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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)8902号 判決 1966年9月01日

原告 高山節子

右訴訟代理人弁護士 小崎恭人

被告 八田忠幸

右訴訟代理人弁護士 萩山虎雄

同 浅野義治

同 松永渉

主文

被告は原告に対し、二五万円およびこれに対する昭和三八年一〇月二九日から完済までの年六分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、被告は訴外田中建設株式会社に対し次の約束手形一通を振出した。

金額 二五万円

満期 昭和三八年一〇月二八日

支払地 東京都

支払場所 永代信用組合足立支店

振出地 東京都

振出日 昭和三八年八月三〇日

振出人 東京都足立区梅島町一四番地 八田忠幸

受取人 田中建設株式会社

二、右手形には、訴外田中建設株式会社の白地式裏書があり、原告はその所持人である。

三、原告は右手形を満期に支払場所に呈示したが支払がなかった。

四、よって被告に対し、右手形金およびこれに対する満期の翌日から完済までの法定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

扨被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁および抗弁として次のとおり述べた。

一、本件手形の振出、呈示および支払拒絶の事実を認める。

裏書の点は知らない。

二、被告は本件の手形を、訴外田中建設株式会社こと田中康雄に対し、同人が取引先に見せるための手形として、即ち他に流通させないという約束のもとに貸与したものであって、同人は本件手形の権利を取得しなかったものである。

そして、原告は右の事情について悪意または重大な過失により本件手形を同訴外人から取得したものであるから、原告は本件手形の権利を取得していない。

即ち原告は、昭和三八年初旬から数回に亘り同訴外人の依頼により手形割引等により融資したがいずれも不良手形で不渡になっており、また原告は被告とは一面識もなく、本件手形が満期日の記載に変造があり著しく疑問の多い手形であるに拘らず被告に振出確認をしないで、本件手形を取得したものであって悪意ないしは重大な過失があったものというべきである。

仮りに原告が本件手形の権利を取得したものとしても、原告は悪意の取得者であるから、被告は本件手形が前記訴外人に対し見せ手形として振出されたものであることを理由としてその支払を拒むことができる。

原告訴訟代理人は、被告の抗弁に対し、見せ手形の点は不知、原告の悪意取得の点は否認すると述べた。

証拠<省略>

理由

被告が本件手形を振出し、これが原告主張のとおり呈示されたが支払がなかったこと、原告が本件手形の所持人であることは当事者間に争いがなく、本件手形である甲第一号証によれば本件手形には原告主張のとおり受取人である訴外田中建設株式会社の白地式裏書の記載があることが認められるから、反対に解すべき資料がない限り原告は適法な所持人であると推定される。

そこで被告の抗弁について考察するのに、証人磯貝和平、同宇賀源次郎の証言によると、本件手形は被告主張のとおり訴外田中建設株式会社こと田中康雄または田中義章という者から同人がその取引先に手形を預けるために必要だから貸してほしいというので、そのような目的のためのみに使用するという約束で、田中建設工業こと田中康雄振出名義の金額三〇万円の約束手形を担保にとって、これと引換えに同訴外人に振出したものであること、即ち、<省略>被告の主張に近い事情に基いて本件手形が振出された事実が認められる。

しかし原告がこのような事情について悪意でまたは重大な過失により本件手形を取得したものかどうかについては結局のところ、原告の悪意または重過失を認めるのに足りる充分な証拠がないといわなくてはならない。

即ち、被告は原告が訴外田中康雄または田中義章という者から以前に数回に亘り不良手形の割引をした経験があって同訴外人から割引依頼のあった手形については不審をもつべきでありまた本件手形の満期が変造されたことについて疑がもたれたはずであるから、本件手形の割引依頼を受けた際には当然にその振出確認をすべきであってこれをしさえすれば前記振出の事情を知り得たものであるとして、原告に悪意または重大な過失があったと主張するのであるが、なるほど、証人磯貝和平、同宇賀源次郎の各証言によれば、本件手形は昭和三八年一〇月八日を満期として振出されたのを後日同訴外人において昭和三八年一〇月二八日と満期が変造された疑いがあることが窺われるのであるけれども、本件においては、この変造の疑が手形面上一見して明瞭であるとは云えないことは手形の記載に照して明らかであるから、右満期変造の事実から直ちに原告に悪意また重大な過失があったものと認めることは無理であるし、なお原告本人尋問の結果によると、原告は本件手形を取得するに当り、被告に電話連絡をして振出確認をし、本件手形の割引金として<省略>手形金額に等しい金額を前記訴外人に交付していることが認められるのであるから、これらの事情からみれば却って原告が前記事情を知らないで本件手形を取得し、またその知らないことについて重大な過失がなかったものと認められる余地もあるのであって、ほかには原告の悪意または重大な過失の点を認めるのに充分な証拠はない。

したがって、被告の抗弁はいずれも理由のないものであって、原告が本件手形の権利者であることを否定することはできないし、また手形振出しについての前記事由を原告に対抗することができないことはいうまでもない。

しかして、前記請求の原因事実によれば、原告の請求は理由がある(前記満期変造の点については、被告は悪意の事情としてこれを主張しているに止まるから、附遅滞の要件としての呈示の効力との関係では右変造の点を問題としない。)から、これを認容し、<以下省略>。

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