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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)6609号 判決 1968年10月28日

原告 石井光三

右訴訟代理人弁護士 石川右三郎

第一二、〇一二号事件

被告 世田谷ペット自動車株式会社

右代表者代表取締役 庄子力

右訴訟代理人弁護士 桜井公望

同 桜井千恵子

第六、六〇九号事件

被告 昌栄自動車企業株式会社

右代表者代表取締役 細田昌男

同 萩田純子

右被告両名訴訟代理人弁護士 向山隆一

主文

一、被告世田谷ペット自動車株式会社は、原告に対して、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の建物を収去して、右目録(四)記載の土地を明渡し、かつ昭和四二年四月一日以降右明渡済に至るまで一か月金五万円の割合による金員を支払え。

二、被告昌栄自動車企業株式会社は、原告に対して、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の建物から退去して、右目録(五)記載の土地を明渡せ。

三、被告萩田純子は、原告に対して、別紙物件目録(一)記載の建物の二階部分五一・八四平方メートルから退去して、右目録(六)記載の土地を明渡せ。

四、原告その余の請求を棄却する。

五、訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、被告世田谷ペットが、昭和四〇年四月一日、原告から、いずれも原告所有に係る本件土地および同土地上の、鉄骨ビニール葺建物一棟建坪三〇七・七三平方メートルを賃借し、同時に、原告との間で、賃料を、本件土地については、一か月金五万円、右建物については、一か月金一万円とする旨を約したことは、当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、≪証拠省略≫を総合すると、次のとおり認められる。

原告は、かねてより、原告所有に係る本件土地を、訴外東京急行電鉄株式会社に対して、駐車場として、利用させていたが、貸しガレージを営む目的で、昭和三九年一二月頃、約金三一万円の費用をかけて、本件土地上に、鉄骨ビニール葺屋根掛車置き場一棟建坪約一二〇平方メートルを建築した。

被告世田谷ペットは、東京都目黒区碑文谷二丁目七番地の借受地約五〇〇平方メートルに工場および事務所建坪約二〇平方メートルを有し、自動車修理および中古車を主とした自動車販売を業としていた。

被告世田谷ペット代表者庄子力は、自動車修理を右工場で行い、中古車の販売は、本件土地でおこなおうと考え、昭和四〇年三月頃、原告に対して、「中古車の展示場として借りたい。それと軽整備をやらしてもらいたい。」、「販売のために、どこの中古車の展示場にでもあるような簡単な事務所を軽量鉄骨で作りたい。」、「一〇年ぐらい借りたい。」と述べて、本件土地賃貸方を要請したところ、原告は、「大きいものを作られては困る。長くは貸せない。」、「物価の値上りといったこともあるので、短期間に更新していくという方法で貸したい。」旨述べて、本件土地を、被告世田谷ペットに賃貸することを承諾した。そこで、庄子および原告は、昭和四〇年四月八日、東京法務局所属公証人浜田竜信により、「賃貸人石井光三を甲とし、賃借人世田谷ペット自動車株式会社を乙として本日甲乙間に以下の通り契約を締結した。第壱条 甲はその所有にかかる後記土地を乙に対し乙の販売自動車の展示場として使用する目的で一時使用のため賃貸し乙はその目的にて賃借した 第弐条 乙は賃借土地を自動車展示場以外の目的に使用しないものとする。但し通常一般に常識上判断せらるる販売車の軽整備は、本賃借地内においてこれをなすことができるが重整備は乙の第一工場(東京都目黒区碑文谷二丁目七番地)において行うものとする 第参条 賃貸借期間は昭和四拾年四月壱日より昭和四拾弐年参月参拾壱日までとする 第四条 賃金は壱ヶ月金五萬円也と定め(東京急行電鉄株式会社の車輛五台分無料駐車場所も含む)毎月末日限りその翌月分を賃貸人の住居に持参して支払うものとする。なおガレージ代金壱ヶ月壱萬円也を右賃金と共に支払うものとする 第五条 乙は自動車販売の目的のため賃借地内に簡易な組立式の事務所を設置することができるが堅固な建物その他の工作物を設置しないものとする 第六条 乙は賃借土地を現状のまま使用し片側駐車場屋根を一部手直し水道電気設備等をなすことができるものとする。但しその費用は全部賃借人の負担とする」との記載のある「土地賃貸借契約公正証書」(甲第一号証)を作成し、右記載どおり約し、庄子は原告に対して、敷金約四八万円を支払った。

庄子は、昭和四〇年八月頃、前記車置き場を解体して、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の各建物を建築し、同月九日、同目録(一)記載の建物について所有権保存登記手続をなした。同人は、右解体および建築について、事前に原告の承諾を求めなかったが、他方、原告も、右建築の事実に気付いていたが、とりたてて、これに対して抗議をすることなく経過した。

