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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)8090号 判決 1966年1月31日

原告 渡辺竹雄

右訴訟代理人弁護士 大野曽之助

同 赤坂正男

被告 内田君子

右訴訟代理人弁護士 原田勇

同 鈴木巌

同 川村幸信

同 黒崎辰郎

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、別紙第一目録記載の建物がもと訴外加藤さとの所有に属し、原告が昭和三四年八月一七日右建物を加藤さとから買受け、同年九月五日所有権取得登記を経由し、現にこれを所有していること、被告が昭和三三年三月一日右建物のうち右第一目録表示の建物部分(以下係争建物部分という)を訴外加藤さとから賃料一ヶ月金七〇〇〇円、毎月五日にその月分を支払う約で期間の定めなく賃借(ただし、階下台所、便所、玄間は共用)し、現にこれを占有していることはいずれも当事者間に争がない。

二、そこで次に原告主張の合意解除の成否についてみるに、証人加藤良子、同加藤さとの供述によっても、右合意解除の成立したことを認めるに十分でない。

すなわち、右各証言によれば、加藤さとは右建物の処分を必要とする事情が生じたので、まず賃借人である被告に対し買取の話をしたが、被告に買受の資金がなく売買は成立しなかったこと、そこでさとは昭和三四年四月頃被告に明渡の交渉をしたところ、被告は適当な代りの部屋があれば明渡してよいという程度の回答をしたに過ぎないこと、その後加藤方において代りの部屋を紹介したが被告の希望するようなものでなかったので結局そのままとなったことが窺われ、被告において右加藤さとの合意解除についての申入れを応諾したことを認めるに十分でないといわなければならない。

そして他に、右原告主張の合意解除の事実を認めるに足る的確な証拠はないから、右主張は採用できない。

そうすると、他に格別の主張、立証のない本件において、本件係争建物部分の賃貸借は、前述の原告の建物の所有権取得に伴い原告に承継されたものといわなければならない。

三、次に原告が昭和三九年二月一〇日被告に到達した書面で右賃貸借解約の申入をしたことは当事者間に争がないから、以下その正当事由の有無につき検討する。

(1)(イ)  ≪証拠省略≫によれば、原告は本件係争建物と道路を距てた向側の湊町二丁目一二番地に二棟の建物を所有し、そこを作業所及び住宅として使用して紙類裁断等の作業をし製本業を営んでいること、右の建物は階下はいずれも作業場であり、二階は作業場のほか四畳半二間、六畳、八畳各一間の居室と台所一間があり、四畳半二室は男女工員各二名が住込み、八畳は原告夫婦及び次女の居室として、六畳は食事及び手伝女中の起居に、それぞれ使用されていること、一方別紙第一目録記載の建物は原告において加藤さとから買受けた後増築し、現在係争建物部分を除く二階六畳及び階下四畳半を原告の長男夫婦とその子の計三名が、階下の他の四畳半一室を次男隆興がそれぞれ使用していること、原告方は工員一一名を使用しているが、その増員を考えており、それには住込みの部屋を提供することができれば好都合であり、本件係争建物部分の明渡を受ければ、これを次男隆興の婚姻後の住居もしくは前記住込工員用の宿舎のいずれかに供し得ることをそれぞれ認めることができる。

(ロ)  ≪証拠省略≫によれば、被告は一〇年あまり前、夫と離別して以来、女手一つで長男貴司(昭和一七年生)及び次男雅生(昭和二〇年生)の二児を育てて来たもので、右二児は漸く成長して、現在長男は大学に進学し、次男は高校卒業後大学受験準備中であること、また被告は昭和二六年頃から端物印刷の注文取りを業とし、これによって生活の資を得ているのであるが、その顧客先は築地中央市場を主とし、銀座、築地一帯であるので、その仕事に便利な場所を求め、昭和三三年本件建物部分を賃借するに至ったもので、前記のような事情から現在の住居よりも賃料が高いか、もしくは遠く離れた場所にある住居に移転することは益々その生活を苦境に追い込むものであることを認めることができる。

