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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)762号 判決 1968年9月06日

原告 大胡義巳

右訴訟代理人弁護士 天野亮一

被告 小野里啻文

右訴訟代理人弁護士 田島良郎

主文

被告は原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明渡し、昭和三九年九月六日以降右明渡ずみまで一ヵ月金一五、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決はかりに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は、昭和三九年九月三日被告に対し、原告所有の別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という。)を賃料一ヵ月一五、〇〇〇円、期間同年九月六日から昭和四一年九月五日までと定めて賃貸する旨の契約を締結してこれを貸渡した。

二、右契約においては、当事者双方合意のうえ、期間は二年限りとし更新しないことを特約したものであって、一時使用のための賃貸借である。よって右賃貸借契約は昭和四一年九月五日限り終了した。

三、かりに右主張が認められないとしても、原告は、本件建物を自ら使用する必要があるので、昭和四一年四月六日付内容証明郵便をもって被告に対し本件賃貸借契約の解約の申入をなし、同書面は翌日被告に到達した。

四、原告が本件建物を必要とする理由は次のとおりである。すなわち、原告は昭和四〇年三月結婚し、妻と男子二人の家族を抱えているが、独立の住居が得られないため、目下父の住家に同居中である。原告の父義雄は右家屋を訴外中島信之から賃借しており、同家屋は階下に六畳と三畳の物置、二階に六畳と四畳半の部屋があるにすぎないのに、これに原告の父母と原告の妹二人および前記原告の家族四人の合計八人が居住しており、原告の母は子宮ガン手術後療養中であって、非常に手狭である。これに加えて、約二年位前から原告の父義雄は家主中島から右家屋の明渡を要求されている実情にある。

よって原告の右解約申入により法定期間の経過により本件賃貸借契約は終了したものである。

五、よって、原告は被告に対し、その所有権に基き本件建物の明渡を求め、右賃貸借契約終了後である昭和四一年九月六日以降明渡済まで一ヵ月一五、〇〇〇円の割合の賃料相当の損害金の支払を求める。

と述べ(た。)立証≪省略≫

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、答弁として

一、請求原因一の事実は認める。

二、同二の事実中、本件賃貸借契約書に原告主張のような契約を更新しない旨の特約の記載があることは認めるが、その余は否認する。右特約は賃借人に不利益なものであって無効である。被告は本件契約に際し原告に権利金一〇万円を支払っており、この点からみても本件契約は二年限りで終了させる趣旨でなされたものではない。

三、同三の事実は認める。

四、同四の事実は不知。

被告は、昭和四〇年から長期の病気にかかり、休養中でありまた多額の債権の貸倒れにより、経済的窮境にあり、本件家屋を明渡すことにより多大の損害を蒙る情況にある。

と述べ(た。)立証≪省略≫

理由

原告が昭和三九年九月三日被告に対し原告所有の本件建物を賃料一ヵ月一五、〇〇〇円、期間同年九月六日から二年と定めて賃貸したこと、右賃貸借契約において期間を二年限りとし更新しない旨の特約がなされたことは当事者間に争いがない。しかし、右のような特約がなされたからといって、ただちに右賃貸借が一時使用のためのものであるということはできない。建物の賃貸借が一時使用のためのものであるというためには、その賃貸借の目的、動機その他の事情から、当事者が賃貸借の期間を短期に限り、期間経過後は賃貸借を継続させる意思がなかったと認むべき相当の理由がある場合でなければならない。

よってこの点につき検討するに、≪証拠省略≫によると次のような事実が認められる。

原告は、将来自己の住家に供する目的をもって昭和三九年六月頃当時新築の本件建物を買受けた。当時原告は現在の妻ひで子と婚約中であり、一、二年のうちには同女と結婚できる見込であったが、さしあたり本件建物を空家にしておくわけにもゆかず、短期間に限りこれを第三者に賃貸しようと考え、不動産屋の仲介により被告に対し前記のような約定でこれを賃貸した。右賃貸にあたって、原告は被告に対し右のような事情を打明け、二年後には必らず本件建物を明渡してくれるよう申し向け、被告はこれを諒承した。原告はその後昭和四〇年三月右ひで子と結婚し、現在二児を儲け、父義雄の借家に同居中である。

右認定の事実によれば、本件賃貸借当時原告が近い将来遅くとも二年以内には本件建物を自らの住居として使用する必要性の生ずることは、相当の確実性をもって予見され得たものであり、被告もこれを十分に諒知していたものであって、両当事者とも二年経過後は本件賃貸借を継続させる意思がなかったものと認めるのが相当である。したがって、本件賃貸借は一時使用の賃貸借というべきである。

なお、≪証拠省略≫によれば、被告は本件賃貸借に際し権利金一〇万円を原告に支払っているけれども、右金額は当時の相場からみて本件建物の権利金としては決して高額とはいえず、賃料も前記特殊事情を考慮し普通より低く定めたことが窺われるのであって、右権利金支払の事実をもってしても本件賃貸借を一時使用のものと認める妨げとはならない。

そうだとすれば、本件賃貸借契約は、昭和四一年九月五日限り期間の満了により終了したものというべきであり、被告は原告に対し本件建物を明渡し、かつ同年九月六日以降明渡ずみまで一ヵ月一五、〇〇〇円の割合による賃料相当の損害金を支払うべき義務がある。

よって、その余の争点につき判断するまでもなく、原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、民事訴訟法第八九条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺忠之)

<以下省略>

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