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東京地方裁判所 昭和27年(ヨ)4028号 決定 1952年7月09日

申請人 沼田寿 外八名

被申請人 中日本興業株式会社

主文

申請人等が被申請人に対して提起する雇傭契約存在確認並びに賃金請求の本案訴訟の判決確定に至るまで申請人等が被申請人の従業員である仮の地位を定める。

被申請人は申請人沼田寿に対し金三万九千五百二十円同鈴木富美子に対し金三万三千五百四十円、同清水に対し金二万四千三百二十円同沼田正治に対し金二万一千五百六十円、同郡司に対し金二万四千六百四十円同岩崎に対し二万三千百円、同堀に対し金一万五千二百円、同北島に対し金一万二百円、同鈴木トキ子に対し金一万二百円を、それぞれ仮に支払わねばならない。

(無保証)

理由

第一、申請の趣旨及び理由

申請人等は、申請人等が被申請人に対して提起する雇傭契約確認並びに賃金支払請求事件の本案判決確定に至るまで申請人等が被申請人の従業員である仮の地位を定める。被申請人は申請人等に対し昭和二十七年四月一日より本案判決確定に至るまで四月は別紙第一賃金表の金員を、五月以降は毎月別紙第二賃金表の割合による金員を毎月二十五日限り仮に支払わねばならないとの仮処分命令を求め、その理由の要旨は、

一、被申請人は映画館を経営する株式会社であつて、申請人岩崎真一は昭和二十六年九月二十三日より、北島友江は同年七月二十一日よりその他の申請人等はいづれも右会社創業当時たる昭和二十五年十二月二十五日より被申請人会社に従業員として勤務し、申請人沼田寿は支配人、鈴木富美子は副支配人、沼田正治は渉外係、郡司八郎、岩崎真一は各技師、清水善夫、堀喜美子、北島友江、鈴木トキ子は各事務員としてそれぞれ職務に従事し来つたものであり、賃金は毎月二十五日支払の定めでその額は昭和二十七年四月分は別紙第一賃金表に記載の如く、同年五月分以降は別紙第二賃金表に記載の如くである。

二、然るところ昭和二十七年四月二十一日右映画館の閉館後申請外大島勝利、石田民雄、下条義広、下条久、萩原忠等は、突如「現取締役監査役はすべて解任された、爾後は我々で経営する」と称し同人等が会社役員に就任した旨の登記簿謄本を申請人等に提示し制止もきかず右映画館に侵入して入口を釘づけにする等の暴挙を敢てして同館を不法占有するに至つた。翌二十二日申請人等が出勤するや右大島勝利等の輩下と称する者等が同館を占拠しており上司の命であるからとて申請人等の入場を拒否し、かくて同日以降申請人等は右大島等の不当の職場しめ出しによつて、労務に服することができなくなつた。

三、その後、右大島等によつてその地位を奪われた同会社の取締役北島由友等は、東京地方裁判所に取締役監査役の職務執行停止代行者選任の仮処分申請を行うと共に株主総会決議不存在確認の訴を提起し、同庁は同年五月一日右大島等の職務の執行を停止し、後藤助蔵、佐藤直敏を取締役並びに代表取締役の職務代行者に選任する旨の仮処分命令を発した。そこで申請人等は右代行者の選任を機にこれに対し職場復帰を求めたところ「全員解雇されたこととなつて大島等から職務の引継をしておるから」とて、これを拒否されて今日に至つた。

四、然しながら申請人等は未だ解雇の通知を受けたこともなければ辞職したこともないのであるから依然被申請人の従業員であり、又、申請人等は昭和二十七年四月二十二日以降前記の如く現実に労務に服していないけれどもこれは被申請人の責に帰すべき事由に因り執務し得なかつたものであること以上の如くであるから所定の賃金請求権を失ういわれもない。然るに被申請人は以上の如く申請人等の従業員たる地位を争い、且つ昭和二十七年四月分以降の賃金の支払をしないので、申請人等は被申請人に対し雇傭契約存在確認並びに賃金支払の本訴を提起すべく準備中であるが本案判決確定までの間申請人等が被解雇者として取扱われたり、賃金の支払を拒否されたりすることは、著しい損害であるので、これを避けるために、本件仮処分命令を申請する。

