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東京地方裁判所 昭和42年(レ)218号 判決 1969年12月04日

控訴人 斉藤治一

右訴訟代理人弁護士 土屋博

同右 田中英雄

被控訴人 降旗良一

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し東京都渋谷区西原二丁目二〇番七の土地の内別紙図面記載のADIBCHAの各点を順次結んだ直線内の土地上に設置した門板塀を撤去せよ。

被控訴人は右ADIBCHAの各点を順次結んだ直線内の土地に建物等一切の工作物を設置してはならない。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一、控訴人

1、主文同旨の判決

2、(主文二、三項の請求が認められない場合の予備的請求として)

被控訴人は控訴人に対し別紙図面記載のADIHAの各点を順次結んだ直線内の土地に設置した門等を撤去せよ。

二、被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

一、控訴人の請求原因

1、(一)、控訴人は昭和二九年三月一九日、東京都渋谷区西原二丁目二〇番八、宅地七・五三七一平方メートル(以下二〇番八の土地という)を、被控訴人は昭和二九年二月二二日、同所二〇番九、宅地七・五〇四〇平方メートル(以下二〇番九の土地という)を、それぞれその所有者であった訴外岩間ぎんから買受けて所有している。

(二)、二〇番八の土地は別紙図面ADEFIHAの各点を結ぶ直線に囲まれた土地であり、二〇番九の土地は別紙図面HIFGBCHの各点を結ぶ直線に囲まれた土地である。

(三)、昭和二九年三月頃、控訴人と被控訴人の間で、二〇番八および九の土地の内別紙図面ADIBCHAの各点を順次直線で結んだ範囲の土地(一・六五二平方メートル。以下、ADIBCHAの土地という)を、控訴人および被控訴人がそれぞれ所有する同所二〇番六および二〇番七の各土地から公道へ出るための道路の一部として共同で使用し、その土地内には建物等一切の工作物を設置しない旨の共同通行地役権設定契約を結んだ。

(四)、しかるに、被控訴人は、右ADIBCHAの土地は自己の所有地であるとしてその上に門等を設置した。

(五)、よって、控訴人は被控訴人に対して、右地役権に基づいて、右土地上に設置された門等の撤去と、同土地上に建物等一切の工作物を設置しないことを求める。

2、仮に右請求は理由がないとしても、

(一)、1(一)、(二)記載のとおり別紙図面ADIHAを結ぶ線で囲まれた土地(以下、ADIHAの土地という)は控訴人の所有である。

(二)、仮に(一)が認められないとしても、控訴人は昭和二九年二月二四日以降現在まで右土地を所有の意思をもって占有し、しかも占有の始めにおいて無過失であったから昭和三九年二月二五日には右土地を時効によって取得したからこれを援用する。

(三)、よって控訴人は所有権に基いて、右土地上に被控訴人が設置した門等の撤去を求める。

3、仮に以上の請求はいずれも理由がないとしても

(一)、控訴人所有の二〇番六の土地は周囲をほとんど他人所有の土地に囲まれ、公道への通路は二〇番八の土地のみであるところ、別紙図面ADIHAの土地が控訴人の所有ではないとすると、二〇番六の土地から二〇番八の土地へ通じる箇所の巾は〇・九八五メートルしかない。従って人の通行には不充分であり、仮に単に人が通行するには充分であるとしても、二〇番六の土地での居住に必要な荷物の運搬、災害時の避難、救助のための通行には充分とはいえず、結局二〇番六の土地は民法二一〇条にいう他の土地に囲繞されて公路に通じない土地に該当する。

(二)、よって控訴人は民法二一〇条に定める囲繞地通行に基づき、被控訴人が別紙図面ADIHAの土地上に設置した門等の撤去を求める。

二、被控訴人の答弁

1、請求原因1、中(一)は認める。

2、請求原因1、(二)は否認する。

二〇番八、九の土地はそれぞれ別紙図面DEFIDの各点を直線で結ぶ土地およびIFGBIの各点を直線で結ぶ土地であり、別紙図面ADIHAの土地およびHIBCHの各点を直線で結ぶ土地はいずれも被控訴人所有の二〇番七の土地の一部である。

3、請求原因1、(三)は否認する。

4、請求原因1、(四)は認める。

5、請求原因2、(一)、(二)は否認する。

6、請求原因3、(一)は否認する。

第三証拠関係≪省略≫

理由

一、控訴人が昭和二九年三月一九日に二〇番八の土地を、被控訴人が同年二月二二日に二〇番九の土地をそれぞれ前所有者訴外岩間ぎんから買受け所有していることは、当事者間に争いがない。

二、そこで別紙図面ADIBCHAの土地が二〇番八および九の土地の一部であるとの主張について判断する。≪証拠省略≫を綜合すれば、二〇番八および九の土地はそれぞれ別紙図面DEFIDの各点を直線で結ぶ土地およびIFGBIの各点を直線で結ぶ土地であり、別紙図面ADIBCHAの各点を直線で結ぶ土地は二〇番七の土地の一部であることが認められる。≪証拠省略≫中右認定に反する部分は右にあげた証拠に照らして信用できず、他に右認定に反する証拠はない。

