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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)3806号 判決 1963年6月28日

判   決

東京都大田区東蒲田三丁目一一番地

原告

小沢智照

(ほか四名)

右五名訴訟代理人弁護土

石丸九郎

石丸勘三郎

東京都江東区深川東陽町二丁目一一番地

被告

有限会社丸康商店

右代表者清算人

打矢功

東京都江戸川区東船堀町六二〇番地

被告

関口慶次郎

右両名訴訟代理人弁護土

小池金市

桜井千恵子

右当事者間の損害賠償請求訴訟事件について、つぎのとおり判決する。

主文

1  被告らは、各自、原告智照に対し金四〇万円、原告寿子に対し金二〇万円、原告輝紀に対し金二〇万円、原告由子に対し金二〇万円、原告玲子に対し金二〇万円及びそれぞれこれに対する昭和三七年六月七日以降完済に至るまでの年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。

3  この判決は 第一項にかぎり仮りに執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は、主文と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、昭和三六年一一月二〇日午後二時五五分ごろ品川区北品川五丁目四二八番地先京浜第二国道において、被告関口の運転するジヤイアント号自動三輪車(登録番号六れ八九一七号、以下、被告車という。)が訴外小沢タカエに衝突し、よつて、同訴外人は脳内出血等の傷害を受け、同月二八日品川区五反田一丁目二五番地の三輪病院において死亡した。

二、1 被告会社は、自己のため被告車を運行の用に供する者(以下、運行供用者という。)である。

(一)  被告会社は、被告車を保有しこれを被用者である被告関口に運転させて、解散前の業務である木材及び素材製品の販売業務に使用していたものであり、右事故はそのような自動車の運転によつて生じたものであるから、被告会社が、被告車の運行供用者として訴外小沢タカエの死亡事故につき賠償責任を負うものであることは疑いがない。

(二)  仮りに、被告車が被告会社のものでなく、被告関口の所有であるとしても、被告会社は、被告車の運行供用者としての責を免れることができない。

(1)  被告会社は、被告車の自動車登録簿上の所有名義人であり、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)に基づく責任保険契約者である。およそ、自動車の運行制限は、その所有者又は使用者を明確にし、かつ、自賠法所定の責任保険を締結することによつて解除されるのであるから、被告関口としては、被告会社の名義を借用して登録を受け、かつ、責任保険を締結しない限り被告車の運行ができなかつたわけである。したがつて、被告会社の被告関口に対する名義貸与は、被告車の運行への参加又は協力であり、共同運行の関係を生ずるものということができる。

(2)  公簿上に自己の名を登載させることを容認した者は、第三者又は社会に対し自己が責任の主体であることを認めたものというべきであるから、第三者に対する関係で責任が発生した後において公簿の記載が実質のない形式的名義である旨を主張することは自賠法の如き社会的立法の関係では、特に禁反言の原則からしても許されるべきではない。

2 本件事故は、被告関口の過失によつて生じたものである。すなわち、同被告は、被告車に材木を満載して国電品川駅方面から同五反田方向に向い、時速約三五粁以上の速度で進行し、前記の場所にさしかかつたのであるが、進路前方の横断歩道上を左側(品川駅方面からみた場合、以下同じ)から、右側に向つて横断中の訴外タカエが被告車とは反対方向に進行する車輛の通過を待つて立ち止つているのを現認した。この横断歩道付近に信号機はなく、道路が右にカーブしているし、下り坂になつているのであるから、かような場合自動車運転者としては、減速していつでも停車できる体勢で進行すべき注意義務があるのに、被告関口は、これを怠り、同女が避譲してくれるものと即断して漫然と進行したため、危険を感じて急停車の措置をとつたときはすでに遅く、被告車を同女に衝突させるに至つたものであるから、同被告に過失があつたことは明らかである。

3 そこで、被告会社は、自賠法第三条本文の規定により、被告関口は、民法第七〇九条、第七一一条の各規定若しくは自賠法第三条本文の規定によつて、原告が本件事故の発生によつて蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

三、訴外タカエ並びに原告らが蒙つた損害は、つぎのとおりである。

1  訴外タカエの得べかりし利益の喪失による損害金三、八二四、八二三円。

(一)  訴外タカエは、明治四四年二月一五日生れの健康な女性であり、原告智照の肩書住所地において蒲田ニユースタイル高等編物学院を経営していた者であるが、同女が同学院の経営によつてえていた一ケ月の収入は、

