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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)9559号 判決 1956年3月22日

原告(反訴被告) 和田光雄

被告(反訴原告) 篠岡勝利

主文

(一)(イ)被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、東京都大田区羽田一丁目三百四十三番宅地二百三十九坪八合七勺の内別紙<省略>図面中斜線を施した部分八十九坪五合中八十坪三合五勺(別紙図面中(イ)と(ロ)及び(ハ)と(ニ)の各点を結ぶ直線上(イ)及び(ロ)の各点からそれぞれ十三間四五を距てる各点と(イ)及び(ロ)の各点とを順次に結ぶ直線によつて囲まれる範囲から同図面中赤線で囲まれる部分を除いたもの)を、該地上に存在する(イ)木造セメント瓦葺平家建工場一棟建坪十六坪及び(ロ)木造トタン葺平家事務所建坪二坪(木造スレート葺平家建居宅一棟建坪十一坪七合五勺に増築したもの)を収去して明渡し、且つ、昭和二十六年五月一日から昭和二十九年三月三十一日まで一ケ月金四百八十二円十銭、昭和二十九年四月一日から昭和三十年九月三十日まで一ケ月金千二百五円二十五銭及び昭和三十年十月一日から右明渡済みに至るまで一ケ月金千六百七円の割合による金員を支払うべし。

(ロ)  原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

(二)(イ)反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)に対し、東京都大田区羽田一丁目三百四十三番宅地二百三十坪八合七勺の内十九坪五合八勺(別紙図面中赤線で囲まれた部分)につき所有権移転登記手続をすべし。

(ロ)反訴原告(被告)のその余の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は、全部についてこれを十分し、その九を被告(反訴原告)の負担とし、その余を原告(反訴被告)の負担とする。

(四)  この判決は、原告(反訴被告)において金二十万円の担保を供するときは、原告(反訴被告)の勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告(反訴被告、以下原告と略称する。)訴訟代理人は、

第一、本訴につき「被告(反訴原告、以下被告と略称する。)は原告に対し、東京都大田区羽田一丁目三百四十三番宅地二百三十九坪八合七勺の内別紙図面中斜線を施した部分八十九坪五合を該地上に存在する主文中(一)の(イ)に記載する建物を収去して明渡し、且つ、昭和二十六年五月一日より右明渡済みに至るまで一ケ月金千七百九十円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、東京都大田区羽田一丁目三百四十三番宅地二百三十九坪八合七勺は、別紙図面中赤線で囲まれた部分十九坪五合八勺を除いて原告の所有に属するものである。即ち、

(1)  原告は、昭和二十三年訴外和田茂に対して貸付けた金二十万円の支払のため、昭和二十四年春訴外和田茂より、同人が訴外鈴木太郎から振出を受けた金額二十万円の約束手形一通を裏書により譲受けたので、右手形を満期に支払場所に呈示してその支払を求めたところ支払を拒絶された。原告は、その後同年九月中訴外鈴木太郎より同人の原告に対する右手形振出人としての債務の代物弁済として、同人の所有に係る(イ)東京都大田区羽田一丁目千四百八十七番宅地百二十一坪(ロ)同所千四百八十八番宅地百二十五坪(ハ)同所千四百八十四番宅地百二十四坪(ニ)同所千四百八十五番宅地六十四坪及び(ホ)同所千四百八十六番宅地七十六坪、以上五筆合計五百十坪の内前記(イ)及び(ロ)の二筆の宅地中当時被告がその所有建物の敷地として占有していた二十坪を除いた残部の所有権を譲受けたのであるが、右除外に係る二十坪の部分については後日分筆の上被告に所有権移転登記手続をすることとして、右五筆の宅地の各々について同年九月五日売買名義で原告に対し所有権移転登記を経由した。ところが前記(イ)及び(ロ)の二筆の宅地は、その後昭和二十七年中に施行された耕地整理の結果、六坪一合二勺を減坪し且つ合筆により東京都大田区羽田一丁目三百四十三番宅地二百三十九坪八合七勺となつたのであるが、右減坪を前記(イ)及び(ロ)の宅地の内原告が訴外鈴木太郎より所有権を取得した部分と従来被告が所有権を有する残りの二十坪の部分とに按分すると、右二百三十九坪八合七勺の宅地中原告の所有に属するのは次に掲げる被告の所有に係る部分を除いた残部に、被告の所有に属する部分は別紙図面中赤線で囲まれた部分十九坪五合八勺に該当するのである。

