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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)7536号 判決 1968年4月20日

原告 太陽機器工業株式会社破産管財人 堀之内直人

被告 信日機電株式会社

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一原告の申立および主張

一、請求の趣旨

被告は原告に対し、金二〇〇万円およびこれに対する昭和四二年八月八日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え

訴訟費用は被告の負担とする

との判決ならびに仮執行の宣言を求める

二、請求の原因

1  被告は次の約束手形二通を振出した。

(1)金額 一〇〇万円

満期 昭和四二年二月二八日

支払地 松本市

支払場所 株式会社八十二銀行深志支店

受取人 訴外 太陽機器工業株式会社

振出日 昭和四一年一〇月一二日

振出地 松本市

(2)満期 昭和四二年三月三一日

振出日 同四一年一二月一四日

その余の手形要件の記載は(1)に同じ。

2  訴外太陽機器工業株式会社は右(1)の手形を訴外芝信用金庫に、同(2)の手形を訴外商工組合中央金庫に各割引のため裏書譲渡し、右譲受人らはそれぞれの満期に支払場所に呈示したが支払を拒絶された。

3  右訴外会社(以下破産者という)は、昭和四二年四月二一日午前一〇時東京地方裁判所において破産宣告を受け、同時に原告はその破産管財人に選任された。

4(1)  前記訴外芝信用金庫は、破産者との間の手形割引約定にもとづいて昭和四二年五月二四日原告に対し、前記(1)の手形の買戻請求権を自働債権とし破産宣告当時破産者が右金庫に対し有していた預金債権を受働債権とし、対当額において相殺する旨の意思表示をし、同日、右手形を原告に無担保裏書に依り譲渡し、原告は現にこれを所持している。

(2)  前記訴外商工組合中央金庫は、昭和四二年五月二日原告に対し、前記(2)の手形の買戻請求権を自動債権とし右破産宣告当時破産者が右中央金庫に対し有していた預金債権を受働債権としてその対等額において相殺する旨の意思表示をし、同年六月八日右手形を原告に無担保裏書に依り譲渡し、原告は現にこれを所持している。

5  よって、原告は被告に対し右約束手形金合計二〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四二年八月八日から支払ずみまで手形法所定年六分の割合による利息金の支払を求める。

第二被告の申立および主張

一、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨の判決を求める。

二、請求の原因に対する答弁

全部認める。

三、抗弁

(原因債権の消滅)

(一)(1) 被告は破産者に対し、昭和四一年七月四日諏訪税務署暖房設備工事を報酬は出来高払いとして請負わせたところ、破産者は右工事の一部を同年九月二八日までに完了したので右請負報酬金一〇〇万円の支払のため、破産者に対し本件(1)の約束手形を振出した。

(2) また被告は破産者に対し、同年五月一八日かねじょうビル冷暖房設備工事を請負わせたところ、破産者は同年一二月二日右工事完了し、また前記諏訪税務署の工事についても残工事の一部を了えたので、これらの報酬金合計二八五万円の内金一〇〇万円の支払のため、破産者に対し本件(2)の約束手形を振出した。

(二)(1) 被告は破産者に対し、昭和四一年七月二日から同月八日までに小型冷凍機等一〇台を売渡し、その代金合計四、〇九五、〇〇〇円の内金一、七一四、七〇四円の支払のために、破産者から後記(イ)の約束手形一通の振り出し交付をうけ現にこれを所持している。

(2) 被告は破産者に対し、同年八月三日から同年九月一三日までの間に日立ポリュートポンブ等三台を売渡し、その代金合計九八三、〇〇〇円の支払のために、破産者から後記(ロ)の約束手形一通の振り出し交付をうけ現にこれを所持している。

(イ) 金額一、七一四、七〇四円

満期 昭和四二年二月一八日

支払地 東京都目黒区

支払場所 株式会社東京都民銀行学

芸大学駅前支店

受取人 被告

振出日 昭和四一年一二月二日

振出地 東京都台東区

(ロ) 金額 九四三、〇〇〇円

満期 昭和四二年三月一八日

支払地 東京都台東区

支払場所 株式会社東京相互銀行上野支店

(三) そこで被告は、本訴(昭和四二年年九月一三日の口頭弁論)において、右(二)の(1)売掛金債権を自働債権とし前記(一)の(1)の請負報酬金債権を受働債権として対当額において相殺し、ついで、右(一)の売掛金残債権(七一四、七〇四円)を自働債権とし、前記(一)の(2)の請負報酬金を受働債権とし対当額において相殺し、最後に右(二)の(2)の売掛金債権を自働債権とし右(一)の(2)の請負報酬金残債権(二八五、二九六円)を受働債権とし対当額において相殺する。

よって、本件(1)、(2)の各約束手形の前記各原因債権は消滅した。したがって、被告に本件各手形金の支払義務はない。

(四) 右相殺が許されないとすれば被告は、本訴(前同日の口頭弁論)において前記(イ)の約束手形金債権を自働債権として原告の本訴(1)の約束手形金債権を受働債権とし対当額において相殺し、ついで右(イ)の残債権(七一四、七〇四円)を自働債権とし原告の本訴(2)の約束手形金債権を受働債権とし対当額において相殺し最後に前記(ロ)の約束手形金債権を自働債権とし、右(2)の残債権(二八五、二九六円)を受働債権とし対当額において相殺する。

第三抗弁に対する原告の答弁

被告主張の抗弁事実全部認める。しかしながら、破産管財人は、破産者の代理人ではなく第三者であるから被告は破産者に対するその主張の債権を自働債権として破産財団に属するその主張の債権を受働債権として相殺することはできないとくに原告が本件手形にもとづき被告に対して有する債権は、破産宣告後に原告が本訴請求の手形を裏書により取得したことによって生じたものであるから、被告は破産法一〇四条一号によって、原告の本訴手形債権を受働債権として相殺することはできない。

理由

原告主張の請求原因事実および被告主張の抗弁(一)および(二)の事実については当事者間に争いがなく、被告かその主張の相殺の意思表示をしたことは、当裁判所に明らかなところである。

そこで進んで被告主張の相殺の効力について按ずるのに、破産制度は、本来各債権者の抜け駆けを禁じ債権者間の公平を期するため破産財団に属する財産の管理処分権を破産管財人に専有せしめ右財産を破産債権者全体のために差押えられたと同一の状態におくものであるから、破産管財人は、本来差押債権者が有したであろう以上の権利を取得するものではない。したがって、被告はその主張の相殺をもって破産管財人たる原告に対抗しうると解するのが相当であろう。

そして、被告が破産宣告の当時破産財団に対し被告主張の請負報酬金支払債務を負担していたことは当事者間に争いがないから被告が抗弁(一)において主張した相殺には破産法一〇四条一号の適用はなく、右相殺の意思表示はその効力を生じこれによって、原告の本訴各約束手形の各原因債権たる売掛金債権は全部消滅したといわなければならない。

よって、その余の判断をするまでもなく、原告の被告に対する本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。<以下省略>。

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