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東京地方裁判所 昭和39年(行ウ)55号 判決 1966年11月17日

原告 鈴木敏文

被告 小金井市固定資産評価審査委員会

主文

小金井市本町六丁目一七〇〇番六宅地一七五・二〇六六平方メートル及び同宅地上所在家屋番号同町九七〇番七木造瓦葺平家建居宅一棟建坪一〇一・六八五八平方メートルの各昭和三九年度固定資産課税台帳登録価格について、被告が昭和三九年六月八日に原告の審査の申出を棄却した決定は、これを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一  原告は、小金井市本町六丁目一七〇〇番六宅地一七五・二〇六六平方メートル及び宅地上所在家屋番号同町九七〇番七木造瓦葺平家建居宅一棟建坪一〇一・六八五八平方メートルの所有者であり、したがつてその固定資産税の納付義務者である。小金井市長は、地方税法三四一条六号にいう基準年度である昭和三九年度の固定資産の評価に基づいて、原告の納付すべき同年度の固定資産税の課税標準たる価格として本件宅地につき金額一二一万一五八〇円、本件家屋につき金額七〇万四四八六円を決定し、小金井市備付の固定資産課税台帳にそれぞれ右決定価格を登録したうえ、昭和三九年四月一日から二〇日までの間右固定資産課税台帳を関係者の縦覧に供した。なお右縦覧期間経過後において小金井市長は本件家屋の登録価格を金額六八万四〇六八円に修正したが、右修正については同年四月二八日にその旨を原告に通知した。原告は、本件宅地及び家屋の登録価格につき不服があることを理由として、小金井市に設置された固定資産評価審査委員会である被告に対して同年四月三〇日に文書をもつて審査の申出をし、かつ口頭審理の方式により審査手続を行なうべきことを申請した。被告は、同年五月一九日及び同年六月五日にそのつど原告並びに小金井市長側評価員等の出席を得て口頭審理をしたうえ、同年六月八日に原告の本件審査申出を棄却する決定をし、その旨を同月九日に原告に通知した。

二  被告の本件審査決定は違法である。

(一)  固定資産評価審査委員会は、固定資産の登録価格についての不服審査の申出を受けた場合において、口頭審理の方式により審査を行なうときは、地方税法四三三条三項並びに同条七項において準用する行政不服審査法二七条、三三条等の規定を活用して、審査の資料の蒐集に努めるとともに、その審査資料はすべて口頭審理に提示し、これによつて当該登録価格がいかにして決定されたかについてその詳細を明らかにしなければならない。けだし、法にいう適正な時価であるべき登録価格がいかにして決定されたかを詳細に知り得る機会がもし公開の口頭審理において与えられるのでなければ、国民はもはや固定資産税の賦課処分の違法を争う路を殆んど閉されてしまうこととなるからである。

被告は、本件登録価格の決定につきその根拠ないし計算関係を明らかにすべきことを原告から求められたのであるが、前記口頭審理期日においてそのための措置をなんらとらないで、ついに右計算関係を明らかにしないまま同年六月五日の口頭審理を突如として終了させ、これ以後口頭審理の方式によることなく、同月六日に原告に対して書面で質問文書を提出すべきことを求め、この要求に応ずる原告の同月八日付準備書面並びにこの準備書面に対する小金井市長の同日付再答弁書の各記載事項について検討を行なつたが、右検討に係る再答弁書をあらためて口頭審理に示さないかぎり、これを事実審査の資料に供することは許されないのにもかかわらず、同日ただちに原告の審査申出についての事実審査を終えて本件審査決定をするに至つた。これは固定資産評価審査委員会の職責をまつたくわきまえない被告の無為無能に基因し、手続に関する瑕疵としてとうてい看過することのできないものである。

(二)  被告は同年五月一二日に本件宅地の実地調査をしたが、この実地調査は固定資産評価審査委員会の審査の決定についての準用規定である行政不服審査法二九条に定める検証にほかならないから、すでに原告の口頭審理申請がある以上、被告はその口頭審理期日において検証をする旨の決定をし、あらかじめその日時及び場所を原告に通知してこれに立ち会う機会を与えるべきであるところ、このような手続によらないで右実地調査を密行した手続上の瑕疵がある。

(三)  地方税法四三一条一項の規定に基づき被告に関する事項について定めた小金井市条例(以下「本件委任条例」という。)六条二項の規定によれば、被告は、必要と認める場合においては、審査申出人に対し、小金井市長の提出した答弁書の写及び必要と認める資料の概要を記載した文書を送付することとしている。ところが、被告は、小金井市長の提出した答弁書及び再答弁書の各写を原告に送付しなかつたし、原告の適法な閲覧請求にもかかわらず、正当の理由なくしてその閲覧を許さなかつた。これもまた手続上の瑕疵である。

