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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)8107号 判決 1977年2月28日

東京都千代田区丸の内三丁目五番一号

原告 東京都

右代表者知事 美濃部亮吉

右指定代理人 大川之

<ほか三名>

東京都江東区深川東雲町地先一〇号地

被告 株式会社東雲スポーツセンター

右代表者代表取締役 庄司峰雄

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 大庭登

同区深川東雲町地先一〇号地 株式会社東雲スポーツセンター事務所内

被告 東雲ゴルフクラブ

右代表者理事 庄司峰雄

右訴訟代理人弁護士 小木貞一

同区有明二丁目一番五号有明寮内

被告 山口義広

同所同番同号

被告 中島要

右二名訴訟代理人弁護士 青柳孝夫

同 真部勉

同所同番同号

被告 渡部動

<ほか二名>

主文

一  原告に対し、被告株式会社東雲スポーツセンターは、別紙第三目録の一記載の建物を収去して、被告東雲ゴルフクラブは、同建物から退去して、いずれも同第一目録の二及び三記載の土地を明け渡すとともに、右被告両名は、同第二目録の一記載の建物を明け渡し、かつ、被告株式会社東雲スポーツセンターは金七八三五万四〇六五円とこれに対する昭和四〇年一一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員、同月一日から別紙第一目録の二及び三記載の土地の明渡しずみまで一か月金三三五万七三三七円の割合による金員及び同日から昭和四一年五月二四日まで年二六万五四八六円、同月二五日から同第二目録の一記載の建物の明渡しずみまで一か月金四万一四五〇円の割合による金員を、被告東雲ゴルフクラブは、金三六九七万六五七二円とこれに対する昭和四〇年一一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員、昭和四〇年一一月一日から別紙第一目録の二及び三記載の土地の明渡しずみまで一か月金三三五万一三五一円及び昭和四一年五月二五日から同第二目録の一記載の建物の明渡しずみまで一か月金四万一四五〇円の割合による金員を(被告東雲ゴルフクラブが支払うべき金員の額の限度においては、右被告両名が連帯して)支払え。

二  原告に対し、被告小磯甲治は、別紙第二目録の二の(二)記載の建物部分を、被告後藤源治は、同(三)記載の建物部分をそれぞれ明け渡せ。

三  原告に対し、被告山口義広は、別紙第三目録の二の(二)及び(四)記載の建物部分から、被告中島要は、同(三)及び(四)記載の建物部分から、それぞれ退去してその底地部分を明け渡せ。

四  原告に対し、被告土屋真美は、同第四目録の一記載の建物を収去して、被告渡部動は、同目録の二の(一)の建物部分から退去して、いずれもその底地部分を明け渡せ。

五  被告株式会社渡部製作所は、原告に対し、別紙第四目録の二の(二)記載の建物部分から退去し、同第五目録記載の建物を収去して、その各底地部分を明け渡せ。

六  原告の被告株式会社東雲スポーツセンター及び同東雲ゴルフクラブに対するその余の請求を棄却する。

七  訴訟費用は、被告らの負担とする。

八  この判決のうち金員の支払を命ずる部分は担保を供することなしに、その余の原告勝訴部分は、原告において被告株式会社東雲スポーツセンター、同東雲ゴルフクラブに対し各金二五〇〇万円、被告土屋真美、同株式会社渡部製作所に対し各金一〇〇万円、その余の被告らに対し各金二〇万円の担保を供するときは、当該被告に対して、仮に執行することができる。

九  金員の支払を命ずる部分については被告株式会社東雲スポーツセンターにおいて金三〇〇〇万円、同東雲ゴルフクラブにおいて金一五〇〇万円、その余の原告勝訴部分については、被告株式会社東雲スポーツセンター、同東雲ゴルフクラブにおいて各金三〇〇〇万円、被告土屋真美、同渡部製作所において各金一二〇万円、その余の被告らにおいて各金二五万円の担保を供したときは、当該被告に対する前項の仮執行を免れることができる。

事実

一  申立て

(一)  請求の趣旨

1  原告に対し、被告株式会社東雲スポーツセンター(以下「被告会社」という。)は別紙第三目録の一記載の建物(以下「第三建物」という。)を収去して、被告東雲ゴルフクラブ(以下「被告クラブ」という。)は同建物から退去して、いずれも同第一目録の二及び三記載の土地(以下「二、三の土地」という。)を明け渡すとともに右被告両名は、同第二目録の一記載の建物(以下「本件建物」という。)を明け渡し、かつ、連帯して金八八三六万八四六二円とこれに対する昭和四〇年一一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員、昭和四〇年一一月一日から二、三の土地の明渡しずみまで一か月金三一八万九八五七円の割合による金員及び昭和四〇年一一月一日から本件建物の明渡しずみまで一か月金四万一四五〇円の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  主文第二ないし第五及び第七項と同旨。

3  仮執行の宣言。

(二)  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

二  主張

(一)  請求原因

1  原告の所有権

(1) 原告は、別紙第一目録の一、二記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有している。すなわち、本件土地は、もと海面であったところ、原告の前身である東京市(昭和一八年七月一日、東京都制の施行により原告がその地位を承継した。)が、昭和一一年一一月一九日埋立ての免許を受け、埋立て造成をした第一〇号埋立地の一部であり、別紙竣功認可表記載のとおり、竣功認可を受け、右認可は、いずれもその頃告示されて、原告がその所有権を取得したものである。

(2) 被告会社は、昭和二七年一二月頃別紙第二目録の一の(一)記載の建物を、昭和二九年九月頃同(二)記載の建物を、昭和三一年一二月頃同(三)及び(四)記載の建物を建築してその所有権を取得した上、昭和三二年七月一五日、原告に対し、右各建物を一括して贈与する旨書面をもって申し込み、原告は、同月三一日、被告に対し、右申込みを承諾する旨の書面による意思表示をした。