以上の事実に基いて考えるに、原告側の本件建物部分を必要とする事情はそれ程さし迫った切実なものとはいえず、被告側の前記のような事情と比較考量するときは、原告の自己使用の必要を理由とする正当事由の主張は肯認できないといわねばならない。

(2)  そこで次に原告の主張する被告の背信行為の有無について判断する。

(イ)  まず物置の築造の点についてみるに≪証拠省略≫を総合すれば、本件賃貸借契約成立の当時訴外加藤さとは箱根に住込んで働いていた関係から、同人の母ときがさとの代理人として契約にあたったが、被告は右建物部分に入居した当時右とき及び本件建物に同人と同居していたさとの妹加藤良子の承諾の下に加藤方出入りの大工柴田栄作に依頼し、隣家との境の塀に接して、柱二本と右の塀でトタン屋根を支え、棚を一段つけた程度の奥行約一尺五寸余間口約九尺くらいの簡易な物置用の工作物(別紙第三目録記載の現存物置よりやや小さいもの)を設けたこと、そして加藤さとは右被告に対する賃貸借を承認するとともに、右物置の設置もやむを得ないものと認め、敢えてこれについて被告に対し異議を述べることはなかったことが認められる。前記証人加藤さとの証言中右認定に反する趣旨に解される部分はそのまま採用し難い。

(ロ)  次に≪証拠省略≫を総合すると、その後昭和三四年四、五月頃被告は訴外瀬古金松から買い受けた古材のガラス戸を右物置に立てかけるなどして改造を施し、また昭和三六年中には古材を下に敷いてその上にガラス戸を立て繩でしばって一応ガラス戸入りのような形態をもつ物置とし、高さは当初のものより約二尺五寸程高いものとなり、昭和三八年一〇月頃には長さ約一二尺、奥行約二尺三寸、高さ約七尺ぐらいの物置となったが、被告はこれらの改造についてそれぞれの時期における建物賃貸人(白銅商店所有の敷地の賃借人)である加藤さと及び原告の十分の了解を得ず、加藤及び原告はこれに不満を持ち、殊に昭和三四年四、五月頃には被告が改造にあたり訴外瀬古の依頼した大工にこれをさせようとしたこともあって訴外柴田も介在して紛争を生じたこともあることを認めることができる。

(ハ)  さらに≪証拠省略≫を総合すれば、昭和三八年一〇月頃白銅商店と同系の白銅石油株式会社が隣地にガソリンスタンド用の建物を建築することになり、物置の接する塀を取りこわす必要を生じ、これがため右物置をそのまま存置することができなくなったので、右工事の施行にあたった日興建設工業株式会社(以下日興建設という)の工事担当者において、被告に対し工事終了後再建することを条件に右物置を一たん取りこわすことの承諾を求め、被告の希望もあってさらに原告に対してもこれについて承諾を求め、それぞれその承諾を得たこと、そこで日興建設は右物置の構造、大きさ等を示し、後にこれと同様のものを自らの費用で再建することを約した被告あての誓約書(乙第二号証)を差入れた上右物置を取りこわしたこと、右日興建設は隣地の建築終了後昭和三九年二月物置の再建に取りかかったところ、原告からその構造及び材料が旧物置と異る旨異議が出たので右工事を一時中止し、原、被告及び敷地の所有者白銅商店、日興建設の各担当者で協議し、その際原告もそのまま旧状に復することには異議をいえず結局日を改めて原告立会の上で再建の工事を進めることとしたが、その定められた日に原告は立会を拒んだこと、しかし白銅商店の工事担当者吉田五郎は物置の再建については予め原告の承諾を得、また被告に対してもこれを約束してあったところから、旧物置と同様のものを再建することは当然しなければならないところであると考えその工事を進めさせ同年三月初頃これを完成したこと、また右再建の材料はできるだけ古い材料を使用し、旧物置と同じものにするよう工事人に指示してはあったが、取りこわし材料をそのまま使えないこともあって旧物置よりも立派なものができ上り、またその位置も正確に旧位置に建てることができず従来より道路からみてやや奥の方に変ったことを認めることができる。