二、しかるに、被告は原告の所有に属する右宅地の一部即ち別紙図面中斜線を施した八十九坪五合(以下本件宅地という。)の上に昭和二十六年五月一日より原告に対抗し得る何等の権限なく主文中(一)の(イ)に記載する建物(以下本件建物という。)を所有して本件宅地を占有し、本件宅地に対する原告の所有権を侵害して原告に対し本件宅地の相当賃料である一ケ月一坪当り金二十円(本件建物は工場に供する建物であるから、その敷地の賃料額については地代家賃統制令の適用がない。)と同額の損害を蒙らせつつある。

三、よつて原告は、所有権に基いて被告に対し、本件宅地をその上に被告が所有している本件建物を収去して明渡し、且つ、昭和二十六年五月一日より右明渡済みに至るまで一ケ月金千七百九十円(本件宅地の坪数八十九坪五合に一坪について一ケ月金二十円の金額を乗じたもの)の割合による損害金の支払を請求する。

と述べ、

第二、反訴につき、請求棄却の判決を求め、答弁として、「被告の主張事実は全部否認する。東京都大田区羽田一丁目三百四十三番地宅地二百三十九坪八合七勺の内被告の所有に属するのは、原告が本訴請求の原因において詳述した通りの十九坪五合八勺の部分であつて、その余は全部原告の所有に属するものである。仮に被告がその主張の部分を訴外鈴木太郎から買受けたものであるとしても、その所有権移転登記を経由しなかつた以上、その後右に述べた十九坪五合八勺の部分を除いて前記宅地につき訴外鈴木太郎から所有権を取得し右宅地全体について所有権移転登記を経由した原告に対し、被告は右所有権の取得を対抗することができないのである。

と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は、

第一、本訴につき請求棄却の判決を求め、答弁として、

一、原告の主張事実は、東京都大田区羽田一丁目三百四十三番宅地二百三十九坪八合七勺の内被告所有の部分が原告主張の如く別紙図面中赤線で囲まれた十九坪五合八勺に過ぎないとの点に関すること、訴外鈴木太郎から原告に対する原告主張の宅地所有権の譲渡が代物弁済によるものであること、被告が後述する占有の範囲以上に原告主張の如く別紙図面中斜線を施した範囲全部を占有していること及び本件宅地の相当賃料額が一坪につき一ケ月金二十円であることを除いて、全部認める。

二、東京都大田区羽田一丁目三百四十三番宅地二百三十九坪八合七勺の内被告の所有に属するのは、別紙図面中(イ)と(ロ)及び(ハ)と(ニ)の各点を結ぶ各直線上(イ)及び(ロ)の各点からそれぞれ十三間四五を距てる各点と(イ)及び(ロ)の各点とを順次結ぶ直線によつて囲まれる九十九坪九合三勺の部分である。即ち被告は、昭和二十三年十二月中当時右土地を包含する宅地の所有者であつた訴外鈴木太郎から右部分を買受けたのであるが、被告と訴外鈴木太郎とは義兄弟の間柄にあつたため、被告の買受部分について分筆及び所有権移転の各登記手続をせずにいたのである。原告主張の耕地整理による宅地の減坪は、被告所有の右宅地には何等関係がないのである。ところで訴外鈴木太郎は、原告の父である訴外和田源之亟に対する金二十万円の債務を担保するため、昭和二十四年九月頃同人の所有に係る原告主張の五筆の内被告所有の前記九十九坪九合三勺を除いた部分の所有権を原告に移転したのであるが、右に述べた被告所有の土地については、原告において将来分筆の上被告に対し所有権移転登記手続をすることを承諾の上、差し当り前記五筆の宅地全部について原告のため所有権移転登記をしたのである。被告の所有する本件建物は、被告の所有に係る前記九十九坪九合三勺の宅地内に存在するのであつて、被告が右土地を占有することが原告の所有権を侵害するものでないことは疑を容れる余地がないのである。なお、本件宅地の相当賃料額は一坪について一ケ月金六円である。