2  被告らの占有

(1) 昭和三八年九月一日より以前から、被告会社は、本件三の土地上に第三建物を所有し、被告クラブは、右建物を使用して、いずれもその底地部分を含め本件二、三の土地全体を共同して占有するとともに、本件建物を共同して使用占有している。

(2) 被告小磯甲治(以下「被告小磯」という。)は、本件建物のうち別紙第二目録の二の(一)記載の建物部分に、同後藤源治(以下「被告後藤」という。)は、同(二)記載の建物部分に、それぞれ居住してこれを占有している。

(3) 被告山口義広(以下「被告山口」という。)は、第三建物のうち別紙第三目録の二の(一)及び(三)記載の建物部分を、同中島要(以下「被告中島」という。)は、同(二)及び(三)記載の建物部分を(同(三)記載の建物部分は右被告両名が共同して)それぞれ使用して各底地部分を占有している。

(4) 被告土屋真美(以下「被告土屋」という。)は、本件三の土地上に別紙第四目録の一記載の建物を所有して各底地部分を占有している。

(5) 被告渡部動(以下「被告渡部」という。)は、別紙第四目録の一記載の建物のうち同目録の二の(一)記載の建物部分を使用し、被告株式会社渡部製作所(以下「被告渡部製作所」という。)は、右建物のうち同(二)記載の建物部分を使用するほか、本件三の土地上に同第五目録記載の建物を所有して、いずれも各底地部分を占有している。

3  請求

よって、原告は、本件土地及び建物の所有権に基づき、被告らに対し、請求の趣旨記載のとおり、本件建物ないしその一部の明渡し、別紙第三ないし第五目録記載の建物ないし建物部分の退去あるいは収去、本件土地の全部又は一部の明渡しを求めるとともに、被告会社及び被告クラブに対し、昭和三八年九月一日から昭和四〇年一〇月三一日まで、別紙第一目録の一記載の土地につき一か月坪当たり二六円、同二記載の土地につき同二一円、本件建物につき一か月四万一四五〇円の各割合による賃料相当損害金八八三六万八四六二円とこれに対する同年一一月二五日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金及び昭和四〇年一一月一日から三の土地の明渡しずみまで一か月三一八万九八五七円の、昭和四〇年一一月一日から本件建物の明渡しずみまで一か月四万一四五〇円の各割合による賃料相当損害金の連帯支払を求め、右金員請求が認められないときは、被告会社に対し、予備的に右棄却部分と同額の賃料、使用料及び弁済期経過後の遅延損害金の支払を求める。

(二)  請求原因に対する認否

1(1)  請求原因1(1)の事実のうち本件土地の竣功認可の経過は不知、その余の事実は認める。

(2) 同1(2)の事実をすべて否認する。なお、本件建物は、被告クラブが合計約二四七〇万円の費用を投じて建築したものであり、被告クラブの所有(クラブ員全員の総有)に属する。

2  同2(1)のうち昭和三八年九月一日以前から、被告会社が本件三の土地上に第三建物を所有し、被告クラブが別紙第三目録の一の1、2、4、5、6、9の各建物を使用して、それぞれその底地部分を含め本件二、三の土地全体を共同して占有している事実及び被告会社が本件建物を使用している事実を認め、その余の事実を否認する。同(2)ないし(5)の事実は認める。

3  同3の事実は争う。

(三)  抗弁

1  被告会社の永小作権

(1) 本件土地は、原告が公有水面をサンドポンプ方式によって埋立てたものであるため、昭和二七年四月当時は、海底から吸上げられた土砂、貝殻、木片等が混然と堆積される一方、沼及び湿地が点在し、しかも一面に雑草が茂る荒蕪地の状態にあった。

(2) そこで、被告会社は本件土地に将来ゴルフ場を設置することにつき原告の内諾を得た上、昭和二七年三月頃から昭和二九年九月に至るまで、約一億円の費用を投じて本件土地の整備、改良を行うとともに、水路及び道路の開設をした。

(3) このように、被告会社は、本件土地を開墾して昭和二九年九月頃に緑地化を完成した。そして、本件土地は、ゴルフ場敷地として芝の育成を目的とするものといえる。更に、被告会社は、昭和二七年九月一日、原告から本件土地の使用を許され、坪当たり月額二円五〇銭の割合による使用料を支払っているが、その実体は小作料に当たる。

(4) 以上の事実からすると、被告会社は、本件土地について前記開墾によって、昭和二九年九月頃、慣行永小作権を取得したというべきである。

2  被告会社の土地賃借権

(1) 被告会社は、昭和二七年九月一日、原告から本件土地を含む第一〇号埋立地の一部、約五三万平方メートルを、ゴルフ場用の芝生の栽培や植樹及びゴルフハウスその他の建物を所有する目的で、賃料坪当たり月額二円五〇銭、期間「半永久的」との定めで賃借した。

(2) ところで、当時右土地は未竣功埋立地であり、国の権利に属していたから、その賃貸借については国有財産法が適用され、右賃貸借の期間は、同法第二一条第一項第一号により六〇年、あるいは同項第二号により三〇年とみるべきである。

(3) 仮に国有財産法の適用がないとしても、右賃貸借はゴルフハウスその他の建物の所有を目的としているから、借地法の適用があり、右賃貸借の期間は、同法第二条により三〇年である。

(4) 仮に原告主張のように期間が一年あるいは五年と定められていたとしても、借地法第一一条によりそのような定めは無効であり、同法第二条により三〇年となる。

(5) 仮に右賃貸借の主張が認められないとしても、被告会社は、原告から

イ 昭和三五年一〇月三日、別紙第一目録の一記載の土地のうち別紙図面(六)の黄色及び赤色でそれぞれ囲む部分合計二〇万三〇三四・三〇平方メートルを、

ロ 昭和三六年九月一日、別紙第一目録の一記載の土地のうち別紙図面(六)の橙色で囲む部分、二〇万四〇八二・七一平方メートルをいずれも、土地の改良、水路の開設、植樹、芝生等の栽培、ゴルフコースの構築、ゴルフハウスその他の建物及び工作物の建築所有の目的で、賃料坪当たり月額五円、期間三〇年の定めにより賃借した。

