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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)6603号 判決 1961年4月26日

原告(反訴被告) 川上はつ

被告(反訴原告) 宇津木正一

主文

一、被告は原告に対し弐拾弐万円の支払をせよ。

二、被告の反訴請求はこれを棄却する。

三、訴訟費用は本訴反訴を通じ被告の負担とする。

四、この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

原告は、本訴につき、被告は原告に対し二十二万円の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。との判決及び仮執行の宣言を、反訴につき、被告の請求を棄却する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を、それぞれ求め、被告は、本訴につき、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を、反訴につき、原告は被告に対し日本電信電話公社発行電信電話債券額面六万円一枚(い号第五七回丁第〇一八三二号)を引渡せ。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を、それぞれ求めた。

原告は、本訴につき請求の原因として、原告は昭和三十二年二月初旬頃被告に二十二万円を利息及び期限の定めなく貸与した。原告は被告に対し昭和三十四年五月頃から数回に亘りその返済を求めたが被告はこれに応じない。よつて原告は被告に対し右金員二十二万円の支払を求める。と陳述し、被告の主張事実に対し、被告がその主張の頃原告の娘であるシヅ子と婚約したこと、シヅ子が原告の一人娘であること、被告がその主張の住家を建築したこと、原告が被告にその主張の頃二十二万円を交付したこと、被告がその主張の日シヅ子と結婚式を挙げその主張の日に婚姻の届出をしたこと、シヅ子が家出をしたこと、被告とシヅ子とが被告主張の日に離婚の届出をしたこと、以上の各事実は認めるが、その余の事実は全部争う。原告が被告に二十二万円を貸与したのはつぎの事情による。即ち、原告は娘のシヅ子から、被告がその主張する住家の建築中に材木屋その他に買掛債務を負担しこれを支払わなければその後の建築に必要な資材等の供給を受けることができない誰か金を貸してくれる人はいないかと言つているから金を貸してやつてくれ、と懇請せられ被告に二十二万円を貸与したのである。原告は、被告に右金員を交付したとき、被告から、借用証書を差入れようかと言われたが、数日後シヅ子が被告と結婚することとなつていたところから、親戚、親子となる者の間で借用証書を作成するのも水くさいと思いこれを書いて貰わなかつたのである。事情は以上のとおりであつて、原告が被告の主張するような事情から被告に右金員を贈与したようなことは絶対にない。被告が右金員の贈与を受けたと主張しているのは、シヅ子が被告の使用人と親しくなり家出をしたこと及び被告ら夫婦間のただ一人の子供をもシヅ子に連れ去られたことなどから憤懣やるかたなく何か報復手段をとろうと考え、結局結婚の際シヅ子が持参した箪笥その他の嫁入道具を返還しないのみならず原告から借受けた前記の二十二万円をも返済しようとしないのである。と述べ、反訴につき答弁及び抗弁として、原告が被告からその主張の頃主張の債券の預託を受けたことは認めるが、右債券はつぎの理由により被告にこれを返還することを要しないものである。即ち、(一)、被告は昭和三十三年九月中旬頃電気器具商の北村屋こと田辺良男からテレビ一台を、代金は六万八千円、その支払は同月以降毎月末日限り二千円宛を割賦支払うとの約旨の下に買受け原告は即日右代金債務につき連帯保証を約した。然るに被告は右割賦金三回分計六千円を支払つたに過ぎず残金六万二千円の支払をしなかつたところから、原告は、保証人として前記北村屋からその支払を求められ、昭和三十四年七月頃被告にその旨を告げてその支払につき被告の意向を尋ねたところ、被告から、前掲債券を売却してその代金をテレビ代金の支払に充当して貰いたいとの依頼を受け、結局原、被告間に原告において右債券を売却処分しその代金をテレビ代金の支払に充当する旨の合意が成立したのである。然し当時右債券の時価が四万八千円と極めて安かつたので原告は自らこれをその額面額の六万円で被告から買取りその後昭和三十四年八月三十日迄に前記のテレビ代金残六万二千円を北村屋に支払い被告の債務を完済したのである。(二)、仮に原、被告間に原告において前掲債券を売却してその代金をテレビ代金の支払に充当する旨の合意が成立していないとしても、原告は保証人として前記のとおり同年八月三十日迄にテレビ代金残六万二千円を完済し被告に対し右同額の求償債権を取得したところから、その頃被告は原告に対し右求償債権の弁済に代えて前掲債券を提供したのである。従つて以上何れの理由によつても右債券は原告の所有に帰しているのであるから、原告はこれを被告に返還することを要しない。と述べた。

