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東京地方裁判所 昭和27年(ヨ)6780号 判決 1952年12月27日

東京都中央区日本橋芳町二丁目二番地

債構者

田村乙七

右訴訟代理人辯護士

菅野次郞

長谷川勉

中原盛次

澤莊一

同都葛飾区本田四ツ木町二百七十五番地

債務者

東邦レース株式会社

右代表者代表取締役

三木亦市

右訴訟代理人辯護士

新家猛

坂野滋

右当事者間の昭和二十七年(ヨ)第六七八〇号新株発行差止仮処分申請事件について、当裁判所は、左の通り判決する。

主文

本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

事実

債権者代理人は

「債権者会社は、当庁昭和二十七年(ワ)第九〇六五号新株発行差止請求事件の本案判決確定に至る迄、昭和二十七年十月二十一日の取締役会決議に基ずく新株(記名額面株式十八万株、一株の金額並に発行価額五十円、払込期日昭和二十七年十二月三十一日)の発行をしてはならない。」

との裁判を求める旨申立て、その理由として、

「(1) 債務者会社は、明治二十六年の創立に係る本邦レース製造業界並びに紐類製造業界における老舖であつて、一株の金額五十円、発行する株式の総数八十万株、発行済株式の総数五十万株の株式会社である。

(2) 債務者会社の現行定款中新株引受権に関する規定は、

株主に対しては、新株発行に際し締役会の決議により新株引受権を与えることができる。当会社の役員従業員相談役顧問並びに特約店に対しては、株主に新株引受権を与える場合に限り取締役会の決議によりその発行する株式の一部につき新株引受権を与えることができる。

というのである。

(3) 債務者会社は、昭和二十七年十月二十一日の取締役会において、左記の通り新株を発行することを決議した。

(以下単に本件新株発行という。)

(イ)  記名額面株式十八万株。一株の金額並に発行価額五十円。

(ロ)  払込期日 昭和二十七年十二月三十一日。

(ハ)  募集及び割当方法 十万株は昭和二十七年十一月二十五日正午現在(以下単に本件新株割当基準日という。)の株主名簿記載の株主に対しその所有株式五株につき新株一株の割合で割り当て、爾余の八万株は債務者会社の役員、従業員に対し割当並に公募する。

(4) 債権者は、少くとも本件新株割当基準日以降引続き現在迄債務者会社の三万四千百四十株の株主である。

(5) 本件新株発行は、著しく不公正な方法によれるものである。すなわち、

(イ)  債務者会社の代表取締役たる三木亦市は、元債務者会社の僅か一千株の株主に過ぎなかつたところ、債務者会社が高価なエンブロイダリーレース機械二十五台及び土地建物等資本金額に十倍する約二億五千万円相当の資産を有し、且つその営むレース製造業により現に多額の利益を挙げ将も益々有望視せられるところからいわゆる会社乗取りを策し昭和二十六年十二月債務者会社内部の紛糾に乗じ先ず代表取締役に就任したのである。

(ロ)  その後、債務者会社においては、昭和二十七年三月十一日新株十九万株が発行せられたところ、株主には十万株について新株引受権が与えられただけで、残りの九万株は公募すると称しながら三木亦市が自己名義で四万株を、同人の輩下である申請外坪田武夫、諏訪健次、岸富夫、谷川正義、坂東覚次、三木政司等の名義で、その余の大部分を引き受け、取得し、更に、同年五月二十六日同じく新株十一万株が発行せられたところ、三万九千株について株主に新株引受権が与えられただけで、残りの七万一千株は公募すると称しながら三木亦市が前同様自己名義及び同人の支配下にある日本製紐株式会社並に前記申話外人等名義でその大部分を引き受け、取得し、結局三木亦市は右両度の新株発行により実質上約十五六万株の大株主となつた次第である。

