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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)6077号 判決 1968年9月06日

原告 岩井満寿枝

右訴訟代理人弁護士 増岡正三郎

同 増岡由弘

被告 折山浅五郎

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 塚田喜一

同 野村宏治

右訴訟復代理人弁護士 坂本成

主文

一、被告折田浅五郎は原告に対し、別紙目録記載の建物部分のうち、二階の全部を明渡し、かつ昭和四〇年五月一日以降昭和四一年八月一日まで一ヵ月金六万三〇〇〇円の割合による金員及び昭和四一年八月二日以降右明渡し済みに至るまで一ヵ月金二万一〇〇〇円の割合による金員を支払え。

二、原告の被告折田浅五郎に対するその余の請求及び被告合資会社折田商店に対する請求をすべて棄却する。

三、訴訟費用は、原告と被告折田浅五郎との間においては、原告に生じた費用を四分し、その一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告合資会社折田商店との間においては全部原告の負担とする。

四、この判決は原告が金五〇万円の担保を供するときは、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

原告訴訟代理人らは「被告らは原告に対し別紙目録記載の建物部分(以下本件建物という)を明渡し、かつ昭和四〇年五月一日以降明渡し済みに至るまで一ヵ月金六万三〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被告折田に対し予備的に「被告折田は原告から金一〇〇万円の支払いを受けるのと引換えに原告に対し本件建物を明渡し、かつ昭和四〇年五月一日以降明渡し済みに至るまで一ヵ月金六万三〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被告ら訴訟代理人らは「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

一、原告がその所有する本件建物を昭和二一年以降被告折田に賃貸してきたことは当事者間に争いない。原告は右賃貸借は終了したと主張するので、以下検討する。

二、一時使用の賃貸借の終了について。

原告と被告折田との間で昭和三八年六月一日、本件建物についての賃貸借につき「その期間を昭和三九年二月二八日までとし、期間満了後は更新できないものとする」旨の合意がなされたことは当事者間に争いない。原告は右合意によって、原告と被告折田との間の本件建物についての賃貸借を一時使用のための賃貸借に変更したものであると主張し、≪証拠省略≫には、原告は右のように更新をしない理由として(イ)原告の息子が結婚する場合本件建物が必要であること、(ロ)原告が経営する自由音楽学園の新宿区市ヶ谷砂土原町所在の校舎が昭和三九年三月三一日限り明渡しを余儀なくされているため、その校舎として本件建物が必要であること、の二点につき被告折田にその事情を説明し、同被告はこれを了解したうえで、期間を昭和三九年二月二八日までとすることの合意がなされた旨の記載があり、証人岩井真吾もこれと同趣旨の証言をしている。

しかしながら≪証拠省略≫によれば、本件建物の賃貸借は昭和二五年ごろからは毎年六月一日をもって期間を一ヵ年宛更新して来ており、昭和三七年六月一日にも同様の更新がなされていること、被告折田は本件建物を賃借した昭和二一年ごろ以降二〇年近きにわたり、この場所で味噌醤油の販売業を営んでおり、昭和三八年六月当時附近で一応の信用を得て営業を継続していたものであって、当時被告折田としては他に移転するあてもなく、またこれを明渡した場合本件建物を基礎として築いてきた営業上の利益を一挙に失うことになる事情にあったことが認められるところ、≪証拠省略≫によれば明渡しの時期はわずか九ヵ月先であるのに、その移転先ないしは明渡しによって被告折田が蒙る損失に対する補償等同被告としても従前の賃貸借を短期間で終了させても構わないといえるような事項につき何らの配慮もなされていないことが認められる。そして右事実と≪証拠省略≫によれば、昭和三八年六月一日の合意以後被告折田が、ただちに本件建物の利用方法を短期の賃貸借にふさわしいように変えた形跡もなく、同被告としては右合意に際し、これが従前の賃貸借を一時使用の賃貸借に変更する趣旨であることを十分承知していたかどうかは極めて疑わしい。他方≪証拠省略≫によれば、原告は昭和三九年三月以降被告折田に対し本件建物の明渡しを求めていたが、他方において昭和四〇年四月に至り賃料が一挙に倍額近い一ヵ月金七万六〇〇〇円に増額請求をし、しかも右の額は当事者間に何の紛争もなく通常の賃貸借がなされていることを前提として原告が鑑定人石川市太郎に依頼して得た鑑定結果に基づくものであることが認められる。