(四)  同年六月八日午後四時に被告がその委員会を開いたこととなつているけれども、小金井市長の再答弁書に被告の受付印及び受付番号の押印及び記載がないこと、右再答弁書が市坪係長の同日の起案に係り、林課長、畑野部長及び関助役を経て、同月一七日に鈴木市長の決裁を得たものであるが、その施行日が同月八日であることなどの事実に照らして、むしろ真実は委員会を開くことなく、まえもつて審査決定書が作成され、これとつじつまをあわせるべく小金井市長の再答弁書の提出並びに被告委員会開会があつたものとしての議事録がそれぞれ作成されたとみられるふしがある。かりにそうだとすれば、右は地方税法四三一条二項により本件委任条例に基づいて制定された被告の委員会規程二条に定める委員会の招集手続に違反するものであつて、この瑕疵もまた看過しえないものである。

(五)  本件審査決定のような処分には理由を付すべきものであり、いかなる程度の理由の記載があれば法の要求をみたすかについては厳格に解すべきものであるが、本件審査決定の理由の内容は甚だ抽象的であつて、この程度の記載では処分の取消事由たるを免れない。

以上述べたところにより、被告の本件審査決定は違法の行政処分たるを免れない。そこで、原告は本件処分の取消しを求める。被告指定代理人は、本案前の主張として、次のとおり述べた。

一  固定資産についての評価審査制度は、行政機関による審判の一つとして、国民の権利保護とともに、違法・不当の行政処分の監督是正という目的を併せ有するものであつて、固定資産評価審査委員会が登録価格を判断するにあたり、申出人に対し不服を主張する機会を十分に与えねばならないことはいうまでもないが、それも公正妥当な判断を得るためのものであり、納税者の権利保護ということも、結局は公正妥当な判断を得ることによつてその目的が達せられるのである。したがつて、登録価格の当否を判断する機関であるところの被告が公正妥当な判断を誤つたものとして、それを理由に本件審査決定の取消しを求めるのであればともかく、答弁書及び再答弁書の各写の不送達などのような手続上の瑕疵によつては、いまだ被告の本件登録価格についての公正妥当な判断はなんら影響を受けていないというべきであるから、本件訴えのように、本件登録価格の適否を争わないで、審査における個個の手続を指摘し、その違法を主張して登録価格についての審査決定の取消しを求めることは失当であるのみならず、訴の利益を欠くものというべきである。

二  権利の乱用が許されないことは、私法関係にとどまらず、すべての法律関係を規律する大原則であり、それは形式的には権利の行使といえても濫用にわたる場合は権利行使としての効果を生じないものとされる。原告は、本件審査において、審査申出をしたのは訴訟を起す前提たるにすぎない旨を揚言して、もつぱら固定資産税制一般についての不服を主張し、関連性のない事項について証拠の申出をし、口頭審理に際し原告の質問に対する応答としてすでに告知された事項につきなおもくりかえし質問事項を記載した準備書面を提出して被告の応答を求めるといつた執拗な態度で終始し、また本件訴訟において、審尋の用語例についての理解の有無に関して被告を罵倒し、さきの審査手続における再答弁書(写)の不送達につき被告側証人を難詰したことなどから明らかであるように、公的な争訟制度を形式的に利用しながら、悪意をもつて小金井市政を攻撃しているものであり、まさに審査申出権ないし訴権を乱用しているものであつて、これは許されないことであるといわなければならない。

本案について、被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁及び主張として、以下のとおり述べた。

一  原告の請求原因事実一は認める。

なお、小金井市長は、小金井市において国電武蔵小金井駅を中心として約四〇〇ないし六〇〇メートルの範囲の地域を昭和三八年自治省告示第一五八号固定資産評価基準第一章第三節二にいう「主として市街地的形態を形成する地域」としているところ、本件宅地が右駅から約三〇〇メートルの距離にあるので、これについて右告示基準にいわゆる市街地宅地評価法による宅地の評価を行ない、基準年度である昭和三九年度の価格を一二一万一五八〇円と決定して登録し、また本件家屋については、右告示基準第二章第四節経過措置(昭和三九年一月二八日自治省告示第三号をもつて追加)の定めに従い、本件家屋のうち昭和三八年一月一日以前の建築に係るいわゆる在来分七九・三七一八平方メートルにつき金額四八万二四四五円。昭和三八年一月二日以後の建築に係るいわゆる新増分二二・三一四〇平方メートルにつき金額二二万二〇四一円、合計金額七〇万四四八六円と評価決定して登録したが、右評価において新増分を事務所と認めて在来分と合わせて全体を併用住宅とした点を不相当とし、本件家屋全体を専用住宅として扱うこととして、新増分を金額二〇万一六二三円としたので、右登録価格七〇万四四八六円を六八万四〇六八円に修正登録するにいたつたものである。

二  本件審査手続の経過は次のとおりである。

(一)  原告は本件登録価格についての不服事由として「いかなる理由により宅地の価格が一二一万一五八〇円であるか、又家屋が六八万四〇六八円であるか根拠なし。小金井市長個人の住居の単価と申出人のそれは申出人の二倍であるが、申出人が居住することによつて受ける利益が市長のそれの二倍に該当するとの根拠なし。」と記載し、併せて口頭審理方式による審査を申請する旨を記載した審査申出書(乙第一号証)を被告に提出した。