(ハ)  本件新株発行に際しても、債務者会社は、一般株主の希望に反し、十八万株のうち実に八万株を株主以外の者に割り当てたのみならず、前記の通り、債務者会社の資産には多額の評価益があるから株主以外の者に対しては当然額面以上の価額を以て発行することができ、又そうすべきであるに拘わらずそうしないのであつて、この事実に前記(ロ)の事実を合せ考えると、本件新株発行の方法は、三木亦市が債務者会社の株主総会で多数を制するための方便に外ならず、本件新株十八万株全部について株主に新株引受権を与えるのでなければ公正な方法によつて新株を発行したとはいえず、著しく不公正である。

(6) しかるに債務者会社は、昭和二十七年十一月二十五日債権者に対し同年十月二十一日の取締役会の決議により三千八百株の新株引受権を有するとして商法第二百八十条の五第一項所定の通知をなし、爾余の新株引受権を無視している。このまま放置すれば、債務者会社は債権者に引受権を与えられるべき新株八千四百九十株を他の者に割り当て引受けさせること必至である。かくて、債権者は、取得し得べき新株を取得することができず、不利益を受ける虞があることは明らかであるから、昭和二十七年十一月二十八日債務者会社に対し書面を以て新株発行差止の請求をしたが債務社会社はこれに応じない。

(7) よつて、債権者は債務者に対し、当庁昭和二十七年(ワ)第九〇六五号事件を以て新株発行差止請求訴訟を提起したが、本件新株払込期日が切迫しており、このまま同期日を経過するときは、右新株は、債権者以外の第三者の為に発行され、本案訴訟で勝訴してもこれを旧にもどすことは極めて困難となるわけであるから、その保全の為本案判決確定に至る迄本件新株の発行を差止める旨の裁判を求める。」

と述べ、債者務会社の主張に対し、

「債務者主張の(1)の事実中、債務者が昭和二十三年十月十三日以申請外飯能纎維株式会社の取締役であつたこと、右会社はエンブロイダリーレース機械十三台を所有し債務者会社と同様エンブロイダリーレース類の製造販売を営んでいること、而して右申請外会社も債務者会社も共に同種商品を東京レース株式会社その他の国内における同一需要者に販売していることは認める。しかし、債務者は昭和二十七年十二月十日右申請外会社の取締役を辞任した。」

と述べた。

債務者訴訟代理人は、主文第一項同旨の裁判を求め、答弁として、「債権者主張の事実中(1)、(2)、(3)の事実、(5)の事実中債務者会社がエンブロイダリーレース機械二十五台を有してエンブロイダリーレースの製造をしていること、債務者会社が昭和二十七年三月十一日新株十九万株を発行し、その際株主に与えた新株引受権が十万株であり、同年五月二十六日新株十一万株を発行し、その際株主に与えた新株引受権が三万九千株であつたこと、(6)の事業中債務者会社が債権者に対しその主張のような通知をしたこと及び債権者が債務者会社に対しその主張のような新株発行差止の請求をしたことはいずれもこれを認めるが、その他の事実はすべて否認する。

(1) 債権者は、昭和二十三年十月二十三日以申請外飯能纎維株式会社(本店所在地東京都中央区日本橋芳町二丁目二番地)の取締役であるところ、右会社はエンロブイダリーレース機械十二台を所有し債務社会社と同様エンブロイダリーレース類の製造販売を営んでいる。而して右申請外会社も債務者会社も共に同種商品を東京レース株式会社その他の国内における同一需要者に販売しているから、両会社は国内において競争関係にあるものである。しかして、債権者は、債務者会社の株式三万四千百四十株を取得したと主張するものであるところ、右株式取得は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下単に独占禁止法という)第十四条第三項に違反し無効であつて、債権者は、法律上有効に債務者会社の株主でありえない。

債権者が飯能纎維株式会社の取締役を辞任したとの事実は認めない。仮に辞任したとしても無効な株式取得を有効にするものではない。

(2) 債権者の主張するように、新株を役員従業員に割り当て及び公募することが、ただちに代表取締役三木亦市の株主総会において多数を制する手段であるという為には、役員従業員及び一般株式申込人のすべてが代表取締役たる三木亦市の輩下であると論断せざるを得ないが、このようなことはあり得べからざることである。