以上認定の諸事情によれば、賃借人たる被告折田側に従来の永続的建物使用を一時的建物使用に変更することを認容する意思は認められないのであり、賃貸人たる原告側においても賃借人の永続的建物使用を継続して認容する意思を実現する行為をしているのであるから、昭和三八年六月一日原告と被告折田との間でなされた合意をもっては、従来の通常の賃貸借を一時使用のための賃貸借に変更したものとはいまだ認め難いのであり、他にこれを肯認するに足りる証拠はない。そうすると一時使用の賃貸借に変更されたことを前提とする、その終了の主張は理由がない。

三、賃料不払による解除について。

(一)  昭和四〇年四月当時の賃料額が一ヵ月金三万九〇〇〇円であったところ、原告が同月三〇日に被告折田に到達した書面をもって、同年五月一日以降これを一ヵ月金七万六〇〇〇円に増額する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いない。そこで相当賃料額について考える。≪証拠省略≫によると、鑑定人石川市太郎の鑑定の結果として、昭和四〇年三月一日当時本件建物を新規に賃貸する場合の通常の賃料額は一ヵ月一八万円、継続的に、賃貸借が存続している場合の通常の賃料額は一ヵ月七万六〇〇〇円程度である旨の記載がある。しかし≪証拠省略≫によれば、被告折田は昭和四〇年六月原告を相手方として東京簡易裁判所に賃料協定についての調停の申立をし、その調停手続中、調停委員から一ヵ月六万三〇〇〇円とする案が出され、原告はその提案を受け入れたことが明らかであり、また≪証拠省略≫によれば、原告は昭和四一年二月一日被告折田に到達した書面で前記増額請求にかかる賃料を一ヵ月金六万三〇〇〇円に減額訂正していることが認められ、これらの事実と前記従前の賃料額を考慮し、昭和四〇年五月当時の賃料額は一ヵ月金六万三〇〇〇円をもって相当と認める。≪証拠省略≫によれば、右調停手続中、東京地方裁判所指定鑑定人郡富次郎のなした鑑定の結果によれば、賃料額は一ヵ月金五万一三〇〇円ないし五万一四〇〇円であるとされていることが明らかであるけれども、右鑑定はその経過があいまいであって採用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。よって本件建物についての賃料額は昭和四〇年五月一日以降一ヵ月金六万三〇〇〇円に増額された。

(二)  原告が被告折田に対し昭和四〇年一二月八日到達した書面をもって、同年五月分以降一一月分までの一ヵ月金六万三〇〇〇円の割合による賃料を五日以内に支払うよう催告し、あわせて不履行の場合には契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いない。

ところで本件につき昭和四一年法律第九三号によって改正された借家法第七条第二項の規定が適用されないことは明らかであるが(改正附則第七項)、右改正前においても同項本文の規定の精神に則って解釈すべきと考える。その理由は次のとおりである。

賃料増額請求は、請求のときから客観的相当額に増額されるとの効果が生ずるものとされているが、その客観的相当額につき当事者間に争いがある場合には裁判所が事後的にその額を決定しなければ、賃料増額をめぐる紛争は終極的に解決しない。しかも増額請求にかかる賃料は、必ずしも客観的相当額ではないし、その立場上賃料増額を歓迎しない賃借人に客観的相当額の適正な認定を強いることは至難なことであるから、増額請求に異議ある賃借人に対し、請求を受けたときから客観的相当額の賃料の弁済を要求すること自体、事実上不可能なことを賃借人に強いることになる。したがって賃貸人が増額請求にかかる客観的相当額の賃料を請求している場合も、その増額を正当とする裁判が確定するまでは、賃借人が一応従前の額による賃料を支払っており、しかも賃借人としては相当額が明らかになればこれを支払う旨の態度を示している等、特段に賃貸借における信頼関係を破るとはいえない事情がある場合には、結果的には客観的相当額と支払額との差額分の不履行があったことにはなるが、この事実だけで契約を解除することは信義則に反し、許されないものというべきである。

