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東京地方裁判所 昭和29年(合わ)189号 判決 1958年8月09日

被告人 五十嵐一民 外二名

主文

被告人五十嵐一民を懲役二年及び罰金十万円に、被告人飯田好夫を懲役一年六月及び罰金二万円に、被告人丸山新吾を懲役一年に処する。

但し、被告人五十嵐一民、被告人飯田好夫及び被告人丸山新吾に対し、この裁判確定の日から三年間それぞれ右懲役刑の執行を猶予する。

被告人五十嵐一民及び被告人飯田好夫が右罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

押収中の「横浜税関川崎出張所業務課」と刻した印章一個(昭和三十一年証第三五三号の一)は被告人五十嵐一民及び同飯田好夫に対し、「黒川」と刻した認印一個(同証号の二のうち)、並びに「関税」、「物品税」及び「免許番号」とそれぞれ刻したゴム印各一個(同証号の四)は被告人五十嵐一民に対し、「滝口」及び「本橋」とそれぞれ刻した認印各一個(同証号の二のうち)は被告人飯田好夫に対し、川越重名義の普通自動車フオード一九四九年式、及び山本嘉兵衛名義の普通自動車シボレー一九五三年式に対する各登録申請関係の通関済証明書各一通の偽造部分(同証号の五及び六のうち各新規登録謄本裏面の記載部分)は被告人五十嵐一民に対し、丸山新吾名義の普通自動車ウイリス一九四三年式に対する登録申請関係の通関済証明書一通の偽造部分(同証号の七のうち新規登録謄本裏面の記載部分)は被告人五十嵐一民、同飯田好夫及び同丸山新吾に対し、伊藤雄之助名義の普通自動車プリムス一九五三年式に対する登録申請関係の通関済証明書一通の偽造部分(同証号の八のうち新規登録謄本裏面の記載部分)は被告人飯田好夫及び同丸山新吾に対し、塩山船渠株式会社名義の普通自動車シボレー一九五三年式、丸山新吾名義の普通自動車シボレー一九五〇年式市田和雄名義の普通自動車シボレー一九五三年式、成尾清一名義の普通自動車シボレー一九五三年式、及び東京商工会議所名義の普通自動車シボレー一九五三年式に対する各登録申請関係の通関済証明書各一通の偽造部分(同証号の九ないし十三のうち各新規登録謄本裏面の記載部分)は被告人飯田好夫に対し、それぞれこれを没収する。

訴訟費用中証人川越重に支給した分は被告人五十嵐一民の負担とし、証人広瀬勝美に支給した分は被告人飯田好夫の負担とする。

本件公訴事実中昭和二十九年七月三十日付起訴状記載の被告人五十嵐一民に対する各関税法違反及び物品税法違反の点、並びに被告人飯田好夫に対する各関税法違反幇助及び物品税法違反幇助の点、並びに同被告人に対する予備的訴因の各関税法違反及び物品税法違反の点は、いずれも無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人五十嵐一民及び同飯田好夫は、相被告人永田信八郎とともに、大蔵事務官として横浜税関川崎出張所監視課に勤務していたもの、被告人丸山新吾は、東京都内において自動車の修理業を営んでいたものであるが、

第一、被告人五十嵐一民は、

(一)  相被告人永田信八郎から誘われるままに、米軍軍人等が関税及び物品税を免除されて輸入した外国製自動車(以下「免税自動車」という。)を税関の認許を受けないでそれらの者から買い受けて引き取り、更に関税及び物品税を徴収して通関手続を済ませた旨の税関作成名義の書面(以下「通関済証明書」という。)を偽造し、これを必要書類とともに陸運事務所に提出して該自動車の新規登録を受けたうえ転売し、その間脱税額相当の多額の利益を挙げることを目的とする同相被告人の計画に賛同して、相被告人永田と関税の逋脱及び不正の行為をもつてする物品税の逋脱、並びに公文書偽造及び同行使の各犯行を共謀し、その方法として、自らは右計画の実行に必要な自動車購入資金の調達方を担当することとしたが、一方同相被告人において、通関済証明書の偽造を担当して、その後、印判屋に注文して「横浜税関川崎出張所業務課」と刻したゴムの印章一個(昭和三十一年証第三五三号の一)等を入手し、又同出張所から「通関済」と刻したゴム印一個(同証号の三)等を持ち出し、更に又通関済証明書の作成名義人を表示するための「横浜税関川崎出張所」と刻した庁印については、印判屋がその作成に応じなかつたため、同僚である被告人飯田好夫に右の計画の要旨を打ち明けて、同被告人が宿直勤務のさい保管することになつている同出張所監視課備付けの同種の庁印を冒捺するについての協力方を求めてその応諾を得る等その担当する右の偽造に必要な一応の準備を完了したので、その後をうけて、自己の知人川越陽豪の紹介により、相被告人永田とともに右陽豪の父川越重に自動車購入資金の貸与方を交渉してその承諾を得たうえ、

