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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)1697号 判決 1968年9月28日

原告 破産者・東陽船舶電機株式会社破産管財人 後藤末太郎

被告 相良寿啓

右訴訟代理人弁護士 加藤庄市

主文

1. 被告は原告に対し、金五八万四、四三五円および内金二七万円に対する昭和三七年一月一日から内金三一万四、四三五円に対する昭和四〇年三月一四日から、それぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2. 原告のその余の請求を棄却する。

3. 訴訟費用は、被告の負担とする。

4. この判決は、仮に執行することができる。

5. 被告が金三〇万円の担保を供するときは、前項の仮執行を免れることができる。

事実

原告は、「被告は原告に対し、金五八万四、四三五円およびこれに対する昭和三七年一月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

原告は、請求の原因として、つぎのとおり述べた。

一、東京地方裁判所は、東陽船舶電機株式会社(以下、破産会社という。)に対する昭和三六年(ワ)第一〇九号破産申立事件について、同会社が支払不能の状態にあるものと認定して、同年一二月二七日午後一時、破産の宣告をし、同時に、原告を破産管財人に選任した。

二、ところで、それより前、破産会社は昭和三五年一二月一〇日、株主総会において解散の決議をし、被告がその代表清算人に選任された。

三、被告は、右清算手続中であった破産会社の代表清算人として

1. 昭和三六年四月一〇日ごろ、右会社の清算事務を担当していた訴外中村隆治から、同人が同会社のため保管していた同会社に帰属する左記約束手形六通の交付をうけ、これらを、同月ごろから同年一二月末日までの間に、数回にわたり訴外三電々子株式会社(当時の商号・三電機工業株式会社。被告はその代表取締役。)の取引銀行口座を利用し、右約束手形金合計三一万四、四三五円を取り立てた。

(約束手形の振出人)(上記の額面全額)

(一)古薗電機 金三万円

(二)古薗電機 金二万円

(三)野々村 金二万九、四三五円

(四)大東船舶(中橋) 金一〇万円

(五)大東船舶(中橋) 金一〇万円

(六)深瀬 金三万五、〇〇〇円

合計 金三一万四、四三五円

2. 仮に、右事実が認められないとしても、被告は、故意または過失により、金三一万四、四三五円に相当する破産会社所有の右約束手形六通の所持を同会社から失わせ、もって、同額の損害を同会社に与えた。

3. 破産会社は、昭和三六年一月二七日、被告に対して、一五万円を一週間後に返してもらう合意をし、現金一五万円を、被告の指定した訴外平和相互銀行本店の訴外三電機工業株式会社の預金口座に振り込んで貸し付けたところ、その後被告から内金二万円の返済をうけた。

また、破産会社は、同年三月九日、被告に対し、一四万円を一週間後に返してもらう合意をし、現金一四万円を、被告の指定した訴外三電機工業株式会社の融通手形金の支払にあてて貸し付けた。

ところで、右各金銭消費貸借契約は、被告が、当時清算手続中であった破産会社の代表清算人として破産会社から金銭の貸付をうけたものであるところ、商法第四三〇条第二項、第二六五条の規定により、清算会社の清算人は、特段の事情のないかぎり清算会社から金銭の貸付をうけることは許されないから、これに違反してなされた前記各消費貸借契約は無効である。したがって、被告は、法律上の原因のないことを知りながら、前記一三万円および一四万円、以上合計二七万円を利得し、被告会社は同額の損害をこうむった。

4. 仮に、右事実が認められないとしても、被告は、昭和三六年一月二七日、当時清算手続中であった破産会社所有にかかる財産中から、権限なくして金一五万円を取り出して使用し、内金二万円を返還しただけで残金一三万円を消失させもって、同会社は同額の損害をこうむった。

また、被告は、同年三月九日、同じく右会社から、その所有する財産中から金一四万円を権限なく持ち出して使用し、よって、同会社は同額の損害をこうむった。

四、以上の事実にもとづき、原告は被告に対し、つぎの請求をする。

(一)  前掲1.記載の取立金三一万四、四三五円および、被告の破産会社に対する右取立金の引渡義務の履行期は、約束手形金のすべての取立を完了した昭和三六年一二月末日到来したから、右取立金に対しその翌日である昭和三七年一月一日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金。

(二)  仮に右請求が認められないときは前掲2.記載の損害賠償として金三一万四四三五円およびこれに対する不法行為の後である昭和三七年一月一日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金。

(三)  前掲3.記載の不当利得金二七万円およびこれに対する悪意の利得者として利得の後である昭和三七年一月一日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による利息。

(四)  仮に、右請求が認められないときは、前掲4.記載の損害賠償として金二七万円およびこれに対する不法行為の後である昭和三七年一月一日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金。

被告訴訟代理人は、請求原因に対する答弁として、つぎのとおり述べた。

一、原告主張の請求原因第一、二項の事実は認める。

二、同第三項1.のうち、訴外三電機工業株式会社が三電々子株式会社と商号を変更したこと、被告がその代表取締役であること、昭和三六年四月一〇日ごろから同年一二月末日までの間に、数回にわたり、右訴外会社の銀行口座を利用して、原告主張の約束手形六通の手形金合計三一万四、四三五円を取り立てたことは認めるが、右取立は、右訴外三電機工業株式会社が委任をうけてなしたものであって、被告個人が取立を委任されたものではない。