3  本件建物贈与の無効

(1) 被告会社は、前記1(2)の開墾工事をしたほか、本件土地について昭和三九年四月頃までの間に合計約二億九七三〇万円を投じてゴルフ場施設及び付帯設備を建設するとともに、被告クラブは、前記のとおり、本件建物を約二四七〇万円を費して建築した。その結果、本件土地の現在の価格は、一〇〇億円を下らないものとなった。

(2) ところが、原告は、右完成直後、これらを原告に寄附する旨の約束を被告会社に締結させた。

(3) しかし、右約束は、原告主張の一年ごとになされる「貸付契約」の条項に含まれていたものであって、被告会社としては、右約束をしなければ、以後原告から本件土地の使用を拒否されるかもしれないという弱い立場にあり、右約束を含む貸付契約に応じるほかはなかった。

(4) 以上の事実からすると、右の約束は、土地所有者である原告が、弱者である被告会社から過当な財産的利益を得ることを目的とするものであって、公序良俗に反し無効というべく、その履行としてなされた贈与の申込みもまた無効である。

4  被告会社の建物賃借権

仮に本件建物の贈与が有効としても、被告会社は、昭和三二年一二月一四日、原告から本件建物を、賃料年額一三万円の約で、期間の定めなしに賃借した。

5  その余の被告ら(被告渡部製作所を除く。)の占有権原

(1) 被告クラブは、被告会社が本件土地の使用を許された昭和二七年九月一日頃、本件土地の使用を被告会社から許されている。また、被告山口及び同中島は原告主張の各占有建物部分を被告会社から賃借し、被告土屋は原告主張の占有土地を被告会社から使用借し、被告渡部は原告主張の占有建物部分の使用を被告土屋から許諾されている。

(2) 被告小磯及び同後藤は、本件建物のうち原告主張の各占有部分の使用を被告会社から許諾されている。

6  金員請求に対する相殺

(1) 被告会社は、昭和三二年九月一日から昭和三八年八月三一日までに別紙第一目録の一及び二記載の土地の使用料として、別表Aの既払使用料欄記載のとおり合計一億二〇〇九万六五〇一円を支払った。この間の使用料は、坪当たり月額五円が適正であるにもかかわらず、被告会社は、誤ってこれを超える金額を支払ってきたものであるから、原告は、支払額と相当額との差額(同表超過支払額欄記載のとおり、その合計は、七一五一万二六八一円となる。)を法律の原因なくして利得したものというべきである。仮に使用料増額の合意がなされたとしても、前記3記載と同一の事情により、その部分は、公序良俗に反し無効というべきである。

(2) そこで、被告会社は、昭和四九年五月一三日の本件口頭弁論期日において、右債権をもって原告の賃料相当の損害金債権又は賃料債権と、その対当額について相殺する旨の意思表示をした。しかして、本件土地の適正賃料を前記5(1)のとおり坪当たり月額五円とすると、右超過払金額は、一〇九か月分の賃料相当額を下らないものというべく、したがって、少くとも昭和三八年九月一日から一〇九か月を経た昭和四七年九月三〇日までの賃料相当の損害金債権又は賃料債権は消滅したことになる。

(四)  抗弁に対する認否

1  抗弁1(1)の事実を否認する。本件土地は、昭和二七年四月当時にはすでに宅地として利用できる状況にあり、荒蕪地の状況にはなかった。同(2)の事実は不知。同(3)の事実中、原告が被告会社に被告ら主張の頃本件土地の使用を許諾し、主張の額を報償金として受領したことは認めるが、その余の主張は争う。同(4)の主張は争う。

2  抗弁2(1)のうち、原告が被告会社に対し、被告ら主張の日に主張の土地の使用を許したことは認めるが、その余の事実は否認する。同(2)のうち当時右土地が未竣功埋立地であったことは認めるが、その余の主張は争う。同(3)、(4)の主張も争う。

原告は、本件土地を、竣功認可後には埋立免許申請の際定められた埋立利用計画に従って、港湾開発行政のため利用処分する予定であったので、公有水面埋立法第二三条に定める埋立地使用権に基づき、右計画実施までの間暫定的に、被告会社への本件土地の使用を許すことにしたが、右使用が長期化することにより右計画の実施に支障を来さないようにとの配慮から、使用目的をレクリエーション用地、期間を使用承認後一年、但し五年を限度として更新することができる、報償金を月坪当たり二円五〇銭等と定めて使用承認を与えたものである。また、本件土地上には建物や工作物が存在するが、それは右使用目的に従って本件土地を使用する手段として構築されたものにすぎず、借地法の適用はない。

抗弁2(5)は、目的、賃料の額及び期間の点を除いて認める。

前記昭和二七年の使用承認後、昭和三八年八月三一日に至るまで、毎年期間を一年と定めて使用承認が更新されてきたが、この間本件土地の大部分が順次竣功認可を受け、原告の所有となったので、竣功地については賃貸借契約を締結した。また、地方自治法(昭和三八年六月八日法律第九九号による改正前のもの)第二四三条第二項、昭和二四年五月一九日東京都条例第五四号第七条、第九条等により、昭和三五年一〇月三日以降の土地賃貸借契約には都議会の議決による承認が必要とされることになり、それ以後は、毎年、竣功地につき都議会の議決による承認を停止条件とする賃貸借契約を締結し、議会の承認決議を得てから、未竣功地の使用承認と本件建物の賃貸借契約の締結をしてきた。そして、最終的には、竣功地であった本件一の土地について、使用目的をゴルフ場その他レクリエーション施設、期間を昭和三七年九月一日から昭和三八年八月三一日まで、賃料を月額二五八万六二一〇円(坪当たり二一円)とする賃貸借、未竣功地である本件二の土地につき、使用目的、期間を右と同一、使用料を月額一三万五五七九円(坪当たり一七円)とする使用承認をしたものである。

