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東京地方裁判所 昭和28年(行)63号 判決 1955年1月20日

原告 村上ミツ 外一名

被告 浅草税務署長

訴訟代理人 武藤英一 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は「被告が昭和二七年五月二〇日原告らの被相続人村上荘司郎に対してした昭和二六年度分所得税の総所得金額を五七〇、〇〇〇円と更正した決定のうち、三三三、〇〇〇円を超過する部分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求め、請求の原因として、

一、原告らの父村上荘司郎は、昭和二八年八月二三日死亡したので、同人の妻村上ミツ、三女村上としが同日相続した。

二、右荘司郎は、皮革加工品販売業を営んでいたが、被告に対して、昭和二六年度分所得税に関する確定申告として、所得金額を三三三、〇〇〇円と申告したところ、被告は昭和二七年五月二〇日右金額を五七〇、〇〇〇円に更正する旨の決定を行い、右荘司郎に通知した。同人は右更正決定につき同年六月二一日被告に対し再調査の請求をしたところ、被告は同年八月五日右請求を棄却する旨の決定を行い、右荘司郎は同日その通知を受けた。

同人は更にこれに対して同年同月二三日訴外東京国税局長に審査請求したところ、同局長は昭和二八年四月三〇日右審査の請求を棄却する旨の決定を行い、右荘司郎は同年五月二日その通知を受けた。

三、しかしながら、右更生に係る所得金額五七〇、〇〇〇円のうち、右荘司郎の申告額三三三、〇〇〇円を超過する部分は不当であるから、右不当部分の取消を求めるため、本訴に及んだ。

と述べ、被告主張の事実中、右荘司郎の昭和二六年中の資産負債一の増減についての被告主張のうち、(一)家財(二)期末売掛金(三)予金(四)期首及び期末の現金の諸点を徐くその他の各事実は、いずれも認める。右荘司郎が収支関係を明らかにするに足りる帳簿を有していないという点は否認する。

同人申告の所得額が、再調査請求、審査請求の際に変更されているのは、同人が計算能力なく、その計算に誤りがあつたので、最後に計理に明るい人に相談して訂正したからである。

また、同人の昭和二六年中の資産、負債の増減についての被告主張のうち、

(一)  家財(ミシン)については、これを新たに購入したのではなく、これは以前から荘司郎が所有していた工業用ミシンと訴外セイコーミシン店の家庭用ミシンとを交換したもので、その際先方より約二、〇〇〇円貰つて居り、なんら資産の増加とはならない。

(二)  期末の売掛金は総額一六九、〇九六円である。

(三)  右荘司郎の銀行予金は全くない。

(四)  現金はすべて自宅にあつたが、その額は期首には六〇〇、〇〇〇円、期末には約一〇〇、〇〇〇円であつた。

以上のとおり述べた。<立証 省略>

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

原告ら主張の請求原因事実中、原告ら主張の更正に係る所得金額が不当であるという点を除いて、すべて認める。

原告らの父村上荘司郎は、当時、皮革加工品販売業(主として靴商に靴材料の皮革を販売)を営んでいた。被告は、右荘司郎の申告所得額が確定申告、再調査請求、審査請求等の申立毎に変り、かつこれを確定すべき帳簿その他の資料がないので、同人の昭和二六年中の資産、負債の増減から、その所得を次のとおり推計し、一一一三、一〇八円と算定した。

資産の部

建物

家財(ミシン)

たな卸商品

売掛金

前払金

予金

現金

支払利息

生活費

支払公課

負債の部

借入金

買掛金

未納公課

減価償却

差引所得

期首

四〇〇、〇〇〇

七〇〇、〇〇〇

四八、七一五

二六一、二六〇

一〇〇、〇〇〇

一二〇、二五〇

期末

九五〇、〇〇〇

二〇、〇〇〇

八一〇、〇〇〇

二八二、二六六

三八五、〇〇〇

五六、〇〇二

三〇、〇〇〇

三八三、四〇〇

二六、五〇〇

増減

五五〇、〇〇〇

二〇、〇〇〇

一一〇、〇〇〇

二三三、五五一

一二三、七四〇

五六、〇〇二

△七〇、〇〇〇

五、六五一

三二四、〇〇〇

一一六、一四五

三八三、四〇〇

七五、七五〇

三七、二三五

一一、〇九六

一二三、一〇八

備考

本人申立(建物改築)

