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東京地方裁判所 昭和29年(行)103号 判決 1957年9月06日

東京都新宿区下落合一丁目四番地

原告

井戸令吉

右訴訟代理人弁護士

木綿敬一

東京都新宿区柏木町三丁目三百十一番地

被告

淀橋税務署長

佐久間初太郎

右指定代理人

武藤英一

堀内恒雄

河津圭一

小林忠之

岩森穰

萩原潔

右当事者間の昭和二十九年(行)第一〇三号行政処分取消請求事件について、当裁判所は次のように中間判決をする。

主文

本件訴は訴願前置の要件を具備する。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十三年九月十七日付で原告に対して為した酒税金二、一一八、七〇〇円を徴収する旨の決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める旨申したて、その請求の原因として、

被告は昭和二十三年九月十七日原告に対し酒税として金二、一一八、七〇〇円を徴収する旨を決定し、その項その旨を原告に通知した。そこで原告は右決定に不服であつたから同年十月十五日東京財務局長宛の書面を淀橋税務署に提出して審査の請求をしたが、今日に至るまでなんらの裁決をしないが、原告は酒類を製造したことはないから被告の為した右徴収決定は違法であつて取消さるべきものである。

と述べ、立証として甲第一号証ないし第三号証を提出し、証人萩原潔、同駒井重次、同三浦光夫の各証言と原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の成立を認めると述べた。

被告指定代理人は「本件訴を却下する。」との判決を求め、請求原因事実に対する答弁及び本案前の答弁として、

被告が原告主張の日にその主張する内容の徴収決定をし、その頃原告に通知したことは認めるがその余の事実はすべて否認する。原告は被告の為した右酒税徴収決定に対し不服の申立をしていないから、本訴は訴願前置の要件を欠く不適法な訴であつて、却下せられるべきである。

と述べ、立証として乙第一号証を提出し、証人渡辺茂雄、同三巻判作の各証言を援用し、甲第一号証の成立は不知、同第二号証の成立は認める、同第三号証中渡辺名義の作成部分の成立は認めるがその余の部分の成立は知らないと述べた。