3  抗弁3(1)の事実は否認する。なお、本件建物を建築したのは被告会社である。同(2)の事実は認める。同(3)のうち本件使用承認に主張の条項が含まれていたことは認めるが、その余の事実は否認する。同(4)の主張は争う。

4  抗弁4の事実は、期間の点を除いて、認める。期間は、昭和三三年八月三一日までの定めであった。本件建物の賃貸借は、本件土地と同様に、その後期間を一年とする賃貸借が更新されてきたが、最終的には、期間を昭和三七年九月一日から昭和三八年八月三一日まで、賃料を年額二六万五四八六円とするものであった。

5  抗弁5(1)の事実中、被告会社がその主張の間に本件土地の使用料を支払ったことを認め(但し、その額は、別表B記載のとおり、合計一億一九九一万五九六三円である。)、その余の事実を否認し、使用料増額の合意が公序良俗に反するとの主張を争う。なお、使用料は、別表Bの「しゅん功地」及び「未しゅん功地」欄中、各「月坪当単価」欄記載のとおり、原告と被告会社との間で合意により順次増額されたものである。同(2)の事実中、相殺の意思表示がなされたことを認め、その余の点は争う。

(五)  再抗弁

1  期間満了による賃貸借等の終了

本件土地及び建物の賃貸借又は使用承認は、いずれも一年ごとに更新が続けられてきたが、昭和三八年八月三一日の経過とともに期間満了により終了するに至った。

2  賃貸借等の解約申入

仮に本件賃貸借又は使用承認が、期間の定めのない賃貸借に当たるとしても、原告は、被告会社に対し、(イ)昭和三八年一一月二九日到達の書面をもって、(ロ)更に、昭和四〇年一一月二四日到達の訴状をもって、本件土地及び建物の返還を求めたが、右返還請求には、前記使用承認又は賃貸借契約を解約する旨の意思表示が含まれているとみるべきである。

3  本件建物賃貸借と借家法の関係について

(1) 本件建物は、前記のとおり、原告が被告会社から贈与を受けた上、被告会社が本件土地の使用目的を達成する手段として使用するために賃貸されたものであるところ、本件土地は、竣功認可後は原告が埋立免許の申請の際定められた埋立利用計画に従って港湾開発行政のために利用・処分する予定であり、その賃貸又は使用承認は右計画実施までの間暫定的になされたものであった。したがって、本件建物の賃貸借は短期に限って存続させることについて合理的な事情があり、借家法の適用がないから、遅くとも本件土地の賃貸借又は使用承認の終了とともに終了する。

(2) 仮に本件建物について借家法の適用があるとしても、右敷地を含む第一〇号埋立地は、前記埋立利用計画に従って、木材工業団地用地、臨海道路用地、住宅団地用地及び臨海鉄道用地として原告において総合的に利用する必要があるのみならず、本件建物は前記のとおり本件土地の使用目的を達成する手段に供するために賃貸されたものであるから、本件土地の賃貸借又は使用承認が終了するときは本件建物の賃貸借を解約する正当事由があるというべきである。

(3) したがって、本件土地の賃貸借又は使用承認は前記2の各解約申入れの日から一年を経過した昭和三九年一一月二九日又は昭和四一年一一月二四日をもって、本件建物の賃貸借は同じく六か月を経過した昭和三九年五月二九日又は昭和四一年五月二四日若しくは本件土地の賃貸借又は使用承認の前記終了日あるいは口頭弁論終結日の昭和五〇年八月四日をもって終了した。

(六)  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の事実を否認する。

2  再抗弁2のうち原告主張の書面が主張の頃到達したことを認め、その余の主張を争う。

3  再抗弁34の主張を争う。

三  立証≪省略≫

理由

一  ≪証拠省略≫を総合すると、本件土地は、もと海面であったところ、原告の前身である東京市(昭和一八年七月一日に東京都制の施行により、原告がその地位を承継したことは、当裁判所に顕著である。)が昭和一一年一一月一九日埋立ての免許を受け、埋立て造成をした第一〇号埋立地の一部であること、原告は、別紙竣功認可表記載のとおり、四回に分けて本件土地の竣功認可を受け、右認可は、いずれもその頃告示されたことを認めることができ、右事実によれば、原告は、右各告示の日に順次本件土地の所有権を取得したものというべきである。更にまた原告は、竣功認可の告示前においても、公有水面埋立法の定めるところに従い、埋立地を使用収益することができ、右使用収益権に基づいて第三者に埋立地の使用を許諾し、使用の対価を徴収し得るとともに、埋立地を権原なく占有する者があるときは、この者に対し、使用収益を妨げられたことによる損害の賠償を請求することができるものといわなければならない。

二  そこでまず、被告会社及び被告クラブに対する本件二、三の土地の明渡請求について判断する。

(一)  昭和三八年九月一日より以前から、被告会社が本件三の土地上に第三建物を所有し、被告クラブが右建物のうち別紙第三物件目録一の1、2、4、5、6、9、の各建物を占有して、各その底地部分を含め本件二、三の土地全体を共同して占有していることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、被告クラブは第三建物のうちその余の建物も昭和三八年九月一日以前から使用占有していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  被告らは、被告会社の占有権原として、永小作権を主張する。