三、同第三項の3.の事実は否認する。

原告主張の一五万円と一四万円とは、訴外三電機工業株式会社の破産会社に対する債権の弁済として受領したものである。すなわち、被告が代表取締役をしている訴外三電機工業株式会社は、破産会社が銀行取引を停止された当時、同会社の整理援助の目的で、同会社にあて、

(一)  金額三三万三、七〇〇円、満期昭和三五年一二月八日、支払場所平和相互銀行本店営業部。

(二)  金額三〇万円、満期昭和三六年二月一〇日、その他右(一)に同じ、

という約束手形二通を振り出し、当時破産会社の清算事務担当者であった訴外中村隆治に交付したところ、同人は、訴外本沢幸人を介し訴外飯島茂に割引を依頼し、その割引金を破産会社において使用した。ところが、破産会社が右手形金を支払わないので、訴外三電機工業株式会社において、右手形金を支払い決済した。原告主張の一五万円(そのうち金二万円は中村隆治が借用した)および一四万円以上合計二九万円は、右訴外会社が破産会社に融通した手形金の一部弁済として交付されたものである。

証拠<省略>。

理由

一、原告主張の請求原因第一、二項の事実は、当事者間に争いがない。

二、原告主張の約束手形金の取立を被告が破産会社の代表取締役としてしたのかあるいは、被告が代表取締役である訴外三電々子株式会社(旧商号・三電機工業株式会社)が委任されてしたのかはしばらく措き、昭和三六年四月一〇日ごろから同年一二月末日までの間に、数回にわたり、右訴外会社の取引銀行口座を利用し、原告主張の約束手形六通の手形金合計三一万四、四三五円を取り立てたことは、当事者間に争いがない。

<証拠>によると、被告は、昭和三六年四月一〇日ごろ、当時清算手続中であった破産会社の清算事務を担当していた中村隆治に対し、同人が同会社のため保管していた原告主張の約束手形六通の手形金を自分が取り立てるからと申し向け同人から右手形の交付を受け、これを前記のような方法で手形金の取立をしたことが認められ、この認定に反する<証拠>は措信できないし、そのほか右認定に反する証拠はない。

右認定した事実によると、前記当事者間に争いのない約束手形金三一万四、四三五円は、被告が破産会社の代表清算人として、取立てたものと解するのが相当である(被告は、被告が代表取締役をしている訴外三電々子株式会社が破産会社から原告主張の約束手形金の取立を委任されたと主張するけれども、<証拠>にこれを認めるにたる証拠はなく、<証拠>はにわかには信用できない。

そうすると、被告は原告に対し、右取立金三一万四、四三五円を支払う義務あることあきらかである。

なお、原告は、右取立金について、取立てた日に履行期が到来すると主張するが、破産会社とその代表清算人としての被告との関係は、商法第四三〇条第二項第二五四条第三項により委任に関する規定に従うから、被告がその事務処理にあたり取り立てた金銭の引渡義務につき履行期の約定がない限り、債権一般の規定により、委任者から履行の請求があったときから遅滞の責に任ずるものと解するのが相当である。ところで、右取立金の引渡につき履行期の定めがあったことについては、これを認めるにたる証拠はない。そうすると、原告が被告に対し、被告が取立を完了した日の翌日からの遅延損害金の支払を求める請求は失当である。もっとも、原告は、本件訴状をもって、被告に対し、右取立金の支払を請求しているのであるから、それによって被告は遅滞の責に任ずるものと解せられるので原告の被告に対する右取立金に対する遅延損害金の請求のうち、本件訴状正本が被告に送達された日の翌日であること本件記録上あきらかな昭和四〇年三月一四日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による金員を求める限度で正当であって、その限度を超える部分は失当である。

三、<証拠>を総合すると、昭和三六年一月二七日ごろ、被告が前記中村隆治に対し、破産会社から一五万円を借りることにする、一週間後に返すからと申し向け、同人をして、破産会社所有の現金一五万円を訴外平和相互銀行本店の三電機工業株式会社預金口座に振り込ませて借り受け、その後、内金二万円を返済したこと、また、被告が同年三月九日、当時破産会社の清算事務補助をしていた蛭子清貞に対し、破産会社から一四万円を手形金決済のため借りることにする、一週間後に返すからと申し向け、同人をして破産会社所有の現金一四万円を、被告の指定した訴外三電機工業株式会社の融通手形金の支払として訴外勧業信用組合に交付させて借り受けたことが認められ、右認定に反する<証拠>はにわかには信用できないし、そのほか右認定に反する証拠はない。

ところで被告が当時破産会社の代表清算人であったことは当事者間に争がないから、清算人たる被告は、特段の事情のないかぎり清算会社たる破産会社から金銭の貸付を受けることは許されず、これに違反してされた貸付は無効と解するのが相当であるところ、(商法四三〇条二項、二六五条参照)、本件全証拠によるも、右の特段の事情を認めるにたりない。

そうすると、被告が破産会社から前記二九万円の貸付を受けた行為は無効であり、この無効行為により被告は二七万円の不当利得をえ、破産会社に同額の損害を与えており、かつ、被告は悪意の受益者と認められるから、被告は原告に対し不当利得金二七万円およびこれに対する利得の後である昭和三七年一月一日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による利息を支払う義務があることあきらかである。

五、(結論)

よって、原告が被告に対し、前記認定の各義務の履行を求める本訴請求は、取立金に対する遅延損害金の請求につき前記認定の限度で正当であるから認容し、その余は失当であるから棄却するほか、すべて正当として認容する。

<以下省略>。

(裁判官 井田友吉)

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