(ニ)  次に≪証拠省略≫によれば、原告は本件建物買受後被告が共用部分として使用していた台所を狭くして隣接の二畳間を拡張しようとし、訴外柴田栄作にその工事を請負わせたところ、これについて被告の十分の納得を得てなかったところから紛争を生じたが、被告と柴田とは、それまでに柴田が前述の物置の改造についてこれを阻止したこともあり、その他原告もしくは加藤と被告との間に介在してとかく被告に不利益な行動をとっていたことから、感情的に対立していたので、被告がその二男雅生とともに柴田の工事を阻止したことから、柴田と被告と格闘となり、被告は柴田から入院加療一ヶ月余を要する傷害を受けたが、被告は、従来の経緯から判断して右柴田の行為については原告においてその原因を与えていると考え、柴田及び原告を共同被告として右傷害による損害賠償請求の訴訟を提起したが、右訴訟において原告に対する請求は棄却されその判決は確定したことを認めることができる。

(ホ)  本件賃貸借において、階下の台所、便所及び玄関は共用とする旨の約定であったことは既に述べたとおりであるが、≪証拠省略≫を総合すれば、被告は訴外加藤さとから賃借の当時より台所には台所用品を、玄関には下駄箱などを置いて使用し、右加藤からはその取り除きを求められるようなことはなかったが、昭和三四年八月原告が本件建物を買受け訴外加藤からその引渡を受けるにあたり、被告不在中に右台所に置かれてあった食器戸棚その他の台所用品が二階の被告居住の部屋に運び上げられてあったようなことがあって紛争を生じ、またその頃原告方は被告に対し賃貸借を継続しない態度を示すとともに、玄関に置いてあった下駄箱を片付けて貰らいたいとの申出をし、またその後間もなく前述((ニ))のように原告が自己使用部分を拡張するため台所部分を狭くしようとして紛争を生じたこともあり、さらに原告は本件建物に入居後間もなく右台所部分に被告が物を置くことを妨げるため多量の紙製品を積み上げ、それはそのまま現存していること、かような関係で右共用部分の使用については、とかく円満を欠き、原告方は現在これらを殆んど使用していないことが認められるが、それが被告方において殊更に不当な方法で使用を妨げたことによるものであるとの事実は認め難い。

以上の事実関係に基いて考えると、本件賃貸借の当初において被告が物置を設けるについては、当時の賃貸人加藤さとに異議はなかったものと認められるのであり、ただその後これを改造するについて、被告が加藤及び原告の十分の了解を得なかった点は一応非難さるべきところであろう。また原告が特に不信行為として主張する現在の物置を設置する経緯についてみるに、被告は工事施行者に対し旧物置を取りこわした後同様のものを再建することを求めたに過ぎず、旧物置そのままのものが再建されることについては原告も異議のなかったものである。ただ結果的に原告の意にそわないものが再建されたのであるが、これは工事を施行した日興建設及び白銅商店(土地賃貸人)側の工事施行の方法によるものと認められ、被告において旧物置と異るものを作るよう指示したことによるものとは認められない。そうすると、上記(イ)ないし(ハ)の関係において、被告に賃貸借の継続を困難ならしめる程の不信行為があると断ずるのは困難である。なお、原告は右物置の設置により白銅商店から本件建物の敷地の賃貸借契約を解除されるおそれがあるというけれども、借地上に存する建物の賃借人が右の程度の物置を設置したことが、直ちに土地の賃貸借の解除原因となるとは考え難いばかりでなく、さきに(ハ)において認定した経緯よりすれば、白銅商店の土地の管理を担当していた吉田五郎は物置再建に関する原、被告の態度から当然右物置が被告の所有であることを知っていたものと認められる(これに反する証人吉田五郎の供述部分は措信できない)ところ、右吉田はその再建復旧について承諾するよう原告を説得する態度をとっていたものと認められるのであるから、この点からしても右物置の再建設置を理由に土地の賃貸借を解除されるおそれがあるとの主張はあたらないと考えられる。