と述べ、

第二、反訴につき、「原告は、被告に対し、東京都大田区羽田一丁目三百四十三番宅地二百三十九坪八合七勺の内九十九坪九合三勺(別紙図面中(イ)と(ロ)及び(ハ)と(ニ)の各点を結ぶ各直線上(イ)及び(ロ)の各点からそれぞれ十三間四五を距てる各点と(イ)及び(ロ)の各点とを順次結ぶ直線によつて囲まれる範囲)について分筆の上所有権移転登記手続をすべし。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、「原告の本訴請求の原因について被告が答弁として述べたところにより明らかな通り、東京都大田区羽田一丁目三百四十三番宅地二百三十九坪八合七勺の内反訴請求の趣旨第一項に記載する九十九坪九合三勺の部分は、被告が訴外鈴木太郎から売買によりその所有権を取得したものであつて、その所有権移転登記はまた経由されていないけれども、右九十九坪九合三勺の部分を含む前記宅地について現在所有権取得登記を有する原告は、右の部分につき被告が所有権を取得したことを認め、被告に対しその所有権移転登記手続をすべきことを約定したのである。従つて被告は、原告に対しその所有権を主張し得べきものであるから、右部分について分筆の上被告のため所有権移転登記手続をすべきことを原告に対して請求する。」と述べた。<立証省略>

理由

第一、本訴請求について、

一、原告が昭和二十四年九月中訴外鈴木太郎から東京都大田区羽田一丁目千四百八十七番宅地百二十一坪及び同所千四百八十八番宅地百二十五坪の二筆の宅地の所有権を取得(その原因はしばらく別とする。)し、同月五日訴外鈴木太郎より原告に対しその所有権移転登記が経由されたこと、昭和二十七年中耕地整理の施行により右二筆の宅地が同所三百四十三番宅地二百三十九坪八合七勺となつたこと及び被告が右宅地の内少くとも主文中(一)の(イ)の記載する八十坪三合五勺をその上に本件建物を所有することにより占有していることは、当事者間に争がない。原告は、被告が本件建物の敷地として占有している範囲は主文中(一)の(イ)に記載する八十九坪五合であると主張するが、その事実を認めるに足りる証拠はない。

