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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)4302号 判決 1956年5月15日

原告 小田急電鉄株式会社

被告 株式会社中島商店

主文

被告は原告に対し金六拾万円及び昭和三十年六月十八日より右完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告に於て金拾万円の担保を供する時は仮に執行する事が出来る。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決並に仮執行の宣言を求めその請求の原因として原告は昭和二十七年一月一日被告に対しその所有にかかる東京都新宿区角筈二丁目十八番地の二所在家屋番号同町六十八番の三木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建店舗一棟建坪七坪(実測六坪五合七勺一才)を新宿駅構内売店として賃料壱ケ月金二万円期間一ケ年、期間満了の時は十日以内に原状に復して明渡す等の約定で賃貸した。

その後右契約は更新され昭和二十八年十二月三十一日を以て期間満了となつた。

然るに被告は右明渡期間が経過しても依然として本件家屋を占有し明渡さないので再度明渡を求めたが被告は之に応じなかつた。而してその際偶々原告は被告が昭和二十九年三月頃前記店舗のうち中央部分二坪七合六勺九才を訴外齊藤京子に左端一坪八合六勺二才を訴外有限会社辻商会にいづれも原告の承諾を得ずして転貸している事実を知つた。

そこで原告は本件家屋の明渡を訴求するに先立ち昭和二十九年十月被告並に齊藤、辻を相手方として東京地方裁判所に明渡断行の仮処分の申請を為したがその際裁判所の勧告により齊藤、辻と原告間に夫々裁判上の和解が成立しその条項に基づいて原告は右両名に対し夫々金二十万円の立退料を支払いその占有部分の明渡をうけた。

而して昭和二十九年十一月二日原告は被告に対する明渡断行の仮処分決定に基いてその執行を完了した。

そこで被告は原告が被告の不法転貸によつて蒙つた前記齊藤、辻に支払つた立退料合計金四十万円の損害及び契約期限満了の翌日たる昭和二十九年一月一日より前記仮処分の執行によつて明渡が完了した同年十一月二日迄被告の本件家屋の不法占拠により蒙つた賃料相当額計金二十万円の損害合計金六十万円を賠償する義務がある。

そこで原告は被告に対し右損害金の支払を求めると共に昭和三十年六月十八日より右金員完済に至る迄年五分の割合に因る損害金の支払を求めるために本訴請求に及んだものであると陳述した。<立証省略>

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決並に保証を条件とする仮執行の免脱を求め答弁として原告主張の請求原因中本件建物の明渡しが東京地方裁判所の断行の仮処分により昭和二十九年十一月二日なされたことを認めその余の事実はすべて争うと述べた。

理由

成立に争のない甲第一号証の一、二、第四号証、第五号証、第八号証、第十号証及び証人渡辺勤の証言により真正に成立したと認められる甲第六、七号証並びに証人根本好夫、同渡辺勤の各証言を綜合して判断すると(一)、原告は被告に対し昭和二十七年一月一日その所有する本件店舗を新宿駅構内の売店として賃料壱ケ月金二万円期間一ケ年として被告に賃貸しその後右期間を更に一年延長した事。

(二)、被告が遅くとも昭和二十九年三月初旬頃迄に本件家屋の中央部分二坪七合六勺九才を訴外齊藤京子にその左端一坪八合六勺二才を訴外有限会社辻商会に原告の承断なく転貸した事。

(三)、昭和三十年三月頃原告は新宿駅構内を管理する国鉄当局よりそのホームの改良工事の為本件家屋の速かな収去を求められていたので昭和二十九年十月被告並に齊藤、辻を相手として明渡断行の仮処分の申請を東京地方裁判所に為したところ被告は審訊期日の呼出に出頭しなかつた。そこで裁判所の勧告もあつたので事態の円満にして早期の解決を計るため原告と齊藤、辻間に裁判上の和解が成立し而してその条項に基づき原告は右両名に対して各金二十万円の立退料を支払つてその占有部分の明渡をうけた事等が認められる。

そこで先づ原告が前記齊藤、辻に支払つた立退料合計金四十万円について被告が支払義務を有するか否かについて判断する。

前判示のように原告が本件家屋の明渡を求めるに至つた事情、立退料の額等から考察すると原告の右損害金と被告の転貸行為との間に相当因果関係があつたと認める事は困難であるが然し弁論の全趣旨により右特別の損害の発生について被告に予見し得べき事情があつた事が認められるので被告をしてその賠償の責に任じせしむるを相当と解せざるを得ない。

次に本件家屋の賃貸借が昭和二十九年十二月三十一日、期間満了に因り終了したか否かについて判断する。

成立に争のない甲第一号証によれば本件家屋は新宿駅構内に於て一定の物品販売営業をなすために仮設的に建築せられ且随時の収去明渡を予想し更にその使用権が営業権と一体を為せる「永続性を目的としない事が明かな借家関係」と認められるので借家法の適用を排除する「一時の使用」の賃貸借であると解するを相当とする。

従つて本件賃貸借は昭和二十九年十二月三十一日をもつて期間満了により終了したものと謂はなければならない。

従つてその後被告に対する断行の仮処分の執行によつて本件家屋に対する被告の占有が解かれた昭和三十年十一月二日迄の本件家屋に対する被告の占有は不法であるというべくこれによつて右期間内に原告が蒙つた損害である賃料相当額計二十万円は被告が支払うべき義務があるものというべきである。

以上の如く被告は原告に対し原告が訴外齊藤、辻両名に支払た金四十万円及び昭和三十一年一月一日より同年十一月二日迄の賃料相当額の損害金二十万円、合計金六十万及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明かな昭和三十年六月十八日以降右金員完済に至るまで年五分の割合による損害金の支払をなすの義務があるので原告の本訴請求は理由あるものとしてこれを認容することとし訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条仮執行の宣言については同法第百九十六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田直大)

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