(二)  小金井市長は本件登録価格について「この価格は地方税法四〇九条並びに四〇三条の規定による固定資産評価基準によつて評価した価格であつて、法律上の根拠に基づいた適法にして妥当な価格である。」と記載した昭和三九年五月一二日付答弁書(これに本件宅地についての画地計算及び宅地評点調査票を添付したもの。乙第二号証)を被告に提出した。

(三)  被告は、同年五月一二日に右の審査申出書及び答弁書(付宅地評点調査票)による書面審理並びに本件宅地についての実地調査を行ない、右実地調査に基づいて、本件宅地は国電武蔵小金井駅から徒歩約五分の距離にあり、付近は市役所等の官公庁街をなし、公道と私道との交差する角地にあたる普通住宅地区の上級に属するもので、形状整形地である旨を記載した実地調査調書(乙第三号証)を作成した。

(四)  同年五月一九日に原告並びに小金井市長側評価員等出席のうえ、第一回口頭審理が開かれた。被告の鴨下委員長は「前記審査申出書の記載事項につきさらに補足すべきものがあれば、それを資料としたい」旨を原告に告げ、原告は「自治省告示による評価基準により居住用宅地を一般売買時価に基づいて評価するのは違憲ではないか。本件宅地はこれを市街地的土地を形成するものとみたか。角地で商業には良いが、騒音、埃りなどによつて居住には不適地であることからしてその評価は高すぎるのではないか。評価にあたつて取得価格の倍数・上昇率等を参考にすべきではないか。」などの陳述をし、かつ本件宅地以外の土地三筆についての検証及び原告他四名の審尋をなすべき旨の証拠申出書(乙第六号証)を提出した。右委員長は証拠決定を後日にすべき旨を告げて当日の口頭審理を終えた。右口頭審理について口頭審理調書(乙第五号証)及び議事録(乙第四号証)を作成した。

(五)  第二回口頭審理が原告及び評価関係者出席のうえ同年六月五日に開かれた。固定資産評価員からの説明として、本件宅地は市街地宅地評価法すなわち路線価式評価法により普通住宅地区として評価したものであることを述べ、さらに標準宅地の所在地番・比準価格・指示平均価額等を明示したが、右説明を不十分であるとして、原告は質問事項を書面に記載して後日提出したい旨の申出をした。鴨下委員長は、前回の原告の証拠申出についていずれも採用しない旨を告げ、質問文書提出についての再度の原告申出があつたのち、原告に対して「今日いうことはそれで終りですか。」と問い、原告において「ええ」と答えたので、「では、鈴木さん(原告)に対する口頭審理を完了します。」と宣した。被告は右口頭審理について口頭審理調書(乙第八号証)及び議事録(乙第七号証)を作成した。

(六)  被告は同年六月六日付をもつて、同年「六月五日をもつて原告の申出に係る口頭審理は完了した」旨を前置きしつつ、同年「六月八日午前一二時まで被告あてに質問文書を持参」すべき旨を記載した通知書(甲第七号証)を原告に発し、原告は、右通知に従い、いわゆる質問文書として、本件宅地及び家屋の登録価格の算定根拠についてその計算関係を具体的数字で明示すべきことなど一〇項目をあげた準備書面(乙第九号証)を被告に提出し、小金井市長は即日(六月八日)右一〇項目について各項ごとに答弁する形式・内容の再答弁書(乙第一〇号証)を被告に提出した。

(七)  被告は、同日に右準備書面及び再答弁書の各記載事項並びに従前の審理結果につき種々検討を加えたのち、評議に入り、けつきよく原告の審査申出はその理由がないものと認めて本件審査棄却決定をし、同月九日にその旨を原告に通知した。

三  本件審査決定はその手続につきなんら瑕疵のないものであるが、原告の主張に関連して、さらに次のとおり反論する。

(一)  固定資産評価審査委員会は、固定資産課税台帳に登録された事項に関する不服を審査決定するために市町村に設置される行政機関であつて、その審査手続は職権主義を基調とする行政機関による審判手続にすぎず、書面審理を建前とするものである。あるいは固定資産評価審査委員会が第三者機関であることから、審査手続は、それが口頭審理により行なわれる場合においては、弁論主義の原則によつて進められなければならないようにみえるかも知れない。しかし、この審査手続が市町村の条例及び規程で規律されること、口頭審理の申請があつても、特別の事情があれば、口頭審理によらないことも許容されていること、審査の申出に対する決定が三〇日以内に行なうものと定められていること、行政審判の一般法ともいうべき行政不服審査法の規定もその一部が準用されていることなど種々の特例が定められていることから明らかであるように、固定資産評価審査委員会の審査手続は、あくまで職権主義を原則とする行政機関による審判の一つであるにすぎず、対審構造のうえに当事者対等の原則をとるところの民事訴訟とはその性格を異にするものである。したがつて、その手続は、地方税法四三三条、同条が準用する行政不服審査法の各条項並びに地方税法四三一条に基づいて制定された条例及び規程に従つてこれを践めば足り、民事訴訟法上の手続がすべて準用されるものではない。