原告が昭和二七年九月一日被告会社に対し、本件二、三の土地を含む本件土地全部(当時いずれも竣功認可前であったことは前認定のとおり。)の使用を許諾したこと自体は当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、被告会社は、ゴルフ場を含むレクリエーション用地として使用する目的で、原告から右許諾を受け、ゴルフ場を開設するため、本件土地に芝を育成してその緑地化を図ったことを認めることができる。しかし、永小作権は耕作又は牧畜を目的とする権利であり(民法第二七〇条)、右にいう耕作とは、土地に労力を加えて穀物、野菜、果樹等を栽培収穫すること自体によって当該土地の使用収益を図ることを目的とするものをいうと解すべきところ、本件における芝の育成はそのこと自体によって本件土地の使用収益を図るものではなく、本件土地をゴルフ場として使用するための一つの設備すなわち手段にすぎないことは、右認定事実に照らして明らかであり、芝の育成による本件土地の緑地化をとらえて永小作権の目的である「耕作」に当たるということはできないから、被告らの永小作権の抗弁は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

(三)  被告らは、予備的に被告会社の賃借権を主張するので、次にこの点について判断する。

1  原告が昭和二七年九月一日被告会社に対し、ゴルフ場を含むレクリエーション用地として使用する目的で、当時竣功認可前であった本件土地の使用を許諾したことは前示のとおりである。また、右使用許諾に際し、被告会社が原告に対して、賃料か報償金かの点はさておき、一か月坪当たり二円五〇銭の金員を支払うこととなった事実は、当事者間に争いがなく、本件土地に対する埋立免許を受けた者としての原告の使用収益権が原告の行政財産とされていたと認めうる証拠はない。そして、≪証拠省略≫を総合すると、前記使用許諾は、手続上、被告会社の借地許可申請に対し、原告が条件を定めて使用を承認し、被告会社にその請書を提出させるという方式で行われたこと、原告がこのような方式をとったのは、竣功認可の告示前であるため本件土地の所有権をまだ取得していない点を考慮したのが主たる原因であること、最初の使用承認には、条件の一つとして、使用期間を使用承認後一年とし、昭和三二年八月末日を限度として都知事において更新することができる旨定められていたこと、その後使用承認は毎年更新され、昭和三二年八月末日を経過したのちも、更新が続けられ、使用承認の条件から更新の限度を定める条項が削除されたこと、被告会社が原告に支払うべきものとされた一か月坪当たり二円五〇銭の金員は、使用承認の文言上は報償金とされていたが、単なる謝礼ではなく、本件土地使用の対価としての性格をもつものであって、更新に際し何度か増額もされていること、昭和二八年六月一八日に竣功認可を受けた四八八六・三七坪を含む五八八六・三七坪(昭和三二年九月一日からは四八八六・三七坪のみ)については昭和二九年三月一日以降他の部分と区別して取り扱われるようになったが、やはり使用承認の形式がとられたこと、その使用期間は六か月(昭和三二年九月一日からは一年)とされ、更新について特段の定めはなかったが、期間満了の都度更新が重ねられていたこと、使用の対価は名目上も報償金から使用料に改められ、他の部分の報償金より常に若干高額に定められていたこと、原告は右使用料を普通財産収入である賃貸料として処理していたこと、前記四八八六・三七坪及び昭和三五年一〇月三日に竣功認可のあった五万六五三一・五一坪の合計六万一四一七・八八坪につき、同年九月二〇日原告と被告との間で、期間を昭和三六年八月三一日までとし、東京都議会の議決を停止条件とする賃貸借契約書が作成され、同年一〇月三日その議決を得たこと、次いで昭和三六年九月一日に竣功認可のあった六万一七三五・〇二坪を右土地に加えた合計一二万三一五二・九坪(本件一の土地)について、同年六月九日原告と被告会社との間で、期間を昭和三七年八月三一日までとし、同様の停止条件を付した賃貸借契約書が作成され、昭和三六年七月一一日東京都議会の議決を経たこと、昭和三八年六月二〇日原告と被告会社との間で、右土地について、期間を昭和三九年八月三一日とし、同様の停止条件を付した賃貸借契約書が作成されたが、東京都議会の議決を得られず、廃案とされたため、右賃貸借契約書記載の停止条件は不成就と確定したこと、本件土地のうちその余の部分(最終的には本件二の土地七九七五・二五坪)についても、昭和三八年八月三一日まで、毎年使用承認が更新されてきたが、その後は更新されていないこと、昭和三六年九月一日以降は、報償金は名目上も貸付料と改められ、原告は、これを普通財産収入である未竣功埋立地貸付料として処理していたこと、昭和三七年九月一日から翌三八年八月三一日までの本件一の土地の賃貸料は月額二五八万六二一〇円(坪当たり二一円)、本件二の土地の貸付料は月額一三万五五七九円(坪当たり一七円)の定めであったこと、昭和二七年九月一日の使用承認以来、使用目的は一貫してゴルフ場を含むレクリエーション用地と定められ、被告は、前認定のとおり、ゴルフ場開設のため、本件土地に芝を育成したほか、後記認定のとおり本件建物を建築してこれを原告に寄附し、本件土地をゴルフ場として経営して行くための施設として更に第三建物を建築したこと、被告会社の設立準備中にその発起人らが原告に提出し、最初の使用承認の基礎となった借地許可申請書添付の申請趣意書によれば、建設費に一八〇〇万円を要し、年間収益は一一五七万五〇〇〇円と予測されていて、一年間の収益で建設費を償却することはできない関係にあったこと、以上の事実が認められる。

以上のような事実関係のもとにおいては、本件土地の使用許諾の関係は、昭和二七年九月一日の最初の使用承認の当時から、私法上の契約関係である賃貸借であり、また、芝を育成してゴルフ場を開設することにより始めて可能となる本件土地の使用目的がわずか一年で達せられるものとは考えられないから、形式的には、期間を一年あるいは六か月とする使用承認あるいは賃貸借契約の締結行為が期間満了の都度繰り返されていたとはいえ、実質的には、それらは一年あるいは六か月ごとに賃料の額等について再検討の機会をもち、その後一年あるいは六か月間の契約条項を確認するという意味をもつにすぎなかったものとみるべきであって、右一年あるいは六か月の期間をもって直ちに賃貸借の期間とするのは相当でなく、また、形式が使用承認から賃貸借に変った点も、原告において被告会社に対し本件土地を使用収益させ得る権原が、埋立ての免許を受けた者としての使用収益権から所有権に変ったことに伴うものに過ぎず、原告と被告会社との間の賃貸借関係に本質的な影響を及ぼすものではないというべきである。結局、原告と被告会社との間に昭和二七年九月一日に成立した本件土地の賃貸借は、当初は更新の限度とされていた五年を期間とするものであったと解する余地があるにせよ、少くともこれを経過した昭和三二年九月一日以降は、期間の定めのない賃貸借として存続していたものと解するのが相当である。≪証拠判断省略≫