イ、昭和二十九年二月十六日東京都千代田区内幸町所在国税庁ビル内パン・アジア株式会社において米軍軍人チヤールス・アール・ロジヤースから免税自動車である普通自動車フオード一九四九年式一台を買い受け、右川越陽豪にその代金を立替支払わせたうえ、税関の認許を受けないで、直ちにこれを同ビル附近の路上において引き取り、もつて関税金十三万千三百六十円を逋脱するとともに、右の不正の行為をもつて物品税金十三万七千九百四十円をも逋脱し、

ロ、同月二十日頃川崎市扇町一番地三井埠頭内横浜税関川崎出張所前路上の自動車内等において、行使の目的をもつて、その頃入手した右イ記載の自動車に対する新規登録謄本の裏面に擅に被告人飯田好夫から借り受けた前記「横浜税関川崎出張所」と刻した庁印、及び別表(一)の甲群印欄記載の「通関済」と刻したゴム印その他の印章等を押捺し、更にペンをもつて「関税十万九千百円」、「物品税十一万五千円」及び「免許番号〇〇一三六」なる旨の記入をして、横浜税関川崎出張所が右新規登録謄本表面記載の前記自動車について、右の関税及び物品税を徴収してその通関手続を了した旨の同出張所作成名義の通関済証明書一通(同証号の五のうち新規登録謄本)を偽造し、ついで同月二十四日同都新宿区四谷一丁目東京陸運事務所において、情を知らない前記川越陽豪を介して、これを真正に成立したもののように装つて右自動車の新規登録申請書に添付して同所係官に提出して行使し、

(二)  米軍軍人ウイリアム・オー・レヴイスから山本邦一郎が譲り受けた免税自動車である普通自動車シボレー一九五三年式の通関手続を依頼されたのを奇貨として、相被告人永田と共謀のうえ、前同様税関の通関済証明書を偽造して行使し、その関税金納入の取次名義で依頼者から受領した金員により利得しようと企て、同年三月二十三日頃前記横浜税関川崎出張所監視課等において、行使の目的をもつて、その頃入手した右自動車に対する新規登録謄本の裏面に擅に被告人飯田好夫から借り受けた前記「横浜税関川崎出張所」と刻した庁印及び別表(一)の乙群印欄記載の「通関済」と刻したゴム印その他の印章等を押捺し、更にペンをもつて関税は「二十五万六千三百二十円」及び物品税は「二十六万九千百四十円」とそれぞれその金額を記入して、横浜税関川崎出張所が右新規登録謄本表面記載の前記自動車について右の関税及び物品税を徴収してその通関手続を了した旨の同出張所作成名義の通関済証明書一通(同証号の六のうち新規登録謄本)を偽造し、ついで同月二十六日前記東京陸運事務所において、情を知らない丸山翼を介して、これを真正に成立したもののように装つて右自動車の新規登録申請書に添付して同所係官に提出して行使し、

第二、被告人五十嵐一民及び同飯田好夫は、米軍軍人ダグラス・コールマンから被告人丸山新吾が譲り受けた免税自動車である普通自動車ウイリス一九四三年式(ジープ)の通関手続を依頼されたのを奇貨として、相被告人永田信八郎と共謀のうえ、前同様税関の通関済証明書を偽造して行使し、その間税金納入の取次名義で依頼者から受領した金員により利得しようと企て、同年四月二十二日頃前記横浜税関川崎出張所監視課等において、行使の目的をもつて、その頃入手した右自動車に対する新規登録謄本の裏面に擅に前記「横浜税関川崎出張所」と刻した庁印及び別表(一)の丙群印欄記載の同出張所業務課備付の「通関済」と刻したゴム印その他の印章等を押捺し、更にペンをもつて「関税四万八千円」及び「物品税一万六千八百円」なる旨の記入をして、横浜税関川崎出張所が右新規登録謄本表面記載の前記自動車について右の関税及び物品税を徴収してその通関手続を了した旨の同出張所作成名義の通関済証明書一通(同証号の七のうち新規登録謄本)を偽造し、ついで、同年五月七日前記東京陸運事務所において、その偽造の情を知らない被告人丸山新吾を介して、これを真正に成立したもののように装つて右自動車の新規登録申請書に添付して同所係官に提出して行使し、

第三、被告人飯田好夫は、

(一)  イ、相被告人永田信八郎が被告人五十嵐一民と前記第一の(一)冒頭記載のように免税自動車についての関税の逋脱及び不正の行為をもつてする物品税の逋脱の各犯行を共謀して、その実行の準備を進めていたさい、同年二月上旬前記横浜税関川崎出張所監視課において、相被告人永田から、同相被告人の企図として同冒頭記載の計画の要旨を告げて、これに必要な通関関係書類の偽造のため前記「横浜税関川崎出張所」と刻した同監視課備付けの庁印を冒捺するについての協力方を求められたのに対して応諾を与えて、その前記犯行の決意を強固にし、もつて、相被告人永田等の同(一)のイ記載の各犯行を容易にしてこれを幇助し、