二、そこで被告が右に述べた八十坪三合五勺を如何なる権原に基いて占有しているかについて考察するに、被告は、右土地は被告において昭和二十三年十二月中別紙図面中赤線で囲まれた十九坪五合八勺をも含めて当時その所有者であつた訴外鈴木太郎から売買により所有権を主張したものであると主張し、証人和田茂及び同鈴木太郎の各証言並びに被告本人の尋問の結果中には右主張に副う部分があるが、いずれも措信し難く、他に上記主張事実を認め得る証拠はない。却つて証人和田源之亟の証言(第一、二回)に前掲措信しない部分を除く証人和田茂及び同鈴木太郎の各証言を綜合するときは、原告はかねて訴外和田茂に金二十万円を貸付けていたところ、昭和二十四年春訴外和田茂から右債務の支払のため訴外鈴木太郎振出に係る金額二十万円の約束手形一通を譲受けたので、右手形を呈示してその支払を求めたところ支払を得られなかつたため、昭和二十四年八月頃訴外鈴木太郎及び原告の代理人である訴外和田源之亟間の合意によつて、訴外鈴木太郎は、原告に対する右手形債務のために、当時同人が所有していた前述の(イ)東京都大田区羽田一丁目千四百八十七番宅地百二十一坪及び(ロ)同所千四百八十八番宅地百二十五坪の外(ハ)同所千四百八十四番宅地百二十四坪、(ニ)同所千四百八十五番宅地六十四坪及び(ホ)同所千四百八十六番宅地七十六坪、以上合計五百十坪から前記(イ)及び(ロ)の二筆の宅地中既に被告がその住居の敷地として訴外鈴木太郎より売買により所有権を取得(但しその登記手続が未了であつた。)し現に占有中であつた二十坪を除いた四百九十坪を一坪金五百円と評価してその所有権を原告に譲渡したのであるが、原告は、当時右譲受土地の価格と上記手形債権額との差額金四万円を訴外鈴木太郎に支払うと共に、右宅地所有権の取得についてその内被告所有に係る前記二十坪の部分に関しては後日分筆の上被告に対しその所有権移転登記手続をすることとして、いずれも昭和二十四年九月五日売買名義により所有権移転登記を経由したことが認められるのである。更に鑑定人熊倉信二の鑑定の結果によると、昭和二十四年八、九月当時における前記(イ)乃至(ホ)の宅地の平均売買価格は、(ハ)乃至(ホ)の宅地が他に賃貸されその賃貸人において地上に家屋を所有している現況にあること(このことは、証人和田源之亟の証言(第一回)及び同証言により成立の真正を認め得る甲号第二号証により認められる。)を斟酌して一坪当り金五百円であることが認められる(鑑定人陣内与三は、昭和二十四年八、九月当時における前記(イ)及び(ロ)の宅地の売買価格を一坪当り金六百七十円と鑑定し、鑑定人熊倉信二が前記(イ)及び(ロ)の宅地の売買価格を前記(ハ)乃至(ホ)の宅地と切り離して独立に評価した一坪当り金六百円との間に金七十円の差が存するのであるが、鑑定人陣内与三は前記(イ)及び(ロ)の宅地の売買価格の鑑定に当り、他に賃貸中の前記(ハ)乃至(ホ)の宅地を全然度外視したものであるのに反して、鑑定人熊倉信二の鑑定はかかる事実をも考慮に入れた上のものであるから、叙上の如き鑑定人陣内与三の鑑定の結果が存することは、鑑定人熊倉信二の鑑定の結果によつて上述のように認定をすることを妨げるものではないというべきである。)ので、この価格によつて訴外鈴木太郎から原告に所有権が譲渡された前記(イ)乃至(ホ)の宅地合計五百十坪中四百九十坪(残り二十坪は上述の通り被告がその所有権を有するものである。)のその当時における時価を算定すると合計金二十四万五千円となり、上記認定にかかる当時原告が訴外鈴木太郎に有していた債権額金二十万円と原告が訴外鈴木太郎に支払つた金四万円との合算額金二十四万円との差額は金五千円に過ぎないところからいつても、原告が訴外鈴木太郎から前記(イ)乃至(ホ)の宅地の所有権を取得するに当り、被告の所有地として除外した坪数が叙上認定の通り二十坪であつたことが裏付けられるのである(訴外鈴木太郎から原告に対する上記宅地所有権移転の原因が代物弁済か譲渡担保かについては、当事者間に争の存するところであるが、そのいずれであるかは、本訴の結論に直接影響するところがないので、この点に関する事実の確定には触れないことにした。)。ところで前段一において既に判示した通り、前記(イ)及び(ロ)の二筆の宅地は、昭和二十七年に施行された耕地整理の結果その坪数を減じて東京都大田区羽田一丁目三百四十三番宅地二百三十九坪八合七勺となつたことは、当事者間に争がないのであるから、その減坪が六坪一合三勺であることは計算上明らかである。そしてこの減坪を原告及び被告が従前所有していた坪数に按分するときは、被告が耕地整理後に所有すべき坪数は十九坪五合八勺を越えないことも計算の結果に徴して疑をみないところ、右十九坪五合八勺の部分は、本件弁論の全趣旨に照らして現地上別紙図面中赤線で囲まれた部分に該当するものと認められるのである。被告は、前記耕地整理に基く減坪は被告の所有に係る宅地には関係がないと抗争するのであるが、かかる事実を認めて前示認定を翻す証拠は全然存しない。