本人申立

被告調査

本人申立

被告調査

被告調査

本人申立

被告調査

被告調査

同(店舗、什器、備品、自転車)

(△印を附した分は減、他は増)

従つて、被告が、原告の申告した所得額三三三、〇〇〇円を右推定所得額一一一三、一〇八円の範囲内で五七〇、〇〇〇円と更正した処分はなんら違法ではないと述べた。 <立証 省略>

理由

原告らの被相続人村上荘司郎が皮革加工品販売業を営んでいたこと、右荘司郎が被告に対して昭和二六年度所得税につき所得金額を三三三、〇〇〇円と申告したところ、被告は昭和二七年丑月二〇日付で五七〇、〇〇〇円に更正する旨の決定を行い、その旨右荘司郎に通知したこと、これに対し同人が同年六月二一日被告に再調査の請求をしたところ、被告は同年八月五日右荘司郎の再調査請求を棄却する旨の決定を行い、同日同人はその通知を受けたこと、これに対し同人が法定期間内に訴外東京国税局長に審査請求をしたところ、同局長は昭和二八年四月三〇日右荘司郎の審査請求を棄却する旨の決定を行い、同年五月二日同人はその通知を受けたことは、いずれも当事者間に争いがない。

そこで右荘司郎の昭和二六年中における資産、負債の増減状況についてみるに、

(一)  建物、たな卸商品、前払金、借入金、買掛金の期首、期末における増減、支払利息、生計費、支払公課、未納公課、減価償部費の各金額が、それぞれ被告主張のとおりであることは原告らの認めるところである。

(二)  成立に争いのない甲第二号証に証人中原敏夫の証言をあわせ考えると、売掛金は、期首四八、七一五円、期末二八二、二六六円であり、二三三、五五一円増額していることが認められ、これをくつがえすに足りる証拠はない。

ところで、当事者間に争いのある家財、予金、現金の点を除いて考えると、右荘司郎は、昭和二六年中に建物、たな卸商品、売掛金、前払金が合計一〇一七、二九一円増加し、利息、生活費、公課として合計四四五、七九六円支出している。そして、右財産増加額と右支出額及び買掛金の減少額七五、七五〇円の合計額一、五三八、八三七円から借入金、未納公課、減価償却費の合計額四三一、七三一円を控除した差引所得額は一、一〇七、一〇六円となる。

そこで、たとえ原告主張のとおり、昭和二六年中、家財、予金について増減なく、現金について五〇〇、〇〇〇円の減少があつたとしても、前記差引所得額より現金の減少額を控除した右荘司郎の昭和二六年中における推計所得額は六〇七、一〇六円となり、被告の更正に係る右荘司郎の所得額五七〇、〇〇〇円を超過することは計数上明白である。

なお、証人須藤信一の証言によるも、同証人が右荘司郎の申立に基き推計したところによれば、同人の昭和二六年中における差引所得額は六八〇、〇〇〇円に達し、すくなくとも被告の更正にかかる所得額五七〇、〇〇〇円を超過することは明らかであり、右認定をくつがえすに足る証拠はない。

従つて、更にその他の争点について判断するまでもなく、被告が、右荘司郎の申告した昭和二六年度の所得額三三三、〇〇〇円を前記推計所得額の範囲内において同人の所得額を五七〇、〇〇〇円に更正した決定は正当であり、なんらの違法の点はない。

よつて、原告らの請求は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤完爾 入山実 粕谷俊治)

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