(1) 金三一、五〇〇円(但し、月謝による収入で、生徒数四五名、一人一ケ月金七〇〇円の割合によるものである。)。

(2) 金一〇、五〇〇円(但し、平均三台の編機の販売を仲介した手数料である。)。

(3) 金五、〇〇〇円(但し、編物の工賃である。)。

(二)  右の収入を挙げるために要する一ケ月間の経費は、

(1) 金六、〇〇〇円(但し、生活費である。)。

(2) 金一、〇〇〇円(但し、照明用の電気料金である。)。

(3) 金一、〇〇〇円(但し、採暖ストーブ用の石油代金である。)。

(4) 金三〇〇円(但し、生徒用座ぶとんの取替経費である。)。

(三)  したがつて、同女は、毎月差引金三八、七〇〇円の純益を挙げることができたのであり、この収益は、同女の健康状態及び業務内容からして満六五才まで爾後一四年間は継続することができたものと考えられるから、その総額は、金六、五〇一、六〇〇円であり、この間の民事法定利率年五分の割合による中間利息をホフマン式計算法によつて控除した現価は、金三、八二四、八二三円になる。

2  原告智照は、タカエの配偶者として、その余の原告らは、タカエの子として、前項記載の損害賠償請求権を、つぎのとおり相続した。

(一)  原告智照は、金一、二七四、九四一円。

(二)  その余の各原告は、各金六三七、四七〇円五〇銭。

3  原告智照が葬儀費用等を支出したことによつて蒙つた損害金一〇八、二〇〇円。

(一)  葬儀費用金一〇六、一〇〇円。

(二)  事故当日の自動車賃金二、一〇〇円。

4  本件事故の発生によつて、原告智照は、その妻を、その余の原告らは、いずれもその母を喪つたものであるから、原告らが精神的な苦痛を蒙つたことはいうまでもないし、しかも、この苦痛は、金銭によつて償いえないものではあるが、被告らは、一応、原告智照に対し金四〇万円、その余の原告らに対しそれぞれ金三〇万円の各慰藉料を支払うべき義務がある。

四、以上のように、被告らは、原告智照に対し合計金一、七八三、一四一円、その余の原告らに対し合計各金九三七、四七〇円五〇銭の損害を、それぞれ賠償すべき義務があるが、本訴において、原告智照は、その一部金四〇万円、その余の原告らは、各その一部金二〇万円の各損害賠償と、これに対する訴状送達日の翌日である昭和三七年六月七日から完済に至るまでの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べ、被告らの抗弁に対し、

(一)  訴外タカエに過失があつたとの点は否認する。

(二)  原告らが、保険会社から自賠法に基づく給付金五〇万円を受領したことは認めるが、このことは、損害の内金請求である本訴に影響を及ぼすものではない。

と述べ、

立証<省略>

被告ら訴訟代理人は、「1、原告らの請求を棄却する。2、訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、

一、第一項記載の事実(事故の発生および被害者の死亡)は認める。

二、第二項記載の事実(被告らの責任原因事実)を否認し、被告らに損害賠償の義務がある旨の主張は争う。

1  被告会社は、被告車の運行供用者ではない。すなわち、被告関口は、昭和三四年八月三一日訴外千代田ジヤイアント株式会社から被告車を買い受け、自己の住居地をその使用の本拠位置として貨物運送業を営んでいたが、東京陸運局の監督が厳しくなつたため、昭和三五年二月一七日被告会社の名義を使用し、被告会社の住所地を使用の本拠位置の如く登録し、以後その形態で自ら運送業を営んできたものである。そして、この間、被告会社は、被告車について何らの出捐も収益もなかつたし、昭和三六年四月二五日ごろまでは正規の運賃を支払つて関口に貨物運送を依頼したことはあるが、その後は、全然運送の依頼をしたことがない。本件事故が発生した際、被告関口は、被告会社の業務とは無関係な仕事に従事中であつた。これを要するに、被告会社は、被告関口に対し、単に好意的に、被告車の保有者を被告会社の名義にすることを許容したにすぎないのであるから、被告会社が自賠法第三条の規定する運行供用者に該らないことは明らかである。