三、一方≪証拠省略≫を総合すれば、二〇番七ないし九の土地は元東京都渋谷区代々木西原町九六二番の一三という地番の一筆の土地であって、訴外岩間ぎんの所有に属していたこと、同人は昭和二九年二月二二日右九六二番の一三の土地を現在の二〇番七、八、九にそれぞれ対応する九六二番三一、一三、三三に分筆するとともに、同番の三一、三三を被控訴人に売渡し所有権移転登記をしたこと、岩間ぎんは右売買契約および分筆のための測量など一切の事務を訴外表岩次郎に任せていたこと、岩間ぎんは昭和二九年三月一九日九六二番の一三(現在の二〇番八)の土地を控訴人に売渡し所有権移転登記をしたが、その際前記のように九六二番の一三の土地の分筆は一切表岩次郎に任せていて、分筆後の土地の境界を充分に知らないため、表が誤って実際は九六二番の三一(現在の二〇番七)に含まれている別紙図面ADIHAの土地をも九六二番の一三(現在の二〇番八)の土地の一部として指示していることを看過し、誤った指示のままに、右ADIHAの土地を含むものとして九六二番の一三を控訴人にも売渡したことが認められる。右認定に反する証拠はない。

四、従って、二〇番七の土地の一部分である別紙図面ADIHAの土地は、岩間ぎんから控訴人と被控訴人に二重に譲渡されたことになるが、三に認定したとおり控訴人が右土地を譲り受けることを約したのは被控訴人が既に九六二番の三一(現在の二〇番七)について所有権移転登記を了えたのちであるから、もはや他人の所有に帰した土地を売買することを約したことになり、これによってただちに控訴人が別紙図面ADIHAの土地の所有権を取得する余地はなかったものと言わなければならない。

五、次に共同通行地役権設定契約の成立について判断する。原審における検証の対象であった録音テープ中、昭和三九年九月二六日の訴外岩間晃、表岩次郎、被控訴人および控訴人の対話の録音であることについて当事者間に争いがない部分および昭和三九年一〇月一二日の被控訴人およびその妻と控訴人との対話の録音であることについて当事者間に争いのない部分の検証の結果、原審および当審における控訴人本人尋問、原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、昭和二九年三月に控訴人が九六二番の一三(現在の二〇番八)の土地を買受けた後、三に認定したように別紙ADIHAの土地が二重に売買されたことに気付いた控訴人および被控訴人が話し合った結果当時公道から九六二番の三一(現在の二〇番七)、九六二番の二九(現在の二〇番六)に通じる私道として利用されていた九六二番の一三、三三(各現在の二〇番八、九)および九六二番の三一(現在の二〇番七)のうち別紙図面ADIBCHAの土地をあわせた別紙図面ADEFGBCHAの各点を直線で結んだ土地は今後もそのまま私道として共同で利用することとし、被控訴人は当時別紙図面のA点とC点を結ぶ線上に設置してあった同人方の門を朽廃によって作りかえることがあっても、A点C点を結ぶ線より私道側へは出さない旨の合意が成立したことが認められる。右認定に反する当審における被控訴人本人尋問の結果は、右にあげた証拠に照して信用できず、他に右認定に反する証拠はない。

そこで右合意の性質について考えてみるに、原審における本件土地の検証および弁論の全趣旨によって認められる右私道部分は二〇番八と九の境界を中心とした中央の部分のみがコンクリート舗装され通行の便に供されていること、右私道部分が公道に面する部分の間口は約一、八メートル(一間)にすぎず二〇番八、九の土地の幅はそれぞれ約〇、九メートル(三尺)にすぎないこと、控訴人所有の二〇番六の土地、および被控訴人所有の二〇番七の土地のうち別紙図面ADIBCHAの土地を除いた部分が右私道部分に面する間口はそれぞれ約一、八メートル(一間)にすぎないこと、以上の事実に建築基準法四三条の規定などをあわせ考えると、右合意は控訴人被控訴人間で相互に、控訴人は別紙図面ADIBCHAの土地を除く二〇番七の土地を要役地として、二〇番八の土地についてこれを通路としてのみ使用する地役権を設定し、被控訴人は二〇番六の土地を要役地として二〇番七の土地のうち別紙図面ADIBCHAの部分および二〇番九の土地についてこれを通路としてのみ使用する地役権を設定し、右私道部分に通行の妨げとなるような門などの工作物を一切設置しないことを約したものと解するのが相当である。

六、被控訴人が別紙図面ADIBCHAの土地の上に門等を設置していることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば右土地上の門等の工作物とは具体的には被控訴人所有の門、および板塀で別紙図面記載の位置に設置されているものを指称することは明らかである。

七、以上によれば、控訴人の被控訴人に対する別紙図面ADIBCHAの土地上に設置された門、板塀の撤去を求める主位的請求は理由があり、また被控訴人が右土地について共同地役権設定契約の成立を争っていることは、本件訴訟記録に照らして明らかであるから、予め右土地上に一切の工作物を設置してはならないとの請求をする必要も認められ、控訴人の被控訴人に対する、右土地上に建物等一切の工作物を設置してはならないとの不作為の請求もまた理由がある。

従って控訴人の予備的請求については判断するまでもなく、控訴人の請求を認容すべきところ、これを棄却した原判決は失当であり、控訴は理由があるから、民事訴訟法三八六条によって原判決を取消して控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用について同法九六条、八九条を適用し、仮執行宣言の申立は相当でないからこれを却下して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺忠之 裁判官 山本和敏 西田美昭)

<以下省略>

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