それゆえ、被告らの主張は、昭和二七年九月一日に被告会社が原告から本件土地を賃借したという限度においては理由があり、また、右認定に反して、本件土地の使用承認ないし賃貸借は期間を一年と定めて毎年なされてきたものであり、最終のものも昭和三八年八月三一日に期間満了により終了したとの原告の主張は、理由がない。

2  被告らは、本件賃貸借は期間半永久的との定めであったと主張するが、本件賃貸借が期間の定めのないものであることは前認定のとおりであり、右認定を覆えして、被告らの右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

国有財産法の適用により期間が六〇年あるいは三〇年であったとする被告らの主張は、採用することのできない見解に基づくものであるばかりでなく、前提となる右事実を認められない点において失当である。

被告らは、更に、本件賃貸借には借地法の適用があるから、期間は三〇年であると主張するが、本件賃貸借がゴルフ場を含むレクリエーション用地として本件土地を使用することを目的とするものであることは前認定のとおりであって、賃貸借の主たる目的が建物の所有でないばかりでなく、≪証拠省略≫によると、本件賃貸借においては、一貫して、原告の承認を得ないで建物を建築することが禁止されており、しかも、当初は、原告の承認を得て建築した建物についても、被告会社は竣功と同時にこれを原告に寄附ないし無償譲渡しなければならないものとされ、被告会社が本件土地上に建物を所有することは全く予定されていなかったことが認められるのであって、本件賃貸借が建物所有を目的とするものであったとは到底認められない。本件賃貸借に借地法の適用があるとする被告の主張は失当である。

3  原告が被告会社に対し、昭和三八年一一月二九日到達の書面をもって、本件土地の返還を求めたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨に照らし、原告主張の右書面ないしその控(原議)に当たると解せられる前示甲第二二、第二三号証によると、右返還請求は解約申入の趣旨を含むものと認められる。したがって、本件土地の賃貸借は、前示解約申入の日の一年後である昭和三九年一一月二九日の経過により、権利の濫用等、他に特段の事情のない限り、終了したものというべく、本件全証拠によるも右特段の事情を認めることはできない。被告会社の賃借権を主張する被告らの抗弁は、結局において理由がない。

(四)  してみると、被告会社に対し第三建物を収去して、被告クラブに対し右建物から退去して、いずれも本件二、三の土地を明け渡すべきことを求める原告の請求は、理由がある。

三  次に、原告の被告会社及び被告クラブに対する本件建物の明渡請求について判断する。

(一)  被告会社が本件建物を占有していることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると被告クラブも被告会社と共同して本件建物を使用占有していることが認められる。

(二)  そこで、本件建物の所有権の帰属について判断する。

≪証拠省略≫を総合すると、本件建物は、まず、昭和二七年一二月頃別紙第二物件目録の一の(一)記載の建物(クラブハウス。但し、当時の床面積は一八〇坪であり、その後何回かの増改築を経て昭和三六年頃三〇一坪となった。)が、昭和二九年九月頃同(二)記載の建物(キャディーハウス)が、更に、昭和三一年一二月頃同(三)及び(四)記載の建物(休憩所と車庫兼倉庫)がそれぞれ建設されたこと、被告クラブは、昭和二七年頃に創設されて以来、右のとおり本件建物が建設された当時を通じて、被告会社が設営する東雲ゴルフ場を利用して、ゴルフを通じて会員相互の親睦を図ることを目的とする社団であるにとどまり、被告会社の会長が当然に理事長になるものとされ、会計・経理の面においても、被告会社が被告クラブの会員から直接入会金の預託を受けるとともに、年会費、入場料等を収受し、非会員からも利用料金等を徴収して、これを被告会社の資産とし、ゴルフ場施設の設置管理の費用、競技面の運営費用、クラブ関係の諸経費を被告会社の資産によって支払い、帳簿上も、これらの収入金、支出金を被告会社の損益計算書上の営業収入、営業支出として計上(但し、入会金は損益に計上せず、貸借対照表の貸方に「預り入会金」として計上)していたのであって、クラブ自体としては固有の財産や経理をもっていなかったこと、本件建物も被告会社がその資金により建築したものであること、本件建物はいずれも昭和三五年一〇月三日に竣功認可のあった土地上にあり、右土地については、昭和二七年九月一日の使用承認以来、本件建物の完成当時を通じ、一貫して、さきにも認定したとおり、本件賃貸借契約上、原告の承認を得ないで建物を建築することが禁止され、原告の承認を得て建築した建物についても、竣功と同時に原告に寄附ないし無償譲渡しなければならないものとされていたところ、被告会社は、この約定に従い、その都度原告の承認を得て、前記のとおり本件建物を順次建築し、昭和三二年七月一五日原告に対して、本件建物全部(但し、(一)の建物の床面積は当時二六四・二五坪。)を贈与する旨の意思表示をし、原告は同月三〇日ころこれを承諾したこと、被告会社は、原告から本件建物を引き続き賃借し、その賃料を支払っていたこと、昭和三六年及び同三七年の各九月三〇日現在の被告会社の貸借対照表には、本件建物がなお被告会社の資産として計上されているが、それは、寄附により一時に多額の損金(寄附の時の本件建物の簿価は二一〇八万九〇九三円)が生じることを避けるためにとられた帳簿上の操作にすぎないこと、以上の事実が認められ、右認定の事実によると、本件建物は被告会社が建築してその所有権を取得した上、これを原告に贈与したものというべきである。