被告は、本訴につき答弁として、原告主張の請求原因事実は全部否認する。もつとも、被告が昭和三十二年二月初旬頃原告から二十二万円の交付を受けたことはあるが、それはつぎの事情から贈与を受けたのである。即ち、被告は昭和三十一年九月中原告の娘である訴外川上シヅ子と婚約しその後二人のための新居を建築したが、その建築に際し原告は、シヅ子が一人娘であるため自己の老後の面倒は新夫婦に見て貰いたいとの希望を持ち新夫婦の将来の生活設計について種々意見を述べその新居についても被告の予定した規模以上のものを希望し建築予算の不足分は自らこれを補うことを申出たので、被告も右申入に応じ結局木造瓦葺平家建住家一棟建坪十一坪一合余を建築したのである。そして原告は翌三十二年二月初旬頃被告に対しその建築費のうち材木代だけを醵出しようと言つてその代金二十二万円を交付贈与した。その後同月十六日頃被告はシヅ子と結婚式を挙げて夫婦となり同年十二月十九日婚姻の届出をしたが、シヅ子は昭和三十四年三月上旬頃から被告の使用人であつた訴外林実と情交関係を結びその後同人と共に家出をするなどのことがあつて結局同年六、七月頃被告はシヅ子の希望を容れ、二人の間に生れた子供は当分の間シヅ子が養育する但しその養育費は一切シヅ子が負担する、シヅ子が持参した箪笥その他の嫁入り道具は被告に贈与する、被告が原告から贈与を受けた前記の二十二万円についても原告は今後においても何ら異議苦情を言わない、という条件で協議離婚をすることとし同年七月十七日その届出をしたのである。事情は以上のとおりであつて原告が被告に貸与したと主張する二十二万円は昭和三十二年二月初旬頃前記の事情のとおり被告が原告から贈与を受けたものであり、原告の主張は当らない。原告その余の主張事実は全部争う。と述べ、反訴につき請求の原因として、被告は昭和三十三年二月下旬原告に対し請求の趣旨記載の債券一枚を便宜預託した。そして被告は翌三十四年八月下旬原告に右債券の返還を求めたが原告はこれに応じない。よつて被告は原告に対しその返還を求める。と述べ、原告の主張事実は争う。と述べた。

証拠として、原告は、証人川上シヅ子、中山正衛の各証言、原告本人川上はつに対する尋問の結果を援用し、乙第一、二号証の成立を認める、その余の乙号各証の成立は不知、と述べ、被告は、乙第一ないし第二十二号証を提出し、乙第三ないし第十九号証、同第二十一、二十二号証は川上シヅ子の、同第二十号証は林実の、各作成に係る書簡であり、各その作成日附は乙第三ないし第六号証、同第十七ないし、第二十二号証は昭和三十四年中、同第七ないし第十六号証も昭和三十四年中であると各説明し、証人久保田きん、荒井文江の各証言、被告本人宇津木正一に対する尋問の結果を援用した。

理由

先づ本訴について判断する。

被告が昭和三十一年九月中訴外川上シズ子と婚約したこと、シズ子が原告の一人娘であること、被告がその主張の住家を建築したこと、原告が昭和三十二年二月初旬頃被告に対し二十二万円を交付したこと、被告が同月十六日頃シズ子と結婚式を挙げて夫婦となり同年十二月十九日婚姻の届出をしたこと、シズ子が家出をしたこと、被告とシズ子とが昭和三十四年七月十七日離婚の届出をしたこと、以上の各事実は当事者間に争いのないところである。右二十二万円については、原告は被告にこれを貸与したと主張し、被告は右事実を争いこれは原告から贈与を受けたものであると反駁しているが、証人川上シズ子同中山正衛の各証言、原告本人川上はつに対する尋問の結果、を綜合すると、右金員は原告主張の事情からその主張する約旨の下に被告に貸与せられたものであることが認められる。証人久保田きん同荒井文江の各証言、被告本人宇津木正一に対する尋問の結果中、被告がその主張するような事情からその主張のように右金員の贈与を受けた旨ないしは被告とシズ子との離婚に際し原告が右金員の贈与につき今後においても異議苦情を言わないと述べたとの趣旨の部分その他前掲認定に反する趣旨の部分は、前掲川上、中山各証人の証言及び原告本人尋問の結果に比較し信用し難く且つ他に前掲認定を左右するに足りる証拠もない。そして前掲認定事実によると、被告は原告に対しその求める二十二万円を支払う義務があるから、原告の本訴請求は理由があり正当としてこれを認容すべきものである。

つぎに反訴について判断する。

本訴、反訴を通じ請求の趣旨、原因、答弁、抗弁などを検討すると、各請求はその権利関係の内容においても発生原因の点においても法律上も事実上も共通点はなく又反訴請求は本訴の抗弁事由とその内容においても発生原因においても前同様の共通点はなく、従つて本件反訴は本訴の目的たる請求又は防禦方法との関連を欠くものではあるが、原告がこれに応訴していることは口頭弁論の経過に徴し疑いを容れないところであるから、反訴は結局適法のものと解し、以下その請求の当否について考えてみる。被告が昭和三十三年二月下旬原告に対し被告主張の債券を預託したことは原告において認めて争わないところである。そして証人川上シズ子同中山正衛の各証言、原告本人川上はつに対する尋問の結果、を綜合すると、右債券を被告に返還することを要しない理由として原告の主張する(一)の事実(但し原告が被告から六万円で買受けたとの点を除く)が認められる。被告本人宇津木正一に対する尋問の結果中、右認定に反する部分は前掲各証拠に比較し採用し難く且つ他に右認定を左右するに足りる証拠もない。右認定の事実によると、被告は原告に対し右債券を売却処分しその代金をテレビの買掛代金債務の支払に充当することを任せたのであるから、債券の処分方法が被告の不利益とならない限り、その買主が何人であつても仮に原告自らがこれを買受けるものであつても何ら異存がないとの趣旨をも含むものと認めるのが相当であり、しかも原告はその時価をはるかに超える額面額六万円でこれを取得することとし右金額をテレビの買掛代金として北村屋に支払つていることは前記認定事実により明らかであるから、原告は有効に右債券を取得しているものと認むべきであつて、従つてこの点に関する原告の抗弁は理由があり爾余の争点につき判断する迄もなく被告の反訴請求は失当であり容認し難いものとして棄却を免れない。よつて本訴請求を認容し反訴請求を棄却し訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を、それぞれ適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤恒雄)

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