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東京地方裁判所 昭和39年(モ)5262号 決定 1964年8月05日

申立人 酒寄幸夫

<外二名>

右三名代理人弁護士 御正安雄

渡辺惇

被申立人 グリコ東京協同乳業株式会社

右代表者代表取締役 江崎利一

主文

東京法務局所属公証人西川精開がその作成にかかる昭和三七年第二、二二九号公正証書に、昭和三八年一二月一六日被申立人のために付与した執行文を取り消し、右公正証書の執行力ある正本に基づく強制執行を許さない。

本件異議の申立に関する費用は被申立人の負担とする。

理由

申立人等は主文第一項と同旨の裁判を求め、その理由の要旨を次のように陳述した。

被申立人は、東京法務局所属公証人西川精開が被申立人と申立人等との間の根担保付牛乳販売取引契約につき作成した昭和三七年第二二二九号公正証書の第一三条に記載する金二七〇万円の支払を得るについての強制執行のために、昭和三八年一二月一六日右公証人より前記公正証書に執行文の付与を受けて、申立人酒寄四郎及び同横倉健造の各所有にかかる不動産に対し、昭和三九年二月二六日横浜地方裁判所において、強制競売開始決定を得るに至つた。ところで、前記公正証書の第一三条は、申立人酒寄幸夫が前示契約に基づく借受金債務を履行しないときに、被申立人に対して特に金二七〇万円を即時支払うことを約諾したという条項を定めたものであり、被申立人においては、右条項による請求権を違約金に関するものと主張して前記競売の申立をしたのであるが、右公正証書に記載された他の条項、特に第六条、第一二条、及び第一四条等と照合するときは、第一三条に規定される借受金というのは、第六条に定める「商品代金及び容器補償金その他」を示すものと解すべきであるのに、その商品代金等は右公正証書上その支払金額が特定されておらないし、第一四条第二項の記載をみると、第一三条の条項による金二七〇万円の支払は、右の商品代金等の額を基準にして、もし超過払になつたときには後日その精算をして過払分を返還する取り極めになつている。してみると前記公正証書は、その第一三条の条項に関していえば、民事訴訟法第五五九条第三号にいわゆる一定の金額の支払を目的とする請求について作成されたものといえない。従つてこれについて被申立人に対し執行文を付与したのは違法である。

本件異議に関する当裁判所の判断は、以下のとおりである。

記録によつて認められるところによれば、本件債務名義は、債権者を本件被申立人、債務者を本件申立人酒寄幸夫、連帯保証人を本件申立人酒寄四郎及び同横倉健造とする根担保付牛乳販売取引契約なるものに関して東京法務局所属公証人西川精開が昭和三七年八月二三日作成した昭和三七年第二二二九号公正証書であり、その執行力ある正本に基づいて、本件被申立人の申立により開始された横浜地方裁判所昭和三九年(ヌ)第二四号不動産強制競売手続は、右公正証書の第一三条に定める違約金二七〇万円及びこれに対する昭和三八年一二月一日から完済まで年六分の損害金の支払を得るため、本件申立人酒寄四郎及び同横倉健造所有の不動産を目的とするものである。

さて本件公正証書によつて調べてみるに前記根担保付牛乳販売取引契約の要旨は、本件被申立人と本件申立人酒寄幸夫との間の昭和三七年五月一七日における約諾に基づいて、本件被申立人はその処理した牛乳及び乳製品を本件申立人酒寄幸夫に販売し、本件申立人酒寄幸夫は本件被申立人の専属販売店としてこれを買い受け、附近の消費者に小売販売すること(第一条)、契約の存続期間は昭和三七年五月一七日から一〇年間とすること(第二条)、取引数量は当初一ヵ月間月量一、三石とし、爾後協議の上これを増減することができるものとし、最高限度額を金二七〇万円とすること、(第三条)、本件申立人酒寄幸夫は商品代金及び容器補償金その他の支払については、前月二六日より当月二五日までの受渡数量を当月二五日に締め切り計算し、翌月七日までに遅滞なく本件被申立人に支払うこと(第六条)、本件被申立人又は本件申立人酒寄幸夫が契約に違背し相手方より契約を解除された場合には、互に相手方に対し違約損害金として金一〇〇万円を支払うものとすること(第一二条)、本件申立人酒寄幸夫は契約に基づく借受金債務を履行しないときには、本件被申立人に対し特に金二七〇万円を即時支払うこと(第一三条)、本件申立人酒寄幸夫が契約に基づく借受金債務又は前記金二七〇万円の債務の一方を弁済したときには、他の一方は当然消滅するものとし、本件被申立人は前記金二七〇万円の債務の弁済を受けた場合において、その金額が契約に基づく本件申立人酒寄幸夫の借受金債務額を超過するときには、その超過額を本件申立人酒寄幸夫に返還するものとすること(第一四条)、本件申立人酒寄四郎は本件申立人酒寄幸夫の契約により既に発生し又は将来発生すべき債務を担保するためその所有不動産に根抵当権を設定すること(第七条)、本件申立人横倉健造は、本件申立人酒寄幸夫の債務を連帯保証すること(第一五条)というにある。

敍上のような契約条項の記載から考えるに本件公正証書上においては、本件申立人酒寄幸夫は、本件被申立人との間の牛乳販売取引契約により金二七〇万円の限度に達するまで買受代金債務を負担することができることになつているけれど、かかる債務について、具体的に確定した金額は、本件公正証書中何処にも表示されるところがないし、本件被申立人が本件公正証書に執行文の付与を受けて、本件申立人酒寄四郎及び同横倉健造に対する不動産競売の申立をするについての債権の発生根拠に援用した本件公正証書中第一三条の条項にしても、これを第一四条の記載と合わせて検討すると、本件申立人酒寄幸夫が前記牛乳販売取引契約に基づく本件被申立人との取引によつて本件被申立人に対して負担した債務につき不履行のあつた場合に、その債務額を一応取引の限度額である金二七〇万円に達しているものとみて、本件申立人酒寄幸夫において即時その支払の責に任ずべきものとし、後日精算の結果現実の債務額に超過するものがあるときには、これを本件被申立人から本件申立人酒寄幸夫に返還することを要するものとする趣旨のものであると解されるので、前記第一三条の規定の故をもつて、本件公正証書が民事訴訟法第五五九条第三号にいわゆる一定の金額の支払をもつて目的とする請求につき作成されたものに当るとは到底いいがたいのである。

してみると本件異議は理由があるので、これを認容すべきものとし、費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 桑原正憲)

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