地方税法が固定資産の登録価格についての不服申立てを市町村長に対してでなくて市町村に設置された第三者機関たる固定資産評価審査委員会に対してさせる趣旨について考えるに、固定資産の登録価格の当否を判断するに当つて固定資産評価審査委員会のもつとも重要なことは、その価格が地方税法三四一条五号に定める適正な時価を上廻るものでないかどうかを調査することであつて、その価格が同法三八八条に基づいて示された固定資産評価基準によつて誤りなく算定されているかどうか、又他の固定資産の登録価格との均衡がとれているかどうかを調査することは、結局登録価格が適正な時価に相当するものであるとか、それを上廻るものでないことの判断資料となるということで重要であるにすぎない。したがつて、固定資産評価審査委員会は、登録価格の不服申立てについて口頭審理の方式により事実審査を行なう場合においても、登録価格が適正な時価を上廻るものでないかどうかにつき審査申出人の主張を聴取し、判断の資料とすれば足りるのであつて、その登録価格がいかなる根拠によつて計算されたかの詳細について口頭審理においてみずから又は当該市町村長をしてこれを明らかにさせなければならない義務があるわけではない。もつとも口頭審理において審査申出人からその登録価格の算定内容につき説明を求められた場合においては、市町村長として説明させることが妥当であると考えられる余地もある。

(二)  原告は、本件口頭審理の手続において具体的に登録価格についての意見やその価格の計算関係を明らかにするよう求めた事実はなく、かえつて土地の評価につき一般売買の時価によるのは違憲であるとかいつて評価基準自体を非難したり、あるいは宅地と家屋とを各別に評価するのは二重課税として違法であるといつたりして、もつぱら税制一般についての抽象的な不服を主張するか、さもなければ本件宅地と類似性をもたない遠方の土地についての価格の説明を求めたりしたにすぎない。しかし、それにもかかわらず、第二回口頭審理において、本件宅地については市街地宅地評価法により路線価を基準として評価を行なつたこと、小金井市本町六丁目一八二七番四宅地が標準宅地でその単位当り評価額二万三四〇〇円であることなど再答弁書記載事項と同一内容の説明が評価員からなされたのであるから、被告は本件口頭審理を尽くしたものというべきである。なお原告は口頭審理後提出された資料すなわち再答弁書等を本件審査の資料に供することが許されない旨を主張するけれども、右主張の根拠を審かにすることができない。

(三)  原告は、本件宅地の実地調査が本件口頭審理において決定されず、かつその日時場所を原告に通知してあらかじめ立会の機会を与えたうえでされたものでないことを違法事由として指摘するけれども、地方税法四三三条七項が準用する行政不服審査法二九条二項の規定は、審査申出人から検証の申立てがあつた場合において、その検証をしようとするときは、あらかじめその日時及び場所を申立人に通知し、これに立ち会う機会を与えなければならないこととしているが、原告は本件宅地につき検証を申立てなかつたのであるから、右実地調査につき違法のかどはない。そして、右実地調査の結果は本件宅地の用途地区・道路条件・接近条件・宅地条件が明らかになつた程度のことであり、なんら目新しいことではなく、原告も十分諒知しているところであつて、これに立ち会わせなかつた結果どれだけの不利益を原告に課したこととなるのかとうてい理解しがたく、かりに職権による検証についても立ち会う機会を与えるべきであるとしても、右実地調査が本件審査手続内の調査として有効でなくなるまでのことであつて、本件処分をするために右実地調査が必要不可欠のものである場合は格別、そうでない本件処分においては、原告にその立ち会う機会を与えず、その結果の内容を告知しなかつたことが審査結果に影響を及ぼしたとは考えられないから、右は手続に関する瑕疵とはいえないものである。

(四)  原告は、本件委任条例六条二項を根拠として、小金井市長の提出した答弁書・再答弁書・その他必要な資料の各写を原告に送付すべき被告の義務を主張するけれども、右規定は、被告が必要と認めたときに送付することとしているにすぎず、小金井市長の提出資料のすべてを申出人に送付するよう義務づけているものでないし、しかも書面審理についての規定であつて、口頭審理を行なう場合においては、審査申出人は、不服事由を口頭で主張し、その主張に対して被告又は小金井市長の機関である評価員から釈明・説明を受ければ足りる。被告が右送付の必要を認めなかつたことについて、あるいは当・不当の問題が考えられることがあつても、ただちに違法の問題を生ずるすじあいはない。ちなみに、被告において昭和三九年度中の審査申出事件につき八王子市ほか八市の固定資産評価審査委員会における答弁書送付の事例の有無を調査したところ、いずれも被告と同様に口頭審理の席上口頭で説明しているのであつて、答弁書の写を申出人に送付した例はない。

