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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)7955号 判決 1962年9月13日

判   決

大阪市東区北浜二丁目三一番地

原告

古川浩

東京都文京区春日町一丁目一番地

被告

株式会社後楽園スタジアム

右代表者代表取締役

真鍋八千代

右訴訟代理人弁護士

岡弁良

宇田川好敏

右当事者間の昭和三五年(ワ)第七、九五五号株主総会決議無効確認請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告は、「被告会社の昭和三五年九月二二日の臨時株主総会においてなされた、(一)定款中一部変更再確認の件定款第五条中『一、六五〇万株』を『六、〇〇〇万株』に改めることを再確認する。(二)増資新株式発行並びにその一部につき第三者に新株式引受権を与える件新株式一〇〇万株については、昭和三五年一〇月一〇日現在の当会社役員社員に対し引受権を与える。その引受権を与えられる役員、社員並びにその株式数は今後の取締役会の決議に一任する。旨の各決議は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は被告会社の株主である。

二、昭和三五年九月二二日開催された被告会社の臨時株主総会において、請求の趣旨記載の各決議がなされた。

三、しかしながら、右各決議は、次のような理由により、その内容が法令に違反するものであるから無効である。

(1)  請求の趣旨(一)の決議(以下、第一決議と称する。)について

本件第一決議は、昭和二九年七月一〇日開催された被告会社臨時株主総会における、「第四号議案定款の一部変更の件として定款第五条中会社が発行する株式の総数『一、六五〇万株』を『六、〇〇〇万株』に改める。但し、この決議の効力は、再評価積立金の一部資本組入並びにこれに伴う新株式の発行と同時に発生するものとする。)旨の決議を再確認するものである。

しかるに、右第四号議案の決議は、次のような理由から、その内容が法令に違反し、、無効である。

その理由は、第一に、定款第五条中の被告会社が発行する株式の総数は一、六〇〇万株であつて、一、六五〇万株ではない。もつとも、被告会社は右総会の第一号議案として、「資本増加のため定款の一部変更の件定款第五条中「一、六〇〇万株』を『一、六五〇万株』に改める。との決議をしているが、この決議は無効である。即ち、商法は会社が発行する株式の総数の増加を認めているけれども、発行予定株式数のみを増加することは許していないと解されるから、会社が発行する株式の総数を増加する場合には、常に、従前の会社が発行する株式の総数を取消して、新らたにこれを定めねばならない。そして、会社が発行する株式の総数を取消しても、すでに発行した株式の数は、取消されず残つており、これがその時の会社が発行する株式の総数にあたるから、新らたに、会社が発行する株式の総数を定める場合には、新しい総数とすでに発行した株式数との差額を増加する旨の決議をすべきことになる。しかるに、右第一号議案の決議は、単に従前の会社が発行する株式の総数を変更する旨の決議にすぎないから、違法である。

従つて、被告会社が発行する株式の総数は、一、六〇〇万株のまゝであるにもかゝわらず、これを一、六五〇万株としてなされた前記第四号議案の決議は無効である。

右第四号議案の決議が無効である第二の理由は、右決議が、会社の発行する株式の総数を発行済株式の総数の四倍を越えて増加している点である。

前記総会当時には、被告会社の発行済株式の総数は、五五〇万株であつたから、会社が発行する株式の総数を六、〇〇〇万株とすることは、発行済株式の総数の四倍を越えて増加することになるにもかゝわらず、昭和二九年九月二四日には発行済株式の総数が一、六五〇万株になるからという理由でこれをしたのは、法令に違反し、無効である。そして、決議自体が無効であるから、たとえ、「この決議の効力は、再評価積立金の一部資本組入並びにこれに伴う新株式の発行と同時に発生するものとする。」との附帯決議をしても、無効なものは効力を発生しようがないから、やはり無効である。

このように、右第四号議案の決議が、法令に違反し、無効である以上、これを再確認する本件第一決議が無効であることは当然である。けだし、無効なものを確認したところで、無効が有効に転化する筈はないからである。