それを本件についてみると、被告折田が昭和四〇年五月二八日原告に対し、同月分の賃料として、従前の額である金三万九〇〇〇円を普通為替で送金して支払いのため提供したところ、その受領を拒絶され、これを同年六月二日供託したこと、以後同年六月分から同年一一月分までの賃料として一ヵ月金三万九〇〇〇円宛を、各翌月当初に供託したことは当事者間に争いない。そして被告折田は右のとおり供託をする一方昭和四〇年六月原告を相手方として賃料協定を求める調停の申立をし、右調停手続中になされた鑑定によれば相当額は一ヵ月金五万一〇〇〇円ないし五万四〇〇〇円とされたこと、被告折田は昭和四〇年一二月分は従前の額である金三万九〇〇〇円を供託したか、昭和四一年一月以降は右鑑定の結果を尊重して一ヵ月金五万四〇〇〇円宛を供託していることも当事者間に争いない。以上の事実によれば被告折田は昭和四〇年五月以降一一月までは従前にしたがった履行をして来たものというべく、しかも同被告としては客観的相当額が明らかになればこれを支払うとの態度を維持していたことも窺える。そうすると前記客観的相当額である一ヵ月金六万三〇〇〇円と昭和四〇年五月以降一一月までの間供託した一ヵ月金三万九〇〇〇円との差額として一ヵ月金二万四〇〇〇円の割合による金員の不履行があったことも明らかであるけれども、右事実によればこれをもって契約を解除することは信義則に反し許されないものというべきである。

四、無断転貸による解除について。

原告が昭和四一年三月一五日被告折田に到達した書面をもって、同被告が被告会社に本件建物を転貸使用させていることを理由として、賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いない。

しかしながら≪証拠省略≫によれば、被告折田は本件建物を賃借した昭和二一年ごろから、本件建物で味噌醤油の販売業を営んできたが、昭和二五、六年ごろ、自ら無限責任社員となり、本店を本件建物に置くこととして、被告会社を設立したが、経営の実態は前後変更なく、被告折田ならびにその妻ハツら家族が本件建物で営業活動を行い、かつ住居として使用して来た。

したがって形式上は本件建物中、営業に使用する部分を被告会社に転貸使用させていることになるとしても、これにより何ら賃貸借における信頼関係を破壊するものではなく、これを理由とする解除は許されない。

五、正当事由による解約について。

原告が被告折田に対し昭和四一年二月一日到達した書面で解約の申入れをしたことは当事者間に争いない。よってその正当事由の有無につき判断する。

(一)  まず賃貸人側の事情についてみると、≪証拠省略≫によれば次の事実が認められる。

(1)  原告はその夫岩井真吾とともに昭和二四年一月以降社団法人音楽指導協会の理事として、同協会が経営する自由音楽学園の運営に直接加って来たものであり、自らも同学園でピアノを教えている。また原告の夫真吾は同学園の学園長であり、かつ同学園で声楽を教えており、同人らの良男哲郎は同学園の教務主任として声楽を、二男俊司は声楽、ピアノ等を教えている。原告の生活は同学園の活動と密接不可分である。

(2)  同学園の校舎はもと新宿区市ヶ谷砂土原町にあり、これは同協会が訴外清水フミから賃借したものであった。昭和三〇年ごろの右校舎の総面積は約七七坪余あり、普通教室二室、特別教室四室のほか教員室、事務室各一室、便所約一〇個の設備があった。ところが経営に無理があり、昭和三四年ごろには賃料不払により、清水フミから建物の明渡しを求められ、即決和解により、最終的には昭和四〇年四月末日限り明渡すべきことを余儀なくされた。他方原告はかねて本件建物のA部分を訴外東京管工株式会社に賃貸していたところ、同会社が昭和四〇年一月三一日限りこれを明渡したので、音楽指導協会は同年二月末日限り旧市ヶ谷の校舎を明渡し、学園をA部分に移転させた。

しかしA部分の面積は一、二階合計二八坪であり、別紙添付図面に示したとおり、普通教室一室(一三坪七合五勺)特別教室二室(三坪九合と二坪六合)のほか、カウンターで囲っただけの事務室と便所一個がとれるに過ぎず、極めて手狭である。原告とその家族は従前から本件のB部分(一、二階)を住居として使用してきたが、この部分の一部も教室として使用せざるを得ない状態である。