ロ、相被告人永田及び被告人五十嵐の前記第一の(一)のロ記載の公文書偽造及び同行使の各犯行にさいして、同相被告人が該犯行をなすにいたるの情を知りながら、同月二十日頃前同所においてその依頼に応じて、同所備付けの前記「横浜税関川崎出張所」と刻した庁印一個をこれに貸与して、相被告人永田等の右各犯行を容易にしてこれを幇助し、

(二)  相被告人永田及び被告人五十嵐の前記第一の(二)記載の公文書偽造及び同行使の各犯行にさいして、同相被告人が該犯行をなすにいたるの情を知りながら、同月二十三日頃前同所においてその依頼に応じて、前記「横浜税関川崎出張所」と刻した庁印一個をこれに貸与して、相被告人永田等の右各犯行を容易にしてこれを幇助し、

(三)  別表(二)の1ないし6各記載のとおり、ウイリアム・テイー・ベイベル等六名の米軍軍人等から伊藤雄之助等五名がそれぞれ譲り受けた普通自動車プリムス一九五三年式等六台の各免税自動車のうち、同1、2、4及び6記載の分については相被告人永田がその通関手続を依頼されたのを奇貨として、又同3及び5記載の分については同相被告人がこれを譲り受けたので、相被告人永田と共謀のうえ、税関の通関済証明書を偽造して行使し、その間前者については税金納入の取次名義で依頼者から受領した金員により利得をし、後者については納税及び通関済の事実を仮装しようと企て、同別表偽造関係欄記載のように同年五月十日頃から同年六月三日頃までの間六回にわたりいずれも前同所等において、行使の目的をもつて、いずれもその頃入手した右各自動車に対する新規登録謄本の裏面に擅に前記「横浜税関川崎出張所」と刻した庁印及び別表(一)の丁群印欄記載の「通関済」と刻したゴム印その他の印章等を押捺し、更にペンをもつて別表(二)の偽造内容欄各記載の関税額及び物品税額をそれぞれ記入して、横浜税関川崎出張所が右各新規登録謄本表面記載の自動車について関税及び物品税を徴収して通関手続を了した旨の各同出張所作成名義の通関済証明書合計六通(同証号の八ないし十三のうち各新規登録謄本)を偽造し、ついで、同別表行使関係欄各記載のとおり、同年五月十日から同年六月九日までの間六回にわたりいずれも前記東京陸運事務所において、その偽造の情を知らない被告人丸山新吾外一名を介して、右各偽造の通関済証明書を真正に成立したもののように装つて前記各自動車の新規登録申請書に添付して同所係官に提出して行使し、

第四、被告人丸山新吾は、

(一)  米軍軍人ダグラス・コールマンから自己が譲り受けた前記第二記載の免税自動車である普通自動車ウイリス一九四三年式(ジープ)の通関手続をかねて相被告人永田信八郎に依頼していたが、その後同相被告人から情を知らないで受け取つた同記載の相被告人永田等が偽造した右自動車の通関済証明書一通(同証号の七のうち新規登録謄本)に記入されている税額が自己が納入方を依頼して同相被告人に渡した税金の額より高額なものとなつているところから、右の通関済証明書は相被告人永田の工作によつて当該税関官吏が実際は正規の税額より減額した金額を税金として徴収したうえ、正規の税額を徴収して通関手続を済ませたもののように内容虚偽の記載をして作成したものであると考えたのにもかかわらず、同年五月七日前記東京陸運事務所において、これを内容真実なもののように装つて右自動車の新規登録申請書に添付して同所係官に提出して行使し、

(二)  米軍軍人ウイリアム・テイー・ベイベルから伊藤雄之助が譲り受けた別表(二)の1記載の免税自動車である普通自動車プリムス一九五三年式の通関手続をかねて相被告人永田信八郎に依頼していたが、その後同相被告人から情を知らないで受け取つた同記載の相被告人永田等が偽造した右自動車の通関済証明書一通(同証号の八のうち新規登録謄本)が前記(一)記載と同様の理由により当該税関官吏が作成した内容虚偽のものであると考えたのにもかかわらず、同月十日前記東京陸運事務所において、これを内容真実なもののように装つて右自動車の新規登録申請書に添付して同所係官に提出して行使し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法律の適用)

