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東京地方裁判所 昭和36年(行)14号 判決 1962年10月17日

原告 木村為蔵

被告 東京都知事

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が(一)訴外臼倉武の昭和三五年九月一二日付公衆浴場営業許可申請に対し、昭和三六年五月一一日なした公衆浴場の設置場所を東京都葛飾区水元小合町三二四番地とする許可処分(昭和三六年(行)第一四号)、(二)原告の昭和三五年一〇月一四日付公衆浴場営業許可申請に対し、昭和三六年六月二七日なした不許可処分(昭和三七年(行)第五〇号)は、いずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、訴外臼倉武は、昭和三五年九月一二日公衆浴場の設置場所を東京都葛飾区水元小合町一、三七五番地として、原告は同年一〇月一四日同じく設置場所を同町三五九番地として、それぞれ被告に対し公衆浴場の営業許可申請をなしたところ、被告は、臼倉に対し、昭和三六年五月一一日設置場所を同町三二四番地として営業許可処分をなしたが、原告に対しては、同年六月二七日公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠くとの理由をもつて不許可処分をなし、同年七月七日その旨原告に通知し、そこで原告は右不許可処分を不服として同月二八日厚生大臣に対し訴願したところ、同年一一月九日訴願棄却の裁決があり、同月二七日該裁決書の送達があつた。

二、しかしながら、臼倉に対する本件許可処分及び原告に対する本件不許可処分は左の理由によりいずれも違法であるから、これの取消しを求める。

(一)  被告は、臼倉に対し、公衆浴場の設置場所を同町三二四番地として営業許可を与えたが、前記のごとく、同人が設置場所として申請したのは同町一、三七五番地であつて、同町三二四番地ではない。しかるに被告は同人より同所を設置場所とする営業許可申請があつたものとして本件許可処分をなしたが、右は営業許可の前提となるべき申請を欠いた違法な行政処分である。仮に、臼倉が前記申請の設置場所を同町三二四番地に訂正したとしても、それは原告が同町三五九番地を設置場所として営業許可申請をなした昭和三五年一〇月一四日より後のことであり、しかも両者の位置は約三〇メートルの至近距離にあつて、公衆浴場法第二条第三項に基づく昭和二五年東京都条例第七六号「公衆浴場設置場所の配置の基準に関する条例」所定の二〇〇メートルの制限距離内にあること明らかであるから、この様な場合には、右設置場所の訂正時をもつて、新たに臼倉より右訂正場所を設置場所とする営業許可申請がなされたものとみなし、先願者である原告の申請を優先して取り扱い、後願者である臼倉の申請については先願地である原告申請の設置場所を既設公衆浴場とみなして不許可処分にすべきであるのに、これを無視してなした臼倉に対する本件許可処分は違法である。

(二)  被告は臼倉に対して本件営業許可を与えた結果、原告の申請については、公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠くとの理由をもつて不許可処分にしたが、原告が右申請をなした当時は、前記条例所定の制限距離内の場所には、既設の公衆浴場はもちろん、先願者となるべき他の許可申請もなく、最も近いものとして右制限距離外の同町一、三七五番地を設置場所として臼倉より許可申請がなされているに過ぎなかつた。従つて原告の申請は何ら設置場所の配置について適正を欠くものではない。仮に臼倉が設置場所を後に同町三二四番地と訂正したとしても、前述のごとく原告が先願者として取り扱われるべきは当然であるから、これを無視してなした本件不許可処分は違法である。

よつて臼倉に対する本件許可処分及び原告に対する本件不許可処分の取消しを求めるため本訴に及んだと述べた。

(証拠省略)

被告指定代理人は、「原告の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、

一、原告の請求原因一のうち訴外臼倉武の営業許可申請が同町一、三七五番地を設置場所としてなされたとの点、原告申請の日時及び裁決書到達の日は否認するが、その余の事実は認める。原告の本件営業許可申請がなされたのは昭和三五年一〇月一七日であり、裁決書が原告に送達されたのは、昭和三六年一一月二九日である。二の事実中、被告が臼倉に対し、その主張の日時に本件許可処分をなしたこと、原告の営業許可申請に対し、その主張の理由をもつて不許可処分にしたこと、臼倉に対する本件許可処分のあつた浴場の設置場所が、原告申請の浴場の設置場所と約三〇メートルの至近距離にあり、前記東京都条例所定の二〇〇メートルの制限距離内にあることは認めるが、その余は否認する。

二、公衆浴場の営業許可については、先願者を優先させ、後願者については、先願地を既設公衆浴場とみなして取り扱うべきであることは原告主張のとおりであるが、臼倉は、当初より同町三二四番地を設置場所として公衆浴場の営業許可申請をなしたもので、原告主張のごとくその後に訂正されたものではない。しかも右許可申請がなされたのは、原告が営業許可申請をなした昭和三五年一〇月一七日より前であるから、本件公衆浴場の営業許可の先願者は臼倉であつて、原告ではないから、臼倉に対する本件許可処分及び、原告に対する本件不許可処分には、原告主張の様な違法はないと述べた。

(証拠省略)

理由

訴外臼倉武が昭和三五年九月一二日被告に対し、公衆浴場の営業許可申請をなし(ただし、設置場所については争いがある。)、これに対し被告が昭和三六年五月一一日設置場所を東京都葛飾区水元小合町三二四番地とする営業許可処分をなしたこと。原告が、昭和三五年一〇月中頃(原告は一四日、被告は一七日と主張する。)被告に対し、同町三五九番地を設置場所として公衆浴場の営業許可申請をなしたところ、これに対し、被告は、昭和三六年六月二七日右設置場所が配置の適正を欠くとの理由をもつて不許可処分にしたことは当事者間に争いがない。

よつて、右両処分に原告主張のような違法があるかどうかについて判断する。臼倉に対する右営業許可の設置場所と、原告申請の設置場所とは約三〇メートルの至近距離にあることは当事者間に争いがないから、右両設置場所が、公衆浴場法第二条第三項に基づく昭和二五年東京都条例第七六号「公衆浴場設置場所の配置の基準に関する条例」所定の二〇〇メートルの制限距離内にあることは明白であるが、成立に争のない乙第一、二号証(臼倉武の公衆浴場営業許可申請書及び建築確認申請書)及び証人田中一男、同遠山清の各証言によると、臼倉は昭和三五年九月一二日被告に対し、東京都葛飾区水元小合町三二四番地を設置場所として、公衆浴場の営業許可申請をなしたことが認められ、他に右認定に反する原告主張事実を認めてこれを覆えすに足りる証拠はない。(甲第一号証の二(建築確認申請書受付簿)の記載も証人遠山清の証言を対比するときは右認定を動かす資料とするに足りない。)

しからば、臼倉は初めより同町三二四番地を設置場所として公衆浴場の営業許可申請をなし、しかもそれは、原告が前記許可申請をなしたと主張する昭和三五年一〇月一四日より前であること明らかであるから、先願者である臼倉の右許可申請に基いてなした本件許可処分及び後願者である原告の前記配置基準に反する許可申請に基いてなした本件不許可処分には、原告主張のような違法はないといわなければならない。

従つて、原告の本訴各請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 位野木益雄 田嶋重徳 桜林三郎)

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