大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和40年(ワ)8011号 判決 1966年9月26日

原告

長島徳三

原告

木村商事有限会社

右代表者

木村幹雄

原告

三生不動産株式会社

右代表者

吉田政治

右三名訴訟代理人

青柳洋

野村英治

被告

遠山佐和子

右訴訟代理人

山本草平

主文

被告は原告長島徳三に対し金六〇万円およびこれに対する昭和四〇年九月三〇日以降完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。

原告長島徳三のその余の請求ならびに原告木村商事有限会社および原告三生不動産株式会社の請求は、いずれも棄却する。

訴訟費用は、原告長島徳三と被告との間においては被告の負担とし、原告木村商事有限会社および原告三生不動産株式会社と被告との間においては右原告両名の負担とする。

この判決は第一項にかぎり仮に執行することができる。

事   実<省略>

理由

一まず原告長島と被告との仲介委託契約の成否について判断する。訴外原田が原告長島の営業所を訪れたこと、原告長島から本件土地の現地案内をうけ、その公図および登記簿謄本の交付を受けたことは当事者間に争がないところ、右争のない事実と証人越島力、中西益見、森中義三郎、原田義雄、遠山景久の各証言ならびに原告長島徳三(後記措信しない部分を除く。)および被告の各本人尋問の結果を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一)  被告はその所有名義の東京都世田谷区代沢所在の土地を売却したため、代りの土地を購入することにし、その一切を夫である景久にまかせた。景久は、昭和四〇年一月頃、被告の経営する会社の運転手である訴外原田に購入に適当な土地を物色しておくように命じ、原田はこれに従い約七〇ケ所の土地を検分した。

(二)  原田は昭和四〇年四月三〇日頃、宅地建物取引業者である原告長島の営業所を訪れ、眺望と陽当りの良い五〇〇坪以上の土地の紹介を依頼した。そこで原告長島は直ちに原告木村商事の社員森中義三郎に対し、右条件に合致するような土地の有無を照会したところ、森中は更にかねてからの知合いの原告三生不動産の社員中西益見に同様の照会をなした。これより先原告三生不動産は訴外太陽建設株式会社から本件土地について売買の斡旋を依頼されていたため、右中西は本件土地を森中に紹介し、森中は更にそれを原告長島に紹介回答した。

(三)  そこで原告長島は同年五月三日頃、原田を本件土地の現場に案内したところ、原田はその公図と登記簿謄本の交付を求めたので、原告長島は同月七日頃右書類を同人に手交し、原田はこれを景久に渡した。

(四)  景久はその後原田から本件土地の現場に案内されるとともに、原告長島がその建蔽率は三割である旨告げたことを聞いて、本件土地をその希望に沿うものと考え、更に原田に命じて区役所等で詳細を調査させたところ、実は本件土地は緑地帯に指定されていて、東京都の許可がなければ樹木の移動等ができないばかりでなく、建蔽率も一割であることが判明した。また景久はその後本件土地を他の宅地建物取引業者からも紹介されたが、原告長島をも含めてその告知を受けた価格が相互に齟齬して一定していないこともあつて、同人はこの種仲介業者に不信の念を抱き、原告長島に本件土地の売買の仲介を依頼することをやめようと決意し、原告長島との三、四回目の際同人に対して直接売主と交渉する旨を告げ、その後、同原告から再三会いたいとの申入がなされたが、これを断つた。

以上の事実が認められ、原告長島本人の供述中右認定に反する部分はにわかに措信できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。右認定の事実によれば、訴外原田は何らの代理権もなく、単に景久に命ぜられて購入に適当な土地を物色中、たまたま原告長島にその紹介を依頼したにとどまるし、また代理権ある景久は原田の案内により現地を検分し、その希望に沿うものと考えたが、調査の結果本件土地が緑地帯で建蔽率が一割であることが明らかとなり、原告長島のいうところと著しく相異していたことが主たる原因で同原告に不信の念を抱き、本件土地についての売買の仲介を依頼することをとりやめたのであり、それ以前の単に物件の紹介、公図等の交付のなされただけの段階において既に仲介委託契約が締結されていたとはもとよりいえないから、結局本件土地については原告ら主張のような仲介委託契約は成立しなかつたものと認めるほかはない。したがつて、右仲介委託契約の成立を前提とする原告らの請求は、原告ら主張の商慣習の存否を判断するまでもなく失当である。