第一主刑

(1)  被告人五十嵐一民 被告人五十嵐一民の判示所為中判示第一の(一)のイの関税を逋脱した点は昭和二十九年法律第六十一号関税法附則第十三項により同法による全部改正前の関税法(以下「旧関税法」という。)第七十五条第一項、刑法第六十条並びに昭和二十七年法律第百十二号日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(以下「関税法等特例法」という。)第十二条第一項に、不正の行為をもつて物品税を逋脱した点は物品税法第十八条第一項第二号、刑法第六十条並びに関税法等特例法第十二条第三項に、判示第一の(一)のロ及び(二)、並びに同第二の各公文書偽造の点は刑法第百五十五条第一項、第六十条に、各偽造公文書行使の点は同法第百五十五条第一項、第百五十八条第一項、第六十条にそれぞれ該当するが、右判示第一の(一)のイの関税を逋脱した所為と不正の行為をもつて物品税を逋脱した所為とは、一個の行為で二個の罪名に触れるばあいであるので、同法第五十四条第一項前段、第十条に則り犯情の重い後者の罪の刑に従い、なお懲役刑と罰金刑を併科し、判示第一の(一)のロ及び(二)、並びに同第二のそれぞれの公文書偽造及び偽造公文書行使の各所為は、互に手段結果の関係にあるから、いずれも同法第五十四条第一項後段、第十条を適用して犯情の重い各後者の罪の刑に従い、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるので、同法第四十八条第一項に則り、懲役刑については同法第四十七条本文、第十条により最も重い判示第一の(二)の偽造公文書行使罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人五十嵐一民を懲役二年に、罰金刑については所定罰金額の範囲内で同被告人を罰金十万円に処し、情状懲役刑の執行を猶予するのを相当と認め、同法第二十五条に則りこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、右罰金を完納することができないときは、同法第十八条により金五百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、

(2)  被告人飯田好夫 被告人飯田好夫の判示所為中判示第三の(一)のイの関税逋脱幇助の点は関税法附則第十三項により旧関税法第七十五条第一項刑法第六十二条第一項並びに関税法等特例法第十二条第一項に、不正の行為をもつてする物品税逋脱幇助の点は、物品税法第十八条第一項第二号、刑法第六十二条第一項並びに関税法等特例法第十二条第三項に、判示第三の(一)のロ及び(二)の各公文書偽造幇助の点は、刑法第百五十五条第一項、第六十二条第一項に、各偽造公文書行使幇助の点は、同法第百五十五条第一項、第百五十八条第一項、第六十二条第一項に、判示第二及び同第三の(三)の別表(二)の1ないし6の各公文書偽造の点は、同法第百五十五条第一項、第六十条に、各偽造公文書行使の点は同法第百五十五条第一項、第百五十八条第一項、第六十条にそれぞれ該当するが、右判示第三の(一)のイの関税逋脱幇助の所為と不正の行為をもつてする物品税逋脱幇助の所為とは、一個の行為で二個の罪名に触れるばあいであるので、同法第五十四条第一項前段、第十条により犯情の重い後者の罪の刑に従い、なお懲役刑と罰金刑を併科し、懲役刑については物品税法第二十一条但書、刑法第六十三条、第六十八条第三号に則り従犯減軽をし、罰金刑については物品税法第二十一条本文に従い従犯減軽をなさず、判示第三の(一)のロ及び(二)のそれぞれの公文書偽造幇助及び偽造公文書行使幇助の各所為は、互に手段結果の関係にあるので、刑法第五十四条第一項後段、第十条によりいずれも犯情の重い後者の罪の刑に従い、同法第六十三条、第六十八条第三号に則り、従犯減軽をし、判示第二及び同第三の(三)の別表(二)の1ないし6のそれぞれの公文書偽造及び偽造公文書行使の各所為は、互に手段結果の関係にあるので、同法第五十四条第一項後段、第十条によりいずれも犯情の重い後者の罪の刑に従い、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるので、同法第四十八条第一項に則り、懲役刑については同法第四十七条本文、第十条により最も重い判示第三の(三)の別表(二)の4の偽造公文書行使罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人飯田好夫を懲役一年六月に、罰金刑については所定罰金額の範囲内で同被告人を罰金二万円に処し、情状懲役刑の執行を猶予するのを相当と認め、同法第二十五条に則りこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、右罰金を完納することができないときは、同法第十八条により金五百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、

(3)  被告人丸山新吾 被告人丸山新吾の判示第四の(一)及び(二)の各偽造公文書行使の所為は刑法第百五十五条第一項、第百五十八条第一項に該当するが、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるので、同法第四十七条本文、第十条に則り最も重い後者の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人丸山新吾を懲役一年に処し、情状刑の執行を猶予するのを相当と認め、同法第二十五条に則りこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