そこで次に前記(ニ)及び(ホ)の事実について考察する。まず前記共用部分の使用に関する点についてみるに、原告は本件建物買受後被告に対し明渡を求める態度を示すとともに、従前の賃貸人加藤においては異議のなかった共用部分の使用方法につき、より厳しい態度をとっていると認められるのであり、被告としては明渡をさせるためのいやがらせと受取ったであろうことは十分推察することができるのであって、これに関連する紛争につき被告に背信行為があるとして一方的にこれを責めるのは酷に失するというべきである。また原告主張の損害賠償請求訴訟の提起された経緯についてみるに、既に認定した事実よりすれば、訴外柴田栄作は従来から原、被告間に介在して原告のために行動していたものであり、かような点から、被告は問題の台所縮小の工事についても原告が柴田と通じて工事を強行しようとしているものと考え、柴田の暴行についても原告に責があるとして訴訟に及んだものと解され、その点被告に軽卒のそしりを免れないところがあるとしても、さきに述べた原告側の態度をも考え合わせると、被告の右の行為をとらえて、賃貸借の継続を困難ならしめる不信行為があるとするのはやはり一方的に過ぎる評価であると考えられる。

結局右に述べたとおり、原告主張のように、被告に賃貸借の継続を困難ならしめる背信行為があるとするのは相当でなく、この点において独立の解除原因を肯定することはもとよりできないのであるが、さらに上来認定のすべての事情を総合して考えても、原告主張のように借家法第一条の二にいわゆる解約申入の正当の事由があると認めることも困難である。

よって原告主張の解約申入はその効力を生じなかったものというべきである。

四、次に原告は被告の背信行為を理由とする賃貸借の解除を主張するけれども、その理由のないことは既に前段末尾において判示したところから明らかである。

よって、本件賃貸借の消滅に関する原告の主張は認められないから、これを前提として所有権に基き本件係争建物部分の明渡を求め、かつ被告の不法占拠を理由として損害金の支払を求める原告の請求はいずれも失当である。

五、そこで次に別紙第三目録記載の物置の収去、その敷地明渡の請求について判断する。

(1)  まず原告は右敷地の賃借人として賃貸人白銅商店に代位し、土地所有権に基きその収去を求めると主張するところ、被告が原告主張のとおりの物置を所有して別紙第二目録記載の土地を占有していることは当事者間に争がなく、また原告がその主張のとおり、右敷地をその所有者白銅商店から賃借していることは、≪証拠省略≫によってこれを認めることができる。

そこで次に右白銅商店が土地所有権に基き被告に対し右物置の収去を求めることができるかどうかについて考察する。

建物所有の目的で土地を賃貸した者は、賃借人に対しその土地を建物所有の目的を達するに十分な方法で利用することを許容すべき義務のあることはいうまでもないが、一般に借地権者は地上建物を自ら使用するためばかりでなく、これを他に賃貸して収益をはかるためにも建物を所有するのであるから、賃貸人は、特段の事情のない限り、借地権者が後者の目的で土地を使用することをも当然許容すべき義務があるものといわねばならない。ところで建物の賃借人は目的建物のみならず、建物の敷地についても、建物使用の目的の範囲内でこれを使用する権能を有するものと解すべきであるから、敷地の賃貸人はこの範囲における建物賃借人の敷地の使用を妨げることはできないと解される。しかして、建物使用に必要な限り本件におけるような簡易な物置等を設置することもこれによって賃借人の建物及び敷地に対する保管義務違反の問題が生じ賃貸人の利益が害される等の特段の事情のない限り、前記の範囲に含まれると解するのが相当である(もとより賃貸借終了の際には、賃借人はこれを収去して目的物を現状に復した上で返還すべきである)。

もっとも、本件においては、原、被告間の賃貸借は独立した建物の賃貸借ではないから、被告において建物の他の部分の占有者もしくは賃貸人の意思如何に拘らず本件におけるような物置を設置することが当然にできるということはできないであろう。しかし既に判示(前記三の(2)の(イ))したように、本件建物部分の賃貸借においては、被告の賃借部分だけでは荷物を収容するに十分でないところから、目的部分を居住の用に十分に使用し得られるようにするため、賃貸人加藤において簡易な物置の設置を許容したものといえるのであり、それは本件賃貸借に附随するものとしてその契約の内容となっていたものというべく、さきに述べた賃貸借関係の承継とともに原告にも承継されたものと認めるのが相当である。