そして、被告の答弁書及び再答弁書の記載事項については、いずれも口頭審理において原告に対してその説明がなされたのであるから、被告があらためてこれを送付する必要を認めなかつたのは当然であるし、しかも原告の口頭審理における主張は、前述のとおり制度自体に対する不服あるいは第三者に対する評価の開示請求であり、また原告自ら広言しているように、当初から訴訟提起をするための審査申出であるにすぎないのであるから、かりに答弁書及び再答弁書の写を原告に送達したとしても、このことによつて原告の口頭審理における主張が自己の固定資産評価についての具体的な不服事由になつたであろうことはとうてい考えられない。したがつて右の写不送達が本件審査決定に影響を及ぼしたものとみることはできない。なお、原告が右答弁書及び再答弁書の閲覧申請をしたことはない。したがつて被告が右閲覧申請を拒否したこともあり得ない。

(五)  本件審査決定書が被告委員会を開くことなく前もつて作成され、それにつじつまを合わせるべく小金井市長の再答弁書と被告の議事録とが作成されたとみるべき旨の原告の主張は、まつたく事実無根のものであり、原告の誤解・無知ないしは悪意に基因するものというほかない。

(六)  原告は、さらに本件処分における決定理由が甚だ抽象的で不十分であるから、本件処分は違法として取消しを免れないと主張する。しかしながら、この審査制度も一つの公的な争訟制度である以上、この制度を利用するには、この制度を利用することによつて解決されるべき紛争の存在すなわち審査申出人の固定資産評価についての具体的な不服事由の存在を要件とするのは当然のことであるから、原告は、本件審査の申出においては、本件登録価格についての具体的な不服を内容とすべきである。ところが、さきにふれたとおり、原告の審査申出理由自体が抽象的であり、登録価格が妥当でないことにつき具体的に理由を述べているものでない以上、被告の本件処分における決定理由が具体的でないということで、ただちに本件処分を違法とすべきではない。

(証拠省略)

理由

一  まず、被告は、原告が、本件登録価格の適否についての被告の判断を争わないで、本件審査手続における個々の違法事由だけを主張して本件審査決定の取消しを訴求することは、訴えの利益を欠き不適法である旨の主張をする。しかしながら、固定資産評価審査委員会の審査の決定の取消しの訴え(地方税法四三四条一項)については、審査の手続に関する瑕疵に基づいて当該審査決定の取消しを求めることができるというべきであつて、とくにこれを別異に解しなければならない理由がないから、本件訴えにおいて、原告が本件審査決定の違法事由としてその手続上の瑕疵だけを主張することはなんら怪しむに足りない。被告の右主張は理由がない。

また、被告の主張は、原告が本件において公的な争訟制度を利用するのは、被告主張の後記事情によつて明らかであるように、ただ形式的のことでしかなく、真意はもつぱら小金井市政に対して悪意の攻撃を加えるにあるのであつて、まさに審査申出権ないし訴権を乱用しているものであるから、本件訴えは許されるべきでない趣旨のように解されるけれども、仮に原告が、被告主張のように、本件審査においては、固定資産税制一般についての抽象的事項に関する不服を主張し、関連性のない事項につき証拠の申出をし、かつ、応答ずみの事項についてくりかえし執拗に質問する態度で終始し、また本件訴訟においては、審尋の用語例についての理解の有無に関して被告を罵倒し、かつ、さきの審査手続における再答弁書(写)の不送達につき被告側証人を難詰したという事情があつたとしても、右事情からただちに原告の審査申出権ないし訴権の乱用として本件訴えの不適法をもたらすものということはできない。被告の右主張もまた理由がない。

二  原告が小金井市本町六丁目一七〇〇番六宅地一七五・二〇六六平方メートルすなわち本件宅地及び同宅地上所在家屋番号同町九七〇番七木造瓦葺平家建居宅一棟建坪一〇一・六八五八平方メートルすなわち本件家屋の所有者であり、したがつてその固定資産税の納付義務者であること。小金井市長が地方税法三四一条六号にいう基準年度である昭和三九年度の固定資産の評価に基づいて原告の納付すべき同年度の固定資産税の課税標準たる価格として本件宅地につき金額一二一万一五八〇円、本件家屋につき金額七〇万四四八六円を決定し、小金井市備付の固定資産課税台帳にそれぞれ右決定価格を登録して昭和三九年四月一日から二〇日までの間右固定資産課税台帳を関係者の従覧に供し、その後において本件家屋の登録価格を金額六八万四〇六八円に修正して右修正につき同年四月二八日にその旨を原告に通知したこと。本件宅地及び家屋の登録価格につき不服があることを理由として、原告が被告に対して同年四月三〇日に文書をもつて審査の申出をし、かつ口頭審理の方式により審査手続を行なうべきことを申請したこと。被告が同年五月一九日及び同年六月五日にそのつど原告及び小金井市長側評価員等の出席を得て口頭審理をしたうえ、同年六月八日に原告の本件審査申出を棄却する決定をし、その旨を同月九日に原告に通知したこと。以上の事実はいずれも当事者間に争がない。