各種学校規程(昭和三一年一二月五日文部省令第三一号)第一〇条第一項によれば、各種学校の面積は一一五・七〇平方米(三五坪)を下ることができないとされているのに、自由音楽学園が専用する建物部分(A部分)はその基準にも達しないし、教員室、医務室等当然に必要な設備も欠くような状態である。

(3)  昭和四一年二月当時における原告の同居の家族はその夫真吾と長男哲郎であり、同人らは前記のとおり本件建物のB部分に住居していた。B部分の間取り、面積は別紙添付図面に示すとおりであって、居住の人員に対比して、決して余裕がない状態とはいえない。もっとも哲郎は結婚する予定であるが、同人は前記のとおり自由音楽学園で教務主任として教鞭をとっている関係上、夜間授業のため夜一〇時ごろまでは在園していなければならず、同人は学園内またはその附近に居住する必要があり、そのため本件明渡しを得た場合には、二階の一部を区分して居住する計画がなされている(なお哲郎はその後昭和四三年二月一五日に至り、やむなく本件建物の近くに一ヵ月金二万九〇〇〇円の賃料を支払って借室し、原告とは別居するに至った。)

(二)  次に賃借人の側の事情についてみると、≪証拠省略≫によれば次の事情が認められる。

(1)  被告折田は、別記のとおり昭和二一年ごろから本件建物で味噌醤油の販売を営んで来たものであり、附近の顧客の信用を得て一応安定した商売を行っている。大口需要家との取引はあるが、本件建物での店売りを除外することは考えられず、本件建物を明渡した場合、被告折田がここを本拠として築いてきた営業上の利益を一挙に失うことになる。なお前記のとおり同被告は昭和二五年ごろ被告会社を設立し、形式上の営業の主体は被告会社となっているけれども、その実態は前記のとおり被告折田ならびにその家族が営業活動を行っているものである。

(2)  被告折田の家族は妻ハツのほか長男昭雄、二男博、三男武、長女和子の五名であり、このうち博は結婚して江東区深川高橋に別居し、また和子は他に住み込みで働きに出ているので、被告折田と同居の家族は三名である。本件建物の使用状況は、一階部分は店舗ならびに倉庫、その奥に台所と風呂場がある。倉庫には味噌醤油などの商品が置かれているが、空間にはなお余裕がある。次に二階部分中倉庫の二階は、一見して長年掃除もしていないのではないかと疑わせる程、荒れ放題の状態であり、二階のうち店舗の二階部分は六畳が二間あるが(別紙添付図面のとおり)、非常に殺風景なもので、日常これを利用しているかどうか極めて疑わしいのであるが、単に寝るだけの部屋のようである。要するに二階部分は被告折田においてこれを有効に利用している状態ではない。

(3)  被告折田はかねて二男博を独立させる計画をもっていたが同人が結婚することになったので、被告折田の妻ハツが昭和三九年一〇月五日その所有の日本橋浜町三丁目西八番三所在の宅地二三坪余を他に処分し、その代金で江東区深川高橋二丁目四番二五号の宅地一七坪余を購入し、地上に木造瓦葺二階建の建物を建築し、博に住まわせることになった。右建物の面積は一階一三・八六坪、二階一〇・一七坪であって、一階に道路に面して店舗、その奥に三畳、物置(倉庫)、台所、風呂場、便所があり、二階には六畳と四畳半がある。これに博とその妻が居住しているが、住居としての空間には一応の余裕がある。右建物は美観通りと称する繁華な商店街の中にあり、商店としての立地条件は良好であり、博はここで被告折田の営む折田商店の支店として、味噌醤油の販売業を営んでいる。この営業と本件建物内での営業は計算が共通であり、別個独立の経営ではない。

しかし被告折田がその同居の家族とともに全員右建物に移転し、しかも本件建物で長年行ってきた営業を右建物に移すことは、空間的にも困難であり、また相当の損失をともなうことも予測される。

