大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和38年(ワ)5089号 判決 1964年2月04日

判   決

東京都三鷹市深大寺四、〇四一番地

原告

山崎弁治郎

同都港区麻布二丁目三五番地

原告

高柳建設株式会社

右代表者代表取締役

高柳甚治郎

右原告等訴訟代理人弁護士

阪埜淳吉

同都文京区駒込神明町一二八番地

被告

今井木工こと

今井勇作

右当事者間の昭和三八年(ワ)第五、〇九八号損害賠償請求事件について次のとおり判決する。

主文

(1)  被告は原告山崎弁治郎に対し金三二〇、〇〇〇円、原告高柳建設株式会社に対し金一五、〇〇〇円及び右各金員に対する昭和三八年七月一日以降右支払済に至るまで年五分の割合の金員を支払え

(2)  原告のその余の請求を棄却する。

(3)  訴訟費用はこれを十分し、その七を被告の、その余を原告等の負担とする。

(4)  この判決は、第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「(1)被告は、原告山崎弁治郎に対し金五八五、〇〇〇円、原告高柳建設株式会社に対し金二一、六六〇円及び右各金員に対する昭和三八年七月一日以降右支払済に至るまでの年五分の割合による金員を支払え。(2)訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり陳述した。

一、昭和三七年五月三一日午後七時三八分頃、東京都新宿区霞ケ丘無番地先路上において、訴外菅原久美夫の運転する大型貨物自動車(第一は六六五二号)と原告山崎弁治郎の運転する原動機付自転車が接触し、よつて原告山崎は、加療五ケ月を要する腰臀部大腿挫創等の傷害を受けた。

二、訴外菅原は、本件事故当時被告の従業員で運転手として勤務し、原告の業務執行のため被告所有の前記大型貨物自動車(以下単に被告車という)を運転中、左折するにあたり、後方に対する注意を怠つた過失により本件事故を発生させたものであるから、被告は、本件事故によつて生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

三、原告山崎の損害

(一)  原告山崎は、本件事故当時原告会社に勤務し、月額金三五、〇〇〇円の給料を得ていたところ、本件事故のため昭和三七年六月一日以降五ケ月間に亘り、給料を支給されなかつたので合計金一七五、〇〇〇円の得べかりし利益を失つた。

(二)  原告山崎は、本件事故による前記受傷のため作業力が減退し、右給料月額の二分の一を減額されること一二ケ月に及んだので合計金二一万円の得べかりし利益を喪失した。

(三)  精神的苦痛に対する慰藉料金二〇〇、〇〇〇円。

以上合計金五八五、〇〇〇円。

四、原告会社の損害

原告会社は、本件事故のため原告所有の前記原動機付自転車を破壊され、その修繕費として金二一、六六〇円を支払い、同額の損害を蒙つた。

五、よつて原告に対し、被告山崎は、金五八五、〇〇〇円、原告会社は、金二一、六六〇円及び右金員に対する本件訴状送達の翌日である和和三八年七月一日以降右支払済に至るまでの年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告は、請求棄却の判決を求め、答弁及び抗弁として次のとおり主張した。

一、原告主張のような事故が発生したこと及び被告車が被告の所有で、本件事故当時被告の従業員である訴外菅原が被告の業務執行のため被告車を運転していたことは認めるが、訴外菅原の過失により本件事故が発生したとする原告等の主張は否認する。

二、本件事故は、専ら原告山崎の前方不注意と操車の誤りから発生したもので、訴外菅原に過失がなかつた。仮りにしからずとするも、本件事故による損害を全面的に被告に請求するのは不当である。

立証(省略)

理由

一、請求原因第一項の事実中、原告主張の日時場所で原告山崎の運転する原動機付自転車と被告車が衝突したことは当事者間に争いがなく、右事故によつて原告山崎が加療約五ケ月を要する腰臀部大腿挫創等を受けたことは、(書証―省略)によつて認めることができる。

二、(証拠―省略)によると次のような事実を認定することができる。

(一)  本件事故現場は、明治神宮外苑内を東方信濃町方面から西方原宿方面に通ずる車道部分の幅員一四、五米のアスフアルト舗装道路で、北方大京町方面から南方霞ケ丘方面に通ずる道路との交差点から同交差点東側の歩道部分を越えて稍東(信濃町方面)に寄つた地点であり、道路の北側は水泳場、南側は国立競技場となつている。(別紙図面参照)。

(二)  訴外菅原は、被告車を運転して大京町方面から別紙図面(一)の地点に至り、同所で一時停止して原宿方面から進行する車輛をやり過した後左折し、時速約二〇粁の速度で信濃町方面に向つて進行した。一方原告山崎は、同図(イ)点で停止し、被告車が左折し終るのをまつてその左後方約二米の附近を追随して進行した。

(三)  訴外菅原は、水泳場方面に向つてすぐに左折するつもりであつたので、さきに左折の際上げた方向指示器及び点灯した方向指示灯をそのままにして約四〇米進行した上、右後方の安全を確認するための特段の配慮をすることなく同図(二)点から左折すべく左側に寄り約八米進行して同図(三)点に達し、同所から直角に約四米進行して左折し、同図(四)点に至つた。この間原告山崎は、被告車の後部左側附近を進行していたが、被告車が左に寄つたのでこれとともに左に寄つて行つたところ、被告車が同図(三)点附近に至つた際、被告車と歩道縁石との間にはさまつた形になつて操従の自由を失い、歩道に乗り上げた上、左側を下にして滑走するような姿勢で進行し、同図(四)点に至つた被告車の左側後部附近に衝突した。