被告らは、本件建物を建てたのは被告クラブであると主張し、≪証拠省略≫中には、本件建物は被告クラブが建てたもので、その会員の総有に属するという部分がある。しかしながら、これらは、いずれも、本件建物の建築資金が、実質上は、被告クラブの会員の入会金等によって賄われていることをその根拠とするにとどまるものであって、被告会社がこれをいったん取得した上、これを利用して本件建物を建築した結果、その所有権を取得したという前記認定判断を妨げるものではなく、他に右認定判断を左右するに足りる証拠はない。

(三)  被告らは、右寄附は公序良俗に反し無効であるという。

本件土地の賃貸借の当初から、無断建築の禁止と原告の承認を得て建築された建物を竣功と同時に原告に寄附ないし無償譲渡すべき旨の約定があったこと、本件寄附が右約定に基づいてなされたものであることは、前認定のとおりである。

≪証拠省略≫を総合すると、前記約定がなされた理由は、原告としては、将来本件土地を含む第一〇号埋立地の埋立が全部竣功すれば、これを右埋立地の本来の目的である港湾施設用地として使用することが予定されているので、その際、地上に被告会社所有の建物や工作物等があると、その収去等をめぐる紛争が生じるおそれがあり、そのような事態の発生をあらかじめ防止する方策を講じておこうとしたためであること、このため本件賃貸借においては、建物だけでなく、工作物の設置、植樹、地盛り等についても原告の承認を必要とし、竣功と同時に原告に寄附又は無償譲渡すべきものと定められていたこと、原告は、本件建物の贈与を受けると直ちにこれを被告会社に賃貸し、引き続き被告会社に使用させたこと、その賃料も本件建物の固定資産税及び都市計画税相当額程度とし、原告は右賃貸自体により特段の利得を得ていないことを認めることができる。右認定事実に、前記約定が本件賃貸借成立当初からのものであることや、本件土地の賃貸借には前記のとおり借地法の適用がなく、したがって、本件建物について同法上の買収請求権を生じる余地がないため、被告会社としては、将来本件土地賃貸借が終了したときに無償で収去を求められてもやむを得ないものであることを併せ考えると、前記約定あるいはこれに基づく本件贈与が公序良俗に反するものであるとすることはできない。被告らの右抗弁は理由がなく、本件建物は、前認定の贈与により原告の所有に帰したものというべきである。

(四)  そこで、被告らが予備的抗弁として主張する被告会社の本件建物の賃借権について判断する。

被告会社が、昭和三二年一二月一四日、原告から本件建物を賃料年額一三万円の定めで賃借したことは、当事者間に争いがない。そして、≪証拠省略≫によると、原告は被告会社に当初、期間を昭和三三年八月三一日までと定めて賃貸し、同年九月一日からは期間を一年と定め、その満了の都度更新をくり返し、その最終のものは期間を昭和三七年九月一日から昭和三八年八月三一日まで、賃料を年額二六万五四八六円とするものであったことを認めることができるが、さきに認定してきた本件土地及び本件建物の各賃貸借の経緯及び本件建物がクラブハウス、キャディーハウス等、本件土地をゴルフ場として使用するための附帯設備であることに、≪証拠省略≫を総合すると、本件建物の賃貸借は、本件土地の賃貸借と結合して、それを補完するものとして締結され、期間も本件土地のそれに合わせて定められて更新も同時に行われてきたことを認めることができるのであって、この事実に照らして考えると、本件建物の賃貸借の期間の定めも、本件土地の賃貸借の期間と同じ趣旨のものであり、実質において期間の定めのない賃貸借であったと認めるのが相当である。

(五)  原告は、右賃貸借の終了原因として、まず、期間を一年とする賃借権の更新が続けられていたことを前提として、昭和三八年八月三一日に賃貸借の期間が満了したと主張するが、右前提となる事実を認めることができないことは前示のとおりであるから、原告の右主張は理由がない。

原告は、次に、昭和三八年一一月二九日の解約申入を主張し、同日被告会社に到達した書面をもって原告が被告会社に本件建物の返還を求めたことは当事者間に争いのないところである。そして、≪証拠省略≫によると、右返還請求は解約申入の趣旨を含むものと認められる。また、原告が予備的に主張するとおり、被告会社に対する本件建物の明渡請求を含む本訴(昭和四〇年(ワ)第一〇〇三三号事件)の提起は、本件建物の賃貸借契約の解約申入の意思表示を伴うものと解せられ、右訴状が昭和四〇年一一月二四日被告会社に送達されたことは記録上明白である。

原告は、本件建物の賃貸借は一時使用のためのものであるから借家法の適用がないと主張するが、さきに認定してきたとおり、右賃貸借は期間の定めのないものであり、昭和三八年一一月二九日の解約申入まででも既に六年近くにわたって存続してきているのであって、一時使用のための賃貸借であったとはたやすく認められず、他にこの認定判断を覆えして右事実を認めるに足りる証拠はない。

そこで、解約申入の正当事由の存否について検討するに、本件建物がクラブハウス、キャディーハウス等、本件土地をゴルフ場として使用するための附帯設備であり、本件建物の賃貸借が前認定のような事情のもとに本件土地の賃貸借と結合して、これを補完するものとして締結されたものであることに鑑みると、本件建物の賃貸借は、本件土地の賃貸借の終了とともに解約申入の正当事由を具備するに至るものというべきである。したがって、本件土地賃貸借の終了の一年前である昭和三八年一一月二九日の解約申入は、正当事由を具備しないのになされた無効のものというほかはないが、終了後の昭和四〇年一一月二四日に訴状の送達をもってなされた解約申入は有効であり、その六か月後である昭和四一年五月二四日の経過により、本件建物の賃貸借は終了したものということができる。

