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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)10367号 判決 1968年9月28日

原告

中山

ほか一名

被告

宮前森一

主文

被告は原告中山に対し三九万八一〇〇円、原告下田正夫に対し三九万四八〇〇円および右各金員に対する昭和四二年一〇月七日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告らの被告に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告は原告中山に対し二六〇万円、原告下田正夫に対し二一〇万円および右各金員に対する昭和四二年一〇月七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、仮執行の宣言

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

原告らは、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四二年二月二六日午前九時三〇分頃

(二)  発生地 東京都武蔵野市西久保一丁目二七番地先交差点

(三)  加害者 小型四輪自家用車(練馬五ま四二―六七号)

運転者 被告

(四)  被害車 ダイハツミゼツト(3多摩い一三一号)

運転者 原告中山

被害者 原告ら(原告下田は同乗中)

(五)  態様 加害車と被害車とが衝突

(六)  結果 原告中山は、脊椎不全損傷、椎弓骨折、左第四、第五腰椎横突起骨折、左下肢神脛麻痺、左挫骨神脛痛

原告下田は、左腓骨々折、左脛骨外踝骨折、右下腿部挫傷

二、(責任原因)

被告は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

三、(損害)

(一)  原告中山の損害

(1) 休業損害

原告中山は、右受傷に伴い、次のような休業を余儀なくされ八〇万円の損害を蒙つた。

休業期間 本件事故後一〇カ月

事故時の月収 八万円

(2) 慰藉料

原告中山の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情および次のような諸事情に鑑み一五〇万円が相当である。

(イ) 左足神脛障害の後遺症を残す見込みである。

(ロ) 原告中山の経営する中山石材店の営業を一時休業せざるを得ない状態となつた。

(3) 損害の填補

原告中山は被告から、既に四万五〇〇〇円の支払いを受け、これを休業補償に充当した。

(4) 弁護士費用

以上により、原告中山は二二五万五、〇〇〇円を被告に対し請求しうるものであるところ、被告はその任意の弁済に応じないので、弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、弁護士会所定の報酬範囲内で、三六万〇八〇〇円手数料並びに第一審判決言渡後に支払うことを約した。

(二)  原告下田の損害

(1) 休業損害

原告下田は、右受傷に伴い、次のような休業を余儀なくされ七〇万円の損害を蒙つた。

休業期間 本件事故後一〇カ月

事故時の月収 六万八、〇〇〇円

(2) 慰藉料

原告下田の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の事情および右受傷により左足関節運動制限の後遺症を残す見込みであるという諸事情に鑑み一二〇万円が相当である。

(3) 損害の填補

原告下田は被告から既に六万八〇〇〇円の支払いを受け、これを休業補償に充当した。

(4) 弁護士費用

以上により、原告下田は一八三万二、〇〇〇円を被告に対し請求しうるものであるところ、原告中山の場合と同様に原告訴訟代理人に二九万三一二〇円を手数料ならびに成功報酬として第一審判決言渡後に支払うことを約した。

四、(結論)

よつて、被告らに対し、原告中山は、二六一万五、八〇〇円のうち二六〇万円、原告下田は、二一二万五一二〇円のうち二一〇万円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四二年一〇月七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告の事実主張

一、(請求の原因に対する認否)

第一項中、(一)ないし(五)は認めるが、(六)は否認する。

第二項は、認める。

第三項は争う。

二、(抗弁)

(一)  過失相殺

本件事故現場の交差点は、優先道路の指定がなく、交通整理の行われていない場所である。本件事故は、右交差点に左方の道路から加害車と同時に入ろうとした被害車とが衝突したものであつて本件事故の発生については、原告中山の過失も寄与しているのであるから、同原告の賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

(二)  本件事故は、原告中山と被告双方の過失により発生したものであるから、右両者は原告下田に対する関係においては、共同不法行為者である。そこで、被告が共同不法行為者の一人として原告下田に対し負担すべき賠償義務のうち、原告中山の負担すべき割合につき、被告が原告中山に対して有する求償権をもつて相殺する。

(三)  損害の填補

原告らは、本件事故発生後、強制賠償保険金より、原告中山が休業補償一八万一九〇〇円、原告下田が休業補償、慰藉料一五四万五、二〇〇円の各支払を受けたので、右額は控除されるべきである。

第五、抗弁事実に対する原告らの認否

本件事故発生について、原告中山の過失も寄与していること、原告らが、被告主張の金額を受領したことは認める。

第六、証拠関係 〔略〕

理由

一、(事故の発生)

請求の原因第一項(一)ないし(五)(本件事故の発生)は、当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、本件事故により、原告中山は、背椎不全損傷、左第四、第五腰椎横突起骨折、左挫骨神経痛、原告下田は、左腓骨々折、左脛骨外踝骨折、右下腿部挫傷の各傷を受けたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二、(責任原因)

請求の原因第二項(責任原因)については、当事者間に争いがなく、右事実によれば、被告は、原告らに対し、本件事故により、原告らの蒙つた損害を自賠法第三条にもとづいて賠償する責任がある。

三、(過失相殺)