三  右にみたとおり、本件審査決定は口頭審理の方式による手続を経たものであるが、地方税法四三三条二項に定める口頭審理の手続について、被告はつぎのように主張する。すなわち、固定資産評価審査委員会の審査手続は職権主義を基調とする審判手続にすぎず、書面審理を建前とするものであるから、その口頭審理といえども、対審構造のうえに当事者主義の原則をとるところの民事訴訟手続の口頭弁論とは性格を異にする。したがつて、登録価格についての不服審査を口頭審理の手続により行なう場合において、固定資産評価審査委員会は、当該価格が適正な時価を上廻るものでないかどうかについて、審査申出人の口頭による不服事由の陳述を聴取して、その判断の資料に供すれば足りるのであつて、当該価格が評定されるにいたつた根拠ないし計算関係を詳らかにしなければならない義務があるわけでないと。かように主張するから、以下考察する。

(一)  地方税法四三三条は、固定資産評価審査委員会は、審査の決定をする場合において、審査を申し出た者の申請があつたときは、特別の事情がある場合を除き、口頭審理の手続によらなければならない(二項)。口頭審理を行なうときは、審査を申し出た者、市町村長又は固定資産評価員その他の関係者の出席及び証言を求めることができる(三項)。また口頭審理の手続による審査は、公開して行なわなければならない(六項)と各規定し、同法四三一条一項に基づき審査の手続等に関する必要事項を定めた本件委任条例七条において、審査申出人は、口頭審理に出席して意見を述べ(一項)、かつ必要な資料を提出することができる(六項)権能を有し、委員会は、必要と認める場合においては、関係者相互の対質を求めることができ(三項)、また関係者に対して、その請求により口頭による証言にかえて口述書の提出を許すことができる(四項)とともに、口頭審理を行なうつど文書又はその他の方法で口頭審理の日時及び場所を審査申出人及び市長に通知し(二項)、審査申出人が口頭審理に出席している場合においては、口頭審理を終了するに先だつて、審査申出人に対して、意見を述べ、かつ必要な資料を提出する機会を与えなければならない(六項)などの職責を有することを明らかにしている。

そこで、地方税法四三三条にいう口頭審理の手続については、それによる審査を公開して行なわなければならないとする公開主義が標榜される以上、その審査過程における弁論及び証拠調の手続はこれを公衆が傍聴しうる状態で行なうためにすべて口頭をもつてしなければならないという意味での口頭主義の原則が必然的に要請されるし、また、固定資産評価審査委員会は、制度的には、納税者の納付すべき固定資産税に係る固定資産の価格その他の事項を固定資産課税台帳に登録するという行政行為に対する事後的救済手続として行政審判を行なう第三者機関であるから、その職権行使の独立性が保障されるかぎり(地方税法四二三条以下)、その審査を行なう場合においては、公平な第三者の立場に立つて相対立する両当事者に平等に攻撃防禦の武器と機会を与えなければならないという意味での双方審尋主義ないし当事者対等の原則が審査手続上基本的に要請されるのであつて、このような口頭主義・公開主義・双方審尋主義の諸原則が論理的・機能的に結合して要請されるところの口頭審理なるものは、民事訴訟手続における口頭弁論方式に傾斜した準司法的手続構造をとらざるをえないものと解すべきである。(ことわるまでもないが、いわゆる口頭主義の原則に立つからといつて、右にいう口頭審理が当事者主義の理念に呼応し、その発現たる弁論主義と論理的に関連するものとみるべきでない。)

したがつて、地方税法四三三条にいう口頭審理の手続による審査は、審査申出人及び市町村長の両当事者がそれぞれの申立事項を支持し理由あらしめる法律上及び事実上の一切の陳述をし、かつ証拠を提出する場面として現われるところにその審理活動の中核があり、その目的は、当事者が相手方の弁論及び証拠を知り、これにつき弁駁し、反証を挙げる機会を与えられることによつて、固定資産評価審査委員会の公正妥当な審判を保障し、かつ当事者の権利利益を保護するにあるというべきであるから、固定資産評価審査委員会が口頭審理の手続により審査を行なう場合において、当事者に対してその弁論をなし、証拠を提出すべき機会を与えないときは、ただちにその口頭審理の不全をもたらし、当該審査決定は、口頭審理の方式違背による手続上の瑕疵を帯びるものといわなければならない。

(二)  固定資産評価審査委員会がその審査につき行なう口頭審理の手続は、民事訴訟手続の口頭弁論方式に準ずるものであるが、登録価格についての不服を審査事項とする場合においては、なお次のような手続構造の特色を有する。