二次に原告らは原告らが被告の依頼によつてした本件土地の現場案内およびその公図ならびに登記簿謄本の交付等の行為は、原告らがその営業の範囲内で被告のためにした行為であるから、原告らは被告に対しそれぞれ商法第五一二条により相当の報酬を請求しうる権利があると主張するのでこの点について判断する。商法第五一二条によれば、商人がその営業の範囲内において事実上他人の利益のためにある行為をしたときは、それが法律行為であると事実行為であるとを問わず、相当の報酬を請求することができるものと解される。もつとも、不動産取引の仲介行為は通常はいわゆる民事仲立であるが、このような民事仲立についても商事仲立に関する商法第五五〇条第一項の類推適用が認められるべきであるから、所期の契約が成立しなかつたときは、たとえ、仲介業者が労務を供していたとしても、同法第五四六条の手続を終つたとはいえないため、同法第五一二条による報酬を請求することはできず、同条はただ所期の契約が成立した場合において、仲介業者と依頼者との間に報酬についての特約がないときはじめて適用を見るものにすぎないという見解も一応考えられるが、当裁判所としてはこの見解を採ることに躊躇せざるをえない。むしろ、一般に宅地建物の取引を欲する者が仲介業者を利用するのは、自己の欲する取引に合致する物件ないし相手方を探索する労が省かれ、業者に依頼している多数の顧客の中から自己の取引条件に合致するものを容易に選択しうる便があるにほかならないから、仲介業者が買主の希望に沿うような物件を探知してこれを買受希望者に紹介し、あるいは、売主に対して適当な買受希望者を紹介することは、その業者が進んで契約締結の段階まで関与し続けるか否かを離れて、それ自体商品価値を有する重要な行為であり、かかる行為により契約成立の機縁が作られた以上、その契約が結局は業者の仲介によらず、当事者の直接交渉によつて締結された場合でも、その業者は商法第五一二条により、右の行為に対する相当の報酬請求権を取得すると解すべきであると考える。けだし、もしこのように解しえず、物件ないし相手方の選択につき業者を利用しながら、その後の交渉段階に至つてその関与を故意に排斥し、あえて仲介委託契約を締結するに至らなかつた買主または売主が、それを理由として、また売買契約締結への不関与を理由として、業者への報酬支払を拒みうるものとすれば、右の買主または売主は明らかに他人の労務により不当に利得し、他方仲介報酬を受けることを目的として物件ないし相手方の紹介をした業者の労は何ら報われぬこととなるのであるが、これを調整するに民法第七〇三条以下の不当利得の法理によらしめるのは迂路にすぎ、むしろ商法第五一二条の前記の解釈をもつて事態を匡正するを勝れりとするからである。しかして、この場合の報酬額は、業者による物件ないし相手方の紹介およびこれに伴う契約締結のため有益な行為が、終局的には業者を除外してなされた契約締結に実質的に寄与した度合を主として勘案しつつ、売買の取引価額および本来取得する筈であつた仲介報酬額をも斟酌して決定するのを相当とする。そこでこれを本件についてみるに、

(一)  前記認定のとおり、原告長島は宅地建物取引業者として、原田の依頼により、その希望条件に沿うべき本件土地を探索して、これを紹介して現地に案内したうえ、その求めに応じて公図および登記簿謄本の交付をしており、被告の代理人である景久はその後原田から本件土地の現場案内をうけ、右公図および登記簿謄本の交付を受けている。そして被告がその後本件土地の所有者である訴外木村貞造と直接交渉をしてこれを買受けたことは当事者間に争がない。すなわち、緑地帯とか建蔽率一割とかという事情が判明したことは、単にその後における原告長島の関与を排斥する口実を与えたにすぎず、それ以前における同人の本件土地の紹介等の行為の契約締結に対する意義を没却せしめるものでなかつたのであつて、むしろ被告は原告長島の右行為を利用し、それを機縁として訴外木村との売買契約を締結したものというべきである。原告長島の右行為はその営業の範囲内で被告の利益のためになしたものであることは明らかであるから、原告長島は被告に対し商法第五一二条により相当の報酬を請求しうる筋合である。そこで、前記報酬額の基準がある契約締結への寄与の度合等を見るに、証人遠山景久の証言によれば、原田の案内により本件土地の現場を検分した際、訴外木村の引越荷物を運搬していた運送屋から同訴外人の住所を聞いて、約二週間のうちに四、五回の面談をしただけで、それ以上格別の努力も要しないで本件土地の売買契約を成立させたこと、その取引価額は金六〇〇〇万円であつたこと、景久は他にも三、四〇ケ所の候補地を検分したが、結局本件土地を買受けたものであることが、また原告長島本人尋問の結果によれば、同人の期待しえた仲介報酬額は金一八〇万円(すなわち右取引価額の三パーセント)であつたことが、それぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。これらを前記基準に照らし、原告長島が被告に対して請求しうる報酬額は、本件土地の取引価額の一パーセントに当る金六〇万円をもつて相当と認める。したがつて、被告は原告長島に対し右報酬金六〇万円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四〇年九月三〇日以降右完済まで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

(二)  他方、証人越島力および同森中義三郎の各証言によれば、原告三生不動産および同木村商事はいずれも宅地建物取引の仲介を業とする会社であることが認められるけれども、前記認定のとおり右原告両会社はそれぞれの立場で原告長島の物件の探索に協力して、本件土地を同人に紹介したにすぎず、それは原告らの内部関係にとどまり、必ずしも直ちに被告のためにしたものとはいえないから、右原告両会社は被告に対し商法第五一二条に基づく報酬請求権を取得するいわれはないというべきである。

三よつて、原告長島の本訴請求は、右判示の限度において正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべく、またその余の原告らの本訴請求はいずれも全部失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言については同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。(倉田卓次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例