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東京地方裁判所 昭和33年(行モ)8号 決定 1958年9月04日

神奈川県平塚市平塚三千五百四十番地

申立人

上野茂三

右代理人弁護士

大島正恒

東京都千代田区大手町一丁目七番地

相手方

東京国税局長

篠川正次

右申立人は当裁判所に相手方が昭和三十三年三月一日附で別紙物件目録記載の物件につきなした公売処分及び右処分に先立ち昭和二十五年十一月二十七日右物件につきなした差押処分が違法であるとしてその取消の訴(昭和三三年(行)第二七号事件)を提起し、且つその執行停止を申立てた。当裁判所は当事者の意見をきいたうえ次のとおり決定する。

主文

本件申立を却下する。

理由

行政事件訴訟特例法第十条第二項に基く執行停止の申立は本案訴訟の提起が適法であることを要すると解すべきところ、本件記録によれば本件申立の本案訴訟たる昭和三三年(行)第二七号事件の第一次的請求は公売処分が未だなされておらず取消の対象たる処分を欠く不適法なる訴であり、予備的請求は訴願前置の要件を欠く不適法な訴と認められるから、本件申立は理由がないと認め主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石田哲一 裁判官 池京武人 裁判官 越山安久)

物件目録

平塚市平塚 三千五百四十番地

家屋番号  第二三七八番の二

木造亜鉛葺平家居宅 一棟

建坪    五十坪二合五勺

附属

木造亜鉛葺平家居宅 一棟

建坪    十五坪七合五勺

以上

(参考)

公売処分執行停止申請

神奈川県平塚市平塚三千五百四十番地

申立人 上野茂三

東京都新宿区四谷四丁目十八番地七

右代理人弁護士 大島正恒

東京都千代田区大手町一丁目七番地

被申立人 東京国税局長

篠川正次

申立の趣旨

被申立人が申立人に対し為したる昭和三十三年三月一日附差押財産公売処分は申立人と被申立人間の訴訟終了に至るまでこれを停止する。

との御決定を求むる。

申立の理由

一、被申立人は申立人に対し戦時補償特別措置法に基く滞納税額金百十五万六千七百十円ありとし申立人所有の平塚市三千五百四十番地所在建物(財産番号ウ―3―1)を差押へ昭和三十三年三月一日附を以て右差押財産の公売処分をなす旨通知し来り公売期日は同年三月十二日となつて居つたのである。

二、然れども右戦時補償特別措置法第十三条に依る時は、その税率は百分の百とするとあり課税価格に対する全部を税金として取立てるものにして税率としては、全く苛酷のものと云うべきである。

三、而して憲法第二十五条に依る時はすべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するとあり若し収入の百分の百を税金として取立てられたる時は最低限度の生活を営むことのできないことは理論上明らかである。又憲法第二十九条には財産権はこれを侵してはならないとあるも百分の百の税率は当に財産権の侵害である。又憲法第十三条には幸福追及に対する国民の権利については公共の福祉に反しない限り立法その他国政の上で最大の尊重を必要とするとあり若し百分の百の税率を課税せらるる時は個人の幸福と云うことは考へ得られないのである。故に百分の百の税率を課することは立法上最大の尊重を払はるべきである、而して百分の百の税率を不当と主張することが何等公共の福祉にも反しないのである。然るに之れが立法については最大の尊重を払はれたるものと云うことを得ないのである、故に同法は憲法違反にして無効の法律と云うべきである、国も又同法の悪法なることを認め既に之れを廃止して居るのである。

四、元来戦時補償特別措置法は昭和二十一年十月三十日から施行せられたものであつて現行憲法の公布は昭和二十一年十一月三日であるからその以前に施行せられたものである。故に憲法に適合する法律なりや否やを考えずして制定せられたるものである。然るにその後において現行憲法が公布せられたるものなるを以て最高法規たる憲法の効力は一般法規に優るを以て当然その法規が憲法に適合するや否やを判断せらるべきものと云うべきである。尚ほ本日附準備書面第三項も主張する。

五、以上の次第にて右法律に基く公売処分は之れを取消すべきものとして訴訟を提起し御庁昭和三十三年(行)第二七号事件にて目下繋争中である、然るに之れが最終判決に至るまでに公売せらるる時は若し原告勝訴の場合は償うことのできない損害を蒙るを以て行政事件訴訟特例法第十条第二項に基き執行の停止を申立てた次第である。