土地家屋の固定資産について、いわゆる時価は、その資産の価値を一おう適正かつ客観的に表現するものであるから、固定資産税の課税標準を適正な時価によるべきものとするときは、その時価の評価の基準が当該資産についての賃貸料等の収益額・売買実例価額・取得価額(再建築価格)のいずれにあるとを問わず、納税者はその評価の適否について比較的容易に判断を下すことができ、納税者の権利利益を保護することとなる。地方税法は、固定資産税につき価格とは適正な時価をいうものとして、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を詳細に規定し、かつ評価の機構を整備確立し(同法三八八条以下及び自治省告示昭和三八年第一五八号)、この法定の評価体系を離れて個々の資産の価格の適否を判断しえないものとしているけれども、当該価格が法定の評価体系に基づいて評価決定され、適正な時価を表現するものであることについての計算根基を納税者に公示する制度を用意するにいたらなかつた。したがつて、固定資産の価格の不服事項につき口頭審理の手続による審査を行なう場合においては、いきおい当該価格についての評定に関する計算根基を明確にさせることがまつさきに要請されるものというべく、審査申出人・市町村長及び固定資産評価審査委員会の権能ないし職責からして、当該価格を構成する計算根基につき、審理の冒頭において評価者たる市町村長は進んでこれを明示し、審査申出人はその明示すべきことを求め、固定資産評価審査委員会はそれを明確ならしめるべきである。このような審理の段階を経た後において、当事者双方の口頭審理の中該的活動たる攻撃防禦が展開されうるのであるから、口頭審理の手続の冒頭において右のような対審構造が期待されるというべきである。

そうすると、固定資産評価審査委員会は、登録価格についての不服審査を口頭審理の手続により行なう場合において、その登録価格の評定に関する計算根基を明確ならしめるにいたらないときは、当該口頭審理の手続において審査申出人がその弁論をなし、証拠資料を提出すべき機会をほとんど与えないことに帰するものといわなければならない。

なお、口頭審理の手続の冒頭において前記のような対審構造が要請されるかぎり、登録価格の不服審査の申出書に記載すべき不服事由については、当該登録価格が適正な時価を超えるものであることを示せば足り、さらにその申立を支持し、理由あらしめる法律上及び事実上の根拠を具体的に示すことを要しないし、まして審査申出人がみずから適正な時価を特定して主張しなければならないものでもない。(思うに、審査申出人が相当と認める価格を主張した場合においても、不服審査の範囲がそれによつて限定されないことは、まさに被告のいう職権主義の当然の帰結だからである。たとえば、登録価格一〇〇万円についての不服審査について、かりに審査申出人が価格八〇万円を主張したとしても、固定資産評価審査委員会は、価格七〇万円をもつて審査決定することを妨げられない。

四  そこで、いちばんの争点として、本件審査決定につき口頭審理の方式違背による手続上の瑕疵があるかどうか、これについて判断する。

被告が小金井市長の答弁書(乙第二号証)の写を原告に送付しなかつたこと(その当否についての判断はしばらく措く。)は当事者間に争がなく、この事実に前掲乙第四号証。成立に争のない乙第八号証の各記載及び原告の本人尋問の結果をあわせると、昭和三九年五月一九日に開かれた第一回口頭審理において本件宅地及び家屋の各登録価格につきその評価決定に関する計算根基が明示されなかつたので、原告が釈明要求の形で被告に対して右計算根基の明示を求めた(この点に関する証人村越・同鴨下の各証言部分は措信しがたい。)ことが認められるところ、右計算根基の明示の有無についてみるに、成立に争のない乙第七号証によると、原告の釈明要求に対する小金井市長側評価員の説明として、本件宅地につき市街地宅地評価法により普通住宅地区として評価を実施したこと、小金井市本町六丁目一八二七番宅地が関係標準宅地でその単位当り評価額二万三四〇〇円であること、及び小金井市における指示平均価額一万七四六二円であることを告げたことを認めることができるが、しかし、本件宅地だけについても、評価員の右の説明事項をもつてその計算根基を明らかにするに足りず、さらに前記乙第二号証添付の「画地計算及び宅地評点調査票」の様式に従つて整備された程度(同号証添付のものは、せつかくの様式にもかかわらず、該当欄の大半を空白にした未整備のままであるが。)の記載事項の説明を要することは前記評価基準告示の内容にてらして明らかである。被告は本件口頭審理において本件宅地及び家屋の価格についての評定に関する計算根基を説明しつくした旨を主張し、証人村越・同鴨下は右主張に符合する証言をするけれども、右証言は本件口頭審理の終了段階のいきさつの認定(あとでふれる。)に資した証拠にてらしてにわかに措信しがたく、ほかに被告の右主張事実を認めるに足りる証拠がないから、本件口頭審理においては、原告の釈明要求があつたにもかかわらず、ついに本件宅地及び家屋の各登録価格についての評定に関する計算根基が明示されなかつたというべきである。

