給付せしめるべきものとする。

3. 当裁判所も、本件借地条件の変更に伴う利害の調整のため財産上の給付を命ずべきものと考える。

前述のように期間を延長するほか、新たに堅固建物が建てられることによって地上建物の朽廃による借地権の消滅の可能性も極めて少なくなり、買取請求権が行使された場合の買取も困難となって借地権は強化される反面賃貸人に不利益をもたらすこととなるので、その利害の調整をするのが相当であり、また委員会の意見にも見られる土地の利用効率の増加も合わせて参酌して然るべきであろう。

ただこれらは将来の不確実な要素を含み、これに基づき一定の算式をもって給付額を的確に算出することは極めて困難であり、また、これらは一般の借地関係の取引において堅固、非堅固両借地権のそれぞれの価格に反映して然るべきものと考えられるところ、これについても現在において一般に承認された価格差というものもないけれども、前記鑑定委員会の意見をも参酌して、更地価格の一〇%前後を一応の基準として決定するのが相当と考えられるが(ただし、前記意見に見られるように、土地利用効率の増大による別個の加算はしない)、なお、本件賃貸借に関しては権利金等の授受されたことがなく、後述のように賃料が極めて低額であった(委員会の意見によると公租、公課の増加に伴いこれを補うに足りない程になっていたと考えられる)ことなど借地に関する従前の経過をも考慮し本件においては更地価格の一二%とする。

更地価格の評価については、本件に顕われた土地の場所的環境、地形(いわゆる角地にあたる)のほか、鑑定委員会の意見と申立人提出の甲第一二号証(鑑定書)等の資料があるが、これらを検討した結果、右委員会の意見に近い三・三平方米当り約一〇〇万円をもって相当と認める。そこでこれに基いて前記の基準に従い計算し財産上の給付額を二九〇万円と定める。

4. 次に賃料については、取調べた資料によると、従前から近隣の一般の賃料に比しても低額であり、昭和四二年一月以来一ケ年二万五〇七五円(一ケ月二〇八九円余)となり現在に至っていることが認められ、この際増額を相当とする。

鑑定委員会の意見によると、本件土地の借地権価格は更地価格の七二%とし、底地価格は二八%にあたる六九四万二八五一円とする。そして底地価格に六%を乗じた四一万六五七一円を純地代とし、これに年間公課二万七七七九円、管理費六〇〇〇円(月額五〇〇円)を加えた四五万〇三五〇円が正当な賃料であるとする。

(6,942,851×0.06)+27,779+6,000=450,350そして、本件借地が継続のものであること等を考慮し一ケ月三万六七五〇円 年間四四万一〇〇〇円)に増額するを相当とするとしている。

5. 当裁判所は、右のような大巾の増額は必ずしも相当でないと考える(本件顕われた資料によれば、近隣の借地の現在の賃料は右の額よりもかなり低いのが一般であると認められる)。

前記意見における借地権価格の割合を七二%、底地割合二八%とするのは、非堅固建物所有目的の借地権については相当と認められるが、この場合堅固建物所有目的のそれによるのが相当であり、これは前記意見からも窺われるように、借地権割合八二%、底地割合一八%とするを相当とする。そうすると、いわゆる底地価格は約四四〇万円となる。

また当裁判所は、前記のように底地価格に六%を乗じて得られたいわゆる経済地代は、現在における借地関係の下では継続の借地契約において相当とすべき賃料額を算定する場合そのまま採用できないと考えるので、資料により窺われる近隣の地代をも参酌し、現状に即した比率として二%を相当と考え、以上の二点において修正を加えた上、前記鑑定委員会の示す算式を採用して、次のとおり、一ケ月一万円(年額一二万円)を相当と考える。

(400万×0.02)+27,779+6,000=121,779=120,000

六、以上のとおり、金二九〇万円の財産上の給付をさせて申立人の申立を認容しこれに伴い、前述のように期間の延長及び賃料の増額をすることとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 安岡満彦)

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