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東京地方裁判所 昭和32年(ヨ)4020号 決定 1958年6月06日

申請人 野村光一

被申請人 医療法人外塚病院

主文

申請人が被申請人に対し従業員として雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定める。

申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

一、申請人は主文同旨の裁判を求めた。

二、被申請人は病院を経営するものであり、申請人は昭和二八年九月以降、被申請人に雇傭され、放射線科技師として勤務していたところ、昭和三二年三月一四日被申請人より予告手当を提供して解雇の意思表示を受けたことは当事者間に争いない。

三、申請人は「(イ)右解雇は、何ら理由なくなされたもので、解雇権の乱用である。(ロ)右解雇は申請人が労働組合結成活動をなしたためになされたものである。被申請人病院の従業員間に昭和三一年一二月一三日の年末手当要求を機に組合結成の機運が高まり、申請人が中心となつて同年一二月二〇日親睦団体であつた互助会の全会員が集り、労組結成を決議し、申請人は副委員長に就任したが被申請人は同日申請人に無期限休職を命じ昭和三二年三月一四日に至り解雇の意思表示をしたものである。したがつて右解雇は労働組合法第七条に該当する不当労働行為である。(イ)(ロ)の理由により本件解雇は無効である。」旨主張し、被申請人は「右解雇は被申請人が申請人に対し、健康上の理由で休職を命令したのに申請人がこれに従わず、又その勤務も怠慢であるためで、組合活動のためではない。申請人は昭和三一年七月白血球減少を申し出ており、被申請人はこれに休養を与えようと考慮していたところ、同年一二月半ばに後任者が見つかつたので同月一九日に休職を命じた。ところが申請人は不当労働行為と称してこれに従わず職場に出て秩序を乱すので昭和三二年一月五日職務命令違反の理由で解雇したが、その後同月末仲介者との話し合いで申請人は休職命令に服することを承諾したので解雇を撤回した。しかるに右協定に違反し依然として職場に出入して秩序を乱したので同年三月一四日解雇したものである。」旨主張する。よつて右解雇が不当労働行為に当るかどうかの点を判断する。

四、疎明によれば本件解雇の経緯につき次のことが認められる。

(一)  申請人は昭和三〇年に従業員の親睦団体として作られた互助会の委員であつたが、昭和三一年一二月一三日に一二月分給料の一二月二〇日支給、年末手当一ケ月分支給並びに就業規則の作成を被申請人に要求することを提案し、その結果翌一四日の互助会総会において右の要求書の提出が決議され、申請人はその起草委員となつたこと、その頃申請人は右委員会において互助会を解消し組合を結成すべきである旨提案しその賛成を得たが申請人と笠井医師がその結成運動の中心であつたこと。

(二)  その間申請人は病院側において右結成を妨害する意図あるものと考えその妨害を封じるため病院理事会と互助会委員との会談の必要を提議し、同月一八日両者の会合が開かれたがその席上潘理事は組合を結成すれば不愉快な事態がおこると発言したこと。

(三)  互助会大会は同年一二月二〇日に開催されることが予定され委員らはその際組合に改組することを計画していたところ、同日被申請人は申請人に対し休養の必要ありと称し突如休職を命じその旨を同病院内に回覧したので、申請人はこれに対して組合結成の弾圧であるとして抗議声明し、同日午後六時の互助会大会に出席する様従業員に呼びかけ、従業員八十名(全員約百名)の賛成を後て右互助会大会において組合結成が決定され、申請人は副委員長に選ばれたこと。

(四)  翌二一日に看護婦らは、井出婦長より組合をやめるよう説得され、また組合の中心の医師らが組合に参加すればその所属する大学に戻され病院に勤められなくなるという噂が立つたため(病院と大学研究室とは密接な関係にあり、医師は大学究研室に籍を置いたまま教授の推せんにより勤務しているようである。)、組合員らの組合存続の意思を喪失させ、組合は立ち消えの状態となつたこと。