そして、本件口頭審理の終了段階におけるいきさつについてさらに検討するに、前記乙第七号証及び第八号証、成立に争のない甲第七号証及び第八号証、証人中田の証言、原告の本人尋問の結果並びに本件口頭弁論の全趣旨をあわせると、つぎのとおり認めることができる。すなわち、第二回口頭審理期日において評価員が行なつた説明(前記認定のとおり)に対して、関係標準宅地につき所在地番を告げられただけではその状況を具体的に確認しがたいとして、原告はその所有者及び面積を明示すべきことを求めた。被告の鴨下委員長は、これに対し「こちらから申し上げることは以上です。」と告げて、右の明示を拒み、かつ本件宅地及び家屋の登録価格の評定についての計算根基に関する説明事項も評価員の前記説明をもつてつきたとする態度を明らかにした。しかし、これはまつたく予期しない審理態度であるばかりでなく、前記説明はきわめて不十分であつて、これでは本件宅地及び家屋の登録価格についてその計算根基を明確に知るよしもなく、したがつて本件登録価格の不服審査において的確にかつ具体的に争うすべもないとして、原告は、かさねて被告に対して、前記説明が至つて不十分であるから、右計算根基を明確にさせるために質問事項を書面で提出すべく、これについては被告においても書面をもつて明確かつ詳細に応答してほしい旨の要望を出さざるをえなかつた。ところが、被告の鴨下委員長は、原告の再度の要望に係る質疑応答の方法についてはふれないで、「今日いうことはそれで終りですか。」と問い、原告の不得要領な「ええ、、、」という返事があつたところで、「では、鈴木さん(原告)に対する口頭審理を完了します。」と宣したので、原告は、本件口頭審理のこのような終了については、ただ意外なそして唐突な打ち切り方であると理解するほかなかつた。かように認めることができ、右認定に反する証拠はない。

以上の認定事実によれば、本件口頭審理については、本件宅地及び家屋の各登録価格についての評定に関する計算根基を明確にしない段階においてはやくも終了し、しかも、本件委任条例七条六項の規定に従い、口頭審理を終了するに先だつて原告に対していわゆる最終の意見陳述及び資料提出の機会が与えられるべきところ、そのこともなかつたことが明らかであるから、前記三の(一)及び(二)に説示した口頭審理の方式及び手続構造の特色にてらして、本件口頭審理は、けつきよく被告が原告に対して審査申出人としてその弁論をなし、かつ証拠を提出すべき機会を与えなかつたものとして、口頭審理の手続について方式違背の瑕疵があるといわなければならない。

なお、被告主張のように、原告が本件口頭審理にさいして税制一般に関する抽象的不服を述べ、関連性のない証拠申出をするような機会があつたとしても、本件口頭審理の手続に関する前記瑕疵になんら消長をきたすものではありえない。

五  ところで、被告は、原告の本件審査申出については、本件口頭審理を間に挿んで昭和三九年五月一二日及び同年六月八日にそれぞれ書面審理を行なつたほか、同年五月一二日に本件宅地の実地調査をも行ない、これらの調査及び審理の結果に基づいて慎重審議をつくしたうえ、本件審査決定をしたのであるから、これにつき手続上の瑕疵が存する余地はないと主張する。

しかしながら、地方税法四三三条二項に規定する口頭審理は、被告のいわゆる書面審理(すなわち本件委任条例六条に規定する書面審理)を補充するにすぎない手続でもなく、また右にいう書面審理によつてはじめて補完されるべき関係にあるものでもない、それだけで自足完結性を有する手続であると解するのを相当とする。したがつて、原告の申請に基づく口頭審理の手続を経て本件審査決定がなされている(このことは、まえにもふれたとおり、当事者間に争がない。)かぎり、本件口頭審理の手続についての前記瑕疵はすなわち本件審査決定の手続に関する瑕疵にほかならないから、本件審査決定の手続上の瑕疵を蔽うわけにはいかない。

そして、地方税法四三三条にいう口頭審理の目的・機能にてらして審査申出人の行なうべき弁論及び証拠の提出が当該口頭審理の中核をなすべきものであることは、さきに説示したとおりであり、本件口頭審理にさいして被告が原告に対して審査申出人としてその弁論をなし、かつ証拠を提出すべき機会を与えなかつたことは、まえに認定したとおりであるから、本件口頭審理は、およそ口頭審理たるの実質を欠くものといわなければならない。いいかえると、本件審査決定は畢竟口頭審理の手続を経なかつたことに帰すると解すべきである。したがつて、地方税法四三三条二項の規定に反する手続上の瑕疵があるというべく、しかも、瑕疵の程度は、すでに説示したところにより、すくなくとも処分の取消事由たるべきものというべきであるから、本件審査決定は、違法の行政処分として、その取消しを免れないといわなければならない。

六  以上述べた理由により、原告の本訴請求は、その余の争点につき判断するまでもなく、すでに理由のあることが明らかであるから、これを正当として認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中川幹郎 浜秀和 前川鉄郎)

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