また、債務者会社の株主は新株を取得する意慾と資力に欠け過去両度の新株発行において、債権者が寡少なりと非難する割当についてすら、大なる失権株を出したので、やむなく三木亦市においてこれを引受けたのである。本件新株発行においてももし債権者の主張するように新株全部を株主に割当てるとすれば、年末金融逼迫の際でもあり、失権株の続出により債務者会社の必要とする資金の調達は全く不可能となるであろう。株主に対する新株の割当を十万株としたのはこのような過去の実績によるものでこれを以て不公正なる発行方法であるというのは当らない。

(3) 本件仮処分申請が認容されるときは、債務者会社は甚大な打撃を蒙りよつて受くべき損害は債権者が本件申請を却下せられることによつて蒙る損害よりも遙に大きいから本件仮処分は許さるべきではない。」

と述べた。

債権者代理人は疏明として、甲第一、第二号証、同第三号証の一二、同第四号証、同第五号証の一、二、同第六号証の一、二、同第十二乃至第十四号証を提出し、証人矢島英吉の証言並びに債権者本人訊問の結果を援用し、乙第一及び第二号証の成立を認め、同第三号証は不知と述べた。

債務者代理人は疏明として、乙第一乃至第三号証を提出し、債務者会社代表者訊問の結果を援用し、「甲号証中甲第八、第九、第十二ないし第十四各号証は不知、爾余の甲号各証の成立を認める。」

と述べ、甲第十号証を援用した。

理由

債務者会社が発行する株式の総数が八十万株であり、発行済株式の総数が五十万株である株式会社であること及び債務者会社の取締役会が債権者主張の日時にその主張の通りの新株発行の決議をしたことは当事者間に争がない。債権者は、三万四千百四十株の株主として仮処分で右決議にもとずく新株の発行を差止めようというのが本件申請の趣旨である。しかるところ、債務者は独占禁止法第十四条第三項の規定を援いて債権者が株主たることを争うから、先ずこの点について判断する。

債務者会社がエンブロイダリーレース機械二十五台を所有してエンブロイダリーレースの製造販売業を営んでいること、申請外飯能纎維株式会社がエンブロイダリーレース機械十二台を所有しエンブロイダリーレースの製造販売業を営んでいること、及び右両会社共本店を東京都内に有し、且ついずれも製品であるエンブロイダリーレースを申請外東京レース株式会社に販売していることは当事者間に争がない。

しからば、債務者会社は、通常の事業活動の範囲内において、且つその事業施設の現状において、飯能纎維株式会社と同一需要者に同種の商品を供給している関係はあるから、国内において互に競争関係にあるわけである。

而して債権者が昭和二十三年十月二十三日の創立以右飯能纎維株式会社の取締役であつたことは当時者間に争なく、債権者が所有すると主張する債務者会社の株式三万四千百四十株の取得の日時が昭和二十六年十一月頃以降であることは、成立に争ない甲第二号証の一、二同第三号証の記載と債権者本人訊問の結果により一応認めることができる。

そうすると、債権者は、飯能纎維株式会社の役員でありながら、同会社と国内において競争関係にある債務者会社の株式三万四千百四十株を取得したのであつて、右株式取得は独占禁止法第十四条第三項に違反するものである。しかして、同法は、右違反行為の効力について明かに規定するところがないけれども、同法全体についてうかがいえられる私的独占ないしは不公正競争の禁止等についての同法の強い意慾及び同法第百二条の同法各規定施行の際現に存する契約で当該規定に違反するものは当該規定の施行の日からその効力を失う旨の規定の趣旨からうかがいえられる同法各禁止規定に違反する既存の契約の効力否定の明かな態度から判断して、同法は、その施行後の契約の新たなる成立を認みず、すべてその効力を否認する趣旨であると解するのが相当である。そうであつてみれば、債権者の前記株式取得は、法律上当然無効であり、債権者は債務者会社の株主になることができなかつたのである。債務者の抗弁は理由がある。

従つて、その他の点について判断するまでもなく、本件は、債権者が、債務者会社の株主たることの疏明がないことになるから、本件仮処分申請を不適法として却下し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九十五条本文第八十九条の規定を適用し主文の通り判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 小川善吉

裁判官 岡田辰雄

宮本聖司

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