2  被告関口に過失があつた旨の主張事実は否認する。

三、第三項記載の事実中1の(二)の(2)ないし(4)の各経費額は認めるが、訴外タカエと原告らとの身分関係は知らないし、その余の事実は否認する。

四、第四項記載の主張は争う。

と述べ、抗弁として、

(一)  信号機がない横断場所において、車道の横断を開始しようとする歩行者は、左右の交通状況に注意し、進行してくる車輛と自己の歩速との関係を考慮して、車輛に衝突するおそれがなく横断できることを見極めてから横断を開始すべきところ、訴外タカエは、この注意を怠つて、左右の安全を確認しないまま横断を開始した。また、本件衝突事故は、道路の中心線の約二米手前の位置で発生しているが、これは、同女が被告車とは反対方向に進行するダンブカーが中心線を超えて接近してくるのを認め、横断中急に立ち止まり、幾分後退したために生じたものである。したがつて、本件事故の発生について仮りに被告関口に過失があつたとしても、訴外タカエに過失があつたことも明らかであるから、損害賠償額を定めるについてこれを斟酌すべきである。

(二)  仮りに、被告らに損害賠償の義務があるとしても、原告らは、本件事故について、すでに保険会社から自賠法に基づく給付金五〇万円を受領しているから、これを本訴請求金額から控除すべきである。

と述べ、

立証<省略>

理由

一、請求原因第一項(事故の発生および被害者の死亡)の事実は当事者間に争がない。

二、被告らの責任原因について審究するに、<証拠―省略>を総合すると、被告関口は、昭和三四年八月三一日訴外千代田ジヤイアント株式会社から被告車を代金七五万円で買い受け(但し、代金が割賦支払のため、被告車の所有権は、最初は訴外会社に留保されていたが、その後同被告において代金を完済して所有権を取得した。)、一旦、同被告の肩書住所地をその使用の本拠の位置として自動車登録原簿に登録を受けたが、同被告の自家用車名義では無免許の貨物運送業を営むために支障が多かつたところから、かねて知り合いの当時被告会社の代表者であつた訴外滝沢康孝に懇請して、被告車について被告会社の名義を使用することの了解をえ、昭和三五年二月一七日被告車を被告会社に譲渡した形式をとつて、その使用の本拠の位置を被告会社の肩書住所地に変更登録したこと、したがつて、そのころから被告車の車体には被告会社の商号が表示されていた他、自動車税の納税義務者及び、自動車損害賠償責任保険の保険契約者は、いずれも被告会社の名義とされていたこと、被告関口は、被告車を購入してから訴外阿久井寿雄とともに「合同運送」(但し、後に「三和興業」と変更した。)という名称で無免許の貨物運業を営み、主として深川木場附近の材木運送の仕事に従事していたこと、被告会社は右の事情を知悉しながら被告車の使用名義人になることを承諾していたばかりでなく、自己の材木運送を被告関口にさせたことも少くないこと(本件事故発生後被告会社が解散したことは記録上明らかであるが、解散前被告会社は一ケ月間に約五〇〇石の材木取引があつたにもかかわらず、被告車の外には自家用貨物自動車を保有していなかつた。)、被告関口としては、被告会社の貨物が汚いラワン材であるため、運送業者間で好まぬ仕事ではあつたが、被告会社から運送の依頼があれば断わらず、しかも、時間のやりくりをし緩急の順序に従つて被告会社の便宜を図つたこと、しかし、本件事故発生の際に被告車に積載されていた材木は、訴外小林工務店の依頼で木場の小鈴材木店から横浜方面に搬送中のものであつて、被告会社の業務とは無関係であつたことが認められる。被告関口及び解散前の被告会社代表者の各本人の供述中右認定に反する部分及び、被告関口は、被告会社の被用者であり、被告車は、被告会社の所有に属する旨の甲第九、一〇号証の各記載部分は、いずれも採用することができないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

してみると、被告車の所有者は、被告関口であるといわざるをえないけれども、被告会社は、前示認定のような被告車の使用名義その他の関係をとおして、被告関口の貨物運送の業務に協同してきたものというべきであるから、被告関口がその運送業務のためにその所有にかかる被告車を運行の用に供することにも協同してきたものというべく、かかる場合には、被告関口についてはもちろん、被告会社についても自賠法第三条の規定の適用上、これを被告車の運行供用者というを相当と解する。(被告関口については、同被告が被告車の運行供用者であることは、同被告の自陳するところである。)しかるに、被告らは、自賠法第三条但書の規定による免責事由について何ら主張、立証しないから、原告らが本件事故の発生によつて蒙つた損害を賠償すべき責を免れることができない。