そうすると、本件物置の設置は借地上の建物の賃借人がなし得る敷地利用の範囲内に属するものとみることができ、土地賃貸人白銅商店においてその収去を求め得ないものと考えられる(もっとも、既に述べたように現存の物置は旧物置よりも大きく立派なものとなっているけれども、なお、前記の範囲を超えないものとみられるばかりでなく、前述のように、現存物置の築造については、白銅商店の代理人として右敷地の管理につき権限を有したとみられる吉田五郎において、それが被告の所有に属するものであることを知りながら、その再建を認めたところでもあるのである)。

よって、白銅商店に代位して右物置の収去を求める原告の請求は理由がない。

(2)  最後に占有回収の請求について判断する。

原告は、前認定の昭和三九年三月初頃の物置の再建をとらえ、被告においてその敷地に対する原告の占有を奪ったと主張する。しかし、既に判断したとおり、右の物置の再建は、他の工事の都合上これを解体した上、旧状に復することを目的とした行為であって、もと物置の設置により占有されていた土地部分については新たな占有の侵奪はないと考えられるのであり、再建された物置の材料、構造の部分的な差異あるいは解体と再建完了との間の時間的な距り(約四ヶ月余)をとらえて右土地部分につき占有の侵奪を云々するのは、占有訴訟制度の本来の趣旨にそわないものと考えられる。のみならず、旧物置を解体してそのまま再建することについては原告に異議のなかったことは、さきに判断したとおりである。

それ故、原告において土地の占有権に基き、右物置全体についてその収去を求めることのできないことは明らかである。

ただ、新旧両物置はその大きさ及び位置に相違のあることはさきに判示(前記三の(2)の(ロ)及び(ハ))したとおりであるから、厳密には新物置中旧物置の存しなかった所に存する部分については、なお占有侵奪が問題となる余地がないわけではない。

そこでこの点についてさらに検討するに、すでに触れたように新物置は旧物置よりも道路よりみてやや奥の方に移動し、また間口、奥行ともにやや大きくなっているのであるが、これがため道路から塀にそい奥の方にどれだけ新たな占有部分が生じたか(物置の間口の増加及び奥への移動によって新たに占有された部分)についてはこれを確定するに足る証拠はない(旧物置の位置及び大きさについては現在においてこれを正確に認定するに十分な証拠がない)。

ただ、物置の奥行が約二・三尺から二・五尺に増したことは既に判断したところから窺い得るのであるから、これに伴い物置の前面において占有部分が増加した(物置の前面間口一三尺、奥行約二寸の部分)ことは一応認めることができるであろう。

ところで旧物置の存した当時における右部分の占有使用関係については本件において必ずしも明らかでないが、この部分を原告が占有していたとして、占有回収の請求が問題となり得るとしても、既に述べたところから知られるように、原告は旧物置を解体した上旧状に復すること自体については異議がなかったものであること、また新旧物置の相違は被告の指示によるものでなく、土地所有者白銅商店の依頼、指示に基き復旧作業にあたった工事人が厳密に旧状に復し得なかったことによるものであり、原告において求めに応じこれに立会い現場で指示したならば或程度避け得たであろうこと、原告が右の約二寸巾の物置部分の存在によって現実に不利益を受けていることを認めるに足る証拠もないこと、さらに前記のような事情の下において、復旧作業の不正確さに由来する占有関係につき占有訴権を行使することは必ずしもその制度の本来の目的とするところでないと考えられる点を合わせて判断すると、右部分の収去の請求は権利の濫用として許されないものと解するのが相当であり、本件物置のうち右の部分についても、土地の占有権に基くその収去の請求はこれを認めることができない。

六、よって原告の本訴請求はすべて理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安岡満彦)

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