(2)  請求の趣旨(二)の決議(以下、第二決議と称する。)について

株主以外の者に新株引受権を与える場合には、商法第二八〇条の二第二項前段により、引受権の目的たる株式の額面無額面の別、種類、数及び最低発行価額につき、同法第三四三条所定の特別決議が必要であるが、本件第二決議は、その但書で、引受権を与えられる役員、社員並びにその株式数は今後の取締役会の決議に一任するものとしている。これは、新株引受権を与えられる者の範囲、員数及び各人に与えられる株式数の決定を取締役会に委ね、株主総会はこれを決議しない趣旨であるから、前記条項に違反し、無効である。

更に、本件決議の際には、右条項後段が要求している、「株主以外の者に新株引受権を与えることを必要とする理由」の開示もなかつた。従つて、この点からみても、本件第二決議は無効である。

四  よつて、原告は、請求の趣旨記載の各決議が無効であることの確認を求める。

と述べ、

被告の本案前の抗弁に対し、

被告主張のとおり、前記第四号議案の決議につき、無効確認の訴を提起したこと、並びに、本件第二決議に基く新株はすでに発行済であることは認める。

と陳述し、

証拠(省略)

被告訴訟代理人は、本案前の申立として、「本件訴を却下する。」との判決を求め、その理由として、

本件第一決議は、昭和二九年七月一〇日の被告会社の株主総会における、原告主張のような決議を確認するものであり、右決議については、原告は、同年一二月一三日東京地方裁判所に、無効確認の訴を提起している。従つて、右決議の内容を確認するに過ぎない本件第一決議の無効確認を求める訴は、右訴に対し、二重起訴の関係にあるから不適法として却下されるべきである。

又、本件第二決議に基く新株は、すでに昭和三五年一二月一日発行済である。従つて、本件第二決議の無効確認を求める訴は、仮に、その請求が認容されたとしても、新株の発行の効力には、何ら影響を及ぼさないから、訴の利益がなく、不適法である。

と述べ、

本案の申立として、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一、原告の主張事実中、原告が被告会社の株主であること(但し、一八株の株主である。)、昭和二九年七月一〇日及び同三五年九月二二日開催された被告会社の各臨時株主総会において、それぞれ、原告主張のような各決議がなされたこと、並びに、昭和二九年七月一〇日の総会当時、被告会社の発行する株式の総数及び発行済株式の総数が原告主張のとおりであつたことは認めるが、右各決議が法令に違反して無効であることは争う。

二、(1)第一決議について

会社が発行する株式の総数を増加する場合には、常に従前の会社が発行する株式の総数を取消して、新らたにこれを設定しなければならないとの原告の主張は全く誤つた独自の見解である。

又、昭和二九年七月一〇日なされた、会社が発行する株式の総数一、六五〇万株を六、〇〇〇万株に改める旨の決議は、同年九月二四日発行済株式の総数が一、六五〇万株になることを条件としてなされたものであり、株主総会の決議の効力の発生を条件にかゝらしめることは、その条件が合理的なものである限り、有効であるから、右決議には、何ら、原告主張のような違法はない。

仮に、右決議が無効だとしても、昭和二九年九月二四日、一、一〇〇万株の新株が発行された後になされた本件第一決議が無効となる理由はない。

(2)第二決議について

本件決議は、原告主張のような内容をもつものであるから、商法第二八〇条の二第二項前段所定の要件は、すべて満たしている。

即ち、引受権の目的たる株式は額面普通株式であり、与える株式数は百万株、与えられる株主以外の者は昭和三五年一〇月一〇日現在の被告会社の役員及び社員である。

そして、本件決議の但書は、単に手続に関して定めたものにすぎない。昭和三五年九月二二日の本件株主総会当時には、同年一〇月一〇日現在の役員、社員の具体的人名及び員数を確定することはできないから、手続上、このようにする以外に方法はないのである。

