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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)7059号 判決 1956年2月21日

原告 永代信用組合

被告 横尾カク 外一名

主文

原告に対し

被告両名は連帯して金十五万円及びこれに対する昭和二十八年八月十四日からその支払の済むまで日歩七銭の割合による金員を

被告永山高雄は金十万円及びこれに対する昭和二十九年五月八日からその支払の済むまで前同率の金員を

それぞれ支払うべし。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は、被告横尾カクに対しては金五万円の担保を供して、被告永山高雄に対しては無担保で仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項と同趣旨の判決竝びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は(一)昭和二十八年六月十五日訴外遊佐利夫に対し金十五万円を弁済期同年八月十三日、期限後の遅延損害金日歩七銭の約定で貸し付け、被告両名は右訴外人のこの貸借上の債務について連帯保証をし、(二)昭和二十九年三月九日被告永山に対し金十万円を弁済期同年五月七日、期限後の遅延損害金前同率の約定で貸し付けたが未だにその返済がないから、被告両名に対し右(一)の貸金十五万円とこれに対する弁済期の翌日の昭和二十八年八月十四日からその支払の済むまで日歩七銭の約定遅延損害金の連帯支払を求めると共に、被告永山に対し同(二)の貸金十万円とこれに対する昭和二十九年五月八日からその支払の済むまで前同率の約定遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ次第である。なお、被告横尾について仮に本件連帯保証をしたことが認められないとしても、同被告は被告永山が被告横尾の保証の下に他から金借することを承諾し、被告横尾に代理して貸主と保証契約をする権限を与え、且つ、自己の実印と印鑑証明書とを交付したのであるが、本件連帯保証は、被告永山がこの権限を越え遊佐利夫に対し原告とその保証契約をすることを委任し、遊佐が右の実印と印鑑証明書を使用して原告と同契約をしたものであるから、被告横尾は民法第百十条により本人としての責を免れ得ないものである。と述べた。<立証省略>

被告横尾訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、右被告が原告主張の連帯保証をしたことは否認し、その他の原告主張の事実は知らない、と述べた。<立証省略>

理由

一、被告横尾に対する請求について

訴分離前の被告遊佐利夫尋問の結果とその結果により被告横尾及び永山の署名捺印の部分を除いて真正に成立したことが認められる甲第一号証及び第三号証とを綜合すると、原告は昭和二十八年六月十五日右遊佐に対し十五万円を弁済期同年八月十三日、期限後の遅延損害金日歩七銭の約定で貸し付けたことが認められる。

しかして、被告横尾が原告主張のように遊佐利夫の右貸借上の債務について連帯保証をしたことはこれを認めるに足る証拠がないけれども、原告はこの場合に備えて被告横尾は民法第百十条によりこれが連帯保証人としての責を免れ得ないものであると主張するからその当否について按ずるに、証人武者為吉、飯村とらの各証言及び前示遊佐及び被告横尾各尋問の結果(但し、被告横尾尋問の結果は後記の信用しない部分を除く)と甲第一号証竝びに第三号証の各存在とを綜合すると次の事実が認められる。すなわち、被告横尾と被告永山とは予てからの知合であるが、被告横尾は前段認定の貸借に先き立ち、被告永山から同被告が他から金借するについてその保証をすることを依頼されて承諾し、同被告に自己の実印と印鑑証明書を託し、これを使用して被告横尾を代理し貸主と保証契約をする権限を与えた。しかるに、被告永山はその頃自己の経理事務所の仕事を手伝つて貰つていた前記遊佐から同人が原告から前段認定の金借をするについて二名の連帯保証人の斡旋を求められたので、自己と被告横尾をこれに当てることゝし、遊佐に自己の実印及び印鑑証明書と前記被告横尾のそれとを交付し、同人をしてこれを使用し自己及び被告横尾名義で原告と前段認定の貸借上の債務について連帯保証契約をさせたことが認められ、被告横尾尋問の結果中これに反する部分はたやすく信用し難く、他にこの認定を動かすに足る証拠はない。以上の事実はこれを要すれば被告永山が被告横尾から与えられた権限外で遊佐をして原告と被告横尾名義で連帯保証契約をさせたことに帰するのであるが、かような場合を代理人がその権限外の行為を直接且つ代理名義でした場合と区別する実質的理由はないから民法第百十条の規定はかような場合にも準用されるものと解するを相当とする。従つて、右保証契約に当り原告に遊佐が被告横尾を代理してその契約をする権限を有するものと信ずべき正当の理由があつたとすれば、被告横尾は右規定により本人としての責を免れ得ないものというべきであるが、我が国にあつては古くから印章特に実印を重視する習俗があり、本人は代理人を深く信頼するのでなければこれに実印を託するようなことはせず、また一方第三者も本人の実印を所持する者をその真実の代理人と認めてこれと取引をするのが通例であるから、前記保証契約が遊佐において先に認定したように被告横尾が被告永山に対しそれによつて一定の法律行為をすることを委任して託したその実印を被告永山に許され使用してこれを結んだものである以上、原告には遊佐が被告横尾を代理して同契約をする権限を有するものと信ずべき正当の理由があつたものとする外はないのであつて、被告横尾はその契約について遂に本人としての責を免れ得ないものといわなければならない。

して見ると、被告横尾は原告に対し前記貸金十五万円とこれに対するその弁済期の翌日の昭和二十八年八月十四日からその支払の済むまで日歩七銭の約定遅延損害金の支払義務を負つていることが明瞭であるが、原告の本訴請求中右被告に対する請求はその義務の履行を求めるものに外ならないから正当としてこれを認容すべきである。

二、被告永山に対する請求について

被告永山は合式の呼出を受けながら口頭弁論期日に出頭せず、また、答弁書その他の準備書面も提出しなかつたから原告の主張事実を自白したものとみなすべきであるが、右の事実に基く原告の同被告に対する本訴請求は正当であるからこれを認容すべきである。

三、結び

以上の次第であるから原告の本訴請求をすべて認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項、仮執行の宣言につき同法第百九十六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中盈)

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