(五)  申請人は休職命令後これに服さず出勤を続けたところ、昭和三二年一月五日に至り被申請人より口頭で解雇通告を受けたが、世田谷地区労協議長本多信雄を通じて被申請人に対して解雇撤回の交渉を行つた結果、被申請人は申請人が三ケ月間休職命令に服し出勤しない条件に同意したものと考えて、同月下旬右解雇を撤回したこと。ところが申請人は休職後職場復帰の確約を求め、これを被申請人が肯認しないため、依然出勤を続けたところ、被申請人は同年三月一四日休職に服するとの協定に違反し秩序を乱したとして再び解雇通告をしたこと。

五、ところで前記休職命令は申請人の白血球減少症状に対処するためというのであり、疎明によれば、申請人が昭和三〇年五月頃白血球数が三五〇〇位に減少(通常人七〇〇〇位)した理由により障害防止施設の実施を要求したことが認められる一方、疎明によれば、休職を命ずるに当り被申請人は放射線障害に関する申請人の症状につき何ら調査することなく、また申請人の意見を徴することもなく、更に申請人の症状回復には放射線を直接浴びるのを避ければ足り安静と格別の治療を要するものでなく、したがつて休職するにしてもそのような業務に従事しなければ足り組合活動のため事業場に出入することは何ら差支えなかつたものというべきであるのに、被申請人は申請人の症状が右の通り自宅において臥床療養する必要はないことを知りながら休職命令によつて自宅待機を命じ事業場への出入をすべて差止めたことが認められる。

このことと前項(一)(二)(三)(四)の経緯とを合せ考えると、被申請人が申請人に対し休職を命じた真の理由は申請人が病院に現われて組合活動をなすことを阻止するにあり、従つて労働組合法第七条第一号第三号に該当する不当労働行為であるといわざるを得ない。

したがつてまた昭和三二年一月五日の解雇も休職命令に違反し従前の職場に出勤したというのは単に解雇の名目を得たにとどまりその実は申請人の組合活動の嫌悪が決定的であつて解雇は不当労働行為であると認めるのが相当である。

六、ところが疎明によれば四の(五)のように被申請人は申請人が休職命令に服し自宅待機するものと信じ右解雇を撤回したが、申請人が依然出勤したので、被申請人は申請人が右の休職命令に服する協定にも違反したと考え職場の秩序を乱すものとして同年三月一四日解雇したことが認められる。

しかし更に疎明によれば申請人は前記仲介者本多に対し被申請人の不当処置に抗議するよう依頼したに止り紛争解決について一切を委任したものではないので、被申請人が本多との話合により申請人が三ケ月の自宅待機を無条件で承諾したものと信じたのは早計であるばかりでなく、解雇撤回を言明した直後申請人から休職期間経過後復職を約束することの要求が出されたのに対し被申請人においてこの点の言明を避けたので、仲介による話合は完全な妥結に至らなかつたこと及びそのため被申請人も解雇を撤回したと称しながら申請人を従業員として取り扱わず、同年一月分の給料は所得税の控除をなさず特に領収書を取り、更に同年二月二〇日食堂の使用を禁止し、同月分の給料の支払を遅らせ、事務上解雇者と同視していたことが認められる。

申請人が従前の職場に引続き勤務したことは疎明によつて認められ、このこと自体は一応業務命令及び被申請人の理解していた協定に違反したものであるが、前記のようにこれと関連して被申請人のとつた不当の措置に鑑み、申請人としてはやむを得ない対抗手段としてなしたものと認むべきであつて、他面被申請人にとつては申請人の出勤によりこれに代る担当者を置くことを免れたわけであり経過的には一時その出勤を黙認した形跡も窺える。

したがつて被申請人が申請人の右行動に対して同年三月一四日解雇をもつて処遇したのは甚だしく苛酷不当であつて到底その合理性を首肯し得ないところがあり、このことを前記経緯に照すと、この措置にでた真の目的は申請人の組合関係活動を嫌悪する差別扱意思の継続にあると認めるのが相当である。

よつて本件解雇は労働関係の公序に反し無効であるといわねばならない。

七、このように解雇が無効であるに拘らず被解雇者として取り扱われることは労働者たる申請人にとつて甚だしく苦痛であることは明白である。よつて仮処分命令の必要あるものと認め、申請費用について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 西川美数 大塚正夫 花田政道)

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