第二没収

(1)  印章類 押収中の「横浜税関川崎出張所業務課」と刻した印章一個(昭和三十一年証第三五三号の一)は被告人五十嵐一民の判示第一の(一)のロ及び(二)、同被告人及び被告人飯田好夫の判示第二、並びに同被告人の判示第三の(三)の別表(二)の1ないし6の各公文書偽造の各犯行の用に供した物、同「黒川」と刻した認印一個(同証号の二のうち)は被告人五十嵐の判示第一の(一)のロの公文書偽造の犯行の用に供した物、同「関税」、「物品税」及び「免許番号」とそれぞれ刻したゴム印各一個(同証号の四)は同被告人の判示第一の(二)の公文書偽造の犯行の用に供した物、同「滝口」及び「本橋」とそれぞれ刻した認印各一個(同証号の二のうち)は被告人飯田の判示第三の(三)の別表(二)の1ないし6の各公文書偽造の犯行の用に供した物であつて、いずれも犯人以外の者に属しないので、刑法第十九条第一項第二号、第二項本文に則り、

(2)  偽造通関済証明書 押収中の自動車新規登録申請書類合計九冊(同証号の五ないし十三)中、川越重(フオード一九四九年式)登録申請関係の通関済証明書(申請名義人を川越重とする普通自動車フオード一九四九年式の自動車新規登録申請書の添附書類とされている右自動車に対する新規登録謄本の裏面を使用して偽造された通関済証明書をいう。以下この例にしたがう。)一通(同証号の五のうち)は被告人五十嵐の判示第一の(一)のロの偽造公文書行使の犯行を組成した物、山本嘉兵衛(シボレー一九五三年式)登録申請関係の通関済証明書一通(同証号の六のうち)は同被告人の判示第一の(二)の偽造公文書行使の犯行を組成した物、丸山新吾(ウイリス一九四三年式)登録申請関係の通関済証明書一通(同証号の七のうち)は同被告人及び被告人飯田の判示第二、並びに被告人丸山新吾の判示第四の(一)の各偽造公文書行使の犯行を組成した物、伊藤雄之助(プリムス一九五三年式)登録申請関係の通関済証明書一通(同証号の八のうち)は被告人飯田の判示第三の(三)の別表(二)の1、及び被告人丸山の判示第四の(二)の各偽造公文書行使の犯行を組成した物、塩山船渠株式会社(シボレー一九五三年式)、丸山新吾(シボレー一九五〇年式)、市田和雄(シボレー一九五三年式)、成尾清一(同上)及び東京商工会議所(同上)各登録申請関係の通関済証明書各一通(同証号の九ないし十三のうち)はそれぞれ被告人飯田の判示第三の(三)の別表(二)の2ないし6の各偽造公文書行使の犯行を組成した物であつて、いずれも何人の所有をも許さないものであるので、同法第十九条第一項第一号、第二項本文に則り、主文掲記のとおり没収する。

第三訴訟費用

訴訟費用は、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により、証人川越重に支給した分は被告人五十嵐一民に、証人広瀬勝美に支給した分は被告人飯田好夫に各負担させることとする。

(無罪の判断)

本件公訴事実中昭和二十九年七月三十日付起訴状記載の被告人五十嵐一民に対する各関税法違反及び物品税法違反の点、並びに被告人飯田好夫に対する各関税法違反幇助及び物品税法違反幇助の点、並びに同被告人に対する予備的訴因の各関税法違反及び物品税法違反の点の要旨は、

第一  被告人五十嵐一民は、相被告人永田信八郎と共謀して、外国製自動車に対する税関作成名義の輸入証明書を偽造したものを陸運事務所に提出して右自動車の新規登録を受けて、不正の手段をもつてその関税及び物品税を逋脱しようと企て、

(一)  昭和二十九年三月二十七日東京都新宿区四谷東京陸運事務所において、その頃必要書類とともに同所に提出したウイリアム・オー・レヴイス所有名義の一九五三年型シボレー乗用自動車に対する新規登録謄本の裏面を使用して偽造した右自動車の輸入通関手続が終了した旨の横浜税関川崎出張所作成名義の輸入証明書により同事務所係官を欺罔して、所有者を山本嘉兵衛とする右自動車の新規登録を受けて、関税金二十一万三千四百円及び物品税金二十二万四千七十円を不正の手段をもつて逋脱し、

(二)  同年五月十日同事務所において、その頃必要書類とともに同所に提出したダグラス・コールマン所有名義の一九四三年型ウイリス・ジープに対する新規登録謄本の裏面を使用して偽造した右自動車に関する前同旨の同出張所作成名義の輸入証明書により同事務所係官を欺罔して、所有者を丸山新吾とする右自動車の新規登録を受けて、関税金四万六千三百六十円及び物品税金二万四千二百三十円を不正の手段をもつて逋脱し、

(三)  同年六月十五日頃前記横浜税関川崎出張所監視課においてそれぞれウインドハム・エイチ・バーマー及びイナ・ペターソン各所有名義の一九五三年型シボレー乗用自動車に対する各新規登録謄本合計二通を使用し、その各裏面に飯田好夫をして前記横浜税関川崎出張所の庁印を擅に押捺させ、前者の自動車に対する関税金二十三万八千三百六十円及び物品税金二十五万二百九十円、並びに後者の自動車に対する関税二十二万六千百六十円及び物品税金二十三万七千四百八十円をそれぞれ不正手段をもつて逋脱するための予備をした