本件の場合のように、左側歩道との間に約三米の間隔をおいて道路上を直進する自動車がその進路を変じて道路左側一杯に寄り、或はさらに左折しようとする場合には、自己車輛の左後方を追従する車輛等の進路を妨害し、不測の事故を発生させるおそれがあるから、バツクミラー等により左側後方の安全を確認した上進路を変じ、左折する義務がある。この場合単に方向指示器或は方向指示灯によつて警告したというだけでは追従車輛の運転者がこれに気付かない場合もあるから注意義務を尽したものとはいいがたい。これを本件についてみると、訴外菅原は、左折するにあたり、左後方に対する安全を怠つて慢然道路左側に進路を変じ、ついで左折したのであるから右の注意義務を欠いたものというべく、訴外菅原が本件道路にはいつた際、さきにあげた方向指示器及び点灯した指示灯をそのままにしておいたというだけでは注意義務を尽したものとはいえないことはさきに判示したところから明らかである。そして訴外菅原が右のような注意義務を尽していれば、本件事故の発生を防止し得た筈であるから、本件事故は訴外菅原の右過失によつて発生したものといわなければならない。

三、訴外菅原が本件事故当時被告の業務執行のため被告所有の本件貨物自動車を運転中、本件事故を発生させたものであることは、当事者間に争いがないから、被告は、自動車損害賠償保障法第三条の規定により原告山崎の後記人的損害を、また訴外菅原が被告の従業員であることは当事者間に争いがなく、本件事故が訴外菅原の過失によつて発生したものであることはさきに認定したとおりであるから、被告は、民法第七一五条の規定により原告会社の後記物的損害を賠償すべき義務がある。

四、原告山崎の損害

(一)  (証拠―省略)によると、原告山崎は、本件事故による負傷を治療するため、事故当日である昭和三七年五月三一日から同年八月三一日まで入院し、ついで転医して同年一〇月三一日まで通院加療し、この間業務に従事することができなかつたため、月額金五〇、〇〇〇円の割合による五カ月分の給料の合計金一七五、〇〇〇円の支給を受けることができず、同額の損害を蒙つたことを認めることができる。

ところで訴外菅原が本件事故当時左折するため方向指示器及び方向指示灯によつて後続車に警告しながら進行していたことはさきに認定したとおりであるから、被告車の左後方約二米の附近を後続して進行していた原告山崎としては、被告車が左折するため左側に寄つて来ることのあることを予想し、これとの接触を避けるため徐行し、停止する等、事故の発生を防止すべきであつた(道路交通法第三四条第四項参照)にも拘らず、原告本人尋問の結果によると、原告山崎は、被告車の方向指示器及び指示灯に気付かなかつたため、被告車が左に寄つて来た際にもまた被告車が左折するとは考えず、そのままの速度で進行を続けたことを認め得るのであつて原告山崎が被告車の左折を事前に知つて徐行、停止等の措置を採れば、本件事故の発生を防止し得た筈であるから、原告の右のような不注意もまた本件事故の一因をなしたものといわなくてはならない。原告山崎の右過失を考慮すると同原告の右損害のうち、被告の負担すべき額は金一二〇、〇〇〇円を以て相当と認める。

(二)  つぎに原告山崎は、右受傷のため作業力が減退し、給料月額の二分の一を減額されること一二カ月に及んだと主張し、前記(証拠―省略)によると、原告山崎は、原告会社で鳶職として働いていたが、前記受傷のため現在でもなお高い場所に上るとか、重量物を運搬する等の鳶職本来の仕事ができず、作業力の低下を来していることを認め得るが、原告の主張するように給料を二分の一に減額された事実を認めるに足りる証拠はなく、却つて前記(証拠―省略)によると、原告山崎は、前記のように鳶職としての作業力は低下してるにも拘らず、原告会社から給料として月額金四〇、〇〇〇円乃至四五、〇〇〇円を得ていることを認め得るのであつて、右給料の中に若干の恩恵的な部分があるにせよ、事故前以上の額を月給として得ている以上は、得べかりし利益を喪失したものとはいえないすじ合いであるから、この点に関する原告山崎の主張は採用することができない。

(三)  前記認定の本件事故の態様、双方の過失、原告山崎の負傷の程度、事故後原告山崎の作業力が低下していること、原告の職業収入等を考慮すると、原告山崎に対する慰藉料の額は金二〇〇、〇〇〇円を以て相当と認める。

五、原告会社の損害

(証拠―省略)によると、原告会社は本件事故によつてその所有の本件原動機付自転車を破壊され、その修繕代として金二一、六六〇円を支出し、同額の損害を蒙つたことを認めることができ、原告山崎の前記過失を考慮すると、被告の負担すべき額は金一五、〇〇〇円を以て相当と認める。

六、よつて原告等の本訴請求中被告に対し、被告山崎に金三二〇、〇〇〇円、原告会社に対し金一五、〇〇〇円及び右金員に対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和三八年七月一日以降右支払済に至るまでの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるから正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟第九二条本文、第九三条第一項本文、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項の各規定を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二七部

裁判官 茅 沼 英 一

図面≪省略≫

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例