(六)  すると、被告会社の賃借権の抗弁は、理由がないことに帰し、被告会社及び被告クラブに対して本件建物の明渡しを求める原告の請求は、理由がある。

四  被告会社及び被告クラブに対する賃料相当損害金等の請求について判断する。

(一)  以上によると、原告に対し、被告会社は、本件土地及び本件建物につき、原告主張の昭和三八年九月一日から各賃貸借終了の日までの賃料、並びに、本件二、三の土地(本件土地から本件建物の底地部分を除いた部分)及び本件建物につき、各賃貸借終了の日の翌日から明渡しずみまでの賃料相当損害金を、被告クラブは、三の土地から更に第三建物の底地部分七六一・〇七平方メートルを除いた四〇万四八一五・二〇平方メートル(一二万二四五六坪六合)と二の土地及び本件建物につき、前記賃貸借終了の日の翌日から明渡しずみまでの賃料相当損害金を支払うとともに、少くとも昭和四〇年一〇月末日までの分については、その後である同年一一月二五日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務のあることが明らかである。被告会社の右支払義務のうち、被告クラブも重複して支払義務を負う部分は、右両被告の不真正連帯債務の関係にある。

(二)  第三建物は被告会社の所有であり、被告クラブがその底地部分について原告に対し賃料相当損害金の支払義務を負担すべき特段の事情の主張立証はないから、この部分についての被告クラブに対する原告の損害金請求は理由がない。

(三)  本件土地及び本件建物の賃料の定めが、昭和三七年九月一日以降、本件一の土地は月額二五八万六二一〇円(坪当たり二一円)、本件二の土地は月額一三万五五七九円(坪当たり一七円)、本件建物は年額二六万五四八六円であることは前認定のとおりであり、その後本件土地及び建物の賃貸借が終了するまで右賃料の定めが改訂されたことの主張立証はない。また、≪証拠省略≫によると、本件土地の賃貸借が終了した翌日である昭和三九年一一月三〇日以降の本件三の土地の相当賃料額は一か月坪当たり二六円を下らないものと認めることができ、本件二の土地の従前の坪当たりの賃料が本件一の土地のそれに比較して二一分の一七であったことに鑑みると、前同日以降の本件二の土地の相当賃料額は原告主張の一か月坪当たり二一円を下らないものと認めて差し支えがない。更に≪証拠省略≫によると、本件建物の賃貸借が終了した翌日である昭和四一年五月二五日以降の本件建物の相当賃料額は原告主張の一か月四万一四五〇円を下らないものと認められる。

(四)  以上に基づいて、被告会社及び被告クラブが原告に対して支払義務を負う賃料及び損害金の額を計算すると、別紙計算書のとおり、昭和四〇年一〇月末日までの分は、被告会社が七八三五万四〇六五円、このうち被告クラブが連帯して支払うべきものが三六九七万六五七二円、同年一一月一日以降の分は、被告会社が支払うべきものは、土地につき月三三五万七三三七円、建物につき昭和四一年五月二四日までは年二六万五四八六円、その翌日以降月四万一四五〇円、このうち被告クラブが連帯して支払うべきものが土地につき月三三五万一三五一円、建物につき昭和四一年五月二五日以降月四万一四五〇円の各割合となる。

(五)  被告会社の相殺の抗弁について判断する。

本件土地の賃料が、毎年の形式上の更新に際して、何度か増額して定められてきたことは前認定のとおりであり、被告会社が右約定に従って賃料債務を負担することはいうまでもなく、被告会社が右約定を超えて賃料を支払った事実を認めるに足りる証拠はない。単に適正な使用料の額は昭和三二年九月一日以降も坪当たり月五円が相当であるというだけで、これを超える賃料の支払が不当利得となるという被告会社の主張は理由がない。

また、被告会社は、坪当たり月五円を超える賃料の約定は公序良俗に違反すると主張するが、本件全証拠をもってしても、本件土地の昭和三二年九月一日以降の相当賃料の額が別表Aの「既払小作料又は地代」欄記載の額よりも低いと認めることはできない。もっとも、前認定の事実によると、原告は、被告会社から本件建物の賃料を受領するとともに、その敷地部分を含む本件土地全部についても使用料を受領していたことになるが、本件建物の賃料がその固定資産税及び都市計画税の合算額程度とされていたこと、その他本件建物の原告への贈与と被告会社への賃貸についての前認定のような事情に照らすと、本件建物の敷地部分をも賃貸土地に含め、これに対する賃料の支払を受ける旨の合意をしても、右敷地部分の使用の対価を原告が二重に取得するわけではなく、これをもって公序良俗に反するとすることはできない。

被告会社の相殺の抗弁は、その主張する不当利得返還請求権の発生を認めることができないから、理由がない。

(六)  結局、原告の被告会社及び被告クラブに対する損害金及び賃料の請求は、(四)に認定した限度及びそのうち昭和四〇年一〇月末日までの分に対する履行期後の同年一一月二五日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが、その余の部分は理由がない。

五  被告会社及び被告クラブを除くその余の被告らに対する請求について判断を進めるに、これらの被告らが原告主張のとおり本件土地上に建物を所有し、あるいは右建物又は本件建物を使用して本件土地を占有している事実(請求の原因2(2)ないし(5)の事実)は当事者間に争いがない。これらの被告らのうち被告渡部製作所はその占有権原をなんら主張しないし、その余の被告らの占有権原の主張は、いずれも被告会社が本件土地又は本件建物について占有権原を有することを前提とするものであるところ、右前提となる事実を認めることができないことは、既に説示してきたとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、失当である。

したがって、被告会社及び被告クラブを除くその余の被告らに対する原告の請求は、いずれも理由がある。

六  よって、原告の請求は、前記理由のある限度において認容し、その余を失当として棄却することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条を、仮執行の宣言と職権によるその免脱宣言につき同法第一九六条第一項、第三項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 平田浩 裁判官 比嘉正幸 裁判官 園部秀穂)

<以下省略>

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