ものであり、

第二  被告人飯田好夫は、

(一)  被告人五十嵐一民及び相被告人永田信八郎が前記第一の(一)記載のとおり同記載の自動車に対する関税及び物品税を不正の手段をもつて逋脱するにさいして、その情を知りながら、同記載の輸入証明書の偽造のため横浜税関川崎出張所の庁印を同相被告人に貸与して、右各逋脱行為を容易にしてこれを幇助し、

(二)  被告人五十嵐及び相被告人永田が前記第一の(二)記載のとおり同記載の自動車に対する関税及び物品税を不正の手段をもつて逋脱するにさいして、その情を知りながら、前記同出張所の庁印を同記載の輸入証明書偽造のため右自動車に対する新規登録謄本の裏面に押捺して、右各逋脱行為を容易にしてこれを幇助し、

(三)  相被告人永田が

イ、昭和二十九年五月十一日前記東京陸運事務所において、その頃必要書類とともに提出したウイリアム・テイー・ベイベル所有名義の一九五三年型プリムス乗用自動車に対する新規登録謄本の裏面を使用して偽造した右自動車の輸入通関手続が終了した旨の同出張所作成名義の輸入証明書により同事務官を欺罔して、所有者を伊藤雄之助とする右自動車の新規登録を受けて、関税金二十二万千百六十円及び物品税金二十三万二千二百三十円を不正の手段をもつて逋脱し、

ロ、同月十四日同事務所において、その頃必要書類とともに提出したロジヤー・エム・アンダーソン所有名義の一九五三年型シボレー乗用自動車に対する新規登録謄本の裏面を使用して偽造した前同旨の同出張所作成名義の輸入証明書により同事務所係官を欺罔して、所有者を塩山船渠株式会社とする右自動車の新規登録を受けて、関税金二十二万九千百二十円及び物品税金二十四万五百七十円を不正の手段をもつて逋脱し、

ハ、同月十八日同事務所において、その頃必要書類とともに提出したローレンス・ジエイ・ラチヤベル所有名義の一九五〇年型シボレー乗用自動車に対する新規登録謄本の裏面を使用して偽造した前同旨の同出張所作成名義の輸入証明書により同事務所係官を欺罔して、所有者を丸山新吾とする右自動車の新規登録を受けて、関税金十三万八千二百円及び物品税金十四万五千百十円を不正の手段をもつて逋脱し、

ニ、同月二十五日同事務所において、その頃必要書類とともに提出したミカエル・ジエイ・シヨパー所有名義の一九五三年型シボレー乗用自動車に対する新規登録謄本の裏面を使用して偽造した前同旨の同出張所作成名義の輸入証明書により同事務所係官を欺罔して、所有者を市田和雄とする右自動車の新規登録を受けて関税金十九万五千六百四十円及び物品税金二十万五千四百十円を不正の手段をもつて逋脱し、

ホ、同月二十六日同事務所において、その頃必要書類とともに提出したジヨージ・テイー・グツドロー所有名義の一九五三年型シボレー乗用自動車に対する新規登録謄本の裏面を使用して偽造した前同旨の同出張所作成名義の輸入証明書により同事務所係官を欺罔して、所有者を成尾清一とする右自動車の新規登録を受けて、関税金二十二万九千百二十円及び物品税金二十四万五百七十円を不正の手段をもつて逋脱し、

ヘ、同年六月十一日同事務所において、その頃必要書類とともに提出したクレアー・エル・ヘス所有名義の一九五三年型シボレー乗用自動車に対する新規登録謄本の裏面を使用して偽造した前同旨の同出張所作成名義の輸入証明書により同事務所係官を欺罔して、所有者を東京商工会議所とする右自動車の新規登録を受けて、関税金二十二万九千百二十円及び物品税金二十四万五百七十円を不正の手段をもつて逋脱した

さい、いずれも、その情を知りながら、同出張所の庁印を右各輸入証明書偽造のため前記各自動車に対する新規登録謄本の裏面に押捺して、右各逋脱行為を容易にしてそれぞれこれを幇助したものであり、