というのである。

第二、当裁判所の判断

疎明によれば、申請人等がそれぞれその主張の日以降被申請人に雇傭され主張の如き職務に従事し来つたこと、その賃金に関する約定が申請人等主張の如くであることが一応認められる。

そこで先づ申請人等の被申請人の被雇傭者たる地位が消滅しているか否かの点について判断するに、疎明によれば、未だ申請人等の退職ないし被申請人側からの解雇として適法、有効なものは存しないことが窺われる。すなわち、申請人郡司八郎、岩崎真一については「辞任届」なる書面を大島勝利宛に提出していることが認められるがこれは、平穏に真意から出された退職の意思表示ではなく、申請人等主張の如く突如経営者なりと称して映画館に侵入し来つた大島勝利一派の半暴力的な態度に押され、紛争の渦中に巻き込まれないために、命ぜられるままの書面を一応作成して提出したに過ぎないことが疎明されるから右大島に辞任の意思表示を受ける権限があつたか否かを判断するまでもなく、右「辞任届」の提出は右郡司、岩崎の雇傭契約上の地位を消滅せしむるに由なきこと勿論であつてその他申請人等のいづれに対しても、又そのいずれからも解雇又は退職の意思表示は未だなされていないことが疎明される。従つて、申請人等と被申請人との雇傭契約は現に有効に存続し、申請人等は該契約上の地位を有するものと一応認められる。

次ぎに、昭和二十七年四月二十二日以降申請人等に賃金請求権が存するや否やについて判断する。同日以降申請人等が労務に服せずして今日に至つたことはその自ら主張するところであるがそれは被申請人の責に帰すべき事由に因るものと一応認められる。すなわち疎明によれば、同月二十一日映画館の閉館後大島勝利等において申請人等主張の如く会社役員の更迭を唱え、映画館に入り来つて主張のような暴挙を敢てし、翌二十二日申請人等が出勤したのに拘らず右大島等の輩下によつて職場に入ることを拒否されたので、申請人等はいち早く会社の真の代表取締役北島由友(疎明によれば、代表取締役北島由友等を解任し、右大島等を取締役、監査役に選任する旨の有効な株主総会の決議は存しなかつたものと認められる)に連絡し事態収拾を求めたのに右北島は右大島等の不法を排除する何らの措置を講ずることなくして漫然放置したこと、又申請人等主張の如く被申請人に取締役の職務執行について代行者が選任されたので申請人等はこれに職場復帰を求めたが代行者等は「全員解雇されたこととなつて大島等から職務の引継をしておるから」とて大島等によつて惹起された事態をそのまま容認、承継して申請人等の職場復帰を拒否し来つていることが認められる。以上の事実によれば、申請人等が昭和二十七年四月二十二日以降所定の労務に服しないのは被申請人の責に帰すべき事由により労務に服すること能わざるがためであるというべく、従つて、申請人等は賃金請求権を失わないものといわねばならない。

そして、疎明によれば被申請人が申請人等の従業員たる地位を争い、昭和二十七年四月分以降賃料の支払をしていないことが分るのであり、それが現下の社会経済のもとで申請人等にとつて甚しい、容易に回復し得ない損害であることは勿論であるが、本件仮処分申請の趣旨並びに疎明に照せば、未だ履行期の到来しない部分の賃金債権については、一応ここに従業員としての地位が設定されることにより、各支払期の到来に際して被申請人が任意に支払をなすことが期待しうるので本案判決確定に至るまで、申請人等が被申請人の従業員たる仮の地位を定め、且つ被申請人に既に支払期の至つた昭和二十七年四月分以降六月分までの賃金の支払を求める限りにおいて、その必要性あるものといわざるをえない。

よつて、申請人等の本件申請はいづれもその理由ありと認め、主文の通り決定する。

(裁判官 脇屋寿夫 古原勇雄 西迪雄)

別紙<省略>

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