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東京地方裁判所 昭和42年(借チ)2005号 決定 1967年10月13日

昭和四二年(借チ)第二〇〇五号事件申立人、

同第二〇一九号事件相手方

加藤栄一

昭和四二年(借チ)第二〇〇五号事件相手方、

同第二〇一九号事件申立人

皆川信秋

主文

右第二〇一九号事件相手方(単に相手方という)

加藤栄一から同事件申立人(単に申立人という)

皆川信秋に対し別紙目録記載の建物及び借地権を代金八七万二〇〇〇円で売渡すことを命ずる。

相手方加藤は申立人皆川に対し、同人から前項の金員の支払を受けるのと引換に、右建物の引渡及び所有権移転登記手続をし、申立人皆川は、右引渡及び登記手続の履行と引換に、相手方加藤に対し金八七万二〇〇〇円の支払をせよ。

理由

本件借地権譲渡許可申立事件(昭和四二年(借チ)第二〇〇五号事件)において土地賃貸人皆川信秋から建物及び賃借権の譲渡を求める申立がなされたが、右は適法な申立と認められるので、借地法第九条の二第三項に基き相当な対価を定めてその譲渡を命ずべきである。

そこで右の対価はいくらを相当とするかについて検討する。

右建物及び借地権現在の価格は、本件借地の位置、建物の現況、賃貸借の内容等を考慮し、かつ鑑定委員会の意見に徴し、右建物につき二二万七六〇〇円、借地権につき七一万四四〇〇円とみるのが相当と考えられる。ただ右はその一般的取引価格であるから、第三者に譲渡する場合の対価としてはこれによるべきであるが、賃貸人が譲受ける場合の対価としては、別途の考慮を要するかどうかが問題となる。

けだし、現在の東京都内市街地におけるようにかなり高率の借地権価格が形成されるに至つている場合においては、借地権の処分による賃借人の利得のうちには衡平の見地から地手に配分して然るべきものがあると考られ、借地権の譲渡につき地主の承諾を受ける際の慣行として、名義書換科等の名義で金銭の授受が行われる事例の多いことも一般に知られた事実である。そして借地法第九条の二第一項によれば、賃借権譲渡の承諾に代る許可の裁判をするにあたり、借地に関する従前の経過等諸般の事情を考慮の上財産上の給付を命じ得るものとされているが、右の規定も上記の点を前提とするものと解される。

このような見地からすると、借地権の譲渡による利得の一部を賃貸人に還元配分するを相当とするような事情の存する案件においては、これを賃貸人が譲受ける場合でも、賃貸人に右の利得を配分する趣旨において、譲渡価額の決定にあたり、その配分すべき額に相当する金額を一般取引価格から減額するのが相当と考えられる。

そこで、本件借地関係における事情を検討するに、本件において取調べた資料によると、

(1)  現賃貸借当事者に至るまでに、賃貸人、賃借人いずれの側にも承継が行なわれているが、第二〇一九号事件申立人(以下単に申立人という)皆川の前主(前土地所有者)山崎忠雄は、昭和三一年四月本件土地を賃貸した際、ある程度の権利金(右山崎の陳述によれば、当時一般に授受されていた常識的な金額で、せいぜい坪当り一万円程度というのであつて、その正確な金額についてはこれを明らかにしうる的確な資料がない)を受領していること、

(2)  第二〇一九号事件相手方(以下単に相手方という)加藤の前主(被相続人)亡母山本かねは昭和三三年中、当時の賃借人吉田一雄から本件建物及び借地権を譲受けたがその対価は計四六万円であり、その際賃貸人山崎との間では名義書換料等の金銭の授受はなされていないこと、

(3)  その後昭和三九年一一月頃申立人皆川は本件土地を山崎から代金四五万円で買受け、一方相手方加藤は昭和四〇年七月前記山本から相続によつて右建物及び借地権を取得したこと、

(4)  なお、右賃貸借の残存期間は昭和五一年四月までであり、賃料は前記山本の承継当時一ケ月七五〇円であつたが、当事者間に多少の紛争があり、相手方加藤において昭和四〇年八月分から一ケ月九〇〇円の割合で供託していること、

以上の事実が認められる。

右の事実に徴すると、本件においても、相手方加藤は借地権譲渡による利得の一部を賃貸人たる申立人皆川に還元配分して然るべき事情があると認められ、同人の申立に基く借地権譲渡の対価決定にあたり、前述の趣旨に従いこれを考慮するのが相当であると考えられる。(鑑定委員会の意見及び借地非訟事件手続規則三〇条第二項の規定に基き同委員会によりなされた説明によれば、一般に賃貸人は、借地法第九条の二第三項の申立によつて、借地人の選択した譲受予定者を排し自ら優先的に借地権を回収し得るという有利な結果を得るものであること等を考慮し、その譲渡する場合の対価との間に差異を認めないのが相当であるとされ、右の見解は傾聴すべきものを含むけれども、当裁判所は、前述のような見地から既述の事情に鑑み、ある程度の差異を認めるのが妥当であると考える。)

そして、上述の趣旨に従い減額については、鑑定委員会の前示説明において述べられているところの、相手方加藤が借地権を第三者に譲渡する場合申立人皆川に約七万円程度の金員を支払うを相当とするとしている点及び先に判示した借地に関する従前の経過等を勘案し金七万円をもつて相当と認める。

そこで借地権の対価については前述の時価七一万四四〇〇円から七万円を控除した六四万四四〇〇円とし、これと前記建物の価格二二万七六〇〇円を合わせた金八七万二〇〇〇円をもつて、申立人皆川の支払うべき対価と定めるべきこととなる。

よつて、借地法第九条の二第三項の規定に則り主文のとおり決定する。(安岡満彦)

(別 紙)

目   録

(一)借地権

東京都品川区小山二丁目三四二番一〇

宅地 四九・六一平方メートル(一五坪一勺)

右土地に対する昭和三一年四月貸主を山崎忠雄として成立した賃貸借契約に基く賃借権を相手方加藤において前賃借人吉田一雄、同山本かねを経て承継したもの(ただし現賃貸人は申立人皆川)。

(二)建物

右地上に存する

家屋番号同町三四二番の一七

木造瓦葺平家建居宅 一棟

床面積二三・九六平方メートル(七坪二合五勺)

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