もし又、右第二の(二)及び(三)のイないしヘの各幇助の事実が認められないならば、被告人飯田は、

(1) 被告人五十嵐及び相被告人永田と共謀して右第一の(二)記載のとおり同記載の関税及び物品税を不正の手段をもつて逋脱し、

(2) 相被告人永田と共謀して右第二の(三)のイないしヘ記載のとおり同記載の各関税及び物品税をそれぞれ不正の手段をもつて逋脱した

ものである

というにあつて、右関税逋脱に関する各所為中第一の(三)以外の各所為の関係においては旧関税法第七十五条第一項、同(三)の各所為の関係においては同法第七十五条第二項の適用があり、不正の行為をもつてする物品税逋脱に関する各所為の関係においては物品税法第十八条第一項第二号の適用があるものとして起訴されたものと認められるが、判示認定の各関係自動車に関する事実その他本件関係証拠によれば、前記被告人等は、同被告人等以外の者である山本邦一郎ほか八名が前記の各免税自動車についてそれぞれ税関の免許ないしは認許を受けないでこれを買い受け引き取ることによつて旧関税法第七十五条第一項の「関税を逋脱」する罪及び物品税法第十八条第一項第二号の「不正な行為をもつて物品税を逋脱」する罪を犯して、その既遂に達した後において、前記公訴事実(但し、第二の(二)及び(三)のイないしヘについては予備的訴因の事実)のとおり、未通関の事実を秘匿して、偽造した通関済証明書により各当該自動車の新規登録を受け、又はこれを受けることを容易にし、若しくはこれを受けるための準備として通関済証明書の偽造に着手したものであるにすぎないことが明かであつて、それらの各所為は、いずれも右各逋脱罪との関係においては、その構成要件に該当せず、罪とならないものと認められる。これを詳言するならば、もともと、前記関税法等特例法によれば、合衆国軍隊の構成員若しくは軍属が自己若しくはその家族の私用に供するため、又は同法所定の契約者等が自己の私用に供するために外国製自動車を日本国に輸入するばあいには、これに対する関税及び物品税を免除されるが、そのようにして輸入された免税自動車をそれらの免脱特権を有しない者(以下「非免税特権者」という。)が日本国内において譲り受けようとするときは、さきになされたこの種の譲受の関係ですでに関税法及び関税定率法が適用されているばあいを除き、その譲受は新たな輸入とみなされて右両法の規定が適用されることになつているとともに、又物品税法第十条の規定の適用については、その譲受が保税倉庫よりの引取とみなされることにもなつているので、旧関税法及び物品税法の適用上、免税自動車を譲り受けようとする非免税特権者は、右の除外例のばあいを除き、あらかじめその譲受(輸入)について税関に申告をして査定を受け、当該自動車に対して賦課される関税及び物品税を納付して輸入の免許を受けるか、又は右の関税及び物品税を納付することができないときは、税関の認許を得たうえで税金相当の担保を提供するか、二者そのいずれかの手続(以下「正規の通関手続」という。)を経ることを要求されるとともに、他面右の正規の通関手続を済ませる前にその自動車を引き取ること(以下「事前引取」という。)を禁止せられているのであつて、これを反面から見れば、法は、何はともあれ引取前に税の徴収を終えるということを基本的な建前として、確実迅速な徴税の実現を期しているものというべきであるから、旧関税法第七十五条第一項の「関税を逋脱」する罪、及び物品税法第十八条第一項第二号の「不正な行為をもつて物品税を逋脱」する罪は、免税自動車を非免税特権者が譲り受けることに関しては、そのようにして法が要求している正規の通関手続をあらかじめ履むことをせず、しかもその事前引取禁止の規定に背いて当該自動車を引き取つて、その所持を取得することによつて直ちに完成して、既遂に達するものと解するのを相当とする。何となれば、右各逋脱罪の保護法益である関税又は物品税に対する徴税権の作用の国家財政上の見地からする重要性にかんがみるときは、たとえ前記各税法上その徴税権に関連して或る種の不法な行為があつたばあいにおいても、およそ刑事制裁の立場からは、現実的にこれらの徴税権の作用が侵害されるか、又はその侵害の危険が発生するにいたるまでは、これに干渉することをしないで、事態をその推移するがままに放置しておいてよい、とは到底いいえないところであつて、そのような法益侵害の危険性の観点からは、ただ単にその危険性の萠芽にすぎないものであつても、いやしくもこれを内包していると認められる一定の不法な形式的事実が存在する以上は、すでにその段階において、これを可罰的なものとして捕捉し、最も早期にこの種の事態の発生を予防鎮圧することによつて、確実迅速な徴税の実を挙げる方途に出でなければならないことはおのずから明かであつて、前記関税法等特例法、旧関税法及び物品税法の各関係法条を綜合し、且つ法が行為の外形ばかりでなく、行為者の意思をも重視して、「関税を逋脱」し又は「不正な行為をもつて物品税を逋脱」する罪のほかに、その予備ないしは未遂までも、既遂と同等の可罰性があるものとして、処罰の対象としていることをも考え合せるならば、法もまた、確実迅速な徴税権行使の要請の下に、一面引取前の徴税を建前として規定するとともに、他面においてその建前を貫くための手段として、右と同様な早期抑圧の基盤に立つて、前記各逋脱罪について規定したものであることを窺い知るのに十分であるが、これを免税自動車についてみると、なるほど免税自動車は、たとえそれが正規の通関手続を経ないで非免除特権者の手に引き取られたとしても、その新規登録を受けるまでは日本国内においてその本来の用途に常用することができず、又その新規登録を適法に受けようとすれば、税関の輸入許可の証明書類がなければならない関係にあるので、その自動車を適式な常用に供しようとする限り、所詮非免税特権者の何人かの申告によつて早晩必ず正式の通関手続が行われなければならないわけであつて、所定の関税等はそのさい徴収することができるはずであるから(現に税関の実務上の取扱いにおいても、譲受人の申告に基いて事前引取後の通関が、便宜の措置として、或る程度慣行的に行われている実情である。)殊に例えば、一旦譲受(輸入)の申告がなされた後にいたつて、正規の通関手続を済まさないで事前引取が行われたようなばあいを想定すれば甚だ明瞭であるように、右の事前引取の行為をそれ自体としてみれば、もとより、何ら当該自動車に対する所定の関税及び物品税の徴収を税務行政上不能にし、又はこれを不能にする直接の蓋然性を発生させる意味において徴税権の作用の侵害ないしはその侵害の危険を伴うものとはいえないけれども、一般的に考えて、なお、その事前引取後に更に何らかの不法な条件がこれに加わることによつて、正規の通関手続を経たものでない事実が看過されて当該自動車の新規登録が行われてしまう等、ひいては右の徴税権の作用が侵害されるにいたる間接的な蓋然性が皆無とはいえず、その意味においては、法が徴税権の作用を全からしめるために前記のように要求し且つ禁止しているところに、たゞ形式的に違反するにすぎない事前引取の行為自体のうちにも、すでに徴税権の作用に対する侵害の危険性の萠芽が何程かは胚胎していることを認めざるをえないのであつて、その事態こそは、正しく法が前記各逋脱罪の規定を設けて、刑罰の制裁をもつてその発生を抑圧しようとしているところのものにほかならないのであるから、免税自動車の譲受のばあいには、右各逋脱罪は、非免税特権者が日本国内においてあらかじめ正規の通関手続を経ることなく、免税自動車を引き取る行為をし、その結果その所持が非免税特権者に移転するにいたつたとき、その構成要件が充足されて既遂に達するものと解するのが、最も前記法の趣旨に添うゆえんであるからである。したがつて、その後において、たとえ譲受人又はその他の者が当該自動車に関して輸入許可の税関の証明書を偽造し、これを使用して不正に新規登録を受け、又は他人のそのような行為を容易にし、若しくは新規登録を受けるための準備として右の偽造に着手したというようなことがあつたとしても、それらの自動車引取後の一連の行為は、いずれも右各逋脱罪が既遂となつた後の別個の行為であつて、公文書偽造等の別罪が成立しうることは論外として、右逋脱罪としては、予備ないしは未遂の罪をも含めて、何らの犯罪をも構成するものではないというべきである。以上の理由により、前記各公訴事実及び予備的訴因の事実は、罪とならないので、刑事訴訟法第三百三十六条に則り無罪の言渡をすることとする。