昭和三十三年五月六日

右申立人代理人 大島正恒

東京地方裁判所

民事第三部 御中

○東京地方裁判所昭和三三年(行モ)第八号

申請人 上野茂三

被申請人 東京国税局長

昭和三三年五月一六日

東京都千代田区大手町一丁目七番地

東京国税局長 篠川正次

東京地方裁判所民事第三部 御中

執行停止申請に対する意見書

申請人の請求は、左記の理由により失当であるから却下されるべきである。

理由

一、本訴(東京地裁昭和三三年(行)第二七号差押財産公売処分取消請求事件)における申請人の主張が全く理由のないことは、被申請人等が本訴において詳らかに主張しようとするところであるが、簡単に述べれば次のとおりである。

仮りに、申請人に対する戦時補償特別税の課税処分が違法であるとしては、申請人の戦時補償特別税債務は昭和二三年九月二〇日の決定通知後、申請人において戦時補償特別措置法第三〇条に規定する審査請求をすることなく、所定期間(一か月)を経過したのであるから、既に確定したものであり、また、本件課税処分は絶対無効でもない。このように既に確定した戦時補償特別税については、国はその課税が取消されない以上、同法のその後の改廃にかかわることなく、国税徴収法に基いて滞納処分を進めうるものであり、本件滞納処分に違法は存しない。したがつて、申請人の本案訴訟における請求が理由のないことは明白であり、本件申立はこの点においても却下さるべきである。

二、申請人は本件公売処分の執行により、原告勝訴の場合償うことのできない損害をこうむるので、これを防止するに緊急の必要があると主張するが、本件家屋が公売手続の執行により第三者の手に渡つたとしても、その買受人がただちに申請人およびその家族等に対し退去明渡を求め、あるいはただちに右家屋を取毀してしまうという事態が発生するとは限らないし、仮りに買受人がそのような措置をとろうとしても、これを防止する方法は皆無というわけではないから、たとえいくらかの苦痛損害をこうむるとしても、行政事件訴訟特例法第十条第二項にいう「償うことのできない損害を受け、これを避けるに緊急の必要がある。」場合に該当するものと認めることはできない。

○東京地方裁判所昭和三三年(行モ)第八号

申請人 上野茂三

被申請人 東京国税局長

執行停止申請に対する意見書(補充)

違憲の主張について

申立人は、戦時補償特別措置法は戦時補償特別税として戦時補償請求権に対し百分の百という高率の課税をすることを規定しているが、同法は旧憲法当時の立法にかかるものであり、現行憲法の下においては同法十三条、二十五条および二十九条の各条規に違反し、無効である旨主張している。

しかし、同法は終戦に伴う国の財政状態にかんがみ、日本国の存立のためやむを得ず立法されたものであつて、当時の内外の情勢から国の財政立て直しの一環としてなさざるを得なかつた緊急の施策であつたことは多言を要しないところであつて、このことと、租税が特別の給付に対する反対給付の意義を有しないで、国家財政の目的から、法律の定める課税要件に該当するときは、国または地方公共団体が一般人に賦課する金銭給付であるとの性質を有することを併せ考えれば、本法の税率が高く、一見納税義務者に対し苛酷の外見を呈していても、公共の福祉の維持、増進のためやむを得ない措置といわなければならない。そして旧憲法下の立法であつても現行憲法に違反しない限り有効であるが、本法は手続的に違憲ではないのみならず、その内容においても違憲ではない。

申立人の挙示する憲法十三条、二十五条は、いわば政治の理想を宣明した規定であつて、税率が高いことの一事をもつて違憲と論断することはできないし、また、二十九条に違反するかどうかの点についても、租税の本質が右に述べたものである以上、税率の高低により左右される性質のものでもない。

したがつて、本法が憲法違反とせられる根拠は全くないというべきである。

なお、従来本法に基く課税処分、滞納処分を争う幾多の訴訟が裁判所に係属したが、最高裁判所を含め各地の裁判所において本法が違憲であるとの判断をされたことはない(たとえば、昭和二八年(オ)第八号、昭和二九年六月十七日最高裁一小法廷判決、昭和二九年オ第五三一号、昭和三〇年八月九日最高裁三小法廷判決はいずれも本法が合憲である旨およびその理由を特に判示していないが、合憲であることを前提として課税処分を争う納税義務者の上告を棄却した事件である)。

昭和三十三年六月九日

東京都千代田区大手町一丁目七番地

東京国税局長 篠川正次

東京地方裁判所民事第三部 御中

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