三、1 <証拠―省略>を総合すると、訴外タカエは、明治四四年二月一五日生れで死亡当時五〇才であつたが、生前は、原告智照の肩書住所地において、「蒲田ニユースタイル高等編物学園」という名称で編物教室を経営し、常時約四五名の生徒に編物を教授することによつて、一ケ月金三一、五〇〇円の月謝をえていた外、一ケ月に少くとも三台の編機の販売を仲介し、その手数料として販売会社から少くとも金一〇五〇〇円をえ、更に、依頼をうけた編物の編賃として一ケ月に少くとも金五、〇〇〇円をえていたこと、同女の健康状態及び業務内容からみて、同女は、本件事故に遭遇しなかつたならばなお一四年間は右の月収をえることができたと推認できること。同女の家族は、同女を含めて五名であり、その一ケ月の生活費は約三五、〇〇〇円であつたから、同女自身の生活費額は一ケ月金七、〇〇〇円を上廻らないことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、同女が右の収入を挙げるために、一ケ月間に照明用の電気料金一、〇〇〇円、採暖ストーブ用の石油代金一、〇〇〇円及び生徒用座ぶとんの取替経費として金三〇〇円を要することは、当事者間に争いがない。してみると、同女は、一ケ月に前示の収入合計金四七、〇〇〇円から生活費及び経費合計金九、三〇〇円を控除した金三七、七〇〇円の利益をえることができたわけであるから、その一四年間の得べかりし利益の現価をホフマン式計算法(中間利息は、民事法定利率年五分の割合による。)によつて算出するとその数額は、金三、七二五、六四七円(円未満は切捨、以下同じ)となる。

したがつて、同女は、本件事故の発生によつてこの得べかりし利益を喪失し、もつて、同額の損害を蒙つたものといわなければならない。

2 その成立に争いのない甲第一号証によると、原告智照は、訴外タカエの夫であり、その余の原告らは、いずれもその子であることが認められ、この認定に反する証拠はない。してみると、原告らは、訴外人の死亡によつて、前項記載の損害賠償請求権をつぎのとおり相続したものである。

(一)  原告智照は、三分の一の金額である金一、二四一、八八二円。

(二)  その余の原告らは、各六分の一の金額である金六二〇、九四一円。

3 <証拠―省略>を総合すると、原告智照は、本件事故が発生した日往復のため自動車賃として金二、一〇〇円の支払いを余儀なくされた他、タカエの葬儀費用として少くとも合計金一〇六、一〇〇円の支払いを余儀なくされ、合計金一〇八、二〇〇円以上の損害を蒙つたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

4 本件事故の発生によつて、原告智照はその妻を、その余の原告らはその母を喪つたのであるから、原告らが極めて大きい精神的苦痛を蒙つたことは明白である。原告らのこの精神的損害に対する慰藉料額は、本件事故の態様、原告らの年令、職業その他一切の事情を考慮しても、原告智照に対し金四〇万円、その余の原告らに対しそれぞれ金三〇万円を下るものではない。

5 そうすると、本件事故の発生によつて、原告智照は、合計金一、七五〇、〇八二円、その余の原告らは、それぞれ金九二〇、九四一円の各損害を蒙つたものといわなければならない。

四、1 被告らは、本件事故の発生については、訴外タカエにも過失があつたから損害賠償額を定めるについて斟酌されるべき旨主張し、前示甲第一〇号証の記載及び被告関口本人の供述中には、同女が被告車の方を見なかつたとか、横断中急に停止し更に後ずさりをした旨の部分もあるが、これらはいずれも採用しがたく、他に同女の過失を認めるに足りる証拠がないから、被告らの主張は、理由があるということがない。

2 原告らが、本件事故によつて、保険会社から自賠法に基づく給付金五〇万円を受領していることは当事者間に争いがないから、原告らの損害賠償請求権もその限度において消滅していることは疑いがない。そして、この金五〇万円の給付金は、特別の事情のない限り、原告ら各人に対し前項5記載の各損害額の割合によつて支給されたものと解するのが相当であるが(したがつて、金五〇万円も原告五名の損害額合計金五、四三三、八四六円で除してえた数値を、前項5記載の原告各人の損害額にそれぞれ乗じてえた金額が、原告各人の受領分である。)原告各人の受領分は、原告ら各人の前示の各損害額に比して極く僅少であるから、原告らの損害賠償請求権が給付金の受領分の限度でそれぞれ消滅しても、いずれも、損害の内金請求である本訴請求には何らの影響を及ぼさないことは明白である。

五、そこで、被告らに対し原告智照が金四〇万円、その余の原告らが各金二〇万円の損害賠償と、それぞれこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和三七年六月七日以降完済に至るまでの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める本訴請求を全部正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条第一項但書、仮執行の宣言について同法第一九六条の各規定を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二七部

裁判長裁判官 小 川 善 吉

裁判官 高 瀬 秀 雄

裁判官羽石大は、転補につき署名捺印することができない。

裁判長裁判官 小 川 善 吉

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