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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)6160号 判決 1966年5月19日

原告 小原俊弥

右訴訟代理人弁護士 露木滋

被告 江川末子

右訴訟代理人弁護士 柴義和

主文

被告は原告に対し別紙目録記載建物を明け渡し、かつ昭和三九年一二月一日から明渡ずみまで一ヶ月金一万一、一〇〇円の割合による金員を支払うべし。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告において金七万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告は被告に対し昭和三六年一二月一日、原告の所有する別紙目録記載の建物(以下本件建物という)を次のとおりの約定で賃貸した。

1  期間     昭和三六年一二月一日から三年間。

2  賃料     右三年間で合計金四〇万円。

3  賃料支払方法 期間満了時の昭和三九年一一月末日において、さきに被告が原告に対して建築資金として貸付けた金四〇万円の債権と右三年間の賃料債権をその対当額において相殺する。

但し、右賃貸期間満了後さらに契約を継続する場合には賃料は毎月払とする。

ところで原告及び被告はいずれも右期間満了前六月ないし一年内にそれぞれ相手方に対し更新拒絶又は条件変更の通知をしなかったので、昭和四〇年一一年三〇日、原、被告間の右賃貸借契約は賃料支払方法を除き前賃貸借と同一の条件をもって更新された。したがって昭和四〇年一二月一日からの賃料は一ヶ月金一万一、一〇〇円(四〇万円を三六ヶ月で除した金額)であり、これを毎月払することとなったものである。

二、しかるに被告は昭和三九年一二月一日から右賃料を支払わない。そこで原告は被告に対し、昭和四〇年五月二六日付書面をもって、その書面到達の日から五日以内に、昭和三九年一二月分から昭和四〇年五月分までの賃料合計金六万六、六〇〇円を支払うよう催告を発し、同書面は同月二七日被告に到達したが被告は右催告期間内に右賃料を支払わないので、原告は被告に対し昭和四〇年六月一五日付書面をもって本件賃貸借契約解除の意思表示を発し、同書面は同月一七日被告に到達した。よって本件賃貸借契約は同日終了した。

三、以上の理由により原告は被告に対し本件建物の明渡と、昭和三九年一二月一日から昭和四〇年六月一七日まで一ヶ月金一万一、一〇〇円の割合による賃料及び同年六月一八日から明渡ずみまで同一割合による賃料相当の損害金の支払を求める。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張の請求原因事実中被告が原告から原告主張の日に本件建物を賃借したこと、三年間の賃料と被告の原告に対する四〇万円の貸金債権を相殺する旨の約定があったこと、及び原告主張の催告ならびに契約解除の意思表示がなされたことは認めるが、右賃貸借の期間及び賃料の点は否認する。右契約成立のとき、原告と被告の間には三年経過後の賃料は一ヶ月金五、〇〇〇円とする旨の特約があった。そこで被告は原告に対し昭和三九年一二月分の賃料として金五、〇〇〇円の弁済の提供をしたが受領を拒絶されたので、昭和四〇年一月一二日右金員を供託し、以後引き続いて昭和四〇年八月分までの賃料一ヶ月金五、〇〇〇円づつ供託ずみである。よって被告に債務不履行はなく原告のした契約解除の意思表示は効力を生じない。かりに賃料が五、〇〇〇円でないとしても三年経過後の賃料は双方協議のうえ定める旨の特約があったところ、本件においてはまだその賃料の協議決定がなされず、賃料は未定であるから、この間になされた原告の賃料支払の催告及びこれを前提とする契約解除の意思表示は効力を生じないと述べた。

立証≪省略≫

理由

昭和三六年一二月一日、原告がその所有する本件建物を被告に賃貸したこと、右賃料三年分と被告の原告に対する金四〇万円の貸金債権を三年後に相殺する旨の約定があったことは当事者間に争いがない。

そこで原告主張の賃貸期間及び賃料の約定について判断するに、≪証拠省略≫によれば、被告においても契約当時賃貸期間を三年とし、その間の賃料を合計四〇万円とする意思があったことが認められ、これと、≪証拠省略≫及び前認定の事実をあわせると、原告と被告の間には賃貸期間を三年とし、その間の賃料の合計を金四〇万円とする旨の合意が成立していたものと認めるのが相当であり、右認定をくつがえすにたりる証拠はない。

次に、被告は三年経過後の賃料は一ヶ月金五、〇〇〇円とする旨の特約があったと主張するが、右の点に関する≪証拠の認否省略≫他に右事実を認めるにたりる証拠はない。

しかるところ、期間満了前六ヶ月ないし一年内に原告及び被告が更新拒絶又は条件変更の通知をしなかったことは被告は明らかに争わないからいずれも自白したものとみなし、右事実によれば昭和三九年一一月末日の期間満了とともに原被告間の本件建物の賃貸借契約は賃料の額及びその支払方法の点はしばらく別として前賃貸借と同一の条件をもって更新されたものというべきである。

被告は三年経過後の賃料については双方協議のうえ定める旨の合意があり、右協議はまだ調わないから賃料は未定であると主張するところ、≪証拠省略≫ならびに本件口頭弁論の全趣旨をあわせれば期間満了による契約更新後の賃料については当事者双方協議してきめることとなっていたので両者はその後しばしば協議し、原告は調停の申立もしたが、被告は一ヶ月金五、〇〇〇円と主張し、原告は一万二、〇〇〇円くらい、少くとも当初の賃料を下ることをえないと主張して妥協にいたらなかったことを認めることができる。右認定に反する≪証拠省略≫は信用しない。しかしかような場合賃料が協議決定にいたらないからといって賃借人が現に賃借物使用を収益している以上、いつまでもなんらの賃料をも支払わないでよいとすべきものではなく、かえって反対の特約がない限り、当事者が協議をしても結局賃料がきまらないときは更新前の賃料をもって更新後の賃料とし、これを支払うべきものと解するのが借家法第二条第一項の法意に最もよくかなうものというべきである。従って更新後の本件賃料は、前と同一の一ヶ月金一万一、一〇〇円であり、被告はこれを支払うべき義務があったものというべきであり、右賃料の支払期が毎月末日となるべきことは被告が明らかに争わないところである。

しかして原告が被告に対し昭和四〇年五月二六日付書面をもって昭和三九年一二月分から昭和四〇年五月分までの前記割合による賃料を書面到達後五日内に支払うべき旨催告を発し、右が翌二七日到達したこと、右催告期間経過後である同年六月一五日付書面をもって賃貸借契約解除の意思表示を発し、同書面が同月一七日被告に到達したことは当事者間に争いがない。被告は賃料は供託ずみであるから右解除の意思表示は効力を生じない旨主張するが、前認定のとおり、昭和三九年一二月一日からの賃料は一ヶ月金一万一、一〇〇円であったから、被告の原告に対する金五、〇〇〇円の提供は債務の本旨に従った提供とはいえず、従ってその供託は、本件建物の賃料に対する弁済としての効力を有するものではない。したがってその他に弁済の事実の認めるべきもののない本件においては被告の債務不履行を理由とする原告の右契約解除は相当であって、本件賃貸借契約はこれによって終了したことは明らかである。

以上の理由により、被告は原告に対して本件建物を明け渡し、かつ昭和三九年一二月一日から契約終了の昭和四〇年六月一七日までの一ヶ月金一万一、一〇〇円の割合による延滞賃料及び契約終了後本件建物の明渡すみまで同一割合による賃料相当の損害金を支払う義務がある。

よって原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(判事 浅沼武)

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