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東京地方裁判所 昭和33年(行)154号 判決 1959年4月22日

原告 三剛鉄板株式会社

被告 国

訴訟代理人 堀内恒雄 外四名

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「東京税関長が昭和三十三年四月四日原告に対して為したる税額金二十一万四千五百六十円を昭和三十三年四月十八日限り納付すべき旨の関税追徴決定は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、その請求の原因として左の通り陳述した。

一、東京税関長は原告に対し請求の趣旨記載の如き関税追徴決定をなし、右決定による納税告知書は昭和三十三年四月十九日原告に到達したが、右決定は左記の通り違法なものであるから当然無効な決定というべきものである。

二(1)  即ち、東京税関長が右決定をなした理由というのは左の通りである。

訴外天野友重は昭和二十八年三月六日頃横浜在住の米軍軍人から一九五〇年型マーキュリー乗用車一台を譲り受け、同月八日頃訴外木下真、同大滝森久こと吉田森久と共謀の上、東京都内において輸入免許証を偽造し、右乗用車を大阪に運び、同月下旬頃訴外中尾寛を通じて原告会社に対し右乗用車の売買を交渉し、同年四月八日大阪府陸運事務所において同事務所係員に対し偽造輸入免許書を新規登録申請書に添付して提出して行使し、よつて同日同事務所係員をして道路運送車両法第九条の規定により所有者を原告会社とする新規登録を行わしめ、もつて関税二一四、五六〇円を逋脱したものであり、天野は右事実について昭和三十二年七月十五日東京地方裁判所において有罪の判決を受けたが、自動車を没収することができないときに該るとして追徴の言渡を受けた。原告は右のようにして自動車を譲受けたものであり、犯則当時のは所有者であるから、原告に対して本件関税追徴決定をなした。

(2)  しかしながら、本件においては、米軍々人から自動軍を譲受けた者は天野であり、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税等の臨時特例に関する法律(昭和二十七年法律第一一二号)、第十二条により右譲受行為が輸入とみなされ、同訴外人が関税納入義務者であり、従つて、同訴外人以外には本件自動車についての関税逋脱犯人はあり得ないわけである。そうして、同訴外人が自動車を譲受けた時において関税逋脱は既遂に達しているものというべく、少くとも、同訴外人が中尾を通じて原告に対し偽造通関書類を行使して自動車の購入を求めた時に犯則行為が既遂に達したことを、右偽造書類の行使という外部的徴ひようにより認定することができるのであつて、東京税関長の前記理由のように、自動車の新規登録時を犯則時というのは誤りである。そうすると、中尾が右偽造書類を行使した時においてさえも、原告は本件自動車の所有者ではないのであるから、昭和二十九年法律第六一号による改正前の関税法(以下これを旧関税法といい、右法律により改正されたものを新関税法という。)第八十三条第四項にいう犯則当時の所有者に該当しないものといわなければならない。

(3)  仮に、右主張に理由ないとするも、原告は昭和二十八年十一月十四日右自動車を他に売却し、既にその所有者でない。

よつて、旧関税法第八十三条第四項但書によつて原告から関税を徴収することはできないものである。

(4)  以上の通り、本件関税追徴処分、東京税関長が法律の解釈適用を誤つたものであり、当然無効たるを免れないものである。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁として、東京税関長が原告に対しその主張のような処分をなした点、請求原因第二項(1) 記載の事実は認めるが、右処分通知の到達時、原告が本件自動車を他に売却したことはいづれも知らない、その余の原告主張は争うと述べ、被告の主張として左の通り陳述した。

(1)  日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税等の臨時特例に関する法律(昭和二七年法律第一一二号)第六条の規定によつて米軍々人軍属等の用に供するため購入された自動車は、関税を免除されているのであるが、この関税を免除された自動車を日本国内で譲り受けようとするときは、同法第十二条の規定により当該譲受は輸入とみなされ、関税法及び関税定率法の規定が適用されることになつている。即ち本件においては、天野が米軍軍人から自動車を譲受けたことも、また原告が天野から譲受けたことも輸入とみなされる。

ところで、元来貨物を輸入するときには、あらかじめ、税関に輸入申告をし、その免許を受けなければならず、右免許は輸入申告者が関税を納付した後でなければこれをしない取扱であつたが(新関税法第七十二条参照)、日本国内で米軍軍人等から自動車を譲受ける場合において、右のような取扱をすることは、自動車の性質からして実際上困難な点があるので、第一次の譲受人が譲受後相当期間経過してから申告した場合も、第二次、第三次以降の譲受人から申告があつた場合も、その申告のあつたことに満足し、無免許輸入ないし関税逋脱の通告、告発等を行わないのが通例となつていた。