当裁判所は、本件訴が訴願前置の要件を具備するか否かに弁論を制限した。

理由

被告が昭和二十三年九月十七日付で原告に対し酒税として金二、一一八、七〇〇円を徴収する旨の決定を為し、その頃その旨を原告に通知したことは当事者間に争いがない。そこで原告が右決定に対し適法に不服の申立をしたかどうかについて考えてみると、(イ)成立に争のない乙第一号証と証人三巻判作の証言によれば、後記認定の経過によつて作成された乙第一号証が現在東京国税局備付の滞納整理簿に編綴せられていること(但しどうして右滞納整理簿に編綴せられるようになつたかは不明)が認められ、(ロ)右乙第一号証と原告本人尋問により真正に成立したと認める甲第一号証とを対比して考えると、甲第一号証は乙第一号証をもとにして、乙第一号証の文案中数字の誤記(税額が乙第一号証に二百十八万七千円とあるのが甲第一号証に二百十一万八千七百円と訂正されている)や語句の修正(例えば乙第一号証に「今回財務局の御取り調べを受け私の諒解に苦しむ課税を受けましたが」、「アルコールの精製をしましたのは平塚、徳原両氏よりの依頼によるもので且つ」、また「アルコールの精製課程に於ける製造は」とあるのが、甲第一号証ではそれぞれ「今回財務局の御取り調べを受けましたが」、「私は平塚、徳原両名の依頼により」、「此の工程に於て」となつている)など全体の構成には変更を及ぼさない程度の訂正をして複写紙を用いて浄書して出来上つたものであると推認することができ、(ハ)また証人三浦光夫の証言によれば、右三浦光夫は弁護士で原告より時に応じて相談を受けているものであるが、同人はその自宅に原告の訪問を受け、原告からノートの紙片に鉛筆で書いた本件徴収決定に対する不服申立の原稿を示され、その訂正を求められたので、これにペンで訂正を加えて渡したことがあり、(従つてこのとき原告が持参した原稿はペン書に赤い色鉛筆で訂正の施してある乙第一号証と異ることは明かである)、その後間もなく原告から不服申立書を提出した旨の報告を受けたことを認めることができ、(ニ)更に原告本人尋問の結果その他弁論の全趣旨によれば、淀橋税務署は戦災に遭い、昭和二十三年十月当時は百貨店伊勢丹の分室になつていた大久保にある旧希望社の建物の一部で事務を執つていて、提出書類について受領書を交付せず、また右提出書類の扱い方についてその都度一々受付印を押すとか、受付番号をつけるとかして十分の整備がなされていなかつたことが認められ、以上の(イ)乃至(ニ)の事実と前記甲第一号証、乙第一号証、成立に争のない甲第二号証と、証人三浦光夫の証言、原告本人尋問の結果を綜合すると、原告は昭和二十三年九月十七日頃被告から本件徴収決定の通知を受けとつたが、右決定に不服であつたので異議の申立をしようと考え、自分で原稿を作成し、これを前記三浦光夫弁護士の自宅に持参して同弁護士に添作してもらい、これをもとに更にペンで原稿(乙第一号証)を作り、これに赤の色鉛筆で訂正を加え、これをもとに複写用紙を使つて浄書して「酒税に関する異議申立陳情書」と題し、原告が酒類を製造したことはないから酒税を課される理由がない旨を記載した書面を作成し、(その一部を控として手元に残したのが甲第一号証である)これを同年十月五日頃前記淀橋税務署に持参し、同署員から宛先をきいて、これに東京財務局長と記入したうえ同署の本件徴収決定を所管する係官に手交して提出したことが認められる。証人萩原潔、同渡辺茂雄の各証言中右認定と矛盾する部分は措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右徴収決定が為された当時施行せられていた国税徴収法第三十一条の二(昭和二十二年法律第二十九号によつて追加せられ、昭和二十五年法律第六十九号で改正される前の規定)及び同法施行規則第三十一条の二(昭和二十二年政令第二十一号で追加せられ同年政令第二百二十一号で改正され昭和二十四年政令第百四九号、昭和二十五年政令第六十七号で改正される前の規定)によると、租税の賦課徴収に関する処分または滞納処分に関し異議のある者は別に法律の定めあるものを除く外当該処分のあつた日から二箇月以内に不服の事由を具し、政府に審査の請求を為すべきであつて、右審査の請求はその事由を記載した審査請求書に証憑書類を添えて当該処分を為した税務署長等を経由して納税地の所轄財務局長に提出することと定めている。そして前記認定のとおり原告が東京財務局長宛に淀橋税務署担当係官に交付して提出した書面には「酒税に関する異議申立陳情書」と題されていて、審査の請求書とはなつていないけれども右書面には原告が酒類を製造した事実がないから本件徴収決定には不服である趣旨の記載があるのであるから、右書面をもつて審査請求書と解すべきことは当然であり、証憑書類を添付しなかつたとしても審査請求が不適法となるものではないと解すべきであるから、原告は右書面を提出することによつて本件徴収決定が原告に通知せられた昭和二十三年九月十七日頃から二箇月以内である同年十月五日頃原告から淀橋税務署長を通じ東京財務局長に宛て右徴収決定に対する適法な審査の請求があつたものというべきである。そして右審査請求に対してこの審査請求のあつた日から三箇月を遙かに経過した今日に至るまで裁決が為されていないことは被告の明らかに争わないところであるからこの裁決を経ないで提起した本件訴は行政事件訴訟特例法第二条に定めるいわゆる訴願前置の要件に欠けることのない適法な訴といわなければならない。

よつて本件訴は訴願前置の要件を具備しているものというべきであるから行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第百八十四条により主文のように中間判決をする。

(裁判長裁判官 飯山悦治 裁判官 松尾巌 裁判官 井関浩)

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