又、右決議に際しては、株主以外の者に新株引受権を与えることを必要とする理由について、詳細説明している。

従つて、この点に関する原告の主張も理由がない。

と述べ、

証拠(省略)

理由

一、第一決議の無効確認を求める訴について

被告は本件訴は二重起訴に該当すると主張するので、まずこの点につき判断するに、昭和二九年一二月一三日提起された訴は、同年七月一〇日開催された被告会社の株主総会の決議につき、無効確認を求めるものであるのに対し、本件訴は、昭和三五年九月二二日開催された被告会社の株主総会の決議につき、無効確認を求めるものであるから、確認の対象となる権利関係は明らかに別個である。

従つて、本訴が二重起訴に該当するとする被告の主張は理由がない。

そこで進んで、本件第一決議の無効確認を求める利益の有無につき判断する。(証拠)によれば、原告が提起した、昭和二九年七月一〇日の被告会社の株主総会における、第四号議案定款第五条中一、六五〇万株を六、〇〇〇万株に改める旨の決議の無効確認を求める訴訟において、原告は、第一、二審とも敗訴し、これに対する上告については、昭和三七年三月八日最高裁判所において、上告棄却の判決を受けたことが認められる。それ故に、原告は右の決議については、もはやその無効を主張しえない関係にあるといわなければならない。

ところで、本件の第一決議はたんに昭和二九年七月一〇日の総会における第四号議案に関する決議の内容を再確認するだけのものであるから、右の決議につきすでにその無効を主張しえなくなつた原告は本件第一決議についてもその効力を争う実益を失うにいたつたものと認むべきである。けだし、本件第一決議が仮りに他の何らかの理由により無効であるとされても、原告との関係ではその内容たる右第四号議案の法律関係は毫も影響を受けることがないからである。してみれば、本件第一決議の無効確認を求める訴は、すでにこの点において理由がないからその余の点につき判断するまでもなく、これを棄却すべきである。

二、第二決議の無効確認を求める訴について

本件第二決議に基く新株がすでに発行済であることは、当事者間に争がない。

ところで、新株がすでに発行された後は、新株発行に関する決議無効確認の訴はこれを提起することをえないものと解すべきである。けだし、新株発行後はその発行に関する決議を無効としても別に新株発行無効の訴を提起しないかぎり当該新株の発行はこれを無効とするに由なく、したがつて、新株発行に関する決議無効確認の訴を新株発行無効の訴と併立して認める必要がないからである。もつとも、新株発行前にその発行に関する総会の決議無効確認の訴が提起された場合には、その発行後はその訴は当然に新株発行無効の訴に移行するものと認むべきではないかという問題があるから、次に新株引受権に関する株主総会の決議の瑕疵が、新株発行の効力に影響を及ぼすか否かにつき検討するに、商法は、新株の発行を、一般的には、取締役会の決定に委ね、主株以外の第三者に新株引受権を与える場合のみ、これを容易に認めるときは、株主の利益を害するので、株主総会の特別決議を要するとしていること、並びに、新株引受権に関する株主総会の決議が無効又は取消された場合、新株発行が無効になるとすれば、株式の譲渡を受ける第三者にはその存否が不明である株主総会の決議の瑕疵によつて、輾転流通する株式の効力が否定されることになり、一般取引の安全が著るしく害される結果を招くことに鑑み、新株引受権に関する株主総会の決議の瑕疵は、新株発行の効力に何らの影響も与えないと解するを相当とする。

そうすると、仮に、本件第二決議が無効である旨を確認したとしても、同決議に基いてすでになされた新株発行の効力は、何ら左右されない訳であるから、これを確認するだけの法律上の利益はないというべきである。

従つて、本件第二決議無効確認を求める訴は、いずれにせよ理由がないからその余の点につき判断するまでもなく、これを棄却すべきものである。

三、よつて、本件訴は、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 長谷部茂吉

裁判官 白 川 芳 澄

裁判官 宍 戸 達 徳

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