(追徴に関する判断)

判示第一の(一)のイ記載の被告人五十嵐一民等の関税法違反にかかる普通自動車フオード一九四九年式は、右犯行後川越重がこれを取得し、且つその取得当時同人が善意であつたことを認めることができないので、旧関税法第八十三条第二項により本来被告人五十嵐等に対してこれを没収すべきものであつたが、右川越において保管中、その後大田税務事務所が、川越が右自動車をその用法にしたがつて使用する目的で所有しているものとの認定のもとに、右自動車に対する自動車税を賦課したうえ、その滞納処分としてこれを差押えて公売に付したため、その没収をすることができないこととなつた。ところで、一方、同法第八十三条第三項は、同条第一、二項の規定によつて没収すべき物の全部又は一部を没収することができないときは、その没収することができない物の原価に相当する金額を犯人より追徴すべきものとして、犯人に対する必要的追徴を規定しているが、その本旨とするところは、犯罪による不正な利得を犯人に保有させないことにあつて、そのいわゆる「没収することができないとき」とは、犯人又は情を知つて取得した犯人以外の者が任意の処分をした結果その物を没収することができなくなつたばあいをいうものと解するのを相当とするので、前記の事情で没収することができなくなつた本件は、右のばあいに該当しないばかりでなく、大田税務事務所が右自動車を公売に付して、その公売代金を収納することによつて、実質的にもすでに犯人から不正な利益が奪われる結果になつているから、犯人である被告人五十嵐等に対して同法第八十三条第三項を適用して追徴を科することはできないものといわなければならない。したがつて、右自動車については、追徴を科さないこととする。

よつて、主文のとおり判決する。

(別表)(一)(二)(略)

(裁判官 関谷六郎 山崎茂 伊東正七郎)

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