さすれば主文中(一)の(イ)に記載する八十坪三合五勺が被告の所有に属するものとして、被告においてその土地上に本件建物を所有して右土地を占有することは正当の権限に基くものであると主張する被告の抗弁は理由がないものというべく、他に被告が右土地を占有するについて原告に対抗し得べき権原を有することについては、何等の主張も立証もなされていない。そうだとすると、被告は、原告の所有に係る右八十坪三合五勺の土地を不法に占有することにより原告の所有権を侵害し、原告に対しその相当賃料額(地代家賃統制令の適用がないことは、右土地が工場用建物の敷地であることが当事者間に争のないところからいつて明らかである)と同額の損害を蒙らせつつあるものというべきところ、鑑定人熊倉信二の鑑定の結果によると、右相当賃料額は、昭和二十六年五月一日から昭和二十九年三月三十一日まで一ケ月金四百八十二円十銭(一坪当り金六円)、昭和二十九年四月一日から昭和三十年九月三十日まで一ケ月金千二百五円二十五銭(一坪当り金十五円)昭和三十年十月一日以後一ケ月金千六百七円(一坪当り金二十円)であることが認められる。右認定に反する鑑定人陣内与三の鑑定の結果は採用しない。

三、叙上の通りであるから原告の本訴請求は、主文中(一)の(イ)に記載する限度において理由があるものとして認容すべく、その余は失当として棄却すべきである。

第二、反訴請求について、

一、被告の請求は、要するに、東京都大田区羽田一丁目三百四十三番宅地二百三十九坪八合七勺の内反訴請求の趣旨第一項に記載する九十九坪九合三勺の部分は、被告が訴外鈴木太郎より売買によりその所有権を取得したものであることをその原因とするものである。しかしながら既に第一において本訴請求の当否を判断するに際して説明したところにより明らかである通り、前記宅地二百三十九坪八合七勺の内被告の所有に属する部分は、被告の主張する九十九坪九合三勺の一部である別紙図面中赤線で囲まれた部分の十九坪五合八勺に過ぎないのであるから被告の反訴請求は、この部分について被告に対する所有権移転登記手続の履行を原告に対して求める限度においてのみ理由があり、これを認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。

二、被告は、前記宅地二百三十九坪八合七勺の内被告の所有に係る部分につき分筆の上被告のため所有権移転登記手続をすべきことをも原告に対して請求しているところ、上述の通り被告の所有に属する坪数は十九坪五合八勺であるが、この部分に関しても被告は分筆登記請求権を有するものではないと解すべきである。即ち一筆の土地の一部について所有権の譲渡が行われた場合において、その部分について分筆登記の申請をなし得るのは当該土地の登記簿上の所有名義人のみであつて(不動産登記法第七十九条)、譲受人において分筆手続をするためには、登記名義人に代位して登記申請をする外なく(同法第四十六条の二)、譲受人自身としては分筆に関する登記請求権を有するものではないのである。尤も登記請求権は特約によつても発生するのである(本件において被告は、原告との間にかかる特約がなされたことをも主張している。)が、登記請求が認められるためには、その行使の結果が形式上登記簿に表示されることを要するところ、土地所有権の一部移転の場合分筆登記自体においては譲受人は登記上表示されるところがないのであるから、特約による分筆登記請求権もまた土地所有権の一部譲渡の場合における譲受人のために認めることはできないものというべきである。しかしながらこの場合譲受人において譲渡人に対し右譲受部分につき譲受人のため所有権移転登記手続をすべきことを命ずる判決を得たときは、先ず土地台帳の登録を変更するため(不動産登記法第九十条)、その判決正本を登記原因を証する書面として、代位により土地台帳への登録の申告をすべく(土地台帳法第二十六条及び第四十一条の二)、この申告について登録税が納付されると分筆登記の申請があつたものとみなされる(不動産登記法第八十条の二)から、これによつて土地の分筆がなされ、かくして判決の執行が可能となるのであるから、土地の一部について所有権を譲受けた者がその所有権取得登記を経由しようとする場合に、その前提として「分筆の上」ということを請求し得ないことは、譲受人の勝訴判決の執行に何等の支障も生じないのである。

従つて前記十九坪五合八勺の土地につき被告のため所有権移転登記手続の履行を原告に対して命ずる前提として、この部分について原告が分筆登記手続をすべきことを主文において唱う必要はないのである。

第三、結論、

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条及び第九十二条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原正憲)

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