〔証拠略〕によれば、本件事故現場は、中央通りから、前方面に至る幅員五・五米の東西に通ずるアスフアルト舗装の道路と玉川上水から三谷通りに至る幅員四・一米の南北に通ずるアスフアルト舗装の道路とがほぼ直角に交わる交差点であつて、右交差点に東方から入る場合には、南側の角に生垣があり、又南方から入る場合にも同様に生垣があるため、互に自己の道路上からこれと交差する道路を見通すことは困難であること、原告中山は、原告車を運転して、東西に通ずる道路を東方から時速約二〇キロメートルに減速はしたが、一時停止することなく右交差点に進入したところ、折から、被告が被告車を運転して、南北に通ずる道路を南方から時速約四〇キロメートルの速度で、徐行又は一時停止することなく右交差点に進入してきたため、さける間もなく、交差点中央附近において原告車の左前部と被告車の右前部とが接触し、いずれも交差点の西北角の生垣に衝突して、停車したことが認められ、右認定に反する原告中山本人尋問の結果は措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。ところで、自動車の運転者は、本件事故現場のように左右の見通しのきかない交差点に進入する際には、あらかじめ減速して、左右の安全を確認し、危険を感じたときはいつでも停車できる状態で進行すべき義務があるところ、被告はこれを怠り又、車両は、交通整理の行われていない交差点に入ろうとする場合において、左方の道路から同時に当該交差点に入ろうとしている優先順位が同じである車両があるときは、当該車両の進行を妨げてはならない義務があるのに、原告中山はこれを怠り、本件事故が発生したものである。そうだとすれば、双方の過失の割合は五分、五分と認めるのが相当である。

四、(損害)

(一)  原告中山の損害

(1)  休業補償について

〔証拠略〕を総合すると、原告中山は、本件事故当時、中山石材店を実父中山徳太郎にかわり実際上経営し、平均月額八万円程度の所得があつたこと、ところが、同原告は、本件事故による受傷のため昭和四二年二月二六日から同年七月一七日まで多摩外科内科医院に入院し、退院後も引き続き、一カ月間通院加療を余儀なくされ、その間約六カ月にわたり右収入を得られなかつたことを認めることができ、右認定に反する原告中山本人尋問の結果は、前掲各証拠に照らし措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そこで、原告中山は、本件事故に遇わなければ、得られたであろうところの四八万円の利益を失つたことになるが、本件事故の発生については、前記認定のとおり原告中山にも過失があるので、これを斟酌するときは、その損害額は二四万円を相当とする。

(2)  慰藉料について

原告中山が本件事故により、前記傷害を受け、入院、通院をしたこと、本件事故の発生について、原告中山の過失も一因をなしていることは、前記認定のとおりである。そして、〔証拠略〕によれば、右傷害はほぼ治癒したことを認めることができる。これらの事情を総合すると、本件事故により、原告の蒙つた精神的苦痛を金銭にかえると三〇万円を相当とする。

(3)  被告の一部弁済について

原告中山が強制保険金一八万一九〇〇円を受領し、これを休業補償に充当したことは、当事者間に争いがないから、右金額を控除すると三五万八一〇〇円となる。

(4)  被告の求償権の行使について

被告は、原告下田に対し負担すべき損害賠償額の一部につき、共同不法行為者たる原告中山に対して求償権を行使すると主張する。しかし、共同不法行為者各自の負担する賠償義務は不真正連帯の関係にあるから、一方が共同の免責を得たときに始めて、他方に求償しうるものであつて、このことは、求償権の行使が賠償額の確定と同時に判決される場合であつても本件の債務名義が執行されるかどうかも確定できないからその取扱を異にすべきでなく、被告の主張は理由がない。

(5)  弁護士費用について

〔証拠略〕によれば、原告中山は、被告が本件損害賠償の請求に応じないので、原告代理人にその取立を委任し、手数料並びに成功報酬として、第一審判決の認容金額の一割六分にあたる金額を第一審判決と同時に支払うことを約束したことを認めることができる。そうだとすれば、右金額のうち、本訴認容金額のほぼ一割にあたる四万円を被告に負担させるを相当とする。

(二)  原告下田の損害

(1)  休業補償について

〔証拠略〕を総合すれば、原告下田は、本件事故当時中山石材店に勤務し、平均月額七万円程度の収入を得ていたこと、同原告は本件事故により、昭和四二年二月二六日から同年七月三一日まで入院、加療したが、左足関節硬直の後遺症を残したまま、中山石材店をやめて帰郷を余儀なくされ、少くとも一〇カ月間は収入を得られなかつたことを窺うことができる。従つて、原告下田は少くとも七〇万円の得べかりし利益を失つたものと認められる。

(2)  慰藉料について

原告下田が本件事故により、前記傷害を受けて入院したが、前記後遺症のあることは先に認定したとおりである。そうだとすると、本件事故により原告下田の蒙つた精神的苦痛金銭にかえると、一二〇万円を相当とする。

(3)  保険金の受領と充当

原告下田は、強制保険金一五四万五二〇〇円を受領し、これを休業補償及び慰藉料に充当したことは、当事者間に争いがないから、残額は三五万四八〇〇円となる。

(4)  弁護士費用について

〔証拠略〕によれば、原告下田は原告中山と同様に手数料の支払を約したことを認めることができる。そうだとすれば、右金額のうち、本訴認容金額のほぼ一割にあたる四万円を被告に負担させるを相当とする。

五、(結論)

原告中山は、被告に対し三九万八一〇〇円、原告下田は、三九万四八〇〇円及び右各金員に対して訴状送達の日の翌日であること記録上明かな昭和四二年一〇月七日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用については民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言については、同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 福永政彦)

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