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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)2943号 判決 1962年4月06日

原告 巧五郎

右訴訟代理人弁護士 鵜沼武輝

被告 田中健治

主文

被告は、原告に対し、別紙目録第一記載の建物を、同目録第二記載の建物を収去して明渡し、かつ、昭和三六年三月一日以降右明渡済に至るまで一ヵ月金六、〇〇〇円の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、金員支払を命ずる部分については無担保にて、建物収去並びに建物明渡を命ずる部分については、原告において金七〇、〇〇〇円の担保を供することを条件にそれぞれ仮りに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

原告が、その主張の賃借地上に所有している二戸建一棟の建物のうち本件第一建物を、原告主張の頃、被告に対し、原告主張の約定で賃貸したところ、被告が、右建物裏側(西南部)に近接してその敷地内に本件第二建物を建築し、これを板金加工用の工場として使用していること、原告が、被告に対し、昭和三五年八月一七日付翌到達の内容証明郵便による書面で、同年九月末日かぎり本件第二建物を収去されたき旨の催告をしたが、右履行がなされなかつたため、重ねて同三六年二月二七日付同日到達の内容証明郵便による書面で、同書面到達後七日以内に右建物を収去されたき旨の催告をなしたにもかかわらず、なおも右催告期間内に被告が右建物を収去しなかつたので、ここに同年三月九日付の内容証明郵便による書面を以て、右不履行を理由に本件第一建物についての右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、右書面が翌一〇日被告に到達したことは当事者間に争がない。

よつて、進んで、被告が右のとおり、本件第二建物を建築し、これを板金加工用の工場として使用していることが、はたして右賃貸借契約解除の原因になるかどうかの点につき按ずるに、各成立に争のない甲第四号証の一、二≪省略≫を総合すれば、

「被告は、その住宅用に使用すると称して前記のとおり本件第一建物を賃借したが、その後原告に対し、自転車や道具類を入れる物置場として右建物の敷地内に建物を建築することの承諾を求めたので、昭和三三年五月一七日、原告においてその申入を容れ右敷地が原告の賃借地であることをも考慮して、原告が請求したときは、いつでも被告の費用でこれを収去して原状に回復すべきことを条件に、いわゆる物置として建坪三坪程度の仮設建物を本件第一建物裏側(西南部)敷地内に建築することを承諾し、右趣旨を明らかにするため、同日付覚書(甲第四号証の一)を原、被告間にとり交わしたうえ、被告において謝礼の意味で金一〇、〇〇〇円を支払い、右敷地内に建物を建て始めたが、被告が右約旨に反しこれを板金加工用の工場として使用することとなつたので、その作業に伴う騒音によつて近隣の住民にまで迷惑を及ぼすに至つたのみならず、地主からも苦情が出る始末となつたため、原告においてもこれを放置しえず、それまで右物置建築使用の謝礼として受けとつて来た一ヵ月金一、〇〇〇円の割合による金員支払に対する受領を拒絶して右建物の収去を求めることとし、訴外中村福男に右問題解決の仲介を依頼したうえ、同訴外人並びに原、被告の三者間で協議の結果、被告は、昭和三四年三月末日までに、相当の代価を支払つて原告から右建物敷地の賃借権を譲受けるか又は右建物を収去すべく、同日までは、被告において、現形のまま物置として右建物を使用し、工場としては使用しない旨の話合がまとまり、右話合の趣旨を明らかにするため、昭和三三年一〇月二六日付念書(甲第四号証の二)を作成のうえ相互にこれをとり交わしたが、被告は、その後も右話合の結果を無視し、原告に無断で同年一一月頃、更に右建物を増築して、結局建坪約六坪の本件第二建物となしたうえ、その中に電気熔接機等の機械類をすえつける等工場としての設備を整え、鉄板等の材料を置いて板金加工用にこれを使用し、右約定に基く昭和三四年三月末日に至るも、何ら右話合による義務を履行しないまま依然板金工場として本件第二建物を使用し続けている。」ことが認められ、前記被告本人尋問の結果中、右認定に反する供述部分は、当裁判所これを措信せず、他に右認定を覆えして被告の本件第二建物建築並びにこれが工場としての使用につき原告の承諾があつたとの事実を肯認せしめるに足る証拠は存しない。

右認定の事実によれば、被告の本件第二建物建築使用は、本件第一建物の敷地の用法について定められた原、被告間の特約に違反するものというに妨げない。ところで、被告の建築した本件第二建物は、一応本件第一建物と独立した別個の建物と考えられるので、かかる建物の建築使用を目して、本件第一建物自体の造改築及びその使用と称することはできないであろうからその点に全く問題がないわけではないが、そもそも、本件第一建物のような住宅用の独立建物についての賃貸借は、賃貸物件の性質から来るところの使用収益の目的から考えて一般にその敷地をも含めてなされるものとみるべきはむしろ当然のことであり、従つて、その場合、借家人は、その借家については勿論、その敷地についても亦、借家の場合におけると同様、善良なる管理者の注意をもつて保管し、かつ契約又は目的物の性質によつて定まつた用法に従いこれを使用収益すべき義務を負うものというべきであるから、敷地の用法について賃貸借当事者間に特約があるにもかかわらず、その特約に違反してこれを使用することは、とりもなおさず間接の賃貸借の目的物たる建物の用法にも違反することになるものと解すべきであつて、これを別個独立の問題として切離して考えることは相当でない。はたしてしからば、本件の場合も、被告は本件第一建物の敷地の用法につき定められた原、被告間の特約に基く義務に違反することによつて、本件第一建物の用法にも違反したものといわざるをえず、而して右義務違反の程度は、原、被告間における本件第一建物賃貸借契約の基調である相互の信頼関係を破壊するに十分なものとしてその解除の原因たりうるものと考えられるから前記のとおり右違反に基き、催告を前提としてなされた契約解除の意思表示により、昭和三六年三月一〇日をもつて、右賃貸借契約は、有効に解除されたものといわざるをえない。次に、被告が、昭和三六年三月一日以降本件第一建物の約定資料を支払つたことについては、被告において何ら主張立証の責を尽さないのみならず、むしろ被告本人尋問の結果によれば、これが支払をしていないことがうかがわれ、又本件第一建物の相当資料額は、反証なきかぎり、前記約定資料額すなわち一ヵ月金六、〇〇〇円を認めるのを相当とする。

如上説示のとおりとすれば、原告が被告に対し、賃貸借終了に伴う原状回復義務の履行として、本件第一建物を、本件第二建物を収去して、明渡すことを求めるとともに、昭和三六年三月一日以降同年同月一〇日まで一ヵ月金六、〇〇〇円の割合による約定賃料及び翌一一日以降右明渡済に至るまで明渡義務の不履行に基く損害賠償として本件第一建物の相当賃料額にあたる右約定賃料と同額の割合による損害金の支払を求める本訴請求は、すべて理由ありとしてこれを認容すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 黒田節哉)

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