(三)  以上認定した原告ならびに被告折田それぞれの側に存する事情を比較衡量すると、まず本件建物のうち二階部分については、その明渡しにつき正当の事由があると認めるのが相当である。

このように本件建物の二階部分を明渡した場合、検証の結果によれば、建物の構造上、これに若干の補修、改造を加えることにより、原告は本件建物の一階部分を使用しないでもこれを自ら使用することができ、しかもこの二階部分全体の面積は約二一坪余であるから、これによって前記各種学校規程の基準を満すことが可能であるし、原告が必要とする学園の諸施設も、この範囲内である程度解決が可能であると認められる。さらに原告は学校教育法が改正されることが予想され、改正案によると現在の各種学校は新たに認可の申請をやりなおさなければならず、そうすると各種学校規程の基準に達しない自由音楽学園は廃校の虞れもあると主張するが、右は予見できない法律改正の予想に関することであるから、これを正当事由判断の資料として斟酌できないのであるが、仮にこのような改正がなされることを考慮に入れたとしても、右のようにすればその基準に合致させることもできるから右主張は理由なきものとなる。この事実を前記認定の(一)、(二)の事実に合わせ考えると本件建物全体の明渡しについては、原告の必要性が、被告折田の必要性を上廻るものとは認め難く、原告が主張する金一〇〇万円の移転料をもっても、被告折田が本件建物全体の明渡しをした場合に受ける損失を償うことはできないと認めるのが相当である。よって本件建物全体の明渡しについては、右金一〇〇万円の移転料の提供の事実を考慮しても、正当の事由があるとは認められない。

そうすると冒頭記載の解約申入れがあったときから六ヶ月を経過した昭和四一年八月一日限り、本件建物中、二階部分の賃貸借契約は終了したものというべく、被告折田はこれを原告に明渡す義務があるがその余の部分については解約による賃貸借終了の主張は理由がない。

(四)  なお原告の被告折田に対する賃料ないし損害金の請求につき考えると、昭和四〇年五月一日以降の賃料額は前記の通り一ヵ月金六万三〇〇〇円となったのであるから、前記三の(二)記載の当事者間に争いない供託の事実によれば、被告折田が提供し、かつ供託した金額は賃料額の一部に過ぎず、右提供及び供託は無効である。よって同被告は昭和四〇年五月一日以降昭和四一年八月一日までは一ヵ月金六万三〇〇〇円の割合による賃料を支払う義務がある。

次に賃貸借が終了した本件建物の二階部分についての、昭和四一年八月二日以降明渡し済みに至るまでの賃料相当の損害金については、≪証拠省略≫によると、本件建物の一階と二階との賃料の割合は二対一であるとするのが相当と認められ、これを覆えすほどの証拠もないから、本件建物のうち二階部分の賃料相当損害金は一ヵ月金二万一〇〇〇円である。

六、原告の被告会社に対する請求について。

原告が本件建物を所有していることは冒頭一記載のとおり当事者間に争いなく、前記四で示した事実及び検証の結果によれば被告会社は本件建物の一階部分を占有しているものと認められる。しかし同所で示したとおり被告会社に対する無断転貸を理由とする解除は許されないから、被告会社はこれを使用するについて原告の承諾を得たと同視すべき立場にあり、しかも原告の被告折田に対する本件建物中、一階部分についての賃貸借が終了していないことは上来認定してきたとおりであるから、この部分についての原告の被告会社に対する明渡し請求は許されないし、原告としては被告折田に賃貸している以上、使用料相当額の損害は生じていないものというべきであるから、損害金の請求も理由がない。

次に本件建物中、二階部分については、被告会社がこれを占有していると認めるに足りる証拠は存しない。

よって原告の被告会社に対する請求はすべて理由がない。

七、結論

以上のとおりであるから、原告の被告折田に対する請求中、本件建物の二階部分全体の明渡しと昭和四〇年五月一日以降昭和四一年八月一日までの一ヵ月金六万三〇〇〇円の割合による賃料、及び昭和四一年八月二日以降明渡し済みに至るまで一ヵ月金二万一〇〇〇円の割合による損害金の支払いを求める部分は正当として認容し、その余の部分は失当として棄却し、原告の被告会社に対する請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩村弘雄 裁判官 舟本信光 原健三郎)

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