(2)  無免許輸入と関税逋脱はともに処罰されるが、本件の如く日本国内において米軍々人等から自動車を譲り受けることが輸入とみなされる場合には、無免許輸入と関税逋脱との区別及びその成否について、他のいわゆる密輸入の場合と異なる特殊性に応じた考えがなされなければならない。即ち通常の密輸入事件にあつては貨物を隠匿して税関を通過する等の輸入行為自体が不正手段であり、その行為を認識していれば逋脱犯の犯意があるといえるのに反し、国内で米軍々人等から自動車を譲り受けることは輸入とみなされるが、その輸入自体は不正手段ということはできず、右事実の認識のみから譲受時の逋脱の犯意があるものとすることはできない。この場合の逋脱の犯意は譲受行為の他に何らかの行為が加わることが必要であり、かかる外部的徴表があつて、はじめて逋脱の犯意が認定できるものといわなければならない。

(3)  以上のような理由で、本件においては関税逋脱犯の成立は、偽造輸入免許書を陸運事務所に提出行使して道路運送車両法第九条の規定による登録を行わしめた時において捉えざるを得ないのであつて、東京税関長が右登録のときをもつて犯則の既遂の時期であるとし、そのときにおける本件自動車の所有者である原告会社に対して課税したものである。

(4)  原告は、自動車を他に売却して了つたから旧関税法第八十三条第四項但書の規定により原告から関税を徴収すべきでないというが、同法条は、貨物が所有者の占有に帰せざる間に第三者に帰属したときは徴収しないというのであり、原告は昭和二十八年四月以降自動車を占有使用していたのであるから、仮にその後自動車を他に売却して了つたとしても、右法条但書の場合に該当しないものである。

(5)  以上の通り、本件関税追徴処分は何ら違法な点はなく、仮に違法があるとしても、当然無効を来す重大かつ明白な瑕疵があるとはいえないから、本件処分の無効確認を求める原告の請求は失当である。

証拠<省略>

理由

東京税関長が原告に対し昭和三十三年四月四日税額金二十一万四千五百六十円とする関税追徴決定をなしたこと及びこの決定の理由が請求原因第二項(1) 記載の通りであることは当事者間に争いない事実である。

日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税等の臨時特例に関する法律(昭和二十七年法律第一一二号)第六条により関税を免除されている米軍々人等の用に供されるため輸入された自動車を日本国内において譲受けた場合には、同法第十二条によつてその譲受を輸入とみなされ関税法等の適用を受けることになるが、右自動車が転々と譲渡されたときにはそのいずれの譲受も輸入とみなされるものと解するのが相当である。そしてその譲受行為自体は違法でなく、譲受後において、何らかの不正手段を用いて関税の支払を免れる行為があつたときに、はじめてその不正に関税の支払を免れる行為が旧関税法第七十五条の関税逋脱罪を構成するものと解せられる。

原告は、本件自動車についての関税逋脱の犯則時は、天野が原告に対し、偽造通関書類を示して売買の交渉をなした時であり、その時には原告は未だ自動車の所有者でないのに、東京税関長は原告名義に新規登録を経た時を犯則時とし原告を犯則時の所有者と認定したのは違法であると主張するのであるが、天野が本件自動車を譲受けた行為それ自体を違法とすることができないことは前説示により明らかなところであるから、同訴外人に対する関税逋脱犯が成立するためには、右譲受行為の外に不正に関税の支払を免れる意思の下における行為を必要とする。しかしながら、そのような不正な行為の為された時を認定するには、種々な外見的徴ひようにより綜合的に判断しなければならないものであり、従つてその犯則時の認定について誤りがあつたとしても、その誤りは外観上明白な誤りということはできないものであるから、これを以て本件処分を当然無効とすべき事由には当らないというべきである。

しかのみならず、自動車は道路運送車両法第四条により同法による登録を受けたものでなければ運行の用に供し得ないのであり輸入自動車の登録を受けるためには、その登録申請書に輸入の事実を証明する書類の添付を必要とする(同法第七条第一項)のであるから、天野が偽造通関書類を陸運事務所に提出行使して本件自動車の新規登録を受けた時に、不正に関税を免れる行為があつたものと認定することは妥当というべく(成立に争いない乙第一号証によると天野に対する右関税逋脱罪についての刑事裁判においても、自動車の登録時を犯罪既遂時と認定されていることが認められる。)、本件関税追徴決定には右原告主張のような違法はな

いものといわなければならない。

次に、原告は旧関税法第八十三条第四項但書に該当する者であるとの原告主張事実については、同項但書の「第三者ニ帰属シタルトキ」というのは、単に第三者に帰属したときというのでなくて、貨物が所有者の占有に帰さない間に第三者に帰属したときをいうものであり、原告は本件自動車を買受けた時から、これを第三者に売却したという昭和二十八年十一月十四日迄の間は、本件自動車を占有していたものであることは、自ら認めるところであるから、原告が同項但書に該当するものとはいえず、原告の右主張もその理由がない。

よつて、本件関税追徴決定はこれを無効とすべきかしあるものではなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 石井玄)

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