庄子は、昭和四〇年四月以降昭和四一年九月まで、毎月金六万円の賃料を、原告に対して支払っていたが、被告世田谷ペットが、昭和四一年一〇月一日頃、手形不渡りを出して、倒産したので、約定期日までに、一〇月分の賃料を支払うことができなかった。そこで、原告は、同月一一日、弁護士石川右三郎を通じて、内容証明郵便(甲第二号証の一)をもって、被告世田谷ペット代表者庄子にあて、一〇月分以降の賃料支払を催告し、到達後三日以内に支払わないときは、本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたところ、右郵便は、同月二三日頃、被告世田谷ペットの債権者が受領したうえ、同月二六日頃、債権者会議の席上、これを庄子に手渡した。庄子は、その頃、遅滞賃料を持参して原告に提供したが受領を拒絶されたので、同月二九日、供託した。

以上のとおり認められ(る。)≪証拠判断省略≫

してみると、原告の再抗弁第三項による主張は採用できない。

二、1 被告は、本件土地賃貸借契約には借地法の適用ありと主張するが、同法第一条にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル」とは、土地賃貸借の主たる目的が、借地人がその土地上に建物を築造して、これを所有することにある場合を指し、借地人が土地上にその事業のために必要な事務所等の建物を築造し、所有しようとする場合であっても、それが賃貸借の主たる目的ではなく、その従たる目的にすぎないときは、右に該当しないものと解するべきである。

前記認定事実によれば、庄子は、被告世田谷ペットが、自動車、主として中古車の販売を行うための展示場とする土地を必要としたことから、原告から本件土地を賃借するに至ったのであり、同人は、原告に対して、前記記載の約定のとおり、本件土地を、被告世田谷ペットの自動車販売展示場として使用し、自動車販売展示場以外の目的のために使用しないこと、本件土地上に建物を築造するにしても、右目的のための簡易な組立式の事務所を設置しうるにすぎないことを約したというのであり、被告世田谷ペット代表者本人尋問の結果によれば同被告が、当初より、建築を予定していた事務所や爾後に建築した車置き場、洗車場の所有は、いずれも、本件土地自体を自動車販売展示場に利用するための従たる目的であって、解体搬出極めて容易なものであると認定される。

右と異なる反対の特約の存在あるいは契約目的の変更については被告らから主張も立証もないから、右認定の事実によれば、結局、本件土地賃貸借は、借地法の適用のない賃貸借のまま推移したと判断するほかない。

2 原告と庄子が、「土地賃貸借契約公正証書」(甲第一号証)をもって、昭和四〇年四月一日より昭和四二年三月三一日までとする旨約したことは前記に認定したとおりであり、右約定の解約あるいは右期間の更新については、被告世田谷ペットが別紙物件目録(一)ないし(三)記載の建物を建築したことに原告も気づいていたのに、とりたてて抗議をしなかったとの事実は前記の如く認められるにしても、それ以上の事実は認定しえず、被告らよりこの点について特段の主張も立証もないのであるから、本件土地賃貸借は、昭和四二年三月三一日の経過によって終了したものというべきである。

3 原告は、本件土地の賃料相当額の損害金の割合は、一か月金六万円である旨主張するが、原告と被告世田谷ペット代表者庄子との間で、本件土地の賃料を金五万円とする旨約されていたことは前記認定のとおりであるところ、≪証拠省略≫をもってしても、右土地の賃料相当額が右賃料額を超えるものであることを認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠がない。

三、しかして、被告世田谷ペットが、遅くとも、昭和四一年一一月一日以降、本件土地上に、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の建物を所有して、本件土地を占有し、被告昌栄自動車が、右各建物を使用して、その敷地である同目録(五)記載の土地を占有し、被告萩田が、同目録(一)記載の建物の二階部分五一・八四平方メートルを使用して、その敷地である同目録(六)記載の土地を占有していることは当事者間に争いがないから、原告に対して、被告世田谷ペットは、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の建物を収去して本件土地を明渡し、かつ昭和四二年四月一日以降右明渡済に至るまで一か月金五万円の割合による本件土地賃料相当額の損害金を支払う義務があり、被告昌栄自動車は、右各建物から退去して、同目録(五)記載の土地を明渡す義務があり、被告萩田は、同目録(一)記載の建物の二階部分五一・八四平方メートルから退去して、同目録(六)記載の土地を明渡す義務があることになる。

四、よって、当事者のその余の主張について判断するまでもなく、原告の、被告世田谷ペットに対する別紙物件目録(一)ないし(三)記載の建物を収去して本件土地を明渡し、かつ昭和四二年四月一日以降右明渡済に至るまで一か月金五万円の割合による本件土地の賃料相当額の損害金を求める請求および被告昌栄自動車、同萩田に対する各請求は、いずれも理由があるものとしてこれを認容し、被告世田谷ペットに対するその余の請求は、失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九三条第一項本文、第九二条但書、第八九条を適用し、仮執行の宣言の申立については、相当でないから、これを却下して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡成人 裁判官 白川芳澄 豊田健)

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