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東京地方裁判所 昭和31年(レ)261号 判決 1958年9月03日

控訴人(附帯被控訴人) 株式会社小沢人形教室

被控訴人(附帯控訴人) 須賀登

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、原判決を取り消す。

控訴人は被控訴人に対し、金五万四千五百円をこれに対する昭和二十八年九月二十日より完済に至るまで年六分の利息と共に支払うことを要する。

三、訴訟費用中第一審において生じた分は被控訴人の負担とし、当審において生じた分は控訴人の負担とする。

四、この判決は仮りに執行することができる。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人は、本件控訴に附帯して主文第二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求めた。

被控訴人の請求原因の要旨は、「(一)控訴人は人形の製作・販売等を業とする株式会社である。(二)被控訴人は昭和二十八年八月頃控訴人との間に次のような広告契約を締結した。(イ)被控訴人は昭和二十八年九月十九日より昭和二十九年九月十八日までの一年間、東京都荒川区日暮里町京成電鉄株式会社日暮里駅一番線プラツトフオームに、小沢人形教室という文字から成る電気看板広告一基を設置すること。(ロ)控訴人は右広告代金として金八万一千円を、右広告をする最初の日たる昭和二十八年九月十九日に被控訴人に支払うこと。(三)依つて、被控訴人は前記日時場所に於て前記の如き広告一基を設置したが、控訴人は右同日に内金二万六千五百円を支払つたのみで、残余の金五万四千五百円を支払わないので、右金五万四千五百円及び之に対する昭和二十八年九月二十日より完済に至るまで年六分の遅延利息の支払を求めるため本訴に及んだ。」と云うにある。

被控訴人は最初控訴人の代表者小沢忠(通称章浩)個人を本件広告の注文者として訴を提起したが、当審に於て右小沢は本件広告の注文者は控訴人であり右小沢は控訴人の代表取締役として注文したに過ぎない旨抗弁したので、被控訴人は之に基いて訴を変更し前示の如き附帯控訴を提起した。

控訴人は、訴の変更に異議はない、と述べ、本件請求の原因事実は全部これを認める、と述べた。

理由

一、当事者の変更が訴の変更の原則の下に服すべきものか否かについては異論はあるが、積極に解するのが妥当である。蓋し、訴の変更を認める所以は請求の基礎たる法律関係の本質的部分を変えない限り其の他の訴の部分を変更しても訴訟をして著しく遅延せしめるものとは限らず、然も他面之を許すことによつて旧訴を取下げ新に訴を提起する煩を省き訴訟経済と実際の要求を充し得るからであり、而して当事者の変更についても右と全く同一の関係に立ち得る場合があるからである。本件においては会社の代表者個人から会社に対する訴に変更せられたものであり、法定代理の関係によつて訴訟遂行者の資格は変つたが人其の者は変つて居ないのであるから此の点に付ては素より其の他全般的に被控訴人の請求の基礎たる法律関係の本質的部分に変更がないのは明らかであり、且つ之による訴訟の遅延も全くない。しかも他の観点に立つて見ても本件においては当事者の変更につき当事者間に異議はない。故に被控訴人の本件訴の変更は許さるべきものである。(我が民事訴訟法は他の立法例と異り控訴審に於ける訴の変更に付特に相手方の同意を要件としないから結局第一審の原則通りと解すべきである。)

二、訴の変更により旧訴は取下げられ新訴が提起されるのであるが、当事者の地位は旧当事者の地位を承継する。従つて新当事者は本件に於ては被告且つ控訴人たるの地位に立つ。併し、原判決は維持し得られないから被控訴人は附帯控訴を提起して新な請求を為すべきものである。故に被控訴人の附帯控訴は適法である。

三、被控訴人の附帯控訴による新請求原因は控訴人の認める所であるから附帯控訴は理由がある。之に反し本件控訴は理由がない。何故なれば原判決は訴の変更によつて其の効力を喪失すべきものだからである。

四、訴訟費用は民事訴訟法第九十条により第一審に於て生じたものは訴を変更した被控訴人の負担とするのが相当であり、その他は控訴人の負担たるべきものである。仮執行の宣言は同法第百九十六条による。

(裁判官 安